6AH4GT 全段差動プッシュプル・ベーシック・アンプ


全段差動プッシュプル・アンプを自作される方が増えてきました。しかし、全段差動プッシュプルアンプを自作するためには、一般的な真空管アンプとは若干異なる設計法が必要ですし、半導体回路の基礎や実装技術も要求されます。そこで、はじめて全段差動プッシュプル・アンプを作ってみようという方のために、ベーシック・バージョンをご紹介してみたいと思います。

(このページを作成した直後、はじめての人のための全段差動プッシュプル・アンプ製作プロジェクト「Building My Very First Tube Amp講座」がスタートしました。)



■はじめに

本アンプは、全段差動プッシュプル・アンプのベーシック版として、2段差動プッシュプルの最小構成で考えました。使用部品も特別なものや高価なものは使わずに、しかも、全段差動らしい音がたっぷり楽しめて、十分にハイスペックなものにしたいと考えました。

■利得と入力感度の設計

私がアンプ設計の構想を練る時、回路全体としてどれくらいの利得になりそうなのか、候補になりそうないくつかの球を想定しつつ、おおよその計算をします。2段構成のアンプの設計では、充分な総合利得を得ること、出力段を低いインピーダンスでパワフルにドライブすること、周波数特性や歪み率特性で必要充分なスペックを得ること、これらが三つ巴となって、あちらを立てればこちらが立たずということの繰り返しが起こります。

そして、2段構成のメインアンプでは、往々にして利得が足りなくなるという問題が生じます。特に、全段差動プッシュプル・アンプでは、初段が差動によって位相反転機能と不平衡→平衡変換機能営むために、その回路利得は、単管で得られる利得の1/2になってしまいます。単管で60〜70倍の利得が得られる12AX7/ECC83であっても、実質30〜35倍にしかならないわけです。そこで、さまざまな出力管における利得の様子について検討してみることにします。

<出力段の要件>

2A3を例に説明します。例として、RCA推奨動作として知られている負荷インピーダンスが2.5kΩのものを借用しました。差動プッシュプル回路における理想最大出力は、プレート電流(60mA)と負荷インピーダンス(5kΩ)から以下の式を使って概算で求めることができます。

理想最大出力(W) = プレート電流(mA)2×負荷インピーダンス(kΩ)÷2000
この式で2A3の理想最大出力を求めてみると、
60mA×60mA×5kΩ÷2000=9W
となります。また、オームの法則により、8Ω負荷における9W時の出力電圧は、√(9W×8Ω)=8.5Vです。次に、2A3の入力感度を求めます。適切なバイアス設定された出力段ではバイアス電圧から最大出力に必要な入力信号電圧を求めることができますので、バイアス-45Vをそのまま使って求めます。

最大出力に必要な入力信号電圧(r.m.s.) = バイアス電圧÷√2
この式で2A3の最大出力に必要な入力信号電圧を求めてみると、
45V÷1.414=31.8V(r.m.s.)
以上の計算を行って作成したのが下の表です。
バイアス入力感度
(r.m.s)
プレート電圧プレート電流負荷(P-P)最大出力8Ωにおける出力電圧
(r.m.s)
2A3-45V31.8V250V60mA×25kΩ9W8.5V
6BX7GT-20V14.1V230V25mA×210kΩ3.1W5V
6CK4-28V19.8V250V40mA×28kΩ6.4W7.2V
6AH4GT-23V16.3V250V30mA×210kΩ4.5W6V
<電圧増幅段の要件>

