■■■旅行オーディオ事始■■■
Preface


ROVER 75 Tourer(左)と Citroen C5 Tourer(右)。
欧州ではこのような荷物を積んで長期ツーリングする車のことをTourerと呼ぶ。


<いきさつなど>

2012年の秋にウィーン国立歌劇場の日本公演がありました。ウィーンフィルはその直前にスペイン〜イタリアをまわる演奏旅行をしており、彼らはウィーンに戻ると休む間もなく日本に向かって発ちました。日本滞在は10月8日〜11月5日の一ヶ月近くに及びました。帰国する前日、団員のひとりと会っていろいろな話をしている中で、彼が興味を示したのが演奏旅行先で鳴らせるオーディオ装置のことでした。

あれから半年が経ち、3台のトランジスタ式ツアラーの試作機が完成したのは私がウィーンに発つ前日のことでした。2台はおみやげ用、1台は自分用です。ウィーンに着いて早速monitor audioのR90を使ったテストを行い、好結果を得ました。私自身もホテルの自室で毎日鳴らしていましたが、旅のお供にこれを持って来てよかったと思いました。

同じニーズはライブツァーに関わっている音響エンジニアにもあります。業界では知らぬ人はいないといわれるベテラン音響エンジニア達が、当サイトの差動PPミニワッターをライブツアーで持ち歩いていたのです。彼らはできるだけコンパクトかつ軽量になるように工夫したオーディオシステムを自作していました。長時間にわたるライブの現場からホテルに戻ると、ワインでも開けながら好きな音楽に浸ってリラックスした自分の時間をつくっているそうです。

というわけで、いろいろと考えたり、試作・実験をするうちに次第にこのプロジェクトが形になってきたのでした。


<利用シーンを想定する>

電源事情の考察:

モバイルで歩きながら聞くわけではなく、基本的に滞在先のホテルなどの宿泊施設で使用することになります。商用電源が使えるわけですが、国外での使用も視野に入れた場合は、電圧は100V〜240Vのいずれにも対応可能なユニバーサル電源でなければならないことになります。このあたりは使う人の事情によって変わるでしょう。AC100V〜240V対応のACアダプタを使う方法のほかに、PCのUBSから供給される5V×0.5Aの電源を使うという選択肢もあります。

接続するソースの考察:

ミュージシャンのほとんどはMacBookなどに音源を入れています。iTuneとiPodを併用している人は相当に多いと思いますので、USB接続とアナログ入力の両方に対応した方が使いやすいでしょう。PCを持って行かなかった場合や別の誰かが持っているiPodをつないで聞きたいような場合、USBだけの対応では不十分です。PCを持っていたとしても、PCの電源を入れないでiPodで聞きたいこともあるでしょう。機能を簡素化するためにデフォルトはUSB音源とし、ステレオミニジャックに外部ソースのプラグを挿入すると、USB音源側が切れて外部ソースに切り替わるようにします。

音量調整方法の考察:

USB音源が鳴らせる市販品の多くは、PC側で音量調節をする前提でアンプ側には音量調整ボリュームがついていません。しかし、各製品のユーザーレビューを読んでみると、音量調整ボリュームがついていないことが致命傷であることがよくわかります。使い勝手からみるとPC側の音量調整機能では不十分なのです。私もいろいろと迷いましたが、アンプ側に音量調整ボリュームをつけることにしました。

Bass Boost機能の必要性:

スピーカーの口径は10cmくらいが上限で、多くの場合8cmクラスにならざるを得ません。これくらいのサイズになるとほど確実に低域の量感不足に陥ります。完全にフラットで広帯域な特性は望めないにしても、100Hz以下で+5〜7dB程度のブーストを行うだけで十分な効果があることがわかりました。

サイズ&形状の考察:

できるだけ軽量&コンパクトであることは当然の要求です。旅行トランクに詰め込むことを考えると、頑丈な筐体であること、できるだけ出っ張り画なく、ケースの角は尖らずにまるい方がいいのではないかと思います。

スピーカーの調査と検討:

PCやiPodにつないで音が出せる装置なら家電量販店に行けばいろいろなものが売られていますし、ユーザーレビューを見ると結構高評価のものがあります。しかし、何故彼らがそうした製品を使っていないのか。やはり要求している音の次元が違うようです。お手軽なコンパクトオーディオで使われているスピーカーエンクロージャはどれも樹脂製ですが、樹脂製のエンクロージャはどんなに補強しても特有の鼻にかかった音がします。ヌケが良くしっかりとした鳴り方を求めると、サイズは小さくても本格的な材質&構造のスピーカーになります。スピーカーは少々重くても頑張って持って行くとして、それ以外をいかにコンパクトにするかがポイントになるということのようです。

下の2つのスピーカーはそれぞれmonitor audioのR45DとR90HDです。コンパクトさという点ではR45HDは合格ですが、ローエンドがかなり落ちますので、考え方ひとつで判断が分かれます。R90HDは、当サイトのBass Boost付きのトランジスタ式Tourerでテストしたところ、かなり良いバランスで鳴ってくれました。大きさは次にご紹介するtangent EVO E4とほとんど同じです。

monitor audio R45HDとR90HD

左下のカラフルなスピーカーは私がデスクトップで愛用しているtangent EVO E4ですが、おそらくまともなローが出る密閉タイプでは最も小さい部類にはいると思います。しかし、これを持って行くとなるとちょっと考えてしまいます。

tangent EVO E4

tangent EVO E4よりも小さくてしっかりとした音というとaudio proのallroom SATくらいしか思いつきません。レンジ感じも大きさも申し分ないのですが、このスピーカーはミッドに強いディップがあるためか、なんとなく中域がすっこぬけたような定位がはっきりしないところがあります。allroomの前身はAVサラウンドシステムのサブスピーカーのC2で、C2がバラでオークションに出ていたのですがこれが手に入ったらお得です。なお、allroomは2013年4月現在で製造中止のようです。
audio pro allroom SAT

allroomくらいのサイズでほかにないだろうかと思って探してみたら、DENON SC-A7L2というのをみつけました。形も大きさも理想的!がしかし、音は典型的な日本製オーディオサウンドで、上下をそれなりに出そうとするあまりミッドが腰抜けで音楽にならない、まことに残念。

DENON SC-A7L2



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