Analogue Mechanical VU Meter with Peak Indicator V2
VUメーター Version2


12dBのピークマージンを取ったときの0VU表示(上が本機、下はVersion1)

VUメーターの2台目です。VUメーター弱点は真のピーク値が見えないということです。私がいまだに使っているOTARI製のマスターレコーダーは、VUメーターに加えて+12.5dBuを示すピークインジケータが1つだけついています。欲を言えば、3dB刻みくらいのピークインジケータくらいは欲しいなあと思いますので、Version2では工夫してピークインジケータ機能を追加しました。

本設計&製作では、私自身が多くのことを一から学習し、いくつもの実験回路を作って検証し、長い時間をかけて理解を深めてゆくというプロセスを経ています。解説すべきことが非常に多いので記事はとても長いです。記事の大半は設計に関することばかりで、製作については非常に不親切です。本製作は応用的な知識をたくさん必要としますので全く初心者向けではありません。


■VUメーターとは

VUメーターとは

VUメーターの規格

信号レベルの考え方の今昔


■VUメーターとピークインジケータ

3dBステップでピーク値を表示してくれる手頃なICとしてLM3915があります。これはLEDなどを使って3dBステップの10ポイントすなわち27dBの対数レンジでの信号レベル表示をする汎用ICです。これにぴったり使えそうなカラー構成で10素子のLEDブロック(OSX10201GYR1)をみつけたので、この2つを使ったとするとどんなレンジ設定が良いかを考えてみます。

ところで、VUメーターは最小目盛りが-20dBで最大目盛りが+3dBです。しかし、実際の24bitデジタル・レコーディングでは+12dB〜+18dBのピークマージンを取りますので、VUメーターが+3dBを指していても、ピーク値は+10dB以上になっていることが普通に生じます。VUメーターの欠点はそのピーク値が見えないことにあります。VUメーターが把握できるのは-10dB〜+3dBの限られた範囲にすぎず、+3dB以上では振り切れてしまいますし、-10dB以下ではメーターの針はほとんど振れてくれません。また、実際の信号は+10dBなのにVUメーターの針は+1dBくらいしか示してくれないことがよくあります。

右図は、VUメーターの表示レンジに対してピークインジケータの表示レンジを2パターンで設定してみたものです。0dB=+4dBuすなわち1.228Vとして電圧も書き入れておきました。ピークインジケータの左側はヘッドルームマージンを+12dBとしたもので、右側は+15dBとしたものです。

レコーディングでは、このピークインジケータで一番上の赤LEDを点灯させないようにしている限りデジタルレコーダーの0dBFSに至ることはないようにレベルを設定すればいいわけです。また、アナログテープのマスターレコーダーはピークマージンが+12〜13dBほどありますから、マスターレコーダーのVUメーターと本機とを同じレベルに設定しておけばいいことになります。


■コンセプトと全体の構成

本機はライブ録音時の監視目的なので、VUメーターとピークインジケータの両方の機能を備えた可搬型のものをめざします。ライブ録音の現場ではAC100V電源が得られるのが普通ですが、バッテリー動作が可能な方が安心なのと電源コードに煩わされないのでセッティングが楽になります。いろいろ考えた結果、単三のニッケル水素充電池(Ni-MH)×4本で動作するようにまとめてみることにしました。

ニッケル水素電池の1セルあたりの電圧は、満充電時の開放で1.4Vくらい、動作時で1.2V〜1.3V、なくなってくると1.15Vくらいになりますから、4本直列では、それぞれ5.6V、4.8V〜5.2V、4.6Vとなります。ライブの所要時間は、セッティング〜リハーサル〜本番を通して10時間くらいですから、10時間程度の連続動作が可能なことが条件です。単三タイプのニッケル水素充電池の容量は1900mAHが一般的なので、消費電流を150mA程度に抑えることができれば、なんとか10時間の動作が可能です。

