FET & CRD選別冶具(改訂版)


最初に製作したFET & CRD選別冶具は、DC調整回路なしでJ-FET差動回路を組むために使用する高精度の2SK30Aペアおよび2SK170ペアを選別するための簡単な測定器具ですが、長らく使っていてちょっと不便を感じていたのと、電流調整ボリュームがすぐにバカになるという欠点があったので内部回路のみ見直すことにしました。


注:右上のスイッチ上につけた小さなアルミ電解コンデンサは撤去しました。

2つの問題

<毎回調整するのが面倒>

私の使い方では、測定時のドレイン電流値は、2SK30Aの時が0.75mA、2SK117と2SK170の時が2.0mAにしています。2種類のドレイン電流を使い分けたいのでドレイン電流は可変にしていました。しかし、電流値を精密に0.75mAや2.0mAに設定するのが案外面倒なのです。ボリュームをちょっといじると値が変わってしまいます。いっそのこと電流値を固定してしまおうと思ったわけです。

<ボリュームがバカになった>

0.75mAと2.0mAの2つのポジションばかり使っていたのでボリュームの接点がいつも同じポジションをこすることになり、そこだけ消耗してしまったのか接触が不安定になってきました。頒布部品を選別するのに頻繁に使っているわけですから、耐久性に問題が生じたというわけです。

この2つの問題を解決する手っ取り早い方法は、測定電流値を固定にしてスイッチで切り替えるようにしてしまうことです。但し、調整がきかなくなるので設定する電流値の精度が新たな問題として浮上してきます。気温が変化してもいつも正確に0.75mAと2.0mAが得られるような回路にしなければなりません。しかも、8P平ラグに収まる簡単な回路で。


全回路

本機の全回路図は以下のとおりです。動作の基本は旧バージョンと変わりませんが、細かいところで見直しをしています。R1〜R3の値については後述します。

S1の機能・・・テスターで測定する対象を、「FETのバイアス」か「ドレイン電流」か切り替える。
S2の機能・・・測定モードを「FETのバイアス特性」か「IDSSあるいはCRDの定電流特性」か切り替える。
S3の機能・・・「FETのバイアス特性」を測定する際のドレイン電流値を切り替える。


回路の説明

<温度に影響されない基準電圧・基準電流を得る>

どんな半導体も固有の温度特性を持っており、周囲温度が変化すると特性もかなり変化します。本機では、JFETのバイアスを測定するモードでは定電流回路を使って強制的に被測定FETに規定のドレイン電流を流すしくみになっていますが、その定電流回路の温度安定性が問われるわけです。

本機の定電流回路は、基準電圧を得るツェナダイオードとトランジスタ(2SC1815)を使ったきわめて簡単なものです。左下の図は私がよく使っているルネサスのHZシリーズの温度特性データです。約5V(正確には5Vよりもちょっとだけ高い)の時の温度係数はほとんどゼロで、それよりも電圧が高くなるにつれて正の温度係数を持ち、逆に電圧が低くなると負の温度係数を持ちます。温度特性の良い回路を組みたい時のポイントは、5V+αの時に温度特性がほとんどニュートラルになってくれるものを使うということです。ちょうど5.6Vのツェナダイオードの手持ちがあるのでこれを採用します。これならば温度係数は0.01%/℃を大きく割りますので、周囲温度が10℃くらい変化しても余裕で0.1%以下の精度が出せそうです。

もうひとつ問題があります。定電流回路を構成するトランジスタのベース〜エミッタ間電圧の温度係数(-2mV/℃)の存在です。これを打ち消してやらないとせっかくツェナダイオードで低い温度係数を得ても意味がありません(上の図中央)。定電流特性はRxにかかる電圧とRxの値によって決定されます。Rxにかかる電圧の温度特性を打ち消す常套手段が、トランジスタのベース回路に同じ温度係数を持ったシリコンダイオードを並列に入れて中和してしまう方法です(上の図右側)。これは半導体回路の基本中の基本ともいえるもので、半導体回路を設計するベテランなら誰でも知っている方法です。

ちなみに、本機の定電流特性の安定性は回路の単純さの割にかなり良好で、周囲温度±10℃の変動に対して0.05%以内となっています。おかげでいつでも無調整で、同じ条件での測定が可能になりました。

