単3バッテリーケースをiPhone用充電器に改造

秋葉原の秋月電子でUSBコネクタ付きの単3×4本用バッテリーケースをみつけました(電池ボックス 単3×4本 USBコネクタ・フタ付[SBH-341-3S/USB])。ご丁寧にポケットなどに入れて持ち歩きできるようにフックまでついています。Ni-MH充電池の放電電圧は1.15V〜1.35Vくらいですから、4本直列にすると4.6V〜5.4VになるのでUSBのVBUS電圧(5V)としてほぼ互換性があります。これでiPhoneが充電できるようにしてみました。


■このままではiPhoneの充電はできない!

早速、このバッテリーケースに満充電したばかりのeneloopを入れてUSBケーブルでiPhone5とつないでみたのですが、充電状態を示す雷マークが出てくれず充電が開始されません。iPod nanoにつなぎ変えてみても同様に充電が始まりません。

実は、このバッテリーケースの内部回路は右図のようになっています。単3電池が4個直列になっていて、電池のマイナス側はUSBの4番「−(GND)」につながっています。電池のプラス側は、スライド・スイッチによるON/OFFを経てから逆流防止用のSBD(ショットキ・バリア・ダイオード)を経てUSBの1番「+(VBUS)」につながっています。2番「D−」と3番「D+」は遊んでいます。

iPhoneはPCや市販のACアダプタなどのUSB端子から給電して内蔵バッテリーの充電ができますが、秋月のこのバッテリーケースのように単にUSBコネクタの「+(GND)」〜「−(VBUS)」間に約5Vを供給しただけではiPhoneやiPodはそれを認識してくれません。iPhoneなどUSBを電源として使用する機材の多くは、相手がPCなのかあるいは単なる充電用の電源なのかを識別する機能がついています。この機能を正常に働かせるためには、電源供給側のUSB端子内部にちょっとしたしかけを組み込んでおく必要があります。


■PCか単なる充電器かの識別法■

USB 1.0およびUSB 2.0には4つの端子があります(右の画像、出典:Wikipedia)。USB 3.0では5つ追加されて9つですが、基本となる4つについては変わりません。この4つの端子のうち、電源供給に直接的に関係があるのは1番「+」と4番「−」です。また、電圧は5Vとして広く知られていますが、厳密には電力を供給された側において4.4V〜5.25Vということになっています。

iPhoneやiPadは、つながった相手が充電器なのかどうか、充電を開始すべきかどうかを「D+」端子と「D-」端子にどんな電圧がかかっているのかで識別しているのだそうです。D+に2.0V、D-に2.7Vという記述はあちこちで見かけます。この両端子に一定の抵抗器を介して「+」側の電位がかかっている(プルアップという)と単なる充電器につながったのだと認識して充電モードに入るようですが、この設定がないとiPhoneやiPodは充電モードに入りません。

実際に手元にあるApple純正のUSB電源アダプタを調べてみたところ、電圧は右図の値となりましたので、「D+」端子および「D-」端子にはほぼ規定通りの電圧が出ています。そこで各端子間の抵抗値を調べたところ、VBUS〜GND間は0.3kΩ、VBUS〜D+間は23.4kΩ、VBUS〜D-間は30.5kΩとなりました。電圧比と抵抗値から方程式を立てて解くと、D+側は「43kΩと51kΩで分圧されている」、D-側は「75kΩと51kΩで分圧されている」となりました。なお、秋葉原で購入したPGA製のUSB電源アダプタもほとんど同じ結果でしたので、これもApple純性品と同じ抵抗値の組み合わせになっていることがわかります。


■回路と製作■

このバッテリーケースを分解すると画像のような基板が現れますので、そのすきまを縫って2本の1/4W型抵抗器(24kΩ)とSBD(1Aタイプ)を取り付けました。下の画像では何故抵抗器がプルアップ側に1本ずつしかついていないかというと「プルアップ抵抗だけでもうまくいく」というレポートがあったので試してみたかったからです。実際、プルアップだけの改造でもiPhoneやiPod nanoを充電できるようになりました。iPhone5の場合、バッテリー残量が36%の状態でフル充電したeneloop×4本を使ったところ、99%まで充電できました。

なお、SBDは元々ついていたものに並列にもう1本抱かせてごくわずかですが順電圧による電圧降下を減らしています。同種のダイオードの並列使用は温度特性の競合が起きてしまうので基本的にNGですが、その問題を回避するためにあえて異種のダイオードを選んで並列にしました。

現在は、正式(と思われる)抵抗器2本ずつの配線に切り替えて完成としました。なお、SBDによる電圧降下があるために最終的に供給される電圧は5Vよりも若干下がった状態が多いようなので、回路図上の抵抗値の比率をすこし変更してありますがこのままでも問題ありません。

補足ですが、このバッテリーケースの電池を押さえるバネはスチール製であるためかなり大きな抵抗値を持っており、これが4個分で生じる電源全体の内部抵抗の上昇はばかにできません。バッテリーの内部抵抗の低さを期待して電源として使う場合は、スチール製のバネを使わないバッテリーケースでないと意味がないですね。


■検討事項■

逆流防止のためと思われるSBDの存在ですが、これは不要ではないかと考えて同種の他の機器を比較検討中です。

これがない方が充電効率が良くなります。またUSBの仕様として、Aタイプのコネクタはホスト側でしか使ってはいけないというルールがあり、両端にAタイプのコネクタがついたケーブルは存在しませんので、本機が他の電源供給能力がある機材とぶつかり合うケースは考えにくいとも思われるからです。

もうひとつの理由として、本機を単なる充電のため以外の電源として使いたい場合、SBDの存在が障害になるということもあります。、



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