全体の構成は下図のとおりです。

入力信号は、感度調整のアッテネータを経て、バランス/アンバランスどちらにも対応したFET差動式の「VUメーター駆動アンプ」で受け、正規のVUメーターを振ります。その出力はヘッドルーム設定のためのアッテネータを経て「ピーク検出両波整流回路」にも入力されます。ここでオーディオ信号はDC電圧に変換されて「30dB対数型コンパレータ(LM3915)」に入力され、最終的に「10素子LEDアレイ」を点灯させます。


■VUメーター駆動アンプ

感度の設計

VUメーターは、1.228Vrms入力の時にVUメーターが0VUを指せばいいので、入力端子からVUメーター間での利得は1倍(0dB)とするのが基本です。ちなみに、この場合の0dBFS時信号レベルは4.9V(12dBのピークマージンとして)にもなります。しかし、USB-DACや普通のCDプレーヤの0dBFS時の信号連ベルは2V程度なので、利得=0dBとして作ってしまうと感度不足に陥ってメーターの振れが足りなくなります。

業務機器につないで信号監視に使いたい時の感度は1.228Vで0VU表示、民生機のつないでメーターを振らせたい時の感度は0.5V以下でも0VU表示となるような感度調整の幅が欲しくなります。これを利得に置き換えると、前者における利得は1倍(0dB)、後者における利得は約2.5倍(8dB)になりますから、この値よりも少し広い範囲での利得可変は可能であれば非常に使いやすいというわけです。

利得可変の設計

利得を可変にする方法は、入力のところに通常のボリューム型のアッテネータを挿入する方法と、VUメーター駆動アンプの負帰還を操作して利得を変化させる方法とがあります。VUメーター Version1では、負帰還を操作しましたが、本機ではボリューム型のアッテネータを挿入する方法をとりました。

利得の変化範囲ですが、ボリュームがきっかり12時を指した時の利得は精密に1倍(0dB)、右に回し切ってmaxポジションになった時の利得が3〜4倍(10〜12dB)、左に回し切ってminポジションになった時の利得が0.7倍(-3dB)くらいになるように工夫しました。それの部分を抜き出したのが右の回路です。

そこで問題となるのが、使用するボリュームの全体の抵抗値と12時ポジションにおける3点間の抵抗値比率、そしてボリュームの下に履かせる抵抗値(回路図では11kΩ)です。話はこれだけでは済みません。ボリュームにおける減衰率は、FET作差動アンプの入力インピーダンス(68kΩに近い値)の影響も受けます。さらにさらに、ボリュームポジションによってFET作差動アンプ自体の利得が変化しますのでそのことを考慮してボリュームでの減衰率を修正しなければなりません。話ははなはだ厄介なのです。

購入してきた10個ほどの50kΩ2連ボリュームのすべての全体抵抗値と12時ポジション時の抵抗値比率を実測して部品の特性を把握し、しかる後にシミュレーションプログラムを手組みして計算したわけですが、得られた計算結果と製作後の実測値はきれいに一致しました。しかし、そこのところについてどんな計算をしたのかを書くほどの気力はありませんので、計算式は割愛します。

ちなみに、使用したボリュームはALPS製のRK0971210で、12時ポジションにセンタークリックがついた非常にちいさなものです。センタークリックがあるのが本機の使いやすさを高めています。12時ポジションにおける抵抗値は全体抵抗値の約18%ですので、普通のA型ボリュームの14%よりも高めです。

工事中


■LM3915について

LM391Xシリーズはプラス電位の直流電圧を測定し、その値を10段階に分類してLEDなどを駆動&点灯するICです。このシリーズには、リニア10スケールのLM3914、対数10スケールのLM3915、そしてVUスケールのLM3916があります。これらの基本ロジックは共通していて、スケーリングを決定する抵抗値の配分比率が異なるだけです。本機では全レンジにわたって3dB一定の対数スケールが得られるLM3915を使います。下の表は、最大値を10と置いた時の10ポイントの比率です。

