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超小型スピーカ ALLROOM SATのチューニング

まともなミッド&ハイを出すコンパクト・スピーカーで私が知る最小サイズがスウェーデンのaudio pro製の"ALLROOM SAT"です。110mm(W)×150mm(D)×160mm(H)というサイズは私の手のひらよりも小さく(手がデカイって?)、しかも四隅がまるいのでさらに小さく見えます。Specificationsは右のとおりです。

私はデスクトップ用に、かなり小さいtangent evoを使っていますが、旅行用にもっと小さいスピーカーはないものか、いろいろ探していてこれを見つけたのでした。

87dB(1W/m)ですから能率はそんなに悪くありませんが、これにはカラクリがあります(後述)。

このスピーカーはバスレフなのですが、私はバスレフ嫌いです。ですから、所有するスピーカーのほとんどが密閉タイプです。その理由は、バスレフポートの共振周波数まではしっかりレスポンスがあってもそれ以下でレスポンスが急激に落ちてしまうこと、それから共振周波数以下の帯域での音の濁り&ぼやけが気になるからです。実際、同じユニット、同じエンクロージャで比較しても、密閉では非常に低い周波数でもきれいに再生するのに、バスレフでは激しく歪んだ音になっています。

何故、バスレフのALLROOM SATを選んだかというと、バスレフの欠点に目をつぶるとそれ以外の多くの点が優れたスピーカーだったからです。このALLROOM SATを私好みのスピーカーにすべく、ちょっとした改造をしたので簡単なレポートにしてみました。


■インピーダンスの測定

スピーカーユニット径は8.9cmとのことですので、f0は160Hzから220Hzの間のどこかだと思います。ポートの大きさを計ってみたところ、直径19mm×長さ55mmくらいです。内容積が正確にわからないのでなんとも言えませんが、バスレフポート周波数は100〜130Hzくらいではないでしょうか。そこで実測してみたのが下のグラフの青い線です。インピーダンス特性から、スピーカーユニット(ウーファー)のf0は200Hzくらい、バスレフポートの共振周波数は90Hzくらいだということがわかります。内容積は思った以上に大きい・・・たぶんエンクロージャの壁は薄いようです。

なんとスピーカーユニットのDCRは3.5Ωしかありません。実質4Ωスピーカーです。これを8Ωだということにして測定すれば、そりゃー能率は良く出るでしょうに・・・。最近のスピーカーはみんなこの手を使って能率の上げ底をします。半導体アンプで鳴らすなら実害はありませんが、8Ωだと思って真空管アンプで鳴らしたらインピーダンスのアンマッチが起きて音質のレベルダウンになります。


■バスレフ方式の課題

バスレフは、ウーファーが固有の共振周波数(f0)以下でレスポンスが落ちるのを、f0よりも低めに設定したポートによる共振作用を使ってさらに1オクターブほど低い周波数まで帯域を伸ばそうというしかけです。バスレフ方式のスピーカーは、バッフル前面またはスピーカー後面のどこかに穴(ポート)が開けてあり、その穴の形と長さによって共振周波数がほぼ決まります。

共振周波数よりも高い周波数では、穴が開いていないのと同じ作用があるので密閉タイプのスピーカーとなんら変わることはありません。共振周波数では、レスポンスがアップするので低音が豊かになります。共振周波数よりも低い周波数では、ポートは空気がすかすか抜けるただの穴になるので、スピーカーに制動を与えることができなくなる上に音が漏れてしまい、スピーカーの正面から出た音と穴から出た音が逆相で打ち消し合うためにレスポンスは急激に低下します。ポートの共振周波数付近で十分なレスポンスを得るかわりに、それ以下の周波数は犠牲になるわけです。

一方、密閉型のスピーカーでは、f0より少し高い周波数からレスポンスが徐々に低下しはじめ、周波数が低くなるにつれてダラダラとひたすらレスポンスが低下してゆきます。しかし、非常に低い周波数でも音が全くなくなってしまうわけではなく、レスポンスが低下したなりにちゃんと出ていることは出ているのです。

