LUX HARMONIZED AMP LXV-OT6(ハーモナイザ)


2018年のオーディオ界を賑わせた通称「ハーモナイザ」、LUXの"VACUUM TUBE HARMONIZED AMPLIFIER LXV-OT6"です。

■「ハーモナイザ」とは

ステレオによるオーディオが普及して半世紀が経ちます。オーディオソースもアンプも、ひたすらハイスペックをめざし、広帯域、低歪み、ローノイズをめざして発展してきたわけですが、スペックを上げれば上げるほど音が良くなるかというとそうなってくれない。耳で聞いて心地よく感じたアンプが案外ロースペックだったりする。どうしたら聞いて心地よい音になるのかよくわからない。そこでわからないなりにとにかく真空管を通してしまえ、ということで出てきたのが真空管アンプをアレンジした「ハーモナイザ」なるものです。

オーディオ信号を歪ませるということは、高調波(ハーモニクス)を発生させることと同じですので、高調波発生器(ハーモナイザ)という呼称がよく使われます。


■回路と解説■

<アンプ部>

実物からトレースした回路、各部の動作電圧、ロードラインは以下のとおりです。一言でいうと、12AU7の単段増幅回路に強いP-G帰還をかけたフラットアンプです。この回路の場合、12AU7の無帰還利得は11〜12倍ですが、そこに51kΩと68kΩによるP-G帰還をかけた時の仕上がり利得は1.1倍〜1.15倍になります。利得がない(約1倍)フラットアンプというところが本機の特徴です。周波数特性を意図的に変化させる要素は全くないので、かなりワイドレンジのフラットネスが得られるはずです。但し、反転アンプなので位相は入力と出力とでは逆になります。

12AU7の動作条件は、プレート電圧がわずか40Vということもありかなりの低電圧動作です。バイアスが-0.7Vということは、グリッド電流(初速度電流)が流れないぎりぎりのところです。たとえば出力電圧が1Vの時、グリッド入力は±0.14Vくらいで振れますから、バイアスは-0.56V〜0.84Vの範囲になります。オーディオ信号のバイアスが浅くなる側のサイクルではグリッド電流がわずかに流れます。

バイアスが浅いということは電源電圧に関係なくバイアス側の制約で大きな振幅の出力は得られないということで、最大出力電圧はせいぜい5Vでしょう。バイアスが-0.7Vのあたりは直線性が不規則になる領域なので、電源電圧をもう少し高くしてバイアスを-1Vかそれよりも少し深めにしてやった方が安定した高調波が得られると思うのですが、この動作条件を選んだ真意は設計者のみが知ることです。

12AU7はあまり直線性が良くない球なので本機の動作条件の場合、1V出力時で0.2〜0.3%くらいの歪みが生じます。歪み成分の大半は2次4次高調波ですので、歪みの大きさは出力電圧に比例します。これを0.2〜0.3%/Vと表現しておきましょう。この回路に実質14dBくらいの負帰還をかけますので、仕上がりの状態での歪み率は0.04〜0.06%/Vになるだろうと思います。

出力信号電圧が1Vの時の歪みが0.04〜0.06%というのは、真空管アンプにしてはそこそこ低歪みです。普通に考えたら、本機にオーディオ信号を通しても音はほとんど変わらないことになります。もちろん、全く変わらないことはないわけですが、その変化はほんのわずかです。そのほんのわずかな変化を狙ったのが「ハーモナイザ」です。

気になるのは、出力側に生じているDC漏れです。大きさは測定した個体で7mV(L-ch)と16mV(R-ch)も出ています。出力側のDCカットにアルミ電解コンデンサ(4.7μF/250V)を使ってしまったのがDC漏れの原因です。アルミ電解コンデンサは宿命的に必ず数μA〜数十μAほどの漏れ電流が生じますからこうなって当然です。本機にDCアンプをつないで使用することを考えるとちょっと怖いです。何故フィルムコンデンサにしなかったのでしょう。本機の出力につなぐ半導体アンプは、入力にDCカット・コンデンサを持っている必要があります。

<電源部>

B+側の電源電圧は100V程度なので、真空管アンプにしてはかなり低めです。AC85Vをダイオード両波整流して約106Vを得ています。トランジスタを使った簡易型のリプルフィルタで残留リプルを必要十分なところまで除去してから、2本の2.4kΩで左右に振り分けて供給しています。