テクニカルドキュメント:LM3915

LM3915のブロックダイヤグラム(右図)を使って動作の仕組みを説明します。

LEDを駆動するコンパレータ(比較回路)が10個あり、各コンパレータはレファレンス電圧と入力された電圧を比較して、入力電圧がレファレンス電圧よりも高い時に外部に接続されたLEDを点灯する電流を流します。LEDの点灯は定電流駆動です。信号入力は5番ピン(SIG IN)ですが、LM3915が認識する入力電圧はプラスだけで、マイナスは認識せずに内蔵されている「20kΩ+ダイオード」によって捨てられます。そのため、入力インピーダンスはプラスの時は非常に高く(ほとんど無限大)、マイナスの時は最低で20kΩまで下がり、しかもダイオードが介入しているために信号レベルによって変化します。

入力電圧はすべてのコンパレータが共通に参照しますが、比較評価の基準となるレファレンス電圧はコンパレータごとに異なっており、抵抗で分割された異なるレファレンス電圧を参照することで10段階のレンジを得ているわけです。分割抵抗の比率を変えれば表示レベルはいかようにも決めることができますし、レファレンス電圧のソースを変えることで入力感度を変えることができるようになります。LM3915は分割抵抗が内蔵されているのでその比率を変えることはできませんが、大元のレファレンス電圧は制御可能です。

LEDを駆動する電流を変えることでLEDの明るさも制御できますが、個々のLEDに流れる電流を違えることはできません。

9番ピンのモードセレクタは、バーモードかドットモードかの切替えスイッチです。バーモードというのは、表示する信号レベル以下のすべてのLEDを棒状に点灯させるモードで普通のピークインジケータはこの方式です。ドットモードというのは、該当する信号レベルのLEDを常に1個だけ表示するモードです。9番ピンに何もつながないでオープンにするとドットモードとなり、9番ピンを供給電源(V+)と同じ電位にするとバーモードになります。

この回路を仮組みして実測したデータは下表のとおりです。1.25Vの基準電圧をそのままレファレンス(VREF)として使っているので、+1.25Vが最大レベルになるはずです。実際にLEDを点灯させたところ、バーモードでは1244mVの入力ですべてのLEDが点灯を開始しましたので規定どおりの動作をしているとみていいでしょう。目視でほぼ同じ明るさになるようにした時の電圧なので測定値の精度は十分ではありませんが、きれいに3dBステップを刻んいます。なお、各電圧は個体ごとに若干ばらつきます。

本機で採用したLM3915まわりの回路は右図のとおりです。

本機の電源はNi-MH充電池×4本で供給したいので電圧範囲は4.5V〜5.5Vです。LM3915は3Vの電源電圧があれば最低限の動作をしてくれますが、参照電圧(V-REF)の値は「電源電圧−1.5V」を越えてはいけないという制約があります。一方で、V-REFが低いとコンパレータの比較精度が落ちてLED点灯のスレショルドが甘くなりますから、V-REFは許される範囲で高めに設定したいところです。

V-REFは電源の想定最低電圧4.5Vから1.7Vを引いた2.8Vくらいとして設計を進めることにしました。ピーク電圧で2.8Vということは、実効値に換算して1.98Vです。VUメーターは実効値1.228Vで0VUを指しますが、0VUに対して12dB(4倍)のヘッドマージンを乗せると4.912Vになります。本機ではVUメーターを駆動はバランスアンプで行うので、その出力のところからアンバランス信号を取り出すと1/2の2.456Vとなります。2.456Vが出た時にピークインジケータのLEDがすべて点灯すればいいというわけです。2.456Vをアッテネータで少し減衰させつつ調整してやればちょうど1.98Vが得られて、思惑どおりの動作をすることになります。

V-REFを決定する2個の抵抗値はR1=7.5kΩ、R2=6.2kΩです。計算上のV-REFは2.78Vとなりました。この定数で試作してテストしたところ、2.72Vで点灯しはじめ、2.74Vでしっかりと点灯しました。(V-REFおよびLEDに流す電流の計算法についてはLM3915のテクニカルドキュメントの2ページを参照してください)

