Digital Home Recording

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■■■Bluetoothの基本知識■■■


●Bluetoothとは

Bluetoothの名付け親はスウェーデンのエリクソン社のエンジニアですが、その語源は「乱立する無線通信規格を統合したい」という思いをデンマークとノルウェーを平和的に統一したハーラル1世ゴームソン"青歯王"に託してつけられました。WiFi(無線LAN)が、ルーター的な機能として配下の複数のパソコンや携帯端末を統合的にネットワーク接続するのに対して、Bluetoothはごく近距離にある1対1の機器の接続を目的としている点が異なります。

Bluetoothを使ったデバイスでよく知られているのは、マウスやキーボード、モバイルイヤホン、ワイアレススピーカー、自動車のハンズフリー電話接続、PCとプリンタの接続など多種多様なものの無線化があります。機能や性格が異なるさまざまなデバイスごとに通信接続のお約束(プロトコル)が存在するために、それらに対応した複数のプロファイルがあります。代表的なプロファイルをいくつか挙げてみます。

Bluetoothは近距離の無線接続を目的としているため、ほとんどのデバイスは到達距離が10m以内です。使用している電波の帯域はWiFiと同じ2.4GHzなので、相互に干渉しないための工夫がなされています。また、極端な省電力化が可能であるため小型のイヤホンに組み込むことが可能になりました。

●技術基準適合証明のはなし

その昔、アマチュア無線の資格を取った方も多いと思いますが、それは無闇に強い電波を発すると社会に迷惑がかかるので電波の利用には一定の資格が必要とされてきました。電波行政において、かつて非合法の通信機器の使用で話題になったのはトラック運転手の間で流行した無線機で、これらは非常に強い電波を出して救急車や消防車など緊急車両の通信に障害を生じさせる事案が発生したため積極的な摘発が行われました。ところが、携帯電話の登場によって、電波の送信がごく一部の人のものであった時代は終わり、誰もが当たり前に電波を送信するようになりました。家庭で使用している無線LAN(Wi-Fi)やBluetoothも電波を送信しています。そのため、一個人に許可を与えるやり方では対応できなくなり、電波を発する機器自体に許可を与ることによって誰もが専門知識なしに通信機器を使えるように電波行政の考え方が変化しました。

技術基準適合証明(通称技適マーク)がついているWi-Fi機器やBluetooth機器は、製造・販売する側で検査した上で技術基準適合証明を受けているため、ユーザーは誰でも申請や免許の有無に関係なく使用できるようになっています。右の画像は私のiPhone8の画面ですが、設定>一般>認証と開いてゆくとこんな表示が現れます。いちばん下にあるのが日本における技術基準適合証明のロゴマークと番号です。日本以外にも、U.S.、Canada、Europeの表示があります。

技適マークがない通信機器は、それが技術的に適合するものであっても行政手続き的には合法でないということになります。本サイトで購入しテストを行ったBluetoothレシーバー製品および基板はすべてamazonで購入しましたが技適マークはあったりなかったりで、むしろ技適マーク付きの製品を探す方が難しいという奇妙な現実があります。一方で、技適マークなしのBluetoothスピーカーを販売したメーカーが、そのことに気付いて商品を回収したという事例もあります。もっとも、OEM供給された標準的なBluetoothモジュールを組み込んでいる限り極端に強い電波を出すようなことにはなりにくいと思いますが、法令順守という点では相変わらず問題が残ります。

話を厄介にしているのは、売った側は責任を問われることはなく、それを購入たり所持することも合法で、使用した時に合法ではなくなるという点です。トランシーバーのようにある程度限られた人がそれが電波を出す機器であることをよく認識して購入・使用するようなものであればこの法的措置は有効です。しかし、電波知識とは縁遠いきわめて多くの大衆が購入・利用するような機器において、いまさら利用者に電波関連知識を要求し責任を問うことはもはや現実的ではないように思います。このような性格の製品の場合は、製造・販売者側に管理責任を問うのが合理的であり、現状のような行政と現実の乖離は早急に見直される必要があるでしょう。

電波行政と実務運用についてわかりやすい解説がここにあります。

海外からの旅行者が日本で認証を受けていない携帯端末や機材を日本国内で使用した場合も非合法になりますが、そこのところは黙認されているようです。秋葉原の店頭やamazonなどの通販サイトでは認証を受けていないWi-Fi機器やBluetooth機器が普通に販売されていますが、総務省が積極的していないのはどういうことなのかと不思議な気がします。その方面の法規に詳しい筋に聞いてみたところ、法の目的は「電波障害を防止すること」であって「すべての通信機材に技適マークをつけさせることではない」からなんだそうです。電波行政の現実的な運用は「法の目的」に合わせて行っているため、電波障害の報告がない領域にあえて立ち入るような無駄なことはしないということです。言っていることはわかりますが、ユーザーである私達の悩ましい問題の解決にはなっていない・・・。最近報告されている電波障害の原因多くは、技適マーク対象外のLED電球や太陽光発電のインバータ電源装置なんだそうです。弁護士の友人は、技適なしのBluetooth機材を使うというのは、たとえて言えば遥か遠くまでクルマの姿がない道路にある信号機付きの横断歩道で赤信号で渡るようなもの、それでも青になるまで待つのが日本人の心理かなと言っていました。