ヒーター電源はごくシンプルなAC12.6Vをそのまま使った交流点火です。演出のつもりでしょうか、12AU7のお尻から橙色のLEDを点灯していますが、こういうことをすると真空管のヒーターやカソードの光り具合がLEDの光に負けてしまって情緒も何もないように思います。最近はこのようにLEDで真空管を照らすのが流行っていますが、真空管を使ったことを強調したつもりが実は真空管を否定しているとしか思えません。みっともないというか、12AU7に失礼な気がするので逆流防止ダイオードのところでプチンと切ってLEDは消灯しました。


■特性の測定■

測定結果は以下のとおりです。

利得は、素通しというよりは+1dBのオマケ付き、残留雑音は非常に低くなかなか優秀です。ヒーターを交流点火しているにもかかわらず残留ノイズが非常に低いのは、カソードが交流的に接地されていることと、強い負帰還がかかっていて利得が1.1倍しかないためです。周波数特性はご覧のとおりで7Hzから100kHzまでフラット、高域側の-3dBポイントは600kHzです。十分すぎるくらいのワイドレンジだといえます。問題の歪み率ですが、1V出力で想定どおりの0.05%となっています。破綻しないで得られる最大出力電圧は4.5Vどまりです。


■使用上の注意■

この装置はもっぱら偶数次高調波(主に二次高調波)を発生させます。二次高調波は、同じ高調波を逆相にして重ねると消えてしまうという面白い性質があります(三次高調波は重ねると位相に関係なく必ず増えます)。本機を真空管プリアンプの後ろにつなぐとどうなるか。真空管プリアンプで発生した高調波が本機によって打消しが生じ、高調波が減ったりほとんど消えてしまうという現象が生じます。シングルのパワーアンプで、ドライバ段と出力段で歪みの打ち消しを行う設計手法がありますが、それを同じ原理です。

右図は我が家で常用しているプリアンプのライン部ですが、ハーモナイザと同じ12AU7を使い、回路定数は若干異なりますが特性はほとんど同じです(笑)。つまり、我が家のプリアンプをハーモナイザを内蔵しているのと同じであり、我が家のプリアンプにハーモナイザを追加すると歪みの打消しが起きて低歪みになってしまう、すなわちハーモナイザにならないということでもあります。
本サイトで公開している「トランス+真空管バッファ式USB DAC Type1(6J5/6C5/6L5)」は0.04〜0.09%/Vの歪み率特性を持っていますので、このDACに本機をつなげて使うとちょうどいい具合に歪みの打消しが起きるためより低歪みになります。つまりハーモナイザの役をなさなくなるわけです。その様子を実測してみたのが右のグラフです。

黒い線はトランス+真空管バッファ式USB DAC Type1(6C5)単体の歪み率特性で、青い線はハーモナイザ単体の歪み率特性です。斜め左上に向かう直線は雑音成分によるものなので無視していただいて、右上に伸びる線に着目してください。両者の歪み率の値は同じくらいですが、どちらも二次歪みが中心であるため相殺が起きます。そして赤い線がDACと歪み率計の間に本機を割り込ませた時のデータです。1V出力時のDAC単体の歪み率は0.04%ですが、本機を通すと0.009%以下に低下します。これは二次歪みの打消しの実験そのものです。

逆に、0.1%/V以上の二次歪みを発生させる機材と組み合わせた場合は、ハーモナイザで発生する高調波の大きさが相対的に小さくなるので、ハーモナイザがあってもなくても関係なくなる、ということになります。シングル真空管アンプで二次高調波を盛大に出すものがこれに該当します。

本機が設計の意図本来の機能を発揮するためには、ソース側もパワーアンプ側もともに超低歪みの装置である必要があります。組み合わせて使う機材の前後関係によって生じる現象は逆転することもあるわけで、どんなオーディオシステムにおいても常に同じ結果を生むわけではないということをよく理解しておかないと大恥をかきますのでご注意ください。

ここでは歪みについてのみ触れましたが、歪み以外の測定できない要素によっても音が変わることがあり、その方面についてはコメントできるほどのネタの持ち合わせはありませんのでノーコメントといたします。


わたしのおもちゃ箱に戻る