R1およびR2の値はV-REFだけでなくLEDに流す電流も支配しており、この回路での値は2.93mAです。使用したLEDアレイのOSX10201のLEDは3mAくらいで十分に視認可能な明るさが得られます。録音の現場は薄暗いことが多いので明るすぎる方がかえって視認性が悪いため、程良い明るさであることが重要です。R1とR2にまたがって15kΩが並列につけてあり、スイッチでON/OFFできるようにしました。これはV-REFを変えないでLEDの明るさを変更する手法です。周囲が明るい現場に対応するために、スイッチをONにするとLEDが少し明るくなります。

ところで、OSX10201は同じ電流を流した時のLEDの明るさが色によって違います。緑は暗め、黄や赤は明るめに光ります。この明るさを揃えるために、黄と赤のLEDに1kΩ〜1.5kΩの抵抗器を抱かせて電流をバイパスさせて明るさを調節しています。

電源側にはテクニカルドキュメントのインストラクションに従ってLEDの電源付近に高周波特性が優れたOSコンを入れてあります。


■OSX10201について

このLEDアレイはごく単純に10個のLEDを1つにまとめたもので、駆動回路などは全くついていません。カラー構成が異なるさまざまなモデルがあります。本機で使用するのはOSX10201-GYR1です。

テクニカルドキュメント:OSX10201

使用上の注意点としては、同じ電流を流した時の各色の明るさと順電圧が異なることです。最も明るいのが赤で、次いで黄、いちばん暗いのが緑です。順電圧にも違いがあり、最も高いのが緑、次いで黄、いちばん低いのが赤です。定電流駆動した場合にLED個別の明るさを調整するには、暗くしたいLEDと並列に抵抗を入れて電流の一部をバイパスさせてやります。但し、抵抗値が小さすぎると駆動電流のほとんどがバイパス抵抗側を流れてしまってLEDが全く点灯しなくなるので注意がいります。


■ピークインジケータ駆動回路

交流信号のまま入力するのはNG

LM3915は直流入力を前提に設計されています。10個のLEDで表示する直流電圧計だと思っていいでしょう。しかし、LM3915の5番ピンに交流であるオーディオ信号を直接入力してもそれなりに動作します。たとえば、R1=3.9kΩ、R2=0Ω(接地)、9番ピンを電源に接続という最もシンプルな回路にして、5V〜20Vの電源電圧を与え、5番ピンにオーディオ信号を入力するとそれなりに動作してくれます。しかし、よく見るとLED全体が小刻みに点滅していることに気がつきます。信号レベルが高い時、低いレベルの緑のLED群はピタッと光り続けなければならないはずなのに、何故か微妙に点滅しています。加えて各LEDの明るさが一定ではなく、ばらついていてかつ変化しています。

何故そのようなことが起こるのか。LM3915は入力された信号の波形に追従して超高速でLEDを点滅させます。400Hzの正弦波をそのまま入力したら、バー表示されたすべてのLEDが揃って400回/秒点滅します。正弦波の場合、低レベルのLEDの正味の点灯時間は長く、高いレベルのLEDの正味の点灯時間は短いですから、点滅しつつ明るさも一定ではない、上にゆくほどぼやけたように見えるわけです。この問題を解決するには、オーディオ信号波形に馬鹿正直に反応させるのではなく、人間の目でみて認識しやすいようななめらかな直流電圧の変化に変換してやる必要があります。

ピークを瞬時に検出する

VUメーターは、針が規定の電圧(0VU)位置の99%まで達するのに0.3秒かかります。音が出はじて0.1秒後にその音が消えてしまったら上昇中のVUメーターの針は途中で引き返してしまいます。ピークインジケータはそれではまずいので、0.1秒どころか1/1000秒〜1/10000秒の瞬間的な信号であってもそれを正確に把握し表示するのが使命です。つまり、1/1000秒以上の速い応答速度の整流回路が必要なわけです。

