Building My Very First Tube Amp講座用の標準シャーシを流用したお揃いアンプ>

差動ライン・プリアンプ
Simple Tube Differential Line Pre Amplifier



左:全段差動ベーシック・アンプ、右:差動ライン・プリ・アンプ
現在使用中のプリアンプのライン部は単なるカソード・フォロワ1段であるため、利得は約1倍です。普段はこれで不便はないのですが、最近製作した全段差動ベーシック・アンプは総合利得が低めであるため、接続する機材によっては2〜3倍程度の利得を持ったライン・アンプが欲しいな、と思うことがあります。しかし、真空管回路で2〜3倍という利得を得るのは案外難しく、なかなか良い回路が思い付きませんでした。1倍ならばカソード・フォロワがあるので簡単、10倍以上の利得も難しくないのに、10倍以下の利得となると突然難しくなってしまうのです。もちろん、回路例はないわけではありません。有名なLUX SQ38FDのライン・アンプ部は、12AX7単段のP-G帰還増幅回路が基本となっており、途中での減衰も含めてトータルで4〜5倍の適度な利得を得ています(下図、解析ページはここ)。

P-G帰還の単段回路は最近になってもメーカー製のアンプで案外良く使われており、やっぱりこれしかないのかな、と思ってしまいます。そんなことを考えているうちに5年くらい経ってしまいました。その後、何台かの全段差動プッシュプル・アンプを製作しましたが、この間に、差動回路の面白さ、優秀さを見直すことになりました。ここはひとつ、差動回路を使ってできる限りシンプルなライン・アンプはできないものか、やってみることにしました。

It is not easy way for tubes to get low gain less than 20dB. Let me introduce you simple P-G feedbacked line amp, see above. This line stage amp, a component of famous Japanese tube pre-mainamplifier named SQ38FD manufactured by LUXMAN, has appoximately 4 thru 5 amplification. The theme of this project is to get low amplification without using SQ38FD like P-G feedback amp. This simple Line Amplifier has unique single stage of differential amp using single dual-triode 6DJ8/6922 per channel.


■特徴および構成

<P-G帰還回路>

単段構成の真空管増幅回路で負帰還をかけるには、プレートとグリッドの間に負帰還抵抗を挿入します。このような方式をP-G帰還といいます。右図は、6DJ8の単段回路にP-G帰還を施した利得約2.3倍のライン・アンプの例です。

単段の負帰還回路なので非常に安定しており、1〜10倍といった低い利得が容易に得られるのが特徴ですが、一方で、入力信号がはいってくるグリッド部分に負帰還を戻してしまうために、

  1. 入力信号経路であるグリッド回路と直列に値の大きな負帰還抵抗(56kΩ)が割り込む、
  2. 入力インピーダンスが低下する(ボリュームを含まないで約62kΩ、ボリューム込みではmin位置で50kΩ、max位置で28kΩ)、
  3. 負帰還量が信号源インピーダンスの影響を受けてしまう・・・ボリュームの位置で負帰還量が変化する、
  4. 反転アンプである(入力と出力の位相が逆)、
という欠点ともいえる特徴があります。そのため、非常にシンプルかつ安定度が高く、特性的にも悪くないし、なんといっても音がいい回路であるにもかかわらず敬遠されがちな気がします。この回路はとても音がいいので私としてはおすすめです。

<P-G帰還回路と差動回路>

今回の実験製作では、この不人気なP-G帰還と差動回路とを合わせたちょっと珍しい回路を作ってみることにします。回路の全体は右図のとおりです。

6DJ8の2つのユニットは差動回路を構成し、共通カソード側は8.2mAの定電流回路を経てマイナス電源(V-)に引き込まれています。定電流回路は、当初2.7mAタイプの定電流ダイオード(CRD)を3本並列にして8.2mAを得ていましたが、後にJFETの2SK30(GRランク)×2本並列に変更しています。なお、定電流ダイオードを3端子レギュレータ"LM317T"を応用した定電流回路に置き換えてみたところ、かなり大きな「ザーッ」というノイズが出て、使い物になりませんでした。

6DJ8のロードラインは右下図のとおりです。図中には、参考のために実測した2つのユニットのデータが黒と青で書き込まれています。動作を決定するのは、4.5mAの定電流特性線(緑)と20kΩのロードライン(濃赤)で、この交点が動作ポイント(EP=100V、Ip=4.5mA、bias=約-2.6V)です。6DJ8のプレート電圧は少々高すぎるように思います。90V前後になるように電源電圧を調整されたらいいでしょう。

※設計時のIpは9mAでしたが、購入したCRDの定電流特性が3本合わせて8.2mAだったので、本文中のIp値に9mAという記述と8.2mAの記述とが混在しています。本アンプでは、この程度の違いは大勢に影響ありません。
入力信号は、50kΩの音量調整用ボリュームを経て左側球のグリッドに入力されますが、出力信号は右側球のプレートから取り出しています。一見、これでまともに増幅するのだろうか、と思うような見かけない回路ですが、これで立派に動作します。

