SEPP小回路の実験 (ヘッドホンアンプ用SEPP小回路のデータ)


トランジスタの出現によって、オーディオ回路技術は真空管時代には考えられなかったようなヴァリエーションをみるようになりました。NPN-PNPトランジスタを1セットとすることで、真空管ではとても複雑で困難だった「SEPP・・シングル・エンデッド・プッシュプル」回路が実にシンプルな構成で実現できるようになり、今日の半導体アンプの隆盛の基盤となったのでした。今から30年以上も前の話です。

私も、中学生の頃(1967年頃)、当時SONYで技師をしておられたかもじよしあき氏(現在はSONY関連会社の社長をされているとか)著「OTL回路の設計法」を何度も何度も読み返しては、計算式を解析したり、変形させて応用がきく式を作ったりしたものでした。

今回は、その頃のことを思い出して、ヘッドホンアンプにでも使えそうなごく簡単なSRPPの出力段をでっちあげ、その特性を測ったりして遊んでみました。


実験回路

出力段はPNP-NPNバイポーラトランジスタ(2SA722/2SC1328)の1段構成のコンプリメンタリSEPPです。2SA722/2SC1328は、あまりポピュラーにはならなかった松下製のhFE>400のコンプリ低雑音用トランジスタです。たまたま、ストックがあったので使ってみました。

エミッタ抵抗値はたまたま手持ちがあった27Ωとしましたが、40Ω程度のヘッドホン負荷を考えると本当はもう少し小さい値が望ましいようです。電源は006P(9V)の乾電池を使っており、すべてがお手軽です。

問題となるのがドライバですが、普通はコレクタ側から出力を取り出してSEPPの出力段に受け渡されますが、今回はエミッタ・フォロワによるドライブとしてみました。SEPP回路の実力を知るのが今回の実験の意図なので、できるだけ低いインピーダンスでドライブしたかったからです。

出力段のバイアス回路は、手持ちの発光ダイオードの順方向電圧が約1.7Vであることを利用して、ダイオード1本で済ませています。動作中はダイオードがわずかに発光します。同時に、NPNトランジスタによるエミッタ・フォロワの代わりに、FET(2SK30)によるソース・フォロワに置き換えて、その特性も測定しました。どちらの場合も、出力段の中点バランスは最適化されていませんが、簡単な実験回路だということでごかんべんください。


特性 (Trドライブ)

まず、NPNトランジスタのエミッタ・フォロワによるドライブ(上記左側の回路図)ですが、周波数特性は10Hz〜500kHzフラットが得られました。なんのことはない、測定系の周波数特性を測っているようなものでした。

入出力特性ですが、100mVの入力を与えた時の出力電圧は、400Ω負荷のとき94mV(すなわち0.94倍)、38Ω負荷のとき69mV(すなわち0.69倍)でした。

終段のアイドリング電流が7.6mAですから、400Ω負荷の場合は実効出力電圧2.15VまでA級動作です。38Ω負荷の場合は、実効出力電圧0.2V以上の領域ではB級動作となっています。

気になる歪み率特性ですが、400Ω負荷で最大2V(2%歪)が得られており、これは回路定数でみるかぎり理論値そのものです。38Ω負荷ともなるとさすがにきびしく、最大0.55V(2%歪)がいいところです。電源電圧を9Vから12V以上に上げて、エミッタ抵抗も15Ω以下にしてやれば、特性は大幅に改善されて、立派にヘッドホンをドライブできるでしょう。

実際にインピーダンス40Ωのヘッドホンを使って試聴してみました。出てきた音は、あきれるくらい素直でストレートなものでした。当然といえば当然です。実験回路のままでは、さすがにパワー不足を感じました。


特性 (FETドライブ)

次に、FETのソース・フォロワによるドライブ(上記右側の回路図)ですが、周波数特性は同じく10Hz〜500kHzフラットが得られました。

入出力特性ですが、100mVの入力を与えた時の出力電圧は、400Ω負荷のとき82mV(すなわち0.82倍)、38Ω負荷のとき60mV(すなわち0.60倍)でした。

400Ω負荷の場合は実効出力電圧2.15VまでA級動作、38Ω負荷の場合は実効出力電圧0.2V以上の領域ではB級動作という点はTrドライブの場合と同じです。

歪み率特性ですが、400Ω負荷で最大2V(2%歪)が得られていますが、カーブがさきほどとずいぶん違います。ほとんど直線的な増加です。38Ω負荷では、最大0.5V(2%歪)となっており、トランジスタ・ドライブよりもやや不利な数字です。FETのドレイン・ソース間飽和電圧の方が、トランジスタのコレクタ・エミッタ間飽和電圧よりも高いことが原因だと思われます。

Trドライブの時との音の違いは、私にはわかりませんでした。


まとめ

これまでみてきたように、SEPP回路は単純に無帰還のままで出力段に使うこともできるわけで、たとえば、真空管アンプのカソード・フォロワに追加して使えば、そのままヘッドホン出力になってしまいます(右図)。

この例では、6DJ8のカソード側の負荷を抵抗ではなくて定電流ダイオード(CRD)とすることで、カソード・フォロワでの利得の低下を防ぎ、また、負荷を軽くしています。

終段の16Vの電源は、真空管アンプならばヒーターの直流点火電源が流用できます。消費電流は、15〜100mAです。

ヘッドホン出力ということにはなっていますが、このままプリ出力を兼ねても問題はありません。


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