■■■左右チャネル間クロストーク対策・・・AKI.DAC側の対策+インダクタ実装上の注意■■■
Caution!
全く、迂闊でした。AKI.DAC側の弱点を見落としておりました。今の今まで(2018.5)、AKI.DACの基板に取り付けるコンデンサ容量が左右チャネル間クロストークに大きなインパクトがあることに気づきませんでした。さらにもうひとつ、インダクタの相互干渉を甘くみておりました。USB DACのLCフィルタで使用しているインダクタですが、左右両チャネルの距離とコア軸の角度によって高い周波数になるほど左右チャネル間クロストークが劣化します。この現象はある方からレポートをいただいていたのですが、入院治療が近いなどそれどころではない時期であったため対応が遅れました。
下の2つのでデータは、左右チャネル間クロストーク改善の経緯です。左下はTPC-203を使ったトランス式USB DACで、右下はトランス+真空管バッファ式USB DAC Version1(改訂版)です。
そもそもの始まりは、LCフィルタで使用しているインダクタが左右で接近することで相互に干渉して高い周波数で左右チャネル間クロストークが著しく劣化するという問題でした。インダクタの向きを変える、距離を離す・・・といった改良を加えることで徐々に改善が進みました。右のグラフの「水色〜青色〜紺色〜黒色」の線がこれにあたります。この経緯については以下に詳しく解説します。
高域の左右チャネル間クロストークがどんどん良くなってくると、今まであまり気にしていなかった低域側の左右チャネル間クロストークの悪さが目立つようになってきました。最初は、DACのラインアンプ部の電源が原因ではないかと思って計算してみてもそこまで劣化するという説明がつきません。ものは試しと実際に電源のコンデンサを増量してみましたが、全く変化なしでラインアンプの電源が問題ではないことがわかりました。
もしやと思ってさらに調べた結果、犯人はAKI.DAC自体であることがわかりました。改善した結果が右のグラフの「茶色」の線です。AKI.DACにおける低域の左右チャネル間クロストーク劣化の原因と対応策は本ページの最後のところで解説します。
TPC-203と使ったトランス式USB DACについて調べてみたところ、下のグラフの水色の線の特性となりました。2kHzから上の帯域で左右チャネル間クロストークの劣化がみられます。基板上のインダクタは距離が離れていますが、それでも影響が及んでいます。そこで画像の左側のインダクタを手前に倒し、右側のインダクタを向こう側に傾、平行していたコア軸が直角になるようにしたのが青い線です。10kHzで12dBほどの改善がみられました。右下の画像はその時の状態です。
トランス+真空管バッファ式USB DAC Version2についても調べてみました。こちらは200Hzからその影響が出ています(青い線)。インダクタの距離が近いと影響が認識できる周波数が一気に下がってきます。こちらについてもインダクタを逆方向に傾けてみたところ、一律に12dBほどの改善がみられました(黒い線)。
効果としては十分とは言えませんが、簡単にできる方法で10dB以上の改善が期待できますので応急処置としておすすめします。数値的には大きな変化ですが、聴感上の変化はほとんど認識できません。
トランス式DACでは、LCフィルタを平ラグに実装した作例がいくつかあります。この問題が起きにくいように配慮した6Pの平ラグの例をご紹介します。下図の例では、左右の2個のインダクタはできるだけ離して両端に寄せています。実装では、単に離すだけでなく外側に斜めに倒してください。AKI.DACからの出力は向かって左側です。アース(GND)はAKI.DAC基板の左右どちらか一方から1本だけでつなぎます。Trans Pというのは1次巻き線(Primary)で、Trans Sというのは2次巻き線(Secondary)の意味です。
トランス+真空管バッファ式USB DAC Version2(旧版)のレイアウトを変更してみた結果が赤い線です。10kHzで-60dBを得ていますから十分だと思います。
平ラグパターンの変更は下図のとおりで、平ラグをそのまま使い、すでに実装されたLCなどを再配置します。インダクタは直立ではなく外側に傾けています。すでに製作されたものを改良するのであればこの方法がおすすめです。
トランス+真空管バッファ式USB DAC Version1(旧版)のデータは以下のとおりでVersion2と良く似ています。配線はそのままでインダクタの角度を変えただけの応急処置が黒い線です。Version1のLCフィルタ部も同じ平ラグパターンなので、上記の平ラグパターンがそのまま適用できます。改修した結果が赤い線です。
左右チャネル間クロストーク対策の続編です。LCフィルタで使用しているインダクタは、左右間で干渉して左右チャネル間クロストークを劣化させるだけでなく、電源トランスなどの漏洩磁束を拾ってハムを誘導します。そこで抜本的な対策として、(1)2個のインダクタを十分に離す、ということと(2)電源トランスなどのノイズ源からも離す、というためにはもっと全体を見渡してレイアウトそのものの見直しが必要であることに気がつきました。