すぐに消えずにしばらく持続点灯する

ピークインジケータのLEDが1/1000秒で素早く点灯したとしても、すぐに消灯してしまったら人間の目には十分に認識されません。そこで、検出したピーク値を一定時間保持してLEDが点灯する時間を確保してやると、より視認性の良いピークインジケータになります。その極端なケースがピークホールドというモードで、一旦ピークを検出したら長時間LEDを点灯したままにするという機能です。ピークホールドモードでは、点灯したLEDバーは点灯しっぱなしになっていつまでも下がってゆく(短くなる)ことはありません。

ピークホールドは回路が複雑になってしまうので断念して、本機ではピークを検出表示してから0.05〜0.1秒程度のホールドでLEDバーが下がってゆくくらいの動きを考えて1μFとしました。1μFの場合、4kHzの1波でも3dB以内のレスポンスが得られました。これくらいですとピークインジケータの動きはまだ忙しい感じがしますが、視認性はなんとか確保できたと思います。容量を増やして保持時間を長くするとより見やすくなりますが、ピーク検出の応答速度が低下してしまいます。

交流を直流に変換する(整流)

機械式のメーターを動かすにも、LEDを点灯するにも、量を表示するには最終的には直流電圧に置き換えなければなりません。ピークインジケータも同じで整流回路が必要です。電源回路の整流回路の基本はダイオードとコンデンサのセットですが、ピークインジケータも全く同じで回路動作の基本は電源回路と変わりません。

低圧でもリニアリティの良い整流回路

シリコンダイオードは流す電流に応じて0.3V〜1Vくらいの順電圧があり0Vではありません。左下のグラフは1S2076Aの順電圧の実測データですが、1μAで約0.3V、10μAで約0.4Vの順電圧があります。そのために整流前の交流電圧と、整流後の直流電圧との関係はリニアになってくれません。

整流回路では、整流される電圧によってダイオードに流れる電流が変化し一定ではありません。ダイオードの順電圧によって生じる電圧ロスも変化してしまうため、整流出力電圧はその影響を受けます。アナログテスターで交流電圧を測定する時、100Vレンジは正確なのに低圧の10Vレンジでは電圧が低くなるほどに目盛りが詰まってきて表示が不正確になるのもこれを同じ理由によります。低圧においては整流出力電圧は入力電圧に比例してくれません。つまりリニアリティが悪いのです。ピークインジケータの整流回路でもこの問題が表面化します。

右下のグラフは本整流回路の入出力のリニアリティを4点で測定したものです。グレーの線が本来あるべきリニアな特性ですが、ダイオードでそのまま整流すると赤でプロットしたようになり信号レベルが低いほど本来の値からずれて低感度になってゆきます。青でプロットした線は以下で説明するオフセットを与えた時のもので、非常に正確になっています。

半波整流回路

これまで述べたさまざまな問題を考慮し、何度の試作を重ねてたどりついたのが以下の実験回路です。DC24Vを使った疑似±電源を使い、2SC1815を使ったエミッタフォロワ回路に交流のオーディオ信号を入力し、整流された直流出力電圧を得る回路です。簡単ながら応答速度はかなり速く4000Hzの1波でも十分に反応します。

ダイオードの整流直線性を改善するために、ダイオードには3.4μAのバイアス電流を流しています。しかし、これだけではまだまだ十分な直線性を得ることはできません。信号レベルが低い時ほど出力電圧が落ちてしまいました。そこでちょっとずるいですが、整流出力に最初から一定のDCオフセット電圧を与えてみたところ、うまい具合にリニアリティが得られてしまいました。与えたオフセット電圧は0.057Vで、これ以下では補正が不足し、これ以上では補正が過剰になり、0.11V以上のオフセット電圧を与えるといちばん下のLEDが点きっぱなしになります。