一方で、初段管の利得の様子についても検討してみました。なお、球のスペックは、RCA等の規格表データとは異なり、より現実的な値を入れています。

内部抵抗
(rp)
μプレート抵抗//次段グリッド抵抗負荷
インピーダンス
利得差動位相反転の時の利得
12AX7/ECC83約80kΩ100270kΩ//470kΩ171kΩ68倍34倍
6SL7GT約50kΩ60270kΩ//470kΩ171kΩ46.4倍23.2倍
6DJ8/6922約6kΩ3333kΩ//470kΩ30.8kΩ27.6倍13.8倍
上記の2つの表から、それぞれの出力管×初段管の組み合わせにおける、最大出力時のアンプの入力感度および総合利得を求めてみると、以下の表になります。
8Ω時の出力電圧
(電力)
12AX7/ECC83時の初段入力感度
(括弧内は総合利得)
6SL7GT時の初段入力感度
(括弧内は総合利得)
6DJ8/6922時の初段入力感度
(括弧内は総合利得)
2A38.5V(9W)0.935V(9.1倍)1.37V(6.2倍)2.3V(3.7倍)
6BX7GT5V(3.1W)0.415V(12倍)0.608V(8.2倍)1.02V(4.9倍)
6CK47.2V(6.4W)0.582V(12.4倍)0.853V(8.4倍)1.43V(5.0倍)
6AH4GT6V(4.5W)0.48V(12.5倍)0.703V(8.5倍)1.18V(5.1倍)
6DJ8と2A3の組み合わせでは、2.3Vもの信号を送り込まないと最大出力が得られません。6SL7GTと2A3の組み合わせでも、1V入力では最大出力が得られません。12AX7と2A3の組み合わせにしてようやく1V以下の感度が得られますが、負帰還をかける余裕はほとんどありません。それでも、総合利得は9.1倍ありますから、6BX7GT以下の3管と6SL7GTの組み合わせ(いずれも総合利得は8倍程度)と同程度の感度のアンプになります。6BX7GT以下の3管を使った時のアンプでは、最大出力の違いはさておき、総合利得はほとんど同じです。12AX7との組み合わせでようやく数dB程度の負帰還がかけられそうな数字になってきました。6DJ8との組み合わせでは、CDプレーヤとメインアンプとをダイレクトに接続したような使い方では、ボリュームを最大にしても充分な音量にならない可能性があります。

今回の設計は、全段差動プッシュプル・アンプのベーシック・バージョンが目的ですから、おなじみの6AH4GTと12AX7/ECC83の組み合わせで設計を進めてみようと思います。


■出力段の設計

<出力管動作条件の設計>

全段差動プッシュプル・アンプは、TV球6AH4GTで期待以上の結果が得られましたから、ベーシック版においてもこの6AH4GTを採用することにします。

右図が6AH4GTのEp-Ip特性および代表的なシングル動作のロードラインです。プレート電圧250Vでバイアス-23Vの時のプレート電流が30mAであるわけですが、この動作に5kΩの負荷を与えてやると(赤色のロードライン)、バイアスが0V付近で30mAの2倍にあたる60mAのプレート電流が取り出せることがわかります。

この動作は、両プレート間のインピーダンスが10kΩの1次巻き線を持つ出力トランスを使った差動プッシュプル回路に該当します。差動プッシュプルでは、ロードラインの引き方はいわゆるプッシュプル回路とは異なり、シングル回路とほぼ同じになるという点が異色です。また、差動プッシュプルでは、2つの出力管の動作は、-23Vを起点としたきれいな対称動作となり、赤色のロードライン上を行ったり来たりします。

差動プッシュプル回路の出力段の設計では、ロードライン上の有効な領域のちょうど真ん中を動作の起点とします。そうすることで、与えられた条件の中で最大の出力が取り出せるようになります。プレート電流をこれよりも多くしても、少なくしても最大出力は低下してしまいます。

この時の6AH4GTの動作は以下のとおりです。

プレート電圧: 250V
プレート電流: 30mA×2
バイアス: 約-23V
プレート損失: 7.5W
従って、出力段における定電流回路の要件は、動作電圧=約23V、定電流特性=60mA、その時の定電流回路の総消費電力=1.38Wになります。

<定電流回路の設計>

定電流特性が得られる回路には実にさまざまなヴァリエーションがありますが、ここでは、最もシンプルで部品点数が少なく、それでいてかなり優秀な特性が得られるものをご紹介します。

動作の中心的役割を果たすのが右図中のトランジスタ"2SC???"です。トランジスタには、互いに逆の極性を持ったPNP型とNPN型とがありますが、ここではNPN型を使います。NPN型の名称には"2SC"あるいは"2SDの記号が冠せられます。真空管では、カソードに対して相対的にマイナスの電位(バイアス)をグリッドに与えることでプレートからカソードに向かって流れる電流を制御しますが、トランジスタではグリッドにあたるベース(B)からカソードにあたるエミッタ(E)に流れ込む電流の大きさによってプレートにあたるコレクタ(C)からエミッタに向かって流れる電流を制御します。そして、ベース〜エミッタ間の電位は、常に約0.6Vと一定です。