入力信号は左側球にだけ入力されるのではなく、実は差動回路の基本動作に従って2管のグリッド〜グリッド間に入力されます。そして、2管はシーソーのように互いに補い合うように動作します。その結果、増幅された信号は2つのプレートに全く同じ信号電圧で(しかし、位相は逆になって)現われます。従って、増幅された信号はどちらの球のプレートからでも同じように取り出すことができます。本回路では、右側球のプレートから取り出しています。ちなみに、両方のプレートから出力を取り出せば、平衡(バランス)出力になります。

信号は、グリッド〜グリッド間に入力されるので、プレート〜プレート間から出力を取り出せば、利得は約24倍となって6DJ8の通常の増幅回路の利得と同じになりますが、片側のプレートからだけ取り出すとみかけ上の利得は1/2になります。

6DJ8の右側ユニットでは、プレートからグリッドに100kΩと56kΩの抵抗によって負帰還がかけられています。この負帰還定数によって、本回路の利得が決定されます。その利得計算ですが、上述した理由により、裸利得を通常の増幅回路の場合の1/2として、あとは負帰還の計算セオリーに従って求めます。本機の場合は、6DJ8の単段あたりの通常時の利得が約24倍ですので、その1/2の12倍をベースとなる裸利得として計算します。但し、右側には20kΩのプレート負荷抵抗に加えて負帰還抵抗やパワーアンプの入力インピーダンスも負荷に加算されるので実質的な利得は約10倍くらいです。負帰還を決定する定数は、(100kΩ+56kΩ)÷56kΩ=2.79ですので、(10×2.79)÷(10+2.79)=2.18倍が本回路の計算上の利得です。

RNF(プレート側)RNF(グリッド側)利得(計算値)
130kΩ27kΩ3.68倍
120kΩ30kΩ3.33倍
120kΩ39kΩ2.90倍
110kΩ47kΩ2.50倍
100kΩ56kΩ2.18倍
100kΩ68kΩ1.98倍

6DJ8のような高gm、低rp管を使った広帯域アンプでは、超高域〜MHz帯における回路の安定性についての基本的な配慮が必要です。特に、この種の球では、実装上の配線の具合ひとつで発振することもありますので、回路構造そのものがある程度タフでなければなりません。各管のグリッドに入っている3.3kΩの抵抗がそのひとつです。この発振止め抵抗は、できるだけ6DJ8のソケットに接近させて配置します。共通カソードと定電流ダイオードの間に200Ω程度の抵抗を割り込ませると、本機はより安定性が増します。この抵抗も真空管ソケットに近い場所に実装します。無駄な引き回しは禁物です。

もう一点、AC100Vの電圧は常に1%〜3%くらいは変動していますので、この変化がもろにB電源電圧の変化として現れます。差動回路は、B電源電圧が変動すると変化した分がそのままプレート電圧の変化に現れる性質があります。そのため、その変化がプリ出力に出て悪さをしないためにはプリ出力部分のコンデンサ(0.68μF)の値はあまり大きくできません。以前、ここコンデンサの値は2.2μFにしていましたが問題が起きたので0.68μFまで減らすことにしました。


<使用真空管>

内部抵抗が非常に低い双3極管6DJ8(6922)を使いますが類似球の7308やTV球の6BQ7A/6BZ7、ピン接続やヒーター規格は異なりますが5964や5965も使えます。但し、5965や5964は6DJ8に比べて内部抵抗が高いため、6DJ8と同じだけのプレート電流(4.5mA×2)を流してしまうとバイアスが浅くなりすぎますので、定電流ダイオードを変更して3.5mA〜4mA×2くらいに減らしてやるのが良いでしょう。

上記以外でも若干の設計修正で、6414、7062/E180CC、5670、6J6/ECC91、5964、6240G、ECC33、7AN7/PCC84、7119/E182CC、8223/E288CC、7044などが使えます。μ値が低いので高い利得は望めませんが、5687、12AU7/ECC82/6680/6189/5814A、12BH7A、6350なども充分に使えます。


<電源回路>

本機では、残留リプルが0.01mV以下で、190V〜200V、20mA程度が供給できるB電源が必要です。これを小型かつ安価に仕上げるために、電源トランスは東栄製の絶縁トランスZT01ES(100V:200V、10VAタイプ)を流用しました。絶縁トランスは1次巻き線と2次巻き線との間に静電シールドが挿入されていて、1次側からやってきたノイズが2次側に伝わらないように配慮されています。この静電シールドは「E」端子として引き出されているので必ずアースします。

※ご注意:22μF〜2SK3067ゲート間にできるだけゲートに近いところに発振防止抵抗(4.7kΩ)を入れてください。
※ご注意:110kΩと並列&逆向きに1N4007などの耐圧が400V以上のダイオードを入れてください。
※ご注意:2SK3067は製造中止になりました。後継は2SK3767です。

200Vをブリッジ整流し、整流出力約240Vを得ます。整流ダイオード・スタックには秋葉原ではおなじみの千石電商で安く仕入れたFAIRCHILD(Made in CHINAとある)のKBP04M(400V/1.5A)を使いました。交流入力280Vまで使えるブリッジ整流ダイオードです。ここでは、耐圧400V、1A以上の容量のダイオードであれば何でも使えます。整流ダイオードの直後には、