ピーク検出の応答スピードは、2SC1815のエミッタフォロワの出力インピーダンスと0.47μFで決定される時定数で決まります。このエミッタフォロワの出力インピーダンスはコレクタ電流や前段との関係もあって40Ω〜100Ωです。0.47μFの値を小さくすれば応答スピードは速くなりますが、次に述べる保持時間も短くなってかえって視認性が落ちるので速くするにも限界があります。性能を上げるには出力インピーダンスを下げるのが得策で、コレクタ電流を増やす、より高いhFEのトランジスタを使うことで出力インピーダンスを下げることができます。但し、コレクタ電流を増やすとエミッタフォロワ回路の入力インピーダンスが下がってくるので別の問題が生じます。ですから、もっと高性能なものにしたかったら、消費電力が増えることを容認してOPアンプを使うのが正解です。

ピーク表示をどれくらい保持するのか、どれくらいの速さでインジケータを下げるかは1.5MΩと0.47μFで決定される時定数で決まります。1.5MΩの値を大きくすると時定数が大きくなって保持時間が長くなりますが、あまり大きくすると十分なバイアス電流を流せなくなります。0.47μFの値を大きくしても保持時間を長くすることができますが応答スピードは遅くなります。

電源はDC24Vを使った疑似±電源で、プラス側は18.7V、マイナス側は-5.3Vです。オフセット電圧は2SC1815のベースに与える電圧を微調整することで行うため、電源回路側にそのための回路を組み込んであります。2個のダイオードを入れることで、2SC1815と整流用のダイオードの温度特性を打ち消して温度安定性を高めてあります。

正弦波は上下対称ですが現実のオーディオ波形は上下非対称で、ピークの高さも上下同じではありません。半波整流回路は片側の波形を整流しますので、反対側のピークを検出できません。それでも十分に機能はしますが、それを改善したのが以下に説明する両波整流回路です。

両波整流回路

前述の半波整流回路をベースとして両波整流回路にしたのは下図です。回路動作の基本は前述の半波整流回路と同じです。VUメーターを駆動しているバランス信号のHot側とCold側の両方をそのまま使うことで容易に両波整流を実現しています。両波整流とすることで、応答スピードは半波整流の2倍になり、上下非対称な波形でのピーク検出精度が向上します。

両波整流を行う2個の1S2076Aに均等にバイアス電流を流すためには、2個の2SC1815のエミッタ電圧が精密に一致しなければなりません。それを乱す要素の最大のものはベース側の47kΩにおける電圧降下の不揃いです。コレクタ電流は0.67mAですが、hFE=300だとしてベース電流は2.2μAですから、47kΩにおける電圧降下は、2.2μA×47kΩ=103mVになります。hFEが20%程度違っているだけで電圧降下に20mV超の差が生じます。これに比べたら2SC1815のベース〜エミッタ間電圧や1S2076Aの順電圧のばらつきは1〜3mV程度です。

この問題を解決するために、使用する2SC1815はhFEで3%以内のばらつきのものを選別し、47kΩは1%精度のものを使用しています。さらに、1S2076Aに4.7kΩの抵抗をシリーズに入れて両バイアス電流値を強制的に揃うようにしました。ここに抵抗器が割り込むとピーク検出スピードが著しく低下してしまうため、33μFのアルミ電解コンデンサを抱かせてその問題を回避しています。しかし、ここにコンデンサを入れるとオーディオ信号の変化に対して遅れてコンデンサの充放電が発生するため動きが激しい楽音では出力電圧に狂いが生じます。どれくらいの影響があるのか調べたところ、整流出力電圧1Vに対してせいぜい数mV程度と無視できる値であったためこれでよしとしました。4.7kΩ以外の値(3.3kΩ〜15kΩ)でも問題なく動作しましたので、この抵抗値はクリティカルではありません。


