私のアンプ設計マニュアル / 雑学編
スピーカーのインピーダンス・・・4Ωか6Ωか8Ωか

スピーカーのインピーダンス公称値いろいろ:

現在市販されているほとんどのスピーカーのインピーダンスの公称値は、2Ω、4Ω、6Ω、8Ωの3種類のいずれかだといっていいでしょう。何故なら、オーディオアンプの多くはインピーダンスが4Ω〜8Ωのスピーカーを想定して回路設計されているからです。古いスピーカーだと16Ωというのがあります。30年ほど使い続けているRogers LS3/5Aは15Ωと表記されています。カーステレオ用のスピーカーの多くは4Ωですが2Ωもたくさんあります。何故、カーステレオ用に限って2Ωがあるのかについては後述します。


これがわからないと話にならない・・・電圧と出力の関係:

アンプのスピーカー端子から出力されるのはオーディオ信号、すなわち交流の電力です。今、アンプのスピーカー端子に4Vの信号電圧が出ているとします。ここにインピーダンスが異なる(2Ω、4Ω、6Ω、8Ω)スピーカーをつないだら何Wのパワーが得られるか計算してみます。これを求める式は以下のとおりです。(参照ページ:オームの法則その2

P=E2/R・・・(電力=電圧2÷抵抗)・・・(b)
電圧=4V、抵抗=スピーカーのインピーダンス(2Ω、4Ω、6Ω、8Ω)ですので、各インピーダンスについて計算するとこのようになります。

出力信号電圧が一定ならば、インピーダンスが低いスピーカーをつないだ時の方が出力(電力)が大きくなります。出力が大きいということは、アンプがスピーカーに供給する電力が大きいということであり、音も大きいということです。カーステレオの電源電圧はDC12Vしかないため、高い出力電圧が得られません。そこで使用するスピーカーのインピーダンスを下げることで大出力を得ているわけです。

このことがいえるのは、低いインピーダンスのスピーカーをつないでも出力信号電圧が一定であることが条件です。現実のアンプでは、8Ωをつないだ時に4Vの出力が得られていても、4Ωのスピーカーをつないだ時には3.8Vとか3.5Vという風に出力電圧は下がります。下がる程度はアンプの回路方式によって異なります。


スピーカーのインピーダンスの実際:

左のグラフは、銘柄不明のフルレンジスピーカー(公称インピーダンス8Ω)とRogers LS3/5A(公称インピーダンス15Ω)の実測データです。右のグラフはaudio pro ALLROOM SAT(公称インピーダンス8Ω)の実測データです。

まず、銘柄不明のフルレンジスピーカーですが最小値が8Ωで、60Hzにピークがあり(最低共振周波数=f0という)、1kHzよりも高い周波数ではどんどん上昇しています。これがスピーカーのごく標準的なインピーダンス特性です。最小値の8Ωというのはボイスコイルの直流抵抗です。従来、スピーカーのインピーダンスは、インピーダンスの最小値(=ボイスコイルの直流抵抗)を基準にして何オームであるか表記する習慣があったようです。

Rogers LS3/5Aでは、インピーダンスは周波数によってでこぼこしています。2way以上のスピーカーでは、ネットワークが介在しているためにこのような複雑なインピーダンス特性を示すことが多いです。インピーダンスの最小値は8Ωなのに公称インピーダンスは15Ωということになっています。audio pro ALLROOM SATは本来4Ωとすべきだと思いますが、8Ωということになっています。

アンプを設計する上で知っておかなければならないのは、スピーカーのインピーダンス値は周波数によって変化して一定ではないこと、公称値どおりでもないことです。


インピーダンスの公称値と能率:

スピーカーを選ぶ時、能率(dB)を気にするユーザーがかなりいるようです。メーカーのマーケティングとしては、カタログにできるだけ高い値を書きたくなるでしょう。同じ価格、同じサイズの2つのスピーカーがあったとして、能率が87dBと89dBの違いがあったら89dBのスピーカーの方がいいのではないかと思うわけです。オーディオ店の試聴室で2台のスピーカーをスイッチで切り替えながら聞き比べた時、少しでも音が大きいスピーカーの方が良く聞こえて、音が小さい方のスピーカーは引っ込んで聞こえるという現象があります。

全く同じ構造でボイスコイルだけ違えた8Ωと7Ωの2つのスピーカーを作ったとします。これを同じアンプにつないで音を出したら、7Ωのスピーカーの方がすこし大きな音がします。ということは、8Ωと表記しておきながら実際には6Ωとか7Ωにしておいた方が売れやすいわけです。そのせいかスピーカーの実際のインピーダンスは表記よりもやや低い値に設定した製品が多くなってきたように思います。このような傾向は、半導体アンプで鳴らす場合ははっきり言ってどうでもいいことなのですが、インピーダンスのマッチングが要求される真空管アンプでは悩ましい問題です。

右の画像は私が使っているコンパクトスピーカーの2モデルです。カタログ表記の能率には87dBと89dBの違いがあります。ALL ROOM SATのインピーダンスは8ΩということになっていますがDCRを実測したところ3.5Ωでした。そして1kHzにおけるインピーダンスは4.0Ωでした。tangent EVO E5のは背面をみると「4-8Ω」と書いてあったのでDCRを測定してみたところ5.0Ωで、1kHzにおけるインピーダンスは8.9Ωでした。