ところで、2mAの特性を持った定電流ダイオード(CRD)を流れる電流によって、6Vの電圧特性を持った定電圧ダイオード(ZD)が駆動されています。そこで生じた6Vの電位からトランジスタのベースに電流が供給されています。ベース電位が6Vであるために、エミッタの電位は自動的に6V-0.6V=5.4Vに決定されます。エミッタ〜アース間に91Ωの抵抗がありますから、この抵抗には5.4V÷91Ω=59.3mAの電流が流れることになります。

トランジスタにはhFE(電流増幅率)と呼ばれる特性があって、これはベース電流とコレクタ電流の比で表されます。hFEの値は10〜1000くらいのどこかになりますが、一般的なトランジスタでは100前後が普通です。そこで、かりにここで使うトランジスタのhFE=100であるとすると、ベース電流はおおよそ0.6mAということになります。定電流ダイオードから供給される2mAのうち0.6mAがトランジスタのベース電流に取られますが、定電圧ダイオード側には1.4mAが確保できますからこれで充分です。その結果、コレクタ電流は58.7mAになり、これに定電流ダイオードの2mAが加わって、合計で60.7mAの電流が流れる回路となります。

さて、何故この回路が定電流特性になるかです。共通カソード側の電位が23Vから30Vに変化したとします。それでも定電流ダイオードに流れる電流は相変わらず2mAのままであり、定電圧ダイオードに生じる電圧も6Vのままです。ベース電位が6Vのままですからエミッタ電位も5.4Vのまま変化しません。ですから、この回路全体に流れる電流の総和は依然として60.7mAのままで変化しません。すなわち、定電流特性であることになります。

もし、定電流特性を60.7mAではなく、もう少し増やしたい場合は、91Ωの抵抗を82Ωに変更すればよろしい。5.4V÷82Ω=65.9mAとなり、ベース電流等の計算をしなおすと、全体では67.2mAに変わることがわかります。なお、ここで使用するトランジスタは、(23V-5.4V)×58.7mA=1.03W程度の電力を消費しますので、この発熱に耐えられる規格、形状でなければなりません。一般に、1cm角程度の大きさでネジ止めの放熱フィンのついた電力用途(パワートランジスタ)のものを使います。比較的入手しやすいものを以下にまとめてみました。

名称コレクタ〜エミッタ間
耐圧(VCEO)
最大コレクタ電流(Ic)最大コレクタ損失(Pc)
無限大放熱板の時
hFE電極(リード)の順序
印字に向かって左から
2SC106150V3A25W35〜320B-C(フランジ)-E
2SC1624120V1A15W70〜240B-C(フランジ)-E
2SC1625100V1A15W70〜240B-C(フランジ)-E
2SC162680V0.75A15W70〜240B-C(フランジ)-E
2SC2238160V1.5A25W70〜240B-C(フランジ)-E
2SC2275120V1.5A25W150B-C(フランジ)-E

表中で「フランジ」というのは、露出した放熱フィンのことで、ほとんどのパワートランジスタはフランジもコレクタに接続されています。そのため、トランジスタを放熱板に取り付ける場合は、熱伝導特性のすぐれた絶縁シートを挟まなければなりません。

最後に、バイアス回路について検討しておきます。差動プッシュプル回路では、共通カソードがアースに対してフローティングになります。そこで、グリッドをほぼアース電位とし、共通カソードがプラスになるように持ち上げてやれば、カソードとアースの間に定電流回路を割る込ませることができます。出力段に関してはマイナス電源がいらなくなるのです。

今回採用したTV球6AH4GTは、個々にかなりの特性のばらつきがあります。プッシュプル・ペアとなる2球のプレート電流を揃えるためには、±4V程度のバイアス調整回路のお世話にならなければなりません。そこでB電源から若干の電流を拝借して、出力管のグリッド電位を+4V程持ち上げてやり、25kΩの半固定抵抗で調整可能にします。バイアス調整は必ずしもマイナス電源でなければならない、というわけではないところがミソです。

さて、共通カソード電位は、23Vではなくて27Vとなりました。定電流回路のトランジスタのコレクタ〜エミッタ間にかかる電圧は、27V-5.4V=21.6Vになります。コレクタ電流は58.7mAでしたから、21.6V×58.7mA=1.27W、これがトランジスタのコレクタ損失になります。中型のパワートランジスタに1.27Wの電力を食わせる場合、できれば小型の放熱フィンを取りつけるかまたはじかにシャーシに密着するのが望ましいでしょう。