最初に改修したのはトランス+真空管バッファ式USB DAC Version1(旧版)で、アンプ部の平ラグに間借りしていたLCフィルタを独立させ、8P平ラグ上に余裕を持たせて実装してみました。それがトランス+真空管バッファ式USB DAC Version1(改訂版)です。
改修前→ ←改修後
このレイアウト変更では2つのことを考慮しています。ひとつめは、LCフィルタの2個のインダクタの距離を十分にとること、ふたつめは、接近していた左右のアンプ部も離すことでアンプ部での信号の飛びつきも減らしたことです。その結果、下図のように左右チャネル間クロストークはさらに改善されました。
トランス+真空管バッファ式USB DAC Version1(旧版)についても同様の改修を行いました。その結果は下図のとおりであり、トランス+真空管バッファ式USB DAC Version1(改訂版)にレポートがあります。
低域の左右チャネル間クロストーク劣化の原因がアンプ部ではないことがわかったため、残るはAKI.DACしかありません。低い周波数ほど直線的に劣化しているので、コンデンサの時定数が絡んでいることは明白です。AKI.DACの回路図を調べてみると、関係がありそうなコンデンサが3つ見つかります。3端子レギュレータの出口にあるC16、C17とPCM2704の18番につながっているC11です。C16、C17は3端子レギュレータの効果の範囲内にあるためたぶんこれではない、おそらくC11だろうと思いましたが、実際に実験して確かめてみました。
C16、C17の容量を変えても左右チャネル間クロストークも残留ノイズも変化はありませんでしたが、C11をはずしたり容量を変えてみると左右チャネル間クロストークに著しい変化が表れました。
C11をはずしてL-chに0dBFSの信号を入れると、R-chから全周波数帯域にわたって5.5mVもの信号が漏れてきます。この状態での左右チャネル間クロストークはたったの-41dBです。次にC11の容量を変化させてみると、容量に応じて計算どおりの結果が得られました。AKI.DACについているC11用のコンデンサは47μFですが、この容量では20Hzで-55dBしか得られません。キットを組み立てる場合、C11だけは容量を増やしてやると良いです(他のコンデンサは容量を増やしても有意な変化はありません)。
- C11なし・・・全周波数帯域にわたって-41dB。
- C11=47μF・・・20Hzで-55dB。
- C11=120μF・・・20Hzで-63dB。
- C11=220μF・・・20Hzで-68dB。
- C11=470μF・・・20Hzで-75dB。
- C11=1000μF・・・20Hzで-81dB。
- C11=1500μF・・・20Hzで-83dB。
ここでひとつ問題があります。それはAKI.DACの基板のスペースです。C11のスペースに無理なく収まるアルミ電解コンデンサのサイズは、220μFが最大です。しかし、リード線を斜めに曲げてやるとなんとか10mm径16mm高のアルミ電解コンデンサが収まってくれるので、1500μF/10Vを推奨値とすることにしました。
下の画像は8mm径20mmの1800μF/6.3Vを取り付けた様子です。直径が細めですがリード線は若干曲げてやる必要があります。1500μFと1800μFとでは有意な差はありませんが気持ちの違いはあるかもしれませんね。基板面から23mmくらい出っ張りますのでスペースに余裕が必要です。
下図のデータでは、「水色〜青色〜紺色〜黒色」の線が120μF、「茶色」の線が470μFです。かさばって大きくはみ出るのを覚悟で1000μFを取り付ければ、全帯域にわたって-80dBが達成できます。
これをふまえて、TPC-203を使ったトランス式USB DACについても抜本的な改修を行ったのが下図です。「青色〜黒色」の線が220μF、「茶色」の線が1500μFです。「茶色」では、C11を変更しただけでなく基板上のインダクタの位置をできるだけ左右に離れるようにずらしています。
C11にすでに47μFあるいは220μF未満のコンデンサついている場合、これを470μFあるいは1000μF以上に変更することで物理スペックを改善できるとともに微妙ですが音全体に変化が生じます。しかし、C11の交換作業は困難をきわめます。ハンダ作業に習熟していること、ハンダを除去する道具を持っていること、そして根気と丁寧さが要求されます。
大容量のコンデンサを取り付けることによる問題として考えられるのは電源ON時の過渡電流ですので、その可能性についても考えておきましょう。AKI.DACの場合、USBのVBUS電源と3端子レギュレータの間にポリスイッチ(F1)とインダクタ(L1)が介在します。このポリスイッチ(F1)は常温で約8Ωの抵抗値があり、インダクタ(L1)も数Ω程度の抵抗があるので、これらによって過渡電流は有効に制限されます。そもそも3端子レギュレータ(NJM2845)の電流定格は800mAもありますが、F1とL1があるために何が起きても500mA以上が流れることはありませんので、C11の値を大きくしてもPC側のUSB機能を痛めるリスクは回避できています。