スピーカーを設計する時、どちらを取るかは悩ましい問題です。

私が密閉型を好むのは、レスポンスが低下しているとはいえ、非常に低い周波数の音が存在することを感じることができるからです。バスレフはある周波数から下がストンと落ちてしまうので「感じる」ものがありません。もうひとつの理由は、密閉型が出す低音の方が歪が少なくきれいだからです。f0が50Hz以下のウーファーをつけたバスレフであれば、ポートの助けを借りなくてもほとんどの帯域を自力で再生でき、30Hz以下のごく限られた超低域だけポートの世話になるのであまり問題にはなりません。しかし、小型スピーカーの場合はf0が高いのでポートの共振周波数も高めに設定せざるを得なくなり、結局きたない低音をたっぷり聞かされることになるわけです。

バスレフ方式のスピーカーをお持ちでしたら、試しにポートに丸めたタオルやティッシュペーパーを突っ込んでみてください。これだけで密閉になりますので、30Hz〜100Hzくらいの正弦波を鳴らしてみると違いを顕著に実感できます。


■バスレフポートの改造

ALLROOM SATのポートの共振周波数を、90Hzから70Hzくらいまで下げてみることにしました。ポートの共振周波数は、ポートが長いほど低くなり、また直径が小さいほど低くなります。どうやって長くするかですが、幸いにして直径が19mmよりちょっとだけ大きめなので、19mm径のアルミパイプがぴったり入ります。アルミパイプの厚さが1mmなので、ポートの直径も2mmだけ小さくなってくれてなかなか具合がよろしい。

近所のホームセンターで、19mm径×1m長のアルミパイプを購入し(660円)、これをホームセンターの加工コーナーに持ち込んで70mmの長さに切ってもらいました。あとは、穴の周囲にサンドペーパーをかけて、パイプが抜け落ちないように適当な厚さになるようにセロテープを巻き、最後にALLROOM SATのポートにネジ込んで完成です。ボンドなどで固着させる必要はありません。


■特性と試聴

上述のインピーダンスのグラフの赤い線が改造後の特性です。f0が200Hzから190Hzに下がり、ポートの共振周波数は90Hzから70Hzに下がりました。f0と共振周波数がかなり離れている上に穴の直径が小さくなりましたから、バスレフによるレスポンスアップの効果はかなり減退しています。より低い周波数まできれいに再生できますが、低域の量感はダウンするわけです。

パイプの脱着が簡単なので比較は容易です。聞くソースによって変化がわかったりわからなかったりしますが、オリジナルで低音がポコポコいうようなソースの場合、ポートを取り付けるとすっきりとした鳴り方に変わります。この変化は音量を上げた時の方がわかりやすいです。


■ALLROOM SATについて・・・過剰期待は禁物!

ALLROOM SATの前身は、C2というAVサラウンドシステムのサテライト用ユニットです(右画像)。数年くらいまでC2が売られていたことがあり、オークションでもC2が1万円以下で入手できたのですが、今はほとんど見かけなくなりました。C2がこれくらいの値段で手に入るならお買い得だと思います。

ALLROOM SATは、希望販売価格が5万円以上もします。ヨドバシカメラで42,000円、楽天で39,300円くらいですが、いずれにしても相当に高価です。おそらく本国ではこんな馬鹿げた価格設定ではないと思いますので、これをみなさんにおすすめするわけではありません。ここで取り上げているからといって、価格相応のものすごいスピーカーではないかと過剰期待などしないでください。また、いかに力のあるパワーアンプをもってしても、この小さなスピーカーがメインスピーカーになることはありません。本レポートでは、デスクトップ用のコンパクトスピーカーとして、また旅行用に持って行けるスピーカーとして評価しています。

audio proは日本では全くマイナーで、ロッキーという代理店が扱っています。

audio proというと、Black Rubyという小型密閉スピーカーが有名です。私も興味があって買って使ってみたことがあります。ただ、樹脂製のエンクロージャのせいか、何が原因かわかりませんが、独特のこもり音が気になってオークションで手放してしまいました(人気スピーカーなのですぐに売れましたけど)。何故なら、tangent EVO E4というもっといい音のスピーカーを見つけたからです。

今回、ALLROOM SATをチューニングして思ったのは、tangent EVO E4の優秀さですね。こんなサイズでよくまあこれだけの帯域バランスとナチュラルな質感がだせたと感心します。そんなベタ褒めなtangent EVO E4も、HARBETHの前には・・・・



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