<機材の入手>
1960年〜1980年代にLPレコードで育った人であっても、CDが登場してLPレコードがお蔵入りとなり、さらにiTunesなどのPCオーディオが当たり前になったことで、いよいよLPレコードから遠ざかってしまった人は多いと思います。デジタル時代に育ち、アナログLPレコードには縁がなかった人、それからアナログLP再生機材を手放してしまった方が再スタートするための参考になりそうなことをいろいろと書いてみます。じつは、私がその再スタート組のひとりでもあります。
<中古の過去モデル or 新品の現行品>
一旦は消えてしまうのではないかと誰もが思ったレコードプレーヤですが、どっこい消えるどころか新たに設計され製造されたものが多数あります。しかし、後述するように私のわがままを聞いてくれる現行モデルはありませんでした。また、往年の名機を使いたいのであれば、オークションなどで状態の良い過去モデルを探すことになります。過去モデルの中から性能・音質ともに優れたものを選ぶのであれば、LPレコードプレーヤの黄金時代ともいえる1980年代後半に良いものがたくさんあります。ここでは極端に高価なものは避けつつ、お財布的に少し頑張れば入手できそうなものの中から、私の趣味で選んでみました。KENWOOD KP-9010、KP-1010・・・・抜群の静粛性を誇ったフラグシップモデルがKP-9010(99,800円、1988年)ですが、性能を落とすことなく廉価にしたのがKP-1010です。実物のトーンアームを見るとその作りの良さについ欲しくなります。どちらもオート機能がついているのが(私的には)ありがたいです。
YAMAHA GT-2000、GT-750・・・・一時リニアトラッキングやら光センサーによる自動選曲やらで迷走気味だったYAMAHAが、基本に戻って作った力作です。GT-2000(138,000円、1982年)、GT-750(69,800円、1985年)ともに音の良さが売りで、LPレコードってこんなに音が良かったのかということを教えてくれます。私の愛機はGT-750です。
現行品(2018.6現在)については、実際に使ったことがないのでコメントが難しいですが、2018年現在、良く売れているモデルをいくつか拾ってみます。LPレコードが復活して話題になっている割には、国産メーカーにはいまひとつ本気度が感じられません。過去の経験の残骸とあり合わせのもので安く作ったという印象がぬぐえません。
左から:KENWOOD KP-9010、同 KP-1010、YAMAHA GT-2000、同 GT-750
画像出典:オーディオの足跡(http://audio-heritage.jp/)DENON DP-1300MK2、DP-500M・・・・良く似たデザインですが、筐体の仕上げの感じが異なりどちらがいいかは好みで分かれます。トーンアームは見た目は似ていますが、DP-1300MK2のベース部ががっちりとした作りの高さ調整リングであるのに対して、DP-500Mのベース部は樹脂製のフェイクですから残念感が漂います。ともにオート機能はありません。
Pro-Ject 1Xpression Classic・・・・オーストリアのPro-Jectは、種類が豊富でデザイン性に優れたものが多いです。ストレートアームが基本ですが、少ないながらもシェル交換が可能なS字アームモデルもあります。
左から:DENON DP-1300MK2、DENON DP=500M、Pro-Ject 1Xpression Classic
画像出典:各メーカーサイト
私は、1975年頃に購入したTHORENS TD-160とYAMAHAの普及モデルYP-700の2台を30年間使ってきました。TD-160は、THORENSの売りであった3.2kgの重量級のターンテーブルに専用シェルのストレートアームがついたもので、金のない学生の身分にはもったいないモデルでした。カートリッジを交換できるようにするために、専用シェルをスイスまで注文して半年待ちで入手したものです。YP-700は、フラグシップモデルのYP-1000と廉価モデルのYP-300やYP-500にはさまれた中級機で、SHURE M75MB2が標準でついているというのが売りでした。古典的なベルトドライブで格別秀でたところはなかったですが、デザインが良く使いやすいので気に入っていました。ベルトが伸びてスリップするようになってきたのでネットで探して交換したのを覚えています。
左から:THORENS TD-160、YAMAHA YP-700、YAMAHA YP-511、DENON DP-55L、YAMAHA GT-750
画像出典:オーディオの足跡(http://audio-heritage.jp/)2000年を過ぎてからムスメがレコードプレーヤが欲しいというので、オークションで入手してプレゼントしたのがダイレクトドライブのYP-511(1976年頃)です。コンパクトでデザイン性に優れているだけでなく、トーンアームがなかなか高感度でよく出来たレコードプレーヤですので、状態の良い個体が手に入るのであればお買い得だと思います。YAMAHAはSHURE M75MB2が余程お気に入りとみえてYP-511にも搭載されています。フルオートではありませんがオートリフトがついているところが○です。