ALL ROOM SATは非常に小さいのでただでさえ能率的に不利であるため、インピーダンスを下げて能率のかさ上げをしたのではないかと思います。真空管アンプで鳴らす場合は、実質4Ωを考えるのが正解でしょう。EVO E5の扱いは微妙ですが、8Ωとして扱うのがよろしいかと思います。。


半導体アンプの場合:

トランジスタあるいはFET等の半導体で構成したパワーアンプは内部抵抗が非常に低いため、スピーカーのインピーダンス値の影響を受けにくくなっています。ほとんどのパワーアンプは4Ω〜16Ωの範囲であれば何Ωのスピーカーをつないでも正常に動作し、得られる出力は上記の公式どおりスピーカーのインピーダンス値に反比例します。

右の画像はAccupaseのパワーアンプPRO-30ですが、8Ω負荷での最大出力が300Wであるのに対して4Ω負荷では450Wで増えています。理論値は4Ω負荷で600Wになるわけですが、現実の回路では2倍にはなかなかなりません。なお、ブリッジ接続というのは別名BTL接続のことで、理論値では4倍の1200Wになるわけですがこのアンプでは900Wにとどまっています。

半導体アンプではスピーカーのインピーダンスの整合は行ないません。何Ωのスピーカーでなければならない、というような制約はなく、一定の範囲内であれば何Ωのスピーカーをつないでもよいことになっています。何故ならば、半導体アンプの出力段は負荷インピーダンスに対して非常に融通がきき、ロードラインの角度が変化してもその影響を受けることなく効率的に動作してしまうからです。


出力トランスを使った真空管アンプの場合:

出力トランスでは、1次側のインピーダンスと2次側のインピーダンスが決められています。たとえば、6N6P全段差動PPミニワッターで使用している出力トランスのインピーダンスは、

となっています。このアンプでは、出力段の6N6Pに8kΩの負荷を与えた時に正常に動作するような設計をしているわけですが、そのためには0〜4Ω間に4Ωのスピーカーをつなぐか、0〜8Ω間に8Ωのスピーカーをつなぐか、0〜16Ω間に16Ωのスピーカーをつながなければなりません。もし、0〜4Ω間に8Ωのスピーカーをつないだら、1次側のインピーダンスは8kΩではなく16kΩになってしまいます。

真空管アンプの出力段は負荷インピーダンスに対して非常にデリケートなところがあり、ロードラインの角度が変化するともろにその影響を受けます。ロードラインが最適状態からはずれると、最大出力が低下する、歪みが増える、周波数特性が劣化するといった問題が生じます。そのため、出力トランスの2次側に複数のタップを設けて、常にスピーカーのインピーダンス値と整合が取れるように工夫しているわけです。そのため、出力トランスを使った真空管アンプでは4Ωでも8Ωでも16Ωでも、得られる出力は同じです。

<6Ωスピーカーはどこにつないだらいいのか>

よくある質問として「6Ωスピーカーは4Ωと8Ωのどちらにつないだらいいか?」というのがあります。比率でいうと4と8の中間は6ではなくて5.7ですので、6Ωというのは8Ωの方がより近いということになります。しかし、私の答えは「6Ωスピーカーは4Ωにつなぐのが正解」です。

8Ωタップに6Ωの負荷をつなぐと、出力管からみた負荷インピーダンス値が小さくなりますね。真空管アンプの場合、出力管の動作条件を変えないで負荷インピーダンス値を小さくすると、シングルアンプ、プッシュプルアンプを問わず歪みは全体的に増加します。逆に負荷インピーダンス値を大きくすると最大出力は若干低下しますが歪みは必ず減少します。最大出力をわずかでも欲張りたいというのでない限り、総合的にみると後者の方が良い結果が得られます。

<負帰還は何Ωのタップからかけるのが良いか>

次によくある質問として「負帰還は何Ωのタップからかけるのが良いか?8Ωと4Ωのスピーカーでは負帰還を戻すポイントは変えなくていいのか?」というのがあります。これについては「つなぐスピーカーのインピーダンスにかかわらず、どれかひとつのタップから負帰還をかければよい」が現実的な答えです。

8Ω端子と4Ω端子では、アンプの利得は同じではありませんね。8Ωからかけた負帰還回路をそのまま4Ωタップにつなぎ変えようとすると、負帰還の条件が変わってしまいます。4Ωタップで8Ωの時と同等の負帰還をかけるためには、負帰還定数を変えなければなりませんから現実的ではありません。


出力トランスがない(いわゆるOTL)真空管アンプの場合:

OTL方式の真空管アンプの場合は条件が特殊です。真空管という増幅素子の最適負荷は数kΩくらいなのですが、それにもかかわらず無理やり8Ωくらいの負荷を駆動しようというのが真空管式OTLアンプです。

真空管式OTLアンプでは、あらゆる意味において負荷インピーダンスは1Ωでも高い方が有利です。8Ωでも低すぎて相当に無理をさせているというのに、6Ω以下のインピーダンスのスピーカーを使うこと自体がナンセンスだといえます。


・・・:

私のアンプ設計マニュアル に戻る