<発掘!>

STAXコンデンサイヤースピーカー専用アダプタ SRD-5
Adaptor for STAX Condenser Ear Speaker

1970年代、私がまだ学生だった頃、どうしても手に入れたかったオーディオ製品のひとつにSTAX製のコンデンサイヤースピーカーがありました。STAX社はヘッドホンという呼称を使わずに、イヤースピーカーと呼んでいました。専用のアンプもありましたが高価で手が出ず、最も廉価にコンデンサイヤースピーカーを鳴らせるアダプタSRD-5を購入して、一目散に家に飛んで帰ったことを覚えています。そのSRD-5が出てきたので中を開けて回路図を起してみました。簡易にコンデンサイヤースピーカー用のアダプタを製作される方のために若干の説明を加えてあります。



●機能と使用法

SRD-5は、パワーアンプと併用してコンデンサイヤースピーカーを鳴らすアダプタです。スピーカーやヘッドホンのインピーダンスは4Ω〜100Ωくらいで数V〜十数Vの信号電圧で駆動しますが、コンデンサイヤースピーカーは100pFくらいのコンデンサそのものなのでインピーダンスは非常に高く、駆動するには数十Vから百V以上の信号電圧が必要です。そこで、パワーアンプのスピーカー出力で得られる低インピーダンス、低電圧のオーディオ信号をトランスを使って昇圧してコンデンサイヤースピーカーを駆動しようというのがSRD-5の考え方です。

SRD-5はパワーアンプのスピーカー出力端子につないで使います。スピーカーはSRD-5の背面の端子につなぎます。SRD-5側にはスイッチがついていて、パワーアンプからの信号をスピーカーに送るか、コンデンサイヤースピーカーに送るか切り替えられるようになっています。


●内部構造

SRD-5の蓋を開けてみたのが右の画像です。

プリント基板には、コンデンサイヤースピーカーに与える200Vのバイアス回路やスピーカーにつながない時のためのダミーロードなどが組み込まれています。そして、2つの昇圧トランスが見えます。最も気になるのは、このトランスの中がどうなっているかですね。そこで、実際に測定してどんなトランスであるか調べてみました。

1次側に100mV400Hzの信号を与えて2次側の信号電圧を測定したところ5.3Vを得ました。昇圧比、すなわち巻き線比は「1:53」でした。2次側にはバイアスを与えるためのセンタータップがあります。この構造は、プッシュプル用出力トランスの1次側と2次側をひっくり返したものと非常に良く似ています。

1:53」という巻き線比をインピーダンス比に換算すると「1:2800」にあたります。10kΩ:4Ωの出力トランスのインピーダンス比が2500:1で、巻き線比は50:1ですから、これに良く似ています。

※コンデンサイヤースピーカーの現行モデルはプロバイアスと呼ばれる580Vの高圧に変更されています。


●全回路図

実機の解析から得たSRD-5の全回路図は以下のとおりです。

スピーカーを鳴らさない時は、パワーアンプからみると30Ω/5Wの抵抗とトランスの1次巻き線+5Ωが負荷になります。5Ωの抵抗の目的はいろいろ考えられますが、トランスの1次巻き線のDC抵抗が低いことによるパワーアンプ側への悪影響を避けることを目的とした安全策ではないかと想像します。OCL方式の半導体アンプの場合、安全回路が動作してしまうかもしれませんから。トランスで昇圧されたオーディオ信号は、5.1kΩと100pFのイコライザ介してコンデンサイヤースピーカーを駆動します。イコライザを入れたのは、これがないと事実上容量負荷(コンデンサイヤースピーカーはコンデンサです)のみになるので、トランス特有の超高域の暴れを嫌ってのことではないでしょうか・・・実測してみればわかることなんですが、さぼっています。なお、コンデンサイヤースピーカー専用のコネクタの(裏側からみた)結線も図に入れておきましたので自作される方は参考にしてください。当時は、STAXから自作用にコネクタを購入できましたが、今はどうなんでしょうか。

200Vのバイアス電源は、AC100Vを倍電圧整流して得ています。平滑回路は非常に簡素ですが、この回路には電流は流れませんのでこんなものでも充分です。もっとも、私の古いSRD-5はコンデンサが劣化してリークを生じていたために、200V出るはずのところが83Vしかありませんでした。与えるバイアス電圧が低いと大きな音を出すことができませんし能率も低下します。


●自作ガイド

SRD-5と同等の機能のものを自作する場合は、以下のような要領で設計・部品調達してください。
  1. 昇圧トランス: 10kΩ:8Ωのプッシュプル用出力トランスを1次と2次を逆にして使用。巻き線比は「1:35」になるのでオリジナルとは大差ありません。
  2. ダミーロード: 素直に8.2Ω〜10Ω/10Wくらいの抵抗を入れる。しかし、トランスの伝達特性をより素直かつ広帯域にするには、2次側インピーダンス10kΩに対して47kΩ/3Wくらいの抵抗負荷を抱かせる方法が有効です。この場合は、1次側のダミーロードは10Ω〜12Ωと高めに設定します。測定器のある方は実際にコンデンサイヤースピーカーの負荷を与えた状態で測定・試聴してチューニングされたらいいでしょう。
  3. バイアス電源: SRD-5をほぼそのまま真似る。200Vよりももう少し高くてもいいと思います。但し、プロバイアスにする場合は電圧がはるかに高いので100Vをそのまま倍電圧整流しても283Vにしかなりませんから、コッククロフト回路で4倍電圧整流して560Vを得たらいいでしょう。

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