■電源回路

概要

本機は、DC12Vの外部電源または内蔵の単三ニッケル水素充電池×4本のいずれかで動作する2電源方式です。基本電源は4.4V〜5.6Vで、これをそのまま使った低圧の4.4V〜5.6V電源と、DC-DCコンバータで24Vまで昇圧して得た+18.7V/−5.3Vの高圧電源の2系統によって動作します。

DC12V入力部

DC12Vを入力として約7Vの安定化出力を得る回路です。ツェナダイオードとトランジスタを使ったごくシンプルな安定化電源回路を採用しました。バッテリーがからっぽの状態の時に電流が最大になってトランジスタのコレクタ損失が1Wを超えるので、トランジスタには小さな放熱器をつけています。

5V電源の供給

本機の基本電源は4.4V〜5.6Vです。供給先は3つあって、1つめはLM3915を使ったピークインジケータLED駆動回路、2つめはDC24Vを得るためのDC-DCコンバータ、3つめはVUメーターの照光用LEDです。ピークインジケータのLED駆動回路の消費電流は5mA〜70mA(点灯するLEDの数で決まる)、DC-DCコンバータの消費電流は約130mA、VUメーターの照光用LEDの消費電流はLo時で6mA、Hi時で13mAです。全消費電流は140mA〜220mAの範囲になりますが、楽音を表示している時の平均電流は140mA〜170mA程度です。本機はバッテリーで10時間程度の動作を確保したいので、1900mAHのニッケル水素充電池を使うとして、バッテリー動作時の平均消費電流を150mA程度にする必要がありますが、結果はすれすれというところでしょうか。

24V電源の供給

本機のVUメーター駆動アンプおよびピーク検出&整流回路には24Vを+18.7Vと−5.3Vに抵抗とツェナダイオードで2分割した擬似±電源で供給します。ツェナダイオードは5.6Vタイプを使用しましたが、流す電流を節約したために電圧が5.3Vと低くなっています。しかし、回路の性質上プラス・マイナスの電圧配分に正確さは要求されません。

24Vを得るためのDC-DCコンバータは秋月電子で入手可能な3WタイプのMCW03-5D12です。MCW03シリーズは安定化機能がついているので入力側の電圧の許容範囲が広く、入力電圧が変動しても安定して24Vを出力してくれます。電源の残留ノイズは実効値で2mV以下(帯域1MHz)となりました。当初は1W型のMAU108を使うつもりでしたが、MAU108は出力電圧が安定化されないので不採用となり、そのせいで5V電源側の消費電流が増えてしまいました。

バッテリー充放電部

DC7Vを入力として内蔵の単三ニッケル水素充電池×4本を充電し、またこの充電池を使って本機に電源を供給するごく簡単な双方向回路です。DC7V出力とバッテリーとの間には、5.1Ωの電流制限抵抗と逆流防止ダイオードを割り込ませてあります。DC12Vの外部電源からの供給がある場合はそちらを使いつつ余剰電流は充電にまわし、外部電源からの供給がない場合はバッテリーから放電して本機の電源をまかないます。回路を簡単なもので済ませたので、急速充電はできず0.1Cのチンタラ充電のみです。満充電に近づくにつれて0.05Cに収束してトリクル充電的な状態になります。充電を急ぐ場合は充電池が取り出せるように蓋付のケースで後面パネルに取り付けてあります。

電源SW-OFF電源SW-ON
DC12V入力あり0.1C〜0.05Cで充電DC12Vで動作
余剰電流は充電にまわす
DC12V入力なし---バッテリーで動作


■全回路図

上記の説明以上に詳しい解説はありません。回路の詳細については自力で解決してください。


■製作

本機は応用領域ですので、初心者向けの手取り足取り的な解説は一切ないことをご了解ください。当Web上の公開情報を参考にしてすべて自力で解釈・工夫・解決しつつ製作してください。セットものの部品頒布リストもありませんので、自力で部品リストを作成して調達してください。なお、半導体および大半のCR類は頒布可能ですが、頒布対象でないものも使用しています。

