聞き手 | 「ROVER 75のオーナーのみなさん、こんにちは。今日は、ROVER 75にお乗りになっている方おこしいただきました。早速ですが、75に至ったこれまでの経緯などお聞かせください。」 |
師匠 | 「はじめまして。私は、43歳になってから運転免許を取ったんですが、そのきっかけは子供がMINIに乗ったことなんです。その時、運転免許を取った勢いでROVER 620SLiを買ってしまい、これが気に入っていて長く乗るつもりでした。ところが、ひょんなことから75に乗り換えてしまいました。」 |
聞き手 | 「ということは、お宅の車は最初からずっとROVER一本だということなんでしょうか。」 |
師匠 | 「運命のいたずらかもしれませんね。最初に来たのがMINIだったわけですから。」 |
聞き手 | 「MINIとほかのローバーサルーンとは共通するものがあるんでしょうか。」 |
師匠 | 「大いにあると思いますね。走って曲がって止まる、という車の性格からみたら全然違うといっていいと思いますが、それ以外の車が持っている雰囲気っていうんですか、何か共通したものがあるんですよ。」 |
聞き手 | 「それで620をお選びになった?」 |
師匠 | 「はじめはそうは思わなかったんです。免許取りたてで車のことなんか全然知らなかったわけですが、デザインだけはとにかくこだわりました。」 |
聞き手 | 「師匠から見て、デザインの良い車というと、どんな車なんでしょうか。」 |
師匠 | 「旧い車ですが、117クーペ、初代ACCORD、初代PIAZZA、VWシロッコですね。学生の頃からあこがれていました。EUNOS 500も走っていると目で追ってしまいますね。」 |
聞き手 | 「英国車の名前が出てきませんね。」 |
師匠 | 「あははは、MINIを忘れていました。でもね、確かにそれまではROVERっていう車があることすら知りませんでしたよ。MGもね。」 |
聞き手 | 「ということは・・・。」 |
師匠 | 「ROVER 620を意識してちゃんと見たのは1997年になってからのことで、それもローバージャパンのディーラーのショールームです。」 |
聞き手 | 「じゃあ一目惚れってやつですね。」 |
師匠 | 「いやあ、まったく、そういうことです。620に出会っていなかったら、今頃、EUNOS 500の中古を見つけて乗っていたと思います。」 |
聞き手 | 「620の印象はいかがでしたか。」 |
師匠 | 「車というものをほとんど知らずに620に乗ったわけで、印象といっても参考になるかどうかわかりませんが、ボディ剛性が足りないということがどういうことなのかよくわかりましたよ。」 |
聞き手 | 「しかし、600シリーズを悪く言う人はあまりいませんね。」 |
師匠 | 「そりゃあそうです。あんなに魅力に満ちた車はなかなかありませんからね。」 |
聞き手 | 「75に乗り換えたきっかけというのは何だったんでしょうか。」 |
師匠 | 「それは2つあると思います。1つめは、620のスマートローンが3年目を迎えた時に、何を血迷ったのか、75に試乗してしまったことです。」 |
聞き手 | 「その時の印象はいかがでしたか。」 |
師匠 | 「まず、剛性感の高さに愕然としました。ローバーの内装のセンスの良さは620ですでに経験済みでしたからさほどすごいとは思いませんでしたが、600シリーズとは異なるシルエットのクラシックな魅力には参りました。そして静か過ぎない静かさです。これで心は決まってしまったようなもんでした。」 |
聞き手 | 「確かに、600シリーズは剛性が低いですが、やはり気にされていたんでしょうか。」 |
師匠 | 「620はとてもコンフォータブルでいい車なんですが、剛性の低さは常に悩みの種でした。タワーバーでもつけてどうにかしてボディを補強しようとあれこれ考えていたところだったんです。それから、高速を巡航している時に、カーステレオの音が聞こえないんですね。夫婦の会話も途切れ勝ちなのがちょっと問題でした。」 |
聞き手 | 「試乗ではどういう所を走ったんでしょうか。」 |
師匠 | 「なんということはない、ディーラーの近所の住宅地をとろとろと走っただけです。でも、剛性の高さを感じるのには、それで充分でした。ま、はずかしながら、はじめてまともな剛性を持った車というものを自分で運転したわけです。」 |
聞き手 | 「じゃあ、75ではなくてMBのCとかE46でも良かったんではないでしょうか。」 |
師匠 | 「多分違うと思いますよ。好きで乗っていた620の雰囲気があってこそのROVERですからね。剛性が高くても独逸車の雰囲気ではNGです、我が家の場合。」 |
聞き手 | 「静かさ、とおっしゃいましたが、75を購入後タイヤを変えていらっしゃいますね。」 |
