カソード・フォロワ回路について、思い付いたことをいろいろと考察してみました。
右の回路(回路A)は、ごく普通のカソード・フォロワ回路です。プレート側からB電源を供給し、カソード抵抗側は接地されています。回路を見やすくするために、ここでの議論では関係のないグリッドバイアス回路部分は省略しています。ちなみに、使用する真空管は12AU7/ECC82であるとします。回路Aのカソード負荷抵抗(Rk)は30kΩになっています。後続する回路の入力インピーダンス(RL)は100kΩです。ですから、直流動作を考える時のロードラインでは「30kΩ」が負荷になり、交流動作を考える時のロードラインでは「23kΩ = 30kΩ//100kΩ」が負荷になります。
そこで疑問です。「もし、後続する回路の入力インピーダンス(RL)がもっと低い値・・・たとえば30kΩだったら」どうすればいいのでしょうか。
(1)Rkをもっと大きい値、たとえば100kΩにする・・・なぜならば、RkとRLの並列合成値ができるだけ変動しないようにすべきだから。
(2)Rkをそのままの30kにする・・・なぜならば、回路の直流動作条件を変動させるべきでないから。
(3)RkをRLに対して十分に小さく、たとえば10kΩにする・・・なぜなら、後続の負荷(RL)が重くなったのだから、Rkの値を小さくしてより多くのプレート電流を流すべきだから。
この3案が考えられます。そしてもうひとつ、
(4)RkをRLに対して無限大に、すなわち定電流負荷にする・・・なぜなら、球から見て、プレート電流さえ流れてくれるならば、Rkの存在は不要だから。
当初のロードライン
左図は、Rk=30k、RL=100Kの当初の負荷条件の場合のロードラインです。直流負荷(Rk)に対して、後続する交流負荷(RL)の値が十分大きいために、2つのロードラインの角度はかなり近くなっており、プレート電流=3mA、バイアス=-5.5Vあたりの動作に設定すれば、比較的効率よく出力が取り出せる様子がわかります。
(1)Rkをもっと大きい値、たとえば100kΩにする・・・(青色)
このような設定にすると、直流負荷(100k)のロードラインが寝過ぎてしまって、交流負荷(23k)のロードラインをうまく引くことができません。動作ポイントをかなり左にずらしてみましたが、それでも取り出せる最大出力電圧は極端に低下してしまいます。
(2)Rkをそのままの30kにする・・・(緑色)
(1)のケースに比べればかなりましなロードラインになっていますが、負荷が重くなった分ロードラインが立ってしまい、「当初のロードライン」に比べれば、取り出せる最大出力電圧は低下してしまいます。
(3)RkをRLに対して十分に小さく、たとえば10kΩにする・・・(赤色)
2つのロードラインの角度が近くなったものの、どちらのロードラインの角度も立ちすぎてしまって、やはり取り出せる最大出力電圧は低下してしまいます。また、最適な動作条件とするためには、プレート電流をかなり多めに設定しなければなりません。
重い負荷に耐えるには、それなりの量のプレート電流を流さなければなりません。しかし、より多くのプレート電流を流すには、直流負荷抵抗の値を小さくしなければならない。直流負荷抵抗の値を小さくすると、交流負荷のロードラインまでどんどん立ってしまう、という不都合が生じてしまいます。
(4)RkをRLに対して無限大に、すなわち定電流負荷にする
定電流負荷の時のロードラインはちょっと異色で、横一直線になります。
ロードラインに角度を与える要素となるのは、後続する交流負荷(30k)だけになるため、実は「当初のロードライン」の直流負荷のロードラインと一致します。そして、このロードラインの角度は、これまでみてきたすべてのロードラインの中で、最も角度が寝ていることに気が付きます。
このことは、12AU7/ECC82にとって、定電流負荷の時の動作が、最も負担が軽く、取り出せる最大出力電圧が大きくなることを意味します。
今回の検証でいえることは、(a)カソード・フォロワにおいて、後続段の交流負荷インピーダンスが低い(すなわち負荷の重い)回路では、カソード抵抗(Rk)を大きくすると、最大出力電圧がさっぱり取れなくなり、
(b)また、後続段の交流負荷インピーダンスが低いからといって、カソード抵抗(Rk)も小さくすると、やはり最大出力電圧が取れなくなる。
(c)それくらいなら、「後続段の交流負荷インピーダンス」=「カソード抵抗(Rk)」に抑えた方がいくらかましであり、
(d)最も無駄のない動作をさせたかったら「定電流負荷」にするのが一番である。