<R1〜R3の役割>

この抵抗値を調整して定電流特性を決定します。ここにかかるエミッタ電圧は約5.6Vですが、ツェナダイオードの電圧のばらつきによって5.4V〜5.7Vの範囲のどこかになります。こればかりは実際に組んでみて測定してみるしかありません。私が製作した実機では、5.57Vくらいになりました。5.57Vだとすると、0.75mAの定電流特性を得るには、7.43kΩを取り付ける必要があり、1mAでは5.57kΩ、2mAでは2.875kΩということになります。こんな中途半端な値の抵抗器はありませんから、あるものを2〜3本組み合わせてカットアンドトライで必要な特性を得るようにします。

本機の調整後の測定値は以下のとおりとなりました(周囲温度25℃時)。ご覧のとおりきわめて正確な電流値を得ています。しかも、室温が変化してもほとんど変化しません。可変抵抗器を使った旧バージョンではとてもこんな精度は出せなくて、ツマミをちょっと触っただけで0.01mAくらい簡単に狂ってしまいましたし、室温の変化にも敏感でした。

エミッタ電圧抵抗器の組合わせ定電流値
5.580V7.5kΩ//560kΩ0.7504mA
5.572V5.6kΩ//620kΩ1.0006mA
5.553V5.6kΩ//5.6kΩ//200kΩ2.0009mA

私は抵抗値をすべて固定にしましたが、R1〜R3のいずれかを可変にしたらより使いやすくなるでしょう。たとえば「1.1kΩ+10kΩボリューム」にすれば、5mA〜0.5mAくらいの範囲の定電流特性が得られます。この場合、ボリュームはA型が適します。左に回し切ると5mAとなり、12時で2.3mA前後、右に回し切ると0.5mAになるような動きをします。

<D1の目的>

D1は2SC1815のコレクタ〜エミッタ間電圧を一定(1V)以上確保するために入れてあります。これがないと、2mA以上での測定で2SC1815が飽和領域に接近してhFEが低下し、定電流回路の精度が落ちてしまいます。

<LEDの目的>

これはなくてもいいのですが、IDSSの測定モードで被測定素子にかかる電圧がほぼ10Vとなるようにするための電圧ドロップです。ない場合は約12Vがかかります。


使用部品について

できるだけジャンクBOXにあったものを流用する、という方針で作りました。

トランジスタ ・・・ 2SC1815あるいはこれに類するトランジスタ(2SC945、2SC2120など)ならばほとんどどんなものでも使えます。hFEは高い方が精度が出しやすいのでGRランクあるいはBLランクを推奨します。

ツェナダイオード ・・・ 5.6Vタイプを使いましたが、5V〜6Vの範囲であればOKです。

ダイオード ・・・ 小信号用の1S2076Aを使いましたが、同等のシリコンダイオードであれば何でもOKです。SBD(ショットキバリアダイオード)は使えません。

抵抗器 ・・・ 電流測定用の100Ωだけはできるだけ精度の高いものを使ってください。R1〜R3はどのみちカットアンドトライで決めるので精度は関係ありません。

コンデンサ ・・・ 特に制約はありません。容量も厳密さは要求されないので、少々値が異なってもかまいません。


特性および測定条件

<バイアス測定モード>

測定時ドレイン電流=0.75mA、1.0mA、2.0mA
測定時ドレイン〜ソース間電圧=約4.7V

<IDSS測定モード>

測定電圧=約10V


ご注意(重要)

半導体はわずかな温度変化でも特性が変化します。本機を使った測定・選別では、室温をできる限り安定させて行ってください。推奨する室温は25℃±1℃です。室温がこれ以上変化すると、選別した意味がなくなります。

25℃±1℃で測定・選別するということは、本機の調整も25℃±1℃で行っておかないと意味がないということです。

測定・選別では、被測定半導体の温度が安定している必要があります。半導体を手でつまむと体温で温度が上昇しますので、手から離れてから室温になるまでに少々時間がかかります。測定中は被測定半導体に電流を流しますから、その電流によって被測定半導体の温度が上昇します。そのため、手の温度の影響を測定電流による影響の両方が落ち着くまで待たなければなりません。エアコンの風が当たると特性が不規則に変動するので、無風状態であることも必要です。

本機には、ショート事故などで回路を保護する機能がついていません。たとえば、IDSS測定モードで被測定素子をショートさせると、約100mAの電流が流れて内蔵している100Ωの抵抗器が過熱し、LEDが焼けます。



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