■■■市販レシーバーにLPFを追加して特性改善する■■■
本サイトにおける評価テストの結果でまあまあ合格と言っていいのはNT-BTR1(Olasonic)とHEM-HC-BTRATX(TSdrena)の2機種でした。しかし、どちらも残留ノイズが多く、持っている本来の性能を発揮できていないように感じました。以下に基本特性をまとめましたが、製品としての素のままですとかなり盛大にノイズが出ています。オーディオ・アナライザについている2つのLPF(20kHzと80kHz)をONにすると両機ともにノイズが激減しますので、それぞれに適合したLPFを作ってみようと思います。
--- NA-BTR1 HEM-HC-BTRATX アナログ出力電圧 2.1Vrms(実測:2.1Vrms) 記載なし(実測:1.7Vrms) 出力インピーダンス 記載なし(実測:500Ω、1kHz) 57Ω 残留ノイズ:フィルタなし 320μV 1200μV 残留ノイズ:80kHzのローパスフィルタ 33μV 140μV 残留ノイズ:20kHzのローパスフィルタ 28μV 90μV
まず、LPF単体での特性を知るために実験回路を組んでデータを取りました。シミュレーションしてもいいのですが、実際に組んだ回路の特性とシミュレーションの結果は微妙にずれるものなので、最終的には実際に回路を組んで検証することになります。簡単なことなのでさっさと実験回路を組んで実測してみようというわけです。ちょうど手元にUSB-DAC用に作った2.7mHのインダクタがあるのでこれを活かして、-12dB/octのLCフィルタを作ってみます。回路は右のとおりです。フィルタ特性のQ制御は、インダクタと直列に抵抗を入れることで行っています。ファンクション・ジェネレータの内部抵抗が50Ωあるので、それを含めての測定条件の設定です。出口は実機の環境に近づける目的で33kΩで受けていますが、25kΩでも50kΩでも特性はほとんど変わりません。
<400Ω〜700Ω + 2.7mH + 0.01μF>
インダクタ=2.7mH、コンデンサ=0.01μFで、直列抵抗の値を400Ω、500Ω、600Ω、700Ωの4段階にセットして測定した結果が右図です。直列抵抗なしの状態では激しいピークができることになっていますが、400Ωを入れるとピークは2.5dBくらいしか生じずにかなり大人しくなります。600Ω以下でわずかに0.3dB程度となり、700Ωではなで肩になっています。減衰が始まる周波数をもう少し高めにした方が20kHzあたりの収まりが良さそうに思います。
<500Ω〜800Ω + 2.7mH + 0.0082μF>
インダクタ=2.7mH、コンデンサ=0.0082μFで、直列抵抗の値を500Ω、600Ω、700Ω、800Ωの4段階にセットして測定した結果が右図です。0.01μFの時よりも減衰が始まる周波数が高くなりました。700Ωでは20kHzまでほぼフラットなっていますので、この回路定数を選択しようと思います。この時の-3dB減衰のポイントは約40kHzです。
<500Ω〜800Ω + 2.7mH + 0.0068μF>
インダクタ=2.7mH、コンデンサ=0.0068μFで、直列抵抗の値を500Ω、600Ω、700Ω、800Ωの4段階にセットして測定した結果が右図です。0.0082μFの時よりも更に減衰が始まる周波数が高くなりました。フラットネスが得られる帯域を広く取りたい場合は0.0068μFあたりが良さそうですが、帯域を欲張るとLPFとしての機能が弱くなって残留ノイズが多くなってしまいます。
NA-BTR1は出力インピーダンスが500Ωですので、直列抵抗=700Ωとするには実際に取り付ける抵抗器の値は200Ωになります。インダクタのDCRが10Ω弱あるのと、NA-BTR1は素の状態で10kHz以上がかすかに落ち気味なので、抵抗器の値を180Ωにして全体では690Ωとしています。出口側にある560kΩは、出力側がコンデンサだけの不用意な場合の単なる気休めです。
最終的な歪み率特性は右のようになりました。黒い線が素の状態で、青い線がLPFを追加した時の値です。ノイズレベルは1/10になり、それに伴って歪み率も大幅に改善されました。
HEM-HC-BTRATXは出力インピーダンスが57Ωですので、インダクタのDCR(10Ω)も計算に入れると実際に取り付ける抵抗器の値は640Ωくらいになります。しかし、素の状態で10kHzから上が微妙に持ち上がり気味なので、それを補正する意味もこめて680Ωとしました。出口側にある560kΩは、出力側がコンデンサだけの不用意な場合の単なる気休めです。
最終的な歪み率特性は右のようになりました。黒い線が素の状態で、青い線がLPFを追加した時の値です。ノイズレベルは1/15ほども低下し、それに伴って歪み率もかなり改善されました。
自作するにあたっては特に難しいところはありません。LCR類を平ラグに盛り付け、アルミケースに入れたら、入出力の配線をして完了です。下のパターン図と右の画像とでは部品の配置やシャーシアースの方法が異なっていますが厳密さは要求されませんのでどちらでもかまいません。実装上のポイントとしては、左右2個のインダクタは相互干渉を防ぐために平ラグの両端に置いて互いに離すことと、どこか一ヶ所でアースラインとケースを導通させてシャーシアースを取ることです。ケースは、タカチ YM-100(W100×70D×30H)を使いました。丸穴の保護グロメットにはタカチ NG-79-C(外径13mm、内径7mm、穴径10mm)を使いました。いずれも2019年3月中には頒布できるようにするつもりです。なお、LCR類はすべて頒布対象品目に含まれています。
画像の左側の作例では、平ラグは貼り付け式のボス(タカチ T-600)を使って取り付けています。市販のRCAケーブルを2つに切断して入出力に使っています。シャーシアースは黒い線で、後面パネルに穴を開けてアースラグを取り付けています。
画像の右側の作例では、平ラグは8mmのスペーサで取り付けているため、ケースの底面にビスの頭が出ています。ケース付属のゴム足はとても小さいのでそのままではビスの頭の方が出っ張ってしまうため、高さ4.5mmのゴム足を使っています。入力側は市販のRCAケーブルを流用していますが、出力側はRCAジャックにしました。シャーシアースはRCAジャックのじか付けのところで取っています。
作り方はどちらがいいというわけではないので、手持ち部品の都合や作りやすさ、使い勝手で決めてください。