電源トランス負荷特性試験器


プリアンプ用の電源トランスをいくつか試作することになったので、トランスの負荷特性を測定するための簡易試験器を作りました。コンセプトは、一夜にしてできること、限りなく廉価なこと、工作が楽なこと、作り替えが容易なことです。


どんな試験をしたいか

電源トランスは、ご存知のとおり取り出す電流の大きさによって得られる整流出力電圧が変化します。無負荷の時には高めの電圧になり、定格一杯の負荷をかけると電圧はかなり低下します。その差は通常1.2倍くらいあります。一方で、真空管アンプ用の電源トランスは、すくなくともB電源用とヒーター電源用の2つの2次巻き線を持ちます。一方の2次巻き線から得られる電圧は、もう一方の負荷の状態の影響を受けます。ヒーター用の2次巻き線から取り出す電流の大きさが変化すると、B電源の電圧も変わってしまいます。ちなみに、すべての2次巻き線に定格一杯の負荷をかけた時の状態を「全負荷」といいます。

そこで、各2次巻き線ごとに異なる負荷を与えて、その時の整流出力電圧の変化の様子がわかるようにしたいのと、同時に他のいくつかの2次巻き線に対してさまざまな負荷を与えることができるような試験器が望ましいということになります。


被試験トランスのあらまし

試作しようとしている電源トランスは、真空管回路にB電源を供給できること、DC点火のヒーター電源があること、そしてもう一つ、20V程度の低電圧電源がついていること、この3種類の電源が供給できるものを想定しています。

従って、試験器は、3つの電源に対応した整流回路とDC負荷回路から構成されることになり、負荷の状態を段階的に可変にします。トランジスタや真空管を使えば連続可変の上等なものができますが、廉価かつ一夜にして作れるという条件がついていますから、ここはスイッチで抵抗器を切り替えるステップ式で割り切ります。

試験器の機能

<B電源>

整流回路は、倍電圧整流方式とブリッジ両波整流方式の切り替えができます。整流回路の部品(ダイオードとコンデンサ)は共用になっていて、3Pスイッチ一発で切り替えられるようにしてあります。どうすればスイッチ1回路で2種類の整流方式が共用できるか考えてみてください。負荷回路は、10個のセメント抵抗を直列にしたものです。10個のうち7個の抵抗器ごとにバイパスするスイッチを取り付けてあり、これらをON/OFFすることでさまざまな値の負荷を作り出します。回路に流れる電流検出用に10Ωの抵抗を入れてあり、この両端にテスターを当てることで負荷に流れる電流を測定します。

<低電圧電源>

低い電圧側の整流回路はブリッジ両波整流方式のみです。負荷回路は、5個のセメント抵抗を並列にしたものです。それぞれの抵抗器ごとにON/OFFスイッチを取り付けてあり、これらをON/OFFすることでさまざまな値の負荷を作り出します。こちらも、回路に流れる電流検出用に10Ωの抵抗を入れてあり、この両端にテスターを当てることで負荷に流れる電流を測定します。

<ヒーター電源>

ヒーター電源の整流回路もブリッジ両波整流方式のみです。負荷回路は低電圧電源と同じ方式で、5個のセメント抵抗を並列にしたものです。それぞれの抵抗器ごとにON/OFFスイッチを取り付けてあり、これらをON/OFFすることでさまざまな値の負荷を作り出します。こちらは、回路に流れる電流検出用に0.1Ωの抵抗を入れてあり、この両端にテスターを当てることで負荷に流れる電流を測定します。

右画像は、東栄変成器製のP35という小型電源トランスの負荷特性を測定しているところ。右のデジタルテスターはB電源側の電流検出抵抗(10Ω)の両端電圧を測定している・・・0.402Vと表示されているので、電流値は40.2mA。この装置で最大100VAくらいまでの真空管アンプ用電源トランスの負荷試験ができる。


試験結果サンプル

右の画像は、試作した50VAタイプのプリアンプ用電源トランスの測定結果をまとめたものです。

いちばん上のグラフは、120V巻き線の負荷特性で、120Vを倍電圧整流した場合とブリッジ両波整流した場合の2つのデータを取っています。それぞれに細い線と太い線の2本が上下に描かれていますが、細い線は他の2次巻き線に負荷と与えない状態のもので、太い線は全負荷状態ものものです。全負荷の方が整流出力電圧が若干下がっているのがわかります。実際の回路では、他の2次巻き線の負荷状態はこの2本の線の間のどこかになります。

2つめのグラフは、24V巻き線の負荷特性です。24V巻き線は2つあるので、±30Vの電源としてもいいですし、直列に重ねて+60V電源としても使えるものです。また、上記120V巻き線と直列にすれば120V+24V+24V=168V巻き線としても使える仕様になっています、このようにして使う場合は、上下2つのグラフの測定結果を足せばいいわけです。(厳密には単純に足したものとは異なります)

3つめのグラフは、ヒーター用の14V巻き線の負荷特性です。無負荷の状態で約19V、定格一杯の状態で16Vが得られています。これならば、余裕を持って12.6Vのヒーター電源が供給できます。

これらのデータを取得するのに要した作業時間は30分くらいで、作業の非常にスムーズなものでした。簡易・廉価・手抜きな割りに非常に便利な道具を手に入れた感じがします。ひとまず成功です。


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