Mini Watt Tourer with USB-DAC
トランジスタ式TourerのトランスDAC化
ツアラーは小型軽量化するために最小の回路、最少の部品構成で設計していますが、これを自作して愛用しているプロの音響エンジニア達の多くは、自力で工夫してDACをトランス化しています。トランス式の方が音の心地よさが違う、かさばったり重くなることを容認してもこの方が和む、というのです。そこで、私も彼らにならってすでに製作したトランジスタ式ツアラーをトランスDAC化してみました。

<ケースを変更しないで詰め込む>

タカチのメタルケースHIT-13-3-13(http://www.takachi-el.co.jp/data/pdf/08-09.pdf)をそのまま使うためには、現在あるすきまに収まるサイズのトランスでなければなりません。タムラの基板実装用のTpAsタイプならなんとか入りそうです。但し、スピーカー端子の内側の出っ張りが邪魔をするので、ケース内がもっと広く使える形状のものに変える必要があります。

ケース内部の出っ張りが少ないスピーカー端子というのは何種類かあるのですが、いずれも丸穴だけのバナナプラグ専用です。そこのところが割り切りになるわけですが、外側の出っ張りもなくなったためアンプ本体そのものがよりコンパクトになって使い勝手が良くなりました。


<使用するトランス>

大音量で鳴らさないツアラーでは、トランスによる昇圧の必要はほとんどありません。600Ω:600Ω(巻き線比1:1)のトランスを使った場合、昇圧するどころか-1.5dB程度のロスが生じますが、ホテルの客室で実際に鳴らしてみると利得の不足感はありませんでした。600Ω:1.2kΩ(巻き線比1:1.414)のトランスの場合は電圧利得で0dB〜+0.5dBくらいとなるので、この目的にはぴったりとなりました。

注意:1次側が150Ω×2スプリットになった600Ω:600Ωのトランスを、150Ω:600Ωとして1:2の昇圧で使う方法は低域側が飽和劣化するのでおすすめしません。


<改造例1>

オークションで入手したトランスは、TpAsサイズで600Ω:600Ωのものです。特注仕様らしくカタログ製品型番はありません。チューニングを繰り返して決定したLPFの回路定数は以下の通りです。
・1次側L=2.7mH、DCR=20Ω。
・1次側C//R=0.01μF//750Ω。
・2次側負荷=1kΩ。
機器の基板からの取り外し品でリード線が非常に短かったため、薄手のユニバーサル基板(72mm×47mm、0.8mm厚)をぎりぎりの大きさに切断してそこに取り付けました。基板の切断はカッターで何度もこすって傷をつければ手で折れます。組み込み時のガタつきを止めるために、スピーカー端子との間と基板〜天板との間に接着テープ付きのウレタン材(ホームセンターで売っている)の詰め物をしています。画像には写っていませんが、上蓋側にもウレタン材を貼り付けて、蓋をした時に基板をうまく押さえつけるようにしてあります。スピーカー端子の形状が赤と黒で不ぞろいなのは手持ち品を流用したためです。


<改造例2>

こちらは、TpAs-1Sで600Ω:Open(実質1.2kΩ)を使った例です。チューニングを繰り返して決定したLPFの回路定数は以下の通りです。
・1次側L=2.7mH、DCR=20Ω。
・1次側C//R=0.01μF//750Ω。
・2次側負荷=1.6kΩ。
リード線に十分な長さがあったため、基板を使わずに両面テープでケースに固定して空中配線で仕上げました。上蓋側に緩衝材の切れっ端を両面テープで貼り付けて、蓋をした時にトランスを程よく押さえるようにしてあります。この際、緩衝材がパワートランジスタ(2SA1359/2SC3422)や放熱器に接近しないように位置決めしてください。


<コメント>

すっきりとした低域から迫力ある低域に変化しました。鳴らす相手が小型スピーカーならばこそ、DACのトランス化効果は大きいと感じます。トランスを追加した分ミニワッターツアラーは重くなってしまいましたが、この音にはまったら元には戻れないだろうと思います。しかし、評価は年齢によって分かれるようで、20〜30代の若い人に聞かせるとトランスがない方が好みだと言い、人生経験が増すほどトランス付きを好む傾向があります。

なお、このタイプのトランスはオークションに出品される頻度が高い割りに不人気なので、入手できる機会がありましたら是非お試しください。


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