なお、差動プッシュプル回路では、固定バイアス回路で生じるような出力管の暴走は起こり得ません。自己バイアス以上に安定した回路ですので、グリッド抵抗の値も自己バイアスと同等(あるいはそれ以上)に高い値を採用することもできるため、ドライバ段の負担が軽くなり、設計に自由度が増します。ここでは470kΩとしました。

出力段に必要な電源は、ある程度リプルが除去された280〜283V、60.7mA×2のB電源、充分にリプルが除去された275V、0.66mA×2のB電源の2つです。B電源電圧は、出力トランスの1次巻き線の直流抵抗値が100Ω〜200Ωであるものとして計算しています。


■初段の設計

さて、初段の設計です。12AX7/ECC83単管による差動位相反転回路で出力段をドライブします。

12AX7/ECC83のカソード側は定電流化されているため、動作の起点におけるプレート電流は0.5mAに縛られていますから、12AX7/ECC83のEp-Ip特性上に、Ip=0.5mAの線(緑色)を引いておきます。その上で、電源電圧275Vとして、270kΩのロードラインを引いてみたのが右図の青い線です。初段管の動作ポイントはこの2本の線の交点になります。プレート電圧は140V、バイアスは約-1.2Vです。この動作ポイントで6AH4GTを充分にドライブできるかどうか検証してみます。

12AX7/ECC83の負荷は、プレート抵抗の270kΩと出力段のグリッド抵抗470kΩが並列になったものですから、270kΩと470kΩの並列合成値171.5kΩのロードラインを引きます。このロードラインは、動作ポイントである140V、0.5mAを通ります(右図の赤い線)。

この動作ポイントを起点として、プラス/マイナスの両側に充分にスイングできればいいわけです。ちなみに、出力段をフルドライブするのに必要な信号の振幅は約60Vです。±23Vではありません。その根拠ですが、6AH4GTのロードラインをもう一度見てください。出力段のロードラインを端から端まで使い切るとすると、バイアスの範囲は0Vから-60Vくらいの範囲になります。±23Vではフルスイングできません。

ということは、プラス側に23V、マイナス側に37Vというアンバランスな信号を送り込むように見えますがそうではありません。差動回路では、共通カソードがアースから浮いているため、60Vの振幅の信号を入力してやると、自動的に23Vと37Vとにバランスしてそれぞれの出力管のグリッド〜カソード間に印加されてしまうのです。ドライバ段は、ひたすらできるだけ歪みのない振幅60Vの信号を供給すればよいのです。

このような観点で、12AX7/ECC83が余裕を持って30Vの振幅を供給できるような動作であるかを確認します。プレート電圧140Vが起点ですから、赤いロードライン上で110Vから170Vまでの範囲で、バイアスが浅くなりすぎたり、直線性が劣化しなければよしとします。バイアスが浅い側で-0.7Vを割ることはなさそうですし、バイアスが深い側もまだ余裕があります。ということでOKです。

この時の12AX7/ECC83の動作は以下のとおりです。

プレート電圧: 140V
プレート電流: 0.5mA×2
バイアス: 約-1.2V
プレート抵抗: 270kΩ
プレート負荷抵抗: 171kΩ(270kΩ//470kΩ)
利得: 約66倍(ロードラインから概算)
この動作条件をもとに、初段差動回路として描いてみたのが右図です。上側球のグリッド抵抗の値は100kΩでなくともかまいません。下側球のグリッドには100Ωの可変抵抗を入れていますが、これはアンプとして仕上げた時に、オーバーオールNFBをかけた時に、帰還量を無帰還から一定量まで可変にするためです。

共通カソード側には1mAの定電流ダイオード(CRD)を入れて、マイナス電源を使っています。低い電圧で動作する定電流ダイオードならばマイナス電源は不要のように思えますが、そういうわけにはゆきません。出力段と違って、ここでは片側にしか信号入力がありません。このような場合は、カソード電位は1.2Vを割り込んで0V近くまで低下する瞬間ができます・・・この瞬間でもちゃんと音は出ますがもはや差動はしていません。出力段も差動であるため、なかなかバレないだけです。従って、マイナス電源を用意して定電流ダイオードが正しく動作するための充分な動作電圧を確保してやらなければなりません。