ところで、技適なしのスマホを使っていた人が自首した興味深い記事を見つけました。これが現実とも言えるし電波行政の難しさとも言えるのかもしれません。本サイトの実験で使用したBluetooth基板については、販売者に対して技術基準適合証明を取得するか取得しているなら表示してくださいそうすればたくさん売れると思いますよ、と彼の国に通知したところ、頑張って取得するという返答を得ました(どれくらい本気なのかな・・・)。


●Bluetooth機器のセキュリティ脆弱性

iPhoneをお使いの方であればAirDropという便利な機能をご存知だと思います。通信線を使わずに近くにいるiPhone同士で直接画像をやりとりできる超便利な機能です。最近このAirDropを悪用して無差別に怪しげな画像を送りつけるAirDrop痴漢が話題になっています。AirDropでは接続する相手を制限知り合いだけに制限できますが、そのことを知らずに「すべての人」に設定したままにしておくと、近くにいるすべてのiPhoneから画像を送ることができてしまいます。Bluetoothでもこれと似たようなことが起こります。

iPhoneとBluetoothレシーバーとのペアリングはじつに簡単です。Bluetoothレシーバーの電源ONしてペアリング待ちの状態にしておき、iPhoneなどのBluetooth設定画面からターゲットとなるBluetoothレシーバーを見つけてタッチするだけでペアリングが完了しますね。ペアリングされた状態では、他の機器はそこに割り込むことはできません。

がしかし、Bluetoothレシーバーの電源ONしてペアリング待ちの状態になったその時に、近所にいる他人のiPhoneのBluetooth設定画面にもあなたが今ペアリングしようとしているBluetoothレシーバーが表示されているはずなので、その他人が先にペアリングしてそのBluetoothレシーバーを占拠してしまうことが可能です。

こんなケースも想定できます。iPhoneとBluetoothレシーバーを使って音楽を楽しんだ後、Bluetoothレシーバーの電源を入れっぱなしにして外出したようなケースです。Bluetoothレシーバーはペアリングしていた相手を見失ってペアリングの待ち状態になります。そんな時にマンションの隣の人が自分のiPhoneのBluetooth設定画面を開いたら何が見つかるでしょうか。勝手にペアリングして音楽を演奏すると、その音楽は隣の家で鳴ってしまうのです。

さらにこんなケースも考えられます。あなたがうっかり誤ったBluetoothレシーバーとペアリングしてしまい、その状態でアダルト動画を再生してしまったら、お隣に住む女性はびっくりして警察を呼ぶでしょう。

Bluetooth機器は、使用しない時は電源を入れっぱなしにしない、ペアリングする際には相手を間違えないように慎重に、が正しい使い方です。


●Bluetoothオーディオの概要

スマートフォンなどのオーディオ信号をBluetoothを使ってイヤホンやスピーカーやレシーバーに送る時はA2DPプロファイルを使います。A2DPには複数タイプの音声コーデックがあります。音声コーデックとは、オーディオ信号を圧縮・無圧縮・展開の方式のことです。音声コーデックには何種類かあってそれぞれに特徴がありクォリティが異なるため、高音質再生を考える場合は使用する機器がどの音声コーデックをサポートしているかが重要になってきます。

コーデックサンプリングレート/転送速度開発・ライセンスNotes
SBC〜48kHz
198kbps(mono)、345kbps(stereo)
フリーBluetooth標準
非可逆圧縮
AAC〜96kHzApple社AAC(iTunes標準の非可逆圧縮)
Apple Lossless(iTunesのCDレベルの可逆圧縮)
aptX〜48kHz/16bitQualcomm社ほぼCDレベル
aptX HD〜48kHz/24bitQualcomm社CDレベル+
aptX LL〜48kHz/24bitQualcomm社CDレベル、低遅延
LDAC〜96kHz/24bit
330, 660, 990kbps
Sony社ハイレゾ的(相当?)
条件次第で660kbps以下に落ちる

Bluetoothはデータ転送スピードに限界があり、CDレベル以上実現しつつ低遅延で安定した接続・・・といったすべてを満足させることができません。さまざまなコーデックが存在するのは、オールマイティがいないということであり、Bluetoothの制約を視野に入れつつ目的別にさまざまなコーデックを作らざるを得なかったと考えた方が現実的です。たとえば、ゲームをする人にとってはスピードが命なのでそのためにaptX LL(Low Latency)が登場しました。LDACがハイレゾ対応だと言われていますが、非可逆圧縮と接続安定性が低いという代償を払うことで広帯域を得ています。

もうひとつ忘れてはならないのは、Bluetoothの制約の中でのオーディオ・データ送受信であるため、どのコーデックにおいても必ず情報ロスが生じるということです。Bluetoothでは、CDレベルのデータ量を完全なかたちで扱える方法はありません。aptX HDが48kHz/24bitという数字を標榜していたとしても、LDACがハイレゾ相当と謳っていても、何かを犠牲にした48kHz/24bitでありハイレゾ相当であって100%ではないのです。

