ヒーター電圧と真空管特性の関係


真空管のヒーター電圧が変化した時の、Ep-Ip特性の変化について検証したレポートです。

一般には、ヒーター電圧は±10%あるいは±5%程度の許容範囲が認められています。しかし、ヒーター電圧が変化した時に、真空管の特性がどのように変化するのかについては信頼できるデータがありません。感覚的には、定格電圧に対して±10%程度の変動では、特性は極端な変化はしないようにも思えますが、カソードの温度が一定値を割ってしまえば、一気に特性が劣化するのではないかと思います。

そこで、ヒーター電圧の定格を100%として、50%〜110%の範囲で10%きざみで変化させた時の、Ep-Ip特性へのインパクトがどの程度であるのか、実測してみました。たとえば、6.3V球の場合、110%は6.93Vになり、90%は5.67V、80%は5.04Vになります。アンプに実装した時に、ヒーターへの供給電圧が6.93Vくらいになることは珍しくありません。電源トランスの都合等で、6.3V球を5.5Vだとか5V点火しなければならないようなケースもあるでしょう。

以下に、50%〜110%における電圧を表にしてみました。本レポートでは、この表に掲げたヒーター電圧値ごとにEp-Ip特性を測定し、1つのグラフにまとめています。

比率(定格=100%)12.6V球の場合6.3V球の場合
110%13.86V6.93V
100%12.60V6.30V
90%11.34V5.67V
80%10.08V5.04V
70%8.82V4.41V
60%7.56V3.78V
50%6.30V3.15V

なお、ヒーターは温度によって抵抗値が変化して一定ではありませんので、ヒーター電力は単純に電圧低減率の自乗とはなりません。


Telefunken製ECC83

特性図上の黒い線が定格電圧(12.6V)の時のものです。ECC83の模範的な特性といってよいと思います。各曲線の水平方向の間隔がμに相当しますが、バイアス値0V〜-1Vでみると、1mAのときで約100、1.5mAのときでも約100、-1V〜-2Vでみると、0.5mAのときで約95ですのでカタログどおりです。

ヒーター電圧が、±10%程度変動した場合(13.86Vと11.34V)、μはほとんど変化しないで、特性曲線全体が左右にずれるような変化が見られます。特性曲線の傾き(すなわち内部抵抗=rp)も目立った変化がありません。左右のずれは、プレート電圧でみると、±10Vくらいです。このことから、ECC83で直結回路を組んだ場合、ヒーター電圧の1%の変動は、プレート電圧約1Vの変動となって現れることが推測できます。

バイアスが0Vの時の、13.86V(110%)、12.6V(100%)、11.34V(90%)、10.08V(80%)の4本の線に着目してください。ヒーター電圧が低くなるにつれてその間隔が徐々に広がっています。このことから、ヒーター電圧が低下した時の方が特性変化に対するインパクトが大きいということがわかります。

エミッションに関してはかなりクリティカルで、8.82V(70%)の特性では、プレート電流が1.5mA以上の領域になると、曲線がわずかに右に垂れてきている様子がうかがえます。この傾向は、7.56V(60%)以下の特性で顕著に現れます。カソードから取り出せる電流の大きさはヒーター電力に比例しますから、ヒーター電力が低下すれば、流すことができるプレート電流値は頭打ちになります。測定結果からは、その様子がよくわかると思います。


松下製12AX7(T)/ECC83

松下製12AX7(T)/ECC83の測定結果は、何から何までTelefunken製ECC83と非常に良く似ていますので、コメントは省略します。

SOVTEK製7025/12AX7WA

この実験で是非とも測定データが欲しかったのが、SOVTEK製7025/12AX7WAです。なぜならば、SOVTEK製7025/12AX7WAだけは他の12AX7/ECC83とは素性が異なるからです。この球はそもそも12AX7/ECC83ではなくて、全く別の球「6H2L」を流用して12AX7に仕立て上げたものだからです。

6. 12AX7/ECC83特性実測データのページでも述べたように、この球のμは90くらいしかありませんが、そのことに目をつぶれば、12AX7/ECC83とかなり良く似た特性を持っています。ヒーター電圧を変化させた時の特性変化の様子も似ています。特徴的なのは、7.56Vまで下げた時でもエミッションの低下があまりみられず、6.3Vの時でも2mA以上が得られているという点はなかなか優れています。


NEC製12AU7A

この12AU7では、ヒーター電圧が±10%程度変動したくらいでは、Ep-Ip特性はほとんど変化していません。しかし、よく見ると、特性曲線の傾き(すなわち内部抵抗=rp)が変化しています。ヒーター電圧が低くなるにつれて、全体的に角度が寝てきます。Telefunken製ECC83の時は、特性曲線の全体の形はあまり変化しないで、左右にずれるような変化が生じていましたが、12AU7では異なるようです。

エミッションに関してはTelefunken製ECC83と同様、8.82V(70%)の特性では、プレート電流が7mA以上の領域での曲線がわずかに右に垂れてきている様子がうかがえます。この傾向は、7.56V(60%)以下の特性で顕著に現れます。


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