出力段との結合コンデンサは0.22μFです。耐圧は250V以上のものが必要です。初段に必要な電源は、充分にリプルが除去された275V、1mA×2のB電源、充分にリプルが除去された-3〜-6V、-1mA×2のC電源の2つです。


■電源の設計

これまでのところで明確になった、本機に必要な電源は以下のとおりです。含有リプルはきわめて大雑把な計算ですが、このスペックが満足できれば、無帰還での残留雑音へのインパクトは、余裕で0.1mV以下(8Ω端子)が実現できるという数字です。

電圧電流数量含有リプル(目標値)含有リプル(設計値)
出力段B電源280〜283V60.7mA21V以下0.38V
出力段グリッド+電位275V0.66mA2100mV以下8.1mV
初段B電源275V1mA2100mV以下8.1mV
出力段定電流回路用-電源-3〜-6V-1mA210mV以下0.28mV
全段差動プッシュプルアンプの特徴のひとつに、電源から供給する電流値は、出力の大きさに関係なく常に一定であるという特徴があります。電源ラインには信号が流れないことと、純A級動作だからです。消費電流が一定ですから、電源のレギュレーションの問題は全く関係ありません。電源ラインには信号が流れませんから、電源のインピーダンスは高くてもかまいません。このように、従来の電源回路の常識はすべて覆されてしまうのが全段差動プッシュプルアンプの電源です。従って、本機で必要とされる電源は、ある程度リプルが除去されていて、必要な電圧と電流が供給されればそれで充分ということになります。

その必要な電圧は280Vです。280Vまたはそれ以上の電圧を得るのに必要な電源トランスの2次電圧は、以下の手順で求めます。

  • ダイオード整流の場合は、例のセオリーに従って、「1.28倍則」で求めます。そうすると、2次電圧240V〜250Vで140mA〜150mAくらいの容量の電源トランスがぴったりです。これで、整流出力電圧300V〜325Vが得られます。
  • 真空管整流の場合は、整流管のデータを参考にするしかありませんが、5AR4だったらここのデータがなんとか使えます。250Vの時で整流出力電圧310V前後ということになりそうです。
ダイオードと直列にダイオード保護抵抗「R」を入れています。整流出力電圧と相談しながら、22Ω〜100Ω(1W〜5W)の抵抗を入れることにします。

リプルフィルタの構成ですが、π型2段のシンプルな構成にします。さて、電圧配分の計算です。仮に整流出力電圧が313Vだとすると、470Ωの抵抗で落とせば283Vが得られます。470Ωには63mAが流れますから、消費電力は1.87W。8W型でいいことになりますが、大型抵抗は熱くなりがちなので安全をみて10W型にします。ここから275Vまで落とすには3.3kΩがいります。これは1/2W型でいいでしょう。

整流出力を47μFで受けたとして、313V/126mAを取り出したとすると、39.電源の設計その4 (リプル・フィルタ回路の基礎/後編)の残留リプル含有率表から、約5.6Vが求まります。これを、470Ω+47μFのフィルタで濾過したとすると、残留リプルは簡易計算で約0.38Vまで下がります。これで初期の目標は達成できます。さらに、3.3kΩ+22μFのフィルタで濾過したとすると、残留リプルは簡易計算で約8.1mVまで下がります。これも目標達成です。

今度はマイナス電源です。5Vを半波整流して得た-6.5Vにπ型1段のフィルタを加えただけの簡単な構成です。半波整流では、整流直後の残留リプルは両波整流の時のほぼ2倍になる点に注意してください。1kΩ+47μFを経ただけで残留リプルは0.28mVにまで減っています。ダイオード保護用のRには、10〜100Ωの抵抗(この範囲であれば値は問いません)を入れておきます。


■回路図

<アンプ部>

<電源部>

工事中


■調整

本機の調整は、大きく分けて2個所あります。1つめは、出力段の定電流回路の特性のチェックと各球のプレート電流のバランス調整、2つめは、負帰還の位相のチェックと帰還量の調整です。

