高性能
MCヘッドトランス
<トランス探し>


MCカートリッジ用の昇圧トランスとして売られているものはいわゆるハイエンドオーディオの領域に入ってしまうらしく、いずれも非常に高価です。放送機器用の高性能ライントランスが数千円程度で手に入るのに対して、MCカートリッジ用の昇圧トランスのお値段ときたら数万円なんていうのがざらにあります。オークションを物色していたらMCカートリッジの昇圧用に使えそうなトランスを2つほどみつけましたので、その実用性について調査してみました。どちらのトランスもすでにカタログ落ちしていて現行品ではありませんが、時々オークションに出ていますので、根気よく待っていれば入手できるでしょう。

■トランスの要件

私が愛用しているMCカートリッジDENON DL-103の出力信号レベルは0.4mVくらいです。PHONOイコライザアンプのMMカートリッジ入力感度は3〜5mVくらいですから10倍程度の昇圧が必要です。ちなみにDENONが出しているDL-103用の昇圧トランスの昇圧比は1:10です。

MCカートリッジは、MMカートリッジに比べて音のヌケが良く帯域感に優れていますので、昇圧トランスはかなり広帯域で高品質な伝達特性のものが要求されます。トランスは扱う信号レベルが小さくなるほど低域のレスポンスが低下するものがあります。微小信号レベルにおいても周波数特性が劣化しないことが重要です。扱う信号レベルが非常に低いので、できれば誘導ハムを拾いにくい電磁シールド付きのトランスが望ましいです。


■使えそうなトランスいろいろ

オークションサイトを巡回していると、時々インピーダンス比が1:50〜1:300くらいの小型のトランスに出会います。巻き線比に換算すると1:7〜1:17ですから、DL103などのMCカートリッジに昇圧に使えるのではないか、と思ってしまいます。下の画像の左側の2つのトランスはオークションで見つけたもので、ダメ元で落札して実測してみました。右端のトランスはとある音響機材に使用するために特注されたTpAsタイプで、もしかして使えるのでは?という勘が働いてとらうルートを通じて入手したものです。


TAMRA TpAs51S

オークションで落札したタムラ製のTpAs51S(30Ω:7kΩ)の実測特性です。測定条件ですが、DENON DL-103を想定してソースインピーダンスは40Ωとし、2次側に7.5kΩ〜22kΩの負荷を与えて比較しています。この時の昇圧比は1:12.8〜15.6となりました。非常に優れた特性が得られています。22kΩ負荷でちょうどいい感じですが、PHONOイコライザの入力インピーダンスが47kΩだとして、43kΩくらいの負荷抵抗を並列に追加するくらいが適当でしょうか。このトランスは時々オークションに出てきますので、見つけたら手に入れておいてもいいかもしれません。


TAMRA 60Ω:10kΩ

こちらはタムラ製の60Ω:10kΩのトランスの実測特性です。オークションで手に入れたもので、型番らしきものはなくI.P.T.とだけ印字された小型筒型のLSサイズのトランスです。何らかの業務機材からの取り外し品でしょう。測定条件は、上記と同じくDENON DL-103を想定してソースインピーダンスは40Ωとし、2次側に10kΩと12kΩの負荷を与えた状態でデータを取りました。この時の昇圧比は1:11.1〜11.5です。PHONOイコライザの入力インピーダンスが47kΩだとすると、15kΩくらいの負荷抵抗を追加で並列に与えておけば良い感じのMC昇圧トランスとして使えそうです。


TAMRA 600Ω:50kΩ

昇圧比が1:10くらいのトランスでほかに思い浮かぶのは、マイクロフォン用の600Ω:50kΩのトランスです。インピーダンス比が1:83.3ですから巻き線比は1:9.1となりますから使えるかもしれません。オークションで入手できましたら実験した結果をこの場で公開する予定です。

←(画像はまだありません)


音響機材用TpAsタイプ1:10トランス・・・頒布終了

プロ用のとある音響機材に使われていたTpAsタイプ(H=18mm)で巻き数比1:10でインピーダンス不明のトランスです(右の画像のトランス)。このトランスが実装されていた基板を調べてみたところ、入力インピーダンス約100kΩのOPアンプ回路で受けていました。その状態のまま測定してみたところ、10kHz以上でハイ上がりになっていました。トランスの固有インピーダンスに対して負荷インピーダンスが高すぎるのでしょう。

これがMCカートリッジの昇圧用に使えないものかと条件を変えて実測してみたのが下のデータです。測定条件は、DENON DL-103を想定してソースインピーダンスは40Ωとし、2次側に47kΩの負荷を与えたところ、ご覧のとおりのなかなかすばらしい特性が得られました。この時の昇圧比は1:9.6となりましたのでDL-103で使うにはぴったりです。

←周波数特性

このトランスの2次側に47kΩの負荷を与えて使用するとして、インピーダンス比は1:100になりますから1次側の入力インピーダンスは470Ωという計算になります。そこで実際はどうなるのかについて実測してみたのが下のグラフです。1kHzではほぼ計算どおりの462Ωとなりましたが、2kHz〜10kHzではわずかに上昇し、低い周波数と高い周波数では低下します。DL103の内部抵抗は約40Ωですから、入力インピーダンスが330Ω以上あればレスポンスの低下はほとんど無視できます。入力インピーダンスが330Ω以上となる帯域は15Hz〜50kHzです。

←入力インピーダンス特性


上記の3つのトランスは、いずれも微小信号レベルにおいても特性の劣化がなく、広帯域で歪率特性も優秀、しかもほぼ完璧な磁気シールドを持っています。こんなものを放っておく手はないと思うのです。


■まとめ■

ここでご紹介した3種類のトランスを使った場合の回路定数および昇圧比を表にまとめてみました。

TAMRA TpAs51STAMRA 60Ω:10kΩ音響機材用TpAsタイプ1:10トランス
信号源インピーダンス40Ω40Ω40Ω
RLの値43kΩ16kΩなし
負荷インピーダンス(RL//47kΩ)22kΩ=43kΩ//47kΩ12kΩ=16kΩ//47k47kΩ=なし//47k
昇圧比1:15.61:11.51:9.6

製作というほどのものではなく、手ごろなケースを用意して穴あけして端子などを取り付け、トランスを乗せた基板を組み込めば完成です。アースは、回路図と同じように配線すれば十分です。注意点としては、トランスの筐体はアースすること、ノイズ対策として必ず金属ケースを使うこと、ケースの上下左右の金属部分はすべて導通を確保してアースにつなぐこと、トランスの1次および2次への結線はそれぞれにしっかり捻ることです。



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