私のアンプ設計マニュアル / 雑学編
8.半導体

トランジスタ:

トランジスタは、真空管に比べるとあきれるくらい製造原価が安く、2SC1775などでは1本売りでは50〜100円くらいしても、200本まとめて買うと1本10円以下で入手できたりします。真空管では、製造段階で精度さえ出せればかなり粒のそろった球の生産が可能ですが(それでも、かなりの球が不合格でごみになる)、トランジスタではこのような精度の出る生産ができません。がばっと作ってみて、目的の特性を持ったものだけを選別して、それに一定の名称を付することになります。hFE値が極端にバラツくのはそういった事情があるからです。半導体は「数を購入してから選別する」が基本です。同じことが2SK30等のFETにもいえます。同じ名前だからといって、ステレオ構成で使えるほど特性が揃っていると考えてはいけません。ま、知らぬが仏とも言いますが。

市販されているトランジスタ規格表に記載されているスペックは、そこに表示されている動作におけるその種のトランジスタの多くが持っているスペックの代表値です。すべての同名のトランジスタがそのスペックというわけでは決してありません。たとえば、2SD799の規格表でのhFE値は350ですが、コレクタ電流が10mAのとき一体どのくらいであるかは表示されていませんし、1mAで実測してみるとあるものは30だったり、別の2SD799は70だったりします。

また、2SC1775のようなNPN型小信号用高hFEの石では、hFE値はコレクタ電流が少なくなるにつれてどんどん小さくなってゆき、反対にコレクタ電流が多くなるにつれてどんどん大きくなってゆきます。ある一定の電流値を過ぎるとhFE値は横ばいになり、それ以上ではストンと低下してしまいます。例外もあってその代表が2SC1815です。2SC1815は、コレクタ電流が少ない領域でもhFEがほとんど低下しません。

2SC1775とペアを組んでいるPNP型の2SA872では、hFEのコレクタ電流依存度はやや少なくなっています。すべての電流域でPNP-NPNペアとしてきれいに揃っているということはありません。そういう意味では、コンプリメンタリ・ペアは正確な意味でペアではありません。PNPトランジスタとNPNトランジスタとのペアは、たとえていえば、オスのチンパンジーとメスのゴリラをペアにした、くらいに思うのが正解です。

トランジスタを使う人は、できる限りメーカー発表の技術データに目を通して、半導体の癖や傾向についての勘を養っておく必要があります。秋月電子などの通販サイトでは、メーカーが公開しているデータシートのリンクが張ってありますし、インターネットで検索すればすぐに見つかります。コレクタ〜エミッタ間が降伏したらどうなるのか、コレクタ〜エミッタ間容量と印加される電圧との関係はどうであるか、コレクタ〜エミッタ間の飽和電圧はどうであるか、ベース〜エミッタ間電圧やhFEとコレクタ電流の関係はどうなっているのか、温度との関係はどうなっているのか・・・このようなことは(おなじみのあの)市販のトランジスタ規格表には書かれていません。いろいろな石のデータを読み、時に実測をしてみて、ようやくトランジスタがどういう性質を持っているのかをつかむことができるようになります。


ダイオード:

真空管アンプでダイオードがもっとも良く利用される場面はB電源の整流回路でしょう。また、直熱管のフィラメントの直流点火にも整流用ダイオードが欠かせません。たとえば6B4G(6.3V×1A)のフィラメントを直流点火する場合、フィラメント電源に使用するダイオードは相当に発熱します。また、電源投入時の突入電流は5A以上になります。つまり、ここで使用するダイオードの容量と配置および放熱対策が重要になってくるということです。3A以上のダイオードのリード線が不自然に太いのは、リード線を伝って熱を逃がそうとしているからです。

多くの半導体は、半導体チップやリード線、放熱片を樹脂でモールドしていますが、部材ごとに熱膨張率が微妙に異なります。電源のON/OFFを繰り返すうちに、熱膨張率の異なるもの同士が熱疲労をおこして特性が変化したり破壊に至ったりします。私は熱疲労と思われる原因によって順電圧が上昇してしまう現象を何度か経験しています。順電圧が上昇すると、ダイオードの温度上昇が加速するので非常に困った問題です。これを最小限にとどめるためにも、半導体の温度変化は少ないにこしたことはありません。

本章では詳しく述べませんが、データ・ライブラリのページに精密な実測データがあります。トランジスタ技術 SPECIAL No.1特集「個別半導体素子活用法のすべて」(CQ出版社)等に詳細なデータと説明がありますから、是非とも参考にされることをおすすめします。

電源用ダイオード以外にも、定電圧ダイオード(ツェナー・ダイオード)や定電流ダイオード(CRD)も良く使われます。定電圧ダイオードは、構造的には普通のシリコン・ダイオードと同じで、耐圧が12Vとか20Vしかないダイオードと思って間違いではありません。ですから、順方向で使うと普通のダイオードのように動作します。定電圧ダイオードとして使う時は逆向きにします。

ツェナー電圧が5V以上のものは正の温度特性・・・すなわち、温度が上昇するとツェナー電圧も上昇する・・・を持っています。それも電圧の高いもの程温度依存性が顕著に現れます。たとえば、12Vの定電圧が欲しい場合、12Vタイプ1本よりも6Vタイプを2本直列にした方が温度依存性を小さくすることができます。また、通常のダイオードが負の温度特性を持っていることを利用して、ダイオードと定電圧ダイオードを直列にすることで温度特性を打ち消すという手法もよく利用されます。

定電流ダイオードは、構造的には2SK30AなどのJFETと同じです。JFETのゲート〜ソース間を意図的にショートしたのが定電流ダイオードです。ですから、JFETのゲート〜ソース間をショートすれば定電流ダイオードになります。

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