我が家のYP-700は元気に動いていましたが「デジタルが主流でもうLPレコードを聴くことはないだろう」と思ってオークションで売ってしまいました。そうこうするうちにTD-160のシェルの接点の接触が悪くなってきたのと、プーリーが劣化変形して回転ムラが出てきたので「さようなら」することにして、2010年頃にオークションでDENON DP-55L(1981年頃)という普及機の状態のいいものを手に入れました。
その時の条件は以下の5つでした。
この条件で現行品を探してみたところ、すべての条件を満たすモデルはなんと1つもありませんでした。廉価なモデルはオートストップ&オートリフトは標準装備なのだがカートリッジ・シェルが交換できないストレートアームばかり、逆にお値段が高いモデルはカートリッジ・シェルは交換できるのですがオートストップ&オートリフトがついていない。中間がないのですね。それでちょっと古い中古をあたることにしたのです。実際にDP-55Lを手に入れて聞いてみて驚いたのは、なかなか音が良いということでした。明らかにTD-160よりも、YP-700よりも静かかつ音に濁りがなくて良かったのです。もちろんピッチも正確で気持ちがいい。30年前の普及機も捨てたものではないなあと思います。
- ベルトは劣化するしピッチが狂うことがあるので精度が高いダイレクトドライブであること、
- トーンアームはカートリッジ・シェルが交換できるユニバーサルアームであること、
- 居眠りしたり席を立ってどこかに行ってしまうことが多いのでオートストップ&オートリフトがついていること、
- それなりに美品であること、
- 我が家の棚に収まるように奥行きが40cm程度であること。
しかし、DP-55Lにはひとつ不満がありました。それはトーンアームが鈍感だということです。この欠点について触れているBLOGも見たことがありますしDP-57でも同様の声を聞くので、この頃のDENONのレコードプレーヤに共通した弱点なんだと思います。ゼロバランスを取ったはずなのに、トーンアームを上下に操作すると頭が上がったままになったり、はたまた下がったままになったりします。そのために針圧が安定せず軽針圧では油断するとビビリが出ます。
DP-55L(左)、GT-750(右)感度の良いトーンアームを求めてたどり着いたのがYAMAHA GT-750で、これは1980年代のYAMAHAの力作GT-2000の弟分モデルです。いつか状態の良いものがオークションに出てこないものかとひたすら待って待って、当時の販売価格よりも高い値でようやく入手しました。まず驚いたのがトーンアームの出来の良さで、こんなものをよくこの値段(69,800円)で出したなと思います。そして、音を出してさらに驚いたのでした。静か、明瞭、超低域まではっきりと聞こえる。LPレコードの黄金時代にはこんなものが作られていたのだなあ、今時のオーディオメーカーはこんな投資はしないだろうなあと思いました。GT-750はオートリフトがついていませんが、私が入手したGT-750には光学式のオートリフトYAL-1という希少オプションがついていますので、上記の5つの条件を満たしています。
<カートリッジの入手>
交換針は消耗品ですが、カートリッジ本体は機械的な消耗するところがないのでとても長持ちします。私は1970年代に入手したカートリッジはすべて元気に動作しています。特に、MMカートリッジはカートリッジ本体にあるの電気的部品はコイルだけなので劣化がありません。しかし、カートリッジ本体側に磁石を持っているMCカートリッジやIM/MIカートリッジは、微妙に磁力の低下(減磁という)が生じている可能性が高いです。というわけで、カートリッジ本体側がコイルだけのMM系のカートリッジならば、古いものをオークションで入手する意味があります。しかし、SHURE V15シリーズなどの所謂名機になると中古でも安くなっていません。LPレコード全盛期に高い評価を得たものは、レコードプレーヤもカートリッジも値は下がらないのです。今のオーディオメーカーの体力では、当時のような人材も確保できず潤沢な投資もできなくなったということなんだと思います。
問題は消耗品である交換針です。しかし、ほとんどの交換針は2018年現在も日本で製造されていてWeb通販で購入できます。その代表がJICO(日本精機宝石工業株式会社)です。従業員50名ほどのちいさな会社ですが、その品質は世界的に評価されています。2018年になって東京白金に支店をオープンしたくらいです。
ちなみに、アナログLPレコード全盛期以来、世界のカートリッジの針先についているダイヤモンド・チップのほとんどは日本製です。oftofonといえども、SHUREといえどもその先っちょだけは日本製で、それを作ってきたのは東京赤羽にある並木精密宝石株式会社(現在はアダマンド並木精密宝石株式会社)です。CD4で話題になったシバタ針を開発したのもこの会社です。