<部品>

半導体・・・2SK170-GRは精密選別のペアを使います。2SK170-BLや2SK117-GRおよびBLも使えます。VUメーター駆動アンプの2SC1815はYランクまたはBLランクが使えますが、ピークインジケータの整流回路の2SC1815はBLランクを推奨し、さらにhFE値が揃ったペアを使ってください。電源回路の2SD2531は、hFEが100以上あって、耐圧が30V以上のTO-220タイプのスイッチング用トランジスタならば大概のものが使えます。3.3mAの定電流ダイオードは2SK30A-GRのIDSSで選別したものを使い、1.2mAのものは石塚電子のCRDを選別して使いました。シリコンダイオードは1S2076Aと10DDA10ですが、10DDA10はiN4002などの1Aタイプの整流ダイオードでもかまいません。ツェナダイオードは7Vと5.6Vものを使っています。これら半導体はすべて頒布可能です。

LM3915、OSX10201、MCW03-5D12、OSW54L5B61P、12VACアダプタ・・・いずれも秋月電子で購入可能です。

ボリューム・・・入力のところで使用している50kΩA型2ボリュームは、センタークリックがついたちょっと特殊なものを使用しました。ALPS製で型番はRK0971210です。近い将来頒布リストに加える予定です。

抵抗器、コンデンサ、インダクタ・・・抵抗器は電源回路の5.1Ω2W以外はすべて1/4W1%級のものを推奨します。コンデンサは容量が同じ耐圧に余裕があれば十分です。2つのインダクタは、4.7μHは2.2μH〜10μH、100μHは47μH〜220μHくらいの範囲であれば値は問いません。

<基板の製作>

使用した基板はタカス IC-301-74です。配線パターンは表と裏の両面を使用したもので、ジャンパー線はホームセンターで売られている0.28mm径の被覆コーティングのない銅線を使っています。線が交差するところでは、実線が上面、破線が下面です。


■調整と特性

各部のDC電圧が正常であることを確認したら、400Hzの正弦波を入力して各部の信号電圧の測定をしながら利息やアッテネータの調整を行います。入力信号は必ずしもバランスである必要はなく、アンバランスでも行えます。周波数特性や歪み率特性はあまり重要ではありません。調整が必要な箇所と手順は以下のとおりです。

(1)VUメーター駆動アンプ(バランス型FET差動アンプ)の利得の調整

パネルに取り付けた入力感度調整ボリューム(50kΩA型2連)がセンターポジションの時に、本機に1.228Vの正弦波信号を入力してVUメーター駆動アンプの出口のところに正確に1.228Vが出力されるように、負帰還回路を構成する2個の100kΩ半固定抵抗器を調整します。

調整時の注意点としては、この2個の半固定抵抗器は常に2個同時に同じ回数だけ回転させるようにして、2個の負帰還抵抗の値に大きな差が生じないように配慮します。この抵抗値にアンバランスが生じてもVUメーター駆動アンプの2つの出力には差が生じません。VUメーター駆動アンプ自体が信号のアンバランスを解消してバランス出力させてしまう性質があるからです。 (2)VUメーターの感度の調整

まず、VUメーターの機械的なゼロポジションを合わせます。本機の電源を入れない状態で、メーターの回転軸付近についているネジを調整してメーターの針がゼロに位置にくるように調整します。メーターを傾けると重量の影響で位置が変わることがあるので、正確に垂直に立てた状態で調整します。

VUメーターは、メーター本体と直列に3.9kΩを入れたところに1.228Vの正弦波を入力した時にメーターの針が0VUを指すように作られていますが、数%程度のばらつきがあります。それを調整するのがVUメーターと直列の2kΩの半固定抵抗器です。VUメーター駆動アンプの出口のところで正確に1.228Vが出力されている時に、VUメーターが0VUを指すように調整します。

(3)ピークインジケータのDCオフセットの調整

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■使用感

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