<出力段の定電流回路の特性のチェック>

定電流回路の特性を決定づける6Vの定電圧ダイオードですが、6Vとして売られていても、実測すると5.6Vだったり6.3Vだったりします。かなりのばらつきがあるものだと思ってください。60mAの定電流特性を得るためには、定電流回路のトランジスタのエミッタ抵抗に流れる電流は約59mAでなければなりません。今、かりに91Ωの抵抗が取りつけられていると思いますが、この抵抗値は必要に応じて増減させなければならないわけです。

通電してみて、エミッタ電圧が5V〜6Vの範囲であれば、定電流特性は55mA〜66mAですから、まあ、許容範囲と思っていいですが、この値からはみ出るようでしたら、エミッタ抵抗の値を82Ωか100Ωに変更しなければなりません。

<各球のプレート電流のバランス調整>

定電流回路の特性のチェックが終わったら、各球のプレート電流のバランス調整を行います。バイアス調整用のボリュームがありますから調整は簡単だと思います。各球のプレート電流のバランス検出は、出力トランスの1次巻き線における電圧降下を参考にすればいいでしょう。その原理と方法は以下のとおりです。

B電源供給された電流はOPTのセンタータップからはいって2つのプレート側に出て行きますね。その時、OPTの1次巻き線内で電圧降下がおきます。もし、OPTの巻き線のセンタータップからそれぞれのプレート側への直流抵抗が同じで、かりにそれぞれが200Ωだとしましょう。一方の出力管のプレート電流が25mA、もう一方の出力管のプレート電流が35mAだった場合、OPTの1次巻き線での電圧降下はそれぞれ、25mA×200Ω=5V、35mA×200Ω=7Vになります。この時、動作中のアンプの出力管の2つのプレートにテスターを当てると、+2Vまたは-2Vと表示されます。2管のプレート電流値がかなり揃っていて29mAと31mAだったならば、+0.4Vまたは-0.4Vになります。この電圧値が一定の範囲に収まるようにバイアスのいところのボリュームを調整すればいいのです。

OPTの巻き線の抵抗値はセンタータップでぴったり1/2にはなかなかなりませんが、それでも、2つのプレートにテスターを当てて、その時表示された電圧が±0.2V以内にできれば、調整はOKとみていいと思います。

<負帰還の位相のチェック>

初段グリッドに帰還される出力信号の位相が合っているか逆であるかは、五分五分の確率だといっていいでしょう。これを検証するには、負帰還を仮配線しておいて、実際に負帰還をかけてみるのが一番です。

初段グリッドの負帰還調整ボリュームの値がミニマム(0Ω)になるように廻しきっておき、通電します。この状態では、このアンプは無帰還ですから、スピーカを繋いで入力に信号を入れてやれば、ちゃんと音が出るはずです。やってみてください。この状態で音が出なかったり、歪っぽかったり、ハムが出たりしたら、配線間違い等の不具合があることになります。正常な動作であれば、ハムはほとんどなく、とても良い音で鳴ってくれるはずです。

次に、負帰還調整ボリュームを徐々に廻してゆきます。音量が大きくなったり、「ギャァァァ」と発振したら位相が逆ですから、出力トランスの2つのプレート配線を入替えます。音量が小さくなったら正常です。

<帰還量の調整>

オーディオジェネレータ(発振器)とミリボルトメーター(ミリバル)をお持ちの方は、この手の調整は手馴れたものだと思いますが、測定器をお持ちでない方の場合は、以下の要領で同等の調整が可能です。

まず、電源トランスのヒーター巻き線を流用して右図のような回路を作り、50〜60Hzで0.03〜0.1V位の交流信号を作り出します。50〜60Hzの交流を、オーディオジェネレーターの代用にしようというわけです。本機のようなプッシュプルアンプでは、50Hzという低い周波数であってもほとんどフラットな特性が得られていますので、正確な負帰還量の調整ができます。

8Ω/5W〜10Wの抵抗器を2個用意し、これをダミーロードとしてスピーカ端子につなぎます。負帰還回路の100Ωの半固定抵抗が0Ωの状態で入力端子から50〜60Hzの交流信号を入力し、出力側で1Vとなるように1kΩのボリュームを調整します。次いで、出力側の電圧が0.71Vになるように100Ωの半固定抵抗を調整すれば3dBの負帰還となり、0.5Vでは6dB、0.4Vでは8dB、0.32Vでは10dBになります。音の(わずかな)変化を確認しながら、好みのポイントを見つけてください。


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