SEPP-OTLアンプその3


学生の頃、いろいろなアンプを作りました。ここでご紹介するメイン・アンプは、以下のような要求仕様にもとづいてある音楽スタジオに頼まれて製作したものです。

製作して20年くらい経った頃、思い出したようにオーバーホールしてほしい、という連絡がありました。私の実家をたどって今の連絡先を探したのだそうです。私の手に戻ってきたそのアンプは製作当時のきれいなままで、出力段のアイドリング電流も狂うことなく当時のままの値を示しました。特性を測定したところ数値的な劣化はありませんでしたが、若き頃の未熟な設計であったことと、電解コンデンサ類の劣化もあって音は少々荒れ気味だったことを覚えています。

画像はありませんが、このアンプはねじ回し1本でユニットごとにすべて分解できるように作られています。コンデンサ類のみすべて交換し、思うところあって電源電圧を少し落とし・・・その結果、最大出力は70Wに減じた・・・、位相補正も若干の変更をかけて再び元の持ち主に送り返しました。このアンプは非常に安定で、方形波にも乱れはなく素直そのもので、超高域特性もきれいに減衰しています。おそらく、これから先10年、20年動作し続けるのではないかと思います。

利得: 29.5倍(1kHz、8Ω負荷)
歪み率特性: 0.1%以下(30W、1kHz、8Ω負荷)
0.5%(60Wで保護回路作動、1kHz、8Ω負荷)
周波数特性: 10Hz〜100kHz/-1dB(200kHz/-3dB、1MHz/-13dB)
残留雑音: 70μV(両チャネルとも、補正なし)
ダンピング・ファクタ: 58〜60(1kHz、8Ω負荷)


アンプ部

当時、すでに出力段のOCL化はあたりまえになっていましたが、本機ではあえてスピーカーとはC結合にしています。それは、要求仕様にもあるとおり、いかなる事故があってもスピーカー端子にDCが出てはならない、というお約束があったからです。そのため±電源ではありませんが、何を思ったかマイナス電源になっています。リレーを使った保護回路にするという方法もあるかと思いますが、万一、肝心のリレーやリレー駆動回路がトラブルを起こしてしまったら何にもならないので、何もしなくても保護されるというフェイルセーフの基本中の基本に立ち返ったらこのようなコンセプトになったというわけです。

全体はきわめてシンプルな6トランジスタ構成のオーソドックスかつ古風なSEPP-OTL回路です。初段はNEC製で当時2SA640として売られていたローノイズPNPトランジスタの高耐圧バージョンで、2段目はNPNパワートランジスタがひっくりかえって使われています。初段2SA639のベース電位はZD(12V)と2SA722で定電圧化されており、おそらく、こうすることでB電源が変動しても出力段のセンター電圧が変動しないようにしたかったのだと思います。増幅らしい増幅はこの2つのトランジスタしかしていません。しかも、2段目はおきまりのブートストラップが省略されているため、裸利得はたいしたことありません。2段ダーリントン接続を経て2SB600/2SD555の終段コンプリをドライブしています。途中に挟まった2SA509/2SC509はごく普通の過電流保護回路です。


電源部

電源回路はほとんど説明を要しないでしょう。ドライバ段にはごく簡単なトランジスタ式リプル・フィルター風の回路が挿入されています。このアンプは回路構造上B電源の残留リプルには非常に強いのでリプル・フィルターは必要ありません。この回路の目的は、電源ON時の「ボム」というショック・ノイズを防ぐためだと思います。


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