「情熱の真空管」のご本ではおなじみの真空管アンプ測定用『100Hz/120Hz信号発生器』です。本機とテスターがあれば、真空管パワーアンプの利得が測定でき、負帰還の調整もある程度可能です。いわゆるオーディオ・ジェネレータを買わなくても、あるもので工夫すれば結構いろいろなことができることの見本ではないかしらん。
真空管アンプのB電源には通常200V〜400Vくらいの高い電圧を使います。電源回路は、200V〜350Vくらいの巻き線を整流管またはシリコン・ダイオードで整流するわけですが、整流直後のB電源には通常数V程度の残留リプルが含まれています。この残留リプルは、きれいな正弦波ではありませんが、100Hzあるいは120Hzの交流※です。この100Hzあるいは120Hzの交流成分を取り出して測定用のオーディオ信号のかわりにしようというわけです。整流出力電圧300Vくらいで、アンプ全体の消費電流が130mA程度、整流直後の平滑コンデンサ容量が100μFの電源回路の場合、整流直後のB電源に含まれる残留リプルは2V〜3Vくらいになります。200V〜350Vの高圧をコンデンサで遮断して、交流成分(すわなち2V〜3Vくらいで100Hzあるいは120Hzのリプル)のみを取り出せば、立派にアンプの測定用の信号源に流用できます。
※古くは、半波整流が使われたこともありましたが、現在では半波整流回路はAC100Vの交流波形を乱す要因であるとして、製品における使用が禁じられています。
本機(というほどのものでもありませんが)の回路は右図のとおりです。0.22μFのフィルム・コンデンサ(耐圧400V以上)を入力とし、抵抗と可変抵抗器で若干減衰させたものが出力となっています。この入力部分を、パワーアンプのB電源の整流直後のところに接続します。高圧がかかっていますから十分な注意がいります。本機の場合だと、抵抗器で減衰されるので0V〜1.2V可変の100Hz/120Hz信号発生器となるわけです。この信号をパワーアンプに入力してやり、スピーカー出力側で得られる信号電圧の大きさと比べれば利得がわかります。ちなみに、ほとんどのパワーアンプは、50Hz以下の帯域では周波数特性が劣化しがちですが、100Hz以上であればほとんどフラットだといっていいでしょう。
用意するもの: 8Ω(1/2W〜100W)のダミーロード、デジタルテスター(ACVレンジ)。パワーアンプの利得は、スピーカー出力側で1Vの信号電圧が得られた時の入力信号電圧との比で求めます。そのとき、パワーアンプのスピーカー端子にはスピーカーのかわりにスピーカーと同じインピーダンスの抵抗器(ダミーロードという)をつなぎます。一般には8Ωを 使います。但し、きっかり8Ωという値の抵抗器は抵抗の値の系列からはずれているのでなかなか手にはいりません。8.2Ωならば容易に入手可能なのでこれで十分です。この時のダミーロードの電力負荷は、オームの法則により、
E×E÷R=1V×1V÷8Ω=0.125Wですから、1/2W型かそれ以上の抵抗器が望ましいです。ダミーロードを使って最大出力試験を行うのであれば、そのアンプの最大出力よりも余裕を持って大きな電力の抵抗器が必要です。たとえば、5Wのパワーアンプの場合、最大出力時にダミーロードにかかる電力負荷は約7Wになります。もし、ダミーロードに8.2Ω/10W型の抵抗器を使って最大出力試験を行った場合、その抵抗器の表面温度は簡単に100℃を超えます。パワーアンプのスピーカー端子からすピーカーケーブルをはずして、かわりにダミーロードをつなぎます。アンプの電源をOFFにした状態で本機の入力をB電源の整流出力のところにつなぎます。安全のために先端にはワニグチ・クリップまたは先が尖がったICクリップをつけたものを使ってください。本機のボリュームをminにしておきます。本機の出力をパワーアンプの入力につなぎます。デジタルテスターをDCVレンジにして本機の入力のところにつないでおきます。
次に、パワーアンプの電源をONにします。ボリュームはまだ絞ったままです。DCVレンジにしたデジタルテスターに0Vの表示が出て、しかもどこからも煙が立たなければまずは成功でしょう。そのままの状態でデジタルテスターをACVレンジに切り替えます。数Vの表示が出ればOK、先に進めます。
安全のために一旦電源を切ってから、デジタルテスターをスピーカー端子につなぎます。まだ、ボリュームは絞ったままです。アンプの電源をONにし、10秒以上経ったら、アンプのボリュームを最大にし、デジタルテスター(ACVレンジです)を見ながら本機のボリュームを徐々に上げてゆきます。デジタルテスターに電圧が現れます。1V(Eout)になったところで固定します。
デジタルテスターをはずし、アンプの入力(=本機の出力側)につないで電圧(Ein)を読み取ります。ほとんどのパワーアンプでは、0.02Vから0.2Vくらいのどこかになっていると思います。そこで、計算で利得を求めます。
Eout÷Ein=1V÷0.02〜0.2V=5〜50倍(利得)
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