私はことさらにハイレゾリューションを追いかけなくても、環境さえ整えばCDグレード(44.1kHz/16bit)で十分に高クォリティで音楽を楽しめるという認識でいます。CDの音で不満がある場合のほとんどはCDグレード(44.1kHz/16bit)であることがボトルネックになっているのではなく、問題はプレーヤやDAコンバーター自体にあるからです。本サイトでは、CDグレード(44.1kHz/16bit)の音源を、いわゆるハイレゾに見劣りすることなのない良好な状態で再生できることをめざします。atpX以上がサポートされていることが必要ですが、Apple Losslessも同等のクォリティの持ちますのでApple製品ユーザーの場合はAAC以上であればよしとします。

音源としてiPhoneやiPadを使用する場合、音源のクォリティはiTunesに取り込む際の「CDインポート設定」がどうなっているかで決定されます。インストールした直後のiTunesのCDインポート設定の初期値はAAC(非可逆圧縮)ですので、CDグレードにするにはApple Lossless(可逆圧縮)に変更する必要があります。そのあたりのことについてはiTunesによる高音質再生に詳しい解説があります。


●音の良さはどこで決まる?コーデックのレベル?

市販のBluetoothオーディオ製品の記事や商品紹介を見ると「aptX HD、aptX LL対応 高音質!」とか「高音質コーデック対応でハイレゾ再生もOK」といった記述が目立ちます。こういうのを見てしまうとコーデックのレベルが高ければ高音質だと勘違いしてしまいます。本章の実験レポートを見ればすぐにわかることですが、ACC/aptx以上の対応のレシーバーでも、アナログ出力のオーディオ信号は歪みだらけで周波数特性にも問題があるレシーバーはいくらでも存在します。

コーデックやサンプリング・レートといった規格がいくら高くても、それが良い音を約束してくれるわけではありません。Bluetoothオーディオにおける音のクォリティのボトルネックは、出入口であるアナログ回路の質にあることが多いのです。アナログ回路の音のクォリティを確保しようとするとどうしても高い電源電圧やかさばるアナログ回路が必要になりますが、Bluetooth機器のほとんどは低電圧、省電力かつ超小型化されたものばかりです。いいかえると、機器のサイズが大きい、バッテリー動作ができない、消費電力が大きめなBluetooth機器というのは、そのような犠牲を払っても高い音のクォリティを確保しようというコンセプトの現われであると言えます。


●Bluetoothのオーディオへの適用例

モバイルオーディオの無線化
iPhoneなどの携帯端末を送信元として、レシーバーを内蔵したイヤホンや小型スピーカーで受信し再生する製品はたくさん販売されていますね。ワイアレスですから、イヤホンのケーブルがからまることもなくなりました。

ホームオーディオの無線化
CDプレーヤ再生から始まったホームオーディオのデジタルソース化ですが、いつの間にかCDプレーヤは出番がなくなり、PCとitunesなどのオーディオプレーヤソフトとDAコンバータにその座を奪われてしまいました(とまで書いてしまっていいのかな)。本サイトなどを参考にしてPCオーディオ化した方は非常に多いと思いますが、PCとDAコンバータをつなぐUSBケーブルが案外邪魔で、USBケーブルをBluetoothに置き換えることで無線化するとその便利さにはまった方も多いことでしょう。

主たるオーディオソースがPCではなくiPadやiPhoneになっている方にとってはBluetoothによる接続は必須とも言えるでしょう。Bluetoothトランスミッターを内蔵したLPレコードプレーヤ、Bluetoothレシーバーを内蔵したアンプやスピーカーなら今やごく普通に買うことができます。

カーオーディオ
レシーバーを内蔵したカーオーディオシステムでは、持ち込んだiPhoneなどの携帯端末を音源として使うことができます。今やBluetothに対応したカーオーディオは標準的なものになりました。カーオーディオでは、単にオーディオ信号を送信する(A2DP)だけでなく、カーオーディオやステアリングについたボタン操作によって曲を進めたり戻すといったリモコン操作(AVRCP)と併用しているのが一般的です。さらに、カーオーディオ側には電話機能もついているため、ハンズフリーで電話の受発信や電話帳の参照ができる(DUN、HFP、PBAP)のが普通です。

Bluetoothに対応していない古いカーオーディオのためにBluetoothのレシーバーとFMトランスミッターを一体化した変わり者もあります。iPhoneなどの携帯端末の音をBluetoothで飛ばして、それを受信してからFMの電波で飛ばし、カーオーディオのFMラジオで受信して鳴らそうというものです。音のクォリティはかなりダウンしますが、ケーブルや工事が不要なのでいろいろと商品化されています。

トランスミッター(送信機)、レシーバー(受信機)
Bluetooth機能を持たない音源からも電波を飛ばせるように、単体のBluetoothトランスミッターが数多く製品化されています。同様にBluetooth機能を持たないアンプでも電波を受信できように、単体のBluetoothレシーバーも数多く製品化されています。電源は、AC100V、バッテリー、USB給電などさまざまです。トランスミッターとレシーバーの両方の機能を持ったものも珍しくありません。


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