師匠 | 「はい、620に比べて相対的に75の方が静かだったわけですが、乗っているうちに欲が出てしまいました。」 |
聞き手 | 「75のインプレッションについて、もう少し詳しく聞かせてください。まず、走行した時の印象など。」 |
師匠 | 「購入当初は、620では味わえなかった加速感に驚きました。まあ、同クラスの国産車だったらこれくらいあたりまえなんでしょうけれど、620はトルクはとにかく貧弱な面がありましたからね。同時に、高速安定性の良さに舌を巻きました。」 |
聞き手 | 「ハンドリングはいかがですか。」 |
師匠 | 「当初は、なんてハンドルが重い車なんだ、と思いましたよ。しかも、妙に粘りがあって不満でしたね。620のハンドリングが重い割りには自然な感じがあって、カーブの感覚が掴みやすかったんですが、75に慣れるのにずいぶん時間がかかりました。でも、5000kmを過ぎたあたりから重さが取れて、いい感じになってきたと思います。早起きして、田舎道などを50〜70kmくらいで流すととっても気持ちが良いですよ。」 |
聞き手 | 「やっぱり、英国車の血がそういう走り方の楽しさを感じさせるんでしょうか。」 |
師匠 | 「はじめは固かったサスペンションですが、乗るにつれてしなやかさがどんどん出てきました。懐の深さもあります。620もそういう努力の形跡はわずかにありますが十分ではありませんでした。75は、ちょっとしたカーブでも敏感に左右にロールするんですが、それがたまらなく心地良いんですよ。そして、ハミングするエンジン音もなかなかいい。」 |
聞き手 | 「それは、高速性能とは別の感覚ですね。」 |
師匠 | 「75は高速で飛ばした時の安定性や加速性能と、田舎道を流した時の楽しさの2つの顔を持っている不思議な車だということです。あ、もうひとつありました。後席にゲストをお乗せして、都心などを移動する時の挙動の品の良さです。」 |
聞き手 | 「そういえば、75の後席の居心地の良さを言う人は多いですね。」 |
師匠 | 「ひとつは、英国車の流儀でもあるウェストラインの高さにあるんではないでしょうか。」 |
聞き手 | 「ということは、窓の開口部がちいさいということになりますね。」 |
師匠 | 「そうです。家内が言うには、女性にとって外に対する開口部がちいさいということはとても重要なことらしいです。」 |
聞き手 | 「それはどういうことなんでしょう。」 |
師匠 | 「620と比較するとわかりやすいと思います。620のフロントウィンドウはとても大きくて開放的ですよね。75とは対称的です。女性からみると620のフロントウィンドウは大きすぎて、自分を世間に展示して走っているように感じるようです。おまけに、紫外線もたっぷり浴びてしまうし。」 |
聞き手 | 「女性の気持ちはデリケートで難解なところがありますね。」 |
師匠 | 「私も言われてはじめて気がついたくらいです。まあ、開放的なのがお好きな方もいらっしゃるでしょうから、いちがいにそうとは言えないと思いますが。」 |
聞き手 | 「ウェストラインが高い75のデザインは非常に英国的だと思いますが、ほかにどんなところに英国らしさがありますか。」 |
師匠 | 「あははは、それは逆でしょう。75で英国的でないところを見つける方が難しいですよ。ま、それでは答えになってませんから英国的なところをいくつか挙げてみましょうか。」 |
聞き手 | 「お願いします。」 |
師匠 | 「まず、何をするにも力がいります。これは英国車の特徴です。」 |
聞き手 | 「ハンドルが重いとおっしゃっていましたね。」 |
師匠 | 「ドアを開けるのも閉めるのも力がいります。ちょっとドアのご機嫌が悪かったりすると、開けるのにそれこそ馬鹿力がいります。」 |
聞き手 | 「国産車なんか、指一本で開け閉めできる車が多いですね。まさか、軽く開け閉めできるドアが作れないわけではないでしょうに。」 |
師匠 | 「私もそう思います。彼らは意図的にドアの開閉を重くしているとしか思えませんね。ハンドルもしかりです。」 |
聞き手 | 「わかりにくいですね、そういう考えというのは。」 |
師匠 | 「わかりにくいことならいくらでもあります。後席からは、エアコンもオーディオも操作できません。同価格帯の国産車だったら当然つけてくる機能です。そのくせ、後席だけでカップホルダーが2ヵ所、合計4個分もついています。」 |
聞き手 | 「それはどういうことなんでしょうか。」 |
師匠 | 「私の勝手な想像ですが、エアコンやオーディオの操作はゲストにはやらせないということではないでしょうか。音を大きくしたかったら『音を大きくしてください。』『はい、かしこまりました。こんな感じでよろしゅうございますか。』『ちょっと暑いわ。』『では、すこし冷房を入れましょう。』という会話になるからでしょう。ちょっと考えすぎかもしれませんが。」 |
