私のアンプ設計マニュアル / 雑学編
6.コンデンサと音

電解コンデンサ族:

最近のアルミ電解コンデンサはほんとうに使いやすくなりました。小型化され、周波数特性も温度特性も昔のものに比べればおどろくほど高性能になりました。しかし、いつかは必ず来る寿命の問題、寿命は高温に晒されることでいくらでも縮むという問題、ある周波数以上ではインピーダンスは横ばいになってしまうという問題、正接の問題、自己回復のために常に微少の漏れ電流があるという問題、容量精度が低いという問題、これらは依然として残されています。それでも、大容量を、この大きさでこのお値段で実現してくれるのは電解コンデンサしかありません。

アルミ電解コンデンサのメーカー・ラインナップを見ると、必ずオーディオ用というのがあります。そしてお値段は若干高めです。更に部品の色も標準品が地味な黒色なのに対して、オーディオ用は銀色や金色で見た目も特別な雰囲気が漂っています。それを見てしまうと、オーディオ用途でないものは音が悪いのではないか、音を犠牲にしてまで部品代をけちりたくない、という心理が働きます。

30年くらい前は、アルミ電解コンデンサは電子回路の嫌われ者でした。 容量の許容誤差が大き過ぎてあてにできない、容量抜けする、漏れ電流が多い、周波数特性が悪い。高校生の頃は、アルミ電解コンデンサだけでは高音が出ないと本気で思っていました(間違いです)。部品としての信頼性も非常に低いものでした。

そんなアルミ電解コンデンサの弱点を解決しようとしてさまざまな類似商品が登場してきましたが、最も進化したのはアルミ電解コンデンサ自身だと思います。低ESR(等価直列抵抗)タイプほかさまざまなオーディオ用として売られているものを使ってみましたが、今は通常タイプあるいは標準品と呼ばれるものに落ち着いています。プロ用の業務機器もずいぶん作りましたし、多くの現場でコピーされて使われていますが、アルミ電解コンデンサは標準品を使っています。

何故そうなったか。実際に音を出してみて標準品でも全く見劣りしないというのが一番大きいですが、ほかにも理由があります。まず、オーディオ用と称するもののほとんどは標準品と比べてサイズが大きくかさばるということが挙げられます。いくつかの製品は、音が変わってしまいました。低ESRタイプは、確かに標準品と比べてESRは若干低いのですが、サイズが大きいのと、同じ大きさならば標準品で耐圧を上げるだけで同じ結果が得られること、標準品を2個並列にした方が遥かに低いESRが得られるなどわざわざ低ESRタイプを選ぶ理由がないことが理由です。工業製品の常として生産量が多い作り慣れたものの信頼性が最も高くなります。

電解コンデンサの仲間に、タンタル電解コンデンサがあります。タンタル電解コンデンサは、おしなべて特性的にはアルミ電解コンデンサよりも優れている点が多いのですが、故障モードがショートでヤバイ部品のひとつだということと、逆電圧をかけるとパーになるという重大な弱点があります。アルミ電解コンデンサでは、5V程度の逆電圧にはある程度耐えてくれますが、タンタル電解コンデンサでは全くだめで、簡単に昇天します。回路への組込みでは、電源ON/OFF時等の過渡的な電圧推移についても厳重な管理が必要です。しかし、ESRの低さと高周波特性の良さは圧倒的なので、上手く使いこなしたい部品の一つです。

電解コンデンサにおいて特に目立った問題点ひとつにESRが大きいということと、高周波特性が悪いという2点があります。最初にこの問題を解決したのが、前述したタンタルコンデンサなのですが、タンタルコンデンサもさまざまな弱点があり、特に、結晶の成長と貫通によるショートモードトラブルが大きな問題となっていました。この問題を最初に解決したのが三洋電機佐賀のアルシコンだったのですが、かさばる、大容量のものができないという欠点がありました。

三洋電機佐賀ではさらに研究を重ね、やがてOSコンの開発、成功に至ります。OSコンは、フィルムコンデンサ並の低いESRと、すぐれた高周波特性を持ち、ショート破壊のトラブルもなければ、アルミ電解コンデンサ以上に高い逆耐電圧特性を持ちます。OSコンにおいてもさらなる改良が重ねられてきているので、今では発表当初のものよりもかなり良くなってきています。注意して欲しいのは、OSコンはオーディオ用途よりもデジタル機器や映像機器での問題解決を主たる課題として開発されたため、多くのモデルではリード線にスチール線を採用しています。スチール線を採用したOSコンをオーディオ用に使って、思わしい結果がでなくても文句は言えません。OSコンにも、銅線を使ったオーディオ用がありますので、こちらを使うようにしてください。


フィルム・コンデンサ族:

フィルム・コンデンサの誘電体には、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等さまざまなものが使われています。素材によって、加工のしやすさ、誘電率、温度特性、コストが異なるため、コンデンサ・メーカーもさまざまな種類のものを目的と需要に合わせて生産しています。一般論ですが、ポリプロピレンを使ったものが温度特性も高周波特性も優れており、ただ、欠点としては他の素材ものもと比較してやや大型になってしまい、かつ割高だということがいえます。

電気的な特性が優れているのはポリプロピレンですが、音に色がつくと言う人もいます。私は音響的には区別しないで使っています。

セラミック・コンデンサ族

セラミックは、圧電素子やスピーカーとして使われるくらい変形性があります。セラミック・コンデンサに電圧を引加すると、 誘電体が互いに引き合って容量が変化します。セラミック・コンデンサは、一部を除いてそのほとんどが電圧によって容量が変化する性質があります。そのためオーディオ回路への適用には注意が必要です。

右図のデータは、ムラタの積層セラミックコンデンのRPEシリーズの印加電圧-容量変化ですが、変化しないのはCHタイプだけです。他のタイプは全て電圧を印加すると激しく容量が変化します。コンデンサ本体の頭が黒く塗ってあるのですぐにわかります。秋月電子で扱っている海外製の積層セラミックコンデンサの場合は、型番がRDの次にNが続きます。Webカタログのpdfを開いて確認してください。

私のアンプ設計マニュアル に戻る