私のアンプ設計マニュアル / 雑学編
4.マイクロフォニック雑音

真空管

真空管は振動を拾って電極が振動するとマイクロフォンのように音を拾います。このようにして拾った音のことをマイクロフォニック雑音と呼びます。実際、スピーカから離れたところに設置したメインアンプの出力管であっても、演奏中に触れてみると(とっても熱いですが)音圧を受けて音楽に合わせて結構振動しています。スピーカーの振動を拾うとハウリングを起こすこともあります。昔のラジオや電蓄は木箱の中でスピーカーと真空管が同居していましたから、よくハウリングを起こしていました。

真空管には、マイクロフォニック対策を施したものと、そうでないものとがあります。マイクロフォニック対策を施した球の代表格は、6267と松下製12AX7(T)です。このような球は、電極を保持するマイカ(雲母板)とガラス管との接触の具合を精密に調整して振動が伝わりにくくなるようにしてあります。

逆に出力管や6DJ8や12AT7のような高周波管のほとんどは無防備です。幸い、出力管は相当に鈍感であるために目立った悪影響は出にくいですが、プリアンプや初段管ではそうはゆきません。球を指ではじいてみてひどいのは「ピーン」という音がいつまでも鳴り続くものまであります。こういうのは交換するしかないですね。シールドケースは防振・制動効果があることが多いので試してみる価値は大いにあります。

振動の原因は、スピーカーからの音圧だけでなくほかにも厄介なものがあります。それは、アンプに付属したスイッチ類です。トグルスイッチの振動の影響が最も大きく、あの「バチン」という振動は真空管にもろに伝わります。クリック付きのボリュームも要注意です。MCカートリッジ用のヘッドアンプを真空管で組んだ時、ボリュームをまわすたびに「コン、コン、コン」と振動を拾ったことがあります。ボリュームやロータリースイッチの振動の影響を小さくしたかったら、シャーシ・パネルを厚くして質量を稼いだり、ツマミにできるだけ大型のものを使うことです。昔の真空管式の電蓄などでは、真空管をゴムやスプリングで吊ったものもあったくらいです。


コンデンサ

振動でノイズを拾うのは真空管だけではありません。コンデンサも振動雑音を拾います。フィルムは物理的に相対する2つの電極に挟まれた誘電体と電極間の距離によって容量が決まるという原始的な構造の部品であるために、物理的な力に対して敏感だといえます。

逆にコンデンサは音も出します。クーロン力のことを考えたら当然のこのなのですが、実際にコンデンサに聴診器を当ててみると、結構派手に音を立てているのでびっくりします。


デッドニング

このような事情があるために、アンプ全体が振動に対してデッドであることは時として重要になってきます。デッドニングでは、重くするよりも振動を吸収する素材の活用の方が効果的なようです。金属板はどんなに厚く重くしても金属自体に弾性があるためか、共振性はなかなかとれません。熱対策の問題さえ解決できるのであれば、「木」という素材は加工が容易かつ効果的でなかなか使いやすくおすすめです。その場合、黒檀や柘植のような硬い高級な木ではなく、ホームセンターで売っているようなスプルースなどのやわらかい安物の方が具合がいいです。

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