聞き手 | 「オーナードライバーはゲストに気配りをするものだ、ということなのかもしれませんね。」 |
師匠 | 「私はそういうことだと思っています。コストをケチるだけだったら、カップホルダーを4つもつけたりしないでしょう。何か意図的なものを感じます。ローバーは、人と人とのかかわりや会話を大切にしていると思いますね。だから、エレクトロニクス的な機能やスイッチ類が表に出てこないんです。」 |
聞き手 | 「ということは、実はいろいろな機能が隠されているということですか。」 |
師匠 | 「びっくりするほどね。たとえば、ドアを開けるとルームランプがつきますね。でも、ドアを閉めてもすぐには消灯しません。何故ならば、車に乗った直後には明かりが必要なことが多いからです。消えるときも、パッと消えたりしないでフェードアウトするように消灯します。こういう配慮は75にはじまったことではないんです。」 |
聞き手 | 「ジャグアには、ヘッドライトもすぐには消えたりしないしくみがあるらしいですね。」 |
師匠 | 「75もそうです。夜のドライブから帰ってきてエンジンを切って車外に出ても、『ご主人様、お足元が危のうございます。』とか言いながら、しばらくの間ドライバーの足元を照らしてくれます。」 |
聞き手 | 「なんだか、執事みたいな車ですね。」 |
師匠 | 「ドリンクホルダーが、目立たない場所につけられていることもそのひとつです。ご婦人の口紅がうっすらついたようなものを、衆目に晒されるような場所に置くわけにはゆかないということでしょう。とにかく彼らは、控え目が信条で目立つのが嫌いですからね。」 |
聞き手 | 「エクステリアに関しては、誰が見ても非常に英国的だと思いますね。」 |
師匠 | 「75は一世代前のローバーカーズに比べてあきれるくらい英国的で保守的なデザインだと思います。」 |
聞き手 | 「伝統のローバーグリルがついていますね。」 |
師匠 | 「ヘッドライトは丸・・正確には楕円ですが・・ですし、ボンネットには古臭いセンターラインがはいっています。いまどき、ボンネットの中央に山型のラインなんかつけるなんて、ローバーくらいじゃないですか。」 |
聞き手 | 「はあ、それは気がつきませんでした。」 |
師匠 | 「高いウェストラインに、矢鱈とメッキパーツがついていること、垂れ下がったヒップ、そして全体にずんぐりした古風なシルエットです。内装は、英国人が大好きなウォルナットのパネル、そして居心地の良いリビングルームのようなシートです。」 |
聞き手 | 「ここまで主張がはっきりしていると、誰もが気に入ってたくさん売れるということは望めませんね。」 |
師匠 | 「ローバーが考える快適さや高級さは、多くの日本人が一般的に描いている快適さ高級さとはかなり異質なものです。そこのところを間違えると、幸福なカーライフは手に入らないと思います。」 |
聞き手 | 「もうすこしわかりやすく説明していただけますか。なんだか重要そうなことなので。」 |
師匠 | 「まず、機能が豊富に装備されていることを望んではいません。スイッチの数は少ない方がいいのです。大切なのは、ドライバーやゲストにとって、サーヴィスの行き届いたホテルやレストランにいるような、気配りのゆきとどいた場所でありたいということです。それは間違っても機能の豊富さなのではなく、決して堅苦しかったり、あっと驚くような派手さや豪華さではなく、上品で居心地の良いアットホームなものでなければなりません。」 |
聞き手 | 「日本では、そういうご家庭と言うのは滅多におめにかかれないですね。それに、ものすごくサーヴィスの良いレストランなんて、かえって窮屈だと思う人の方が多いのではないでしょうか。」 |
師匠 | 「だから、ローバーはマイナーな車なんです。」 |
聞き手 | 「マイナーかつコンセプトがはっきりしていて、一般的な日本人受けしない車だということですね。」 |
師匠 | 「おかげで、勘違いして75を買ってしまう人はまずいないのではないかしら。時々、ネットで知り合った75オーナー達が都心のカフェなどに集まって交流していますが、75オーナーらしい方ばかりです。75を選んだ方だというだけで、安心して接触できるんですよ。」 |
聞き手 | 「おそれいりました。なんだか、車のインプレッションよりもオーナーのインプレッションの方が強そうですね。」 |
師匠 | 「ははは、それはあたっているかもしれません。」 |
聞き手 | 「最後に、師匠はどの角度から見る75が一番だとお思いですか。」 |
師匠 | 「とても良い質問です。私がいちばん好きな75の姿は、街の商店のショーウィンドウに映る自分の75の走る姿です。」 |
聞き手 | 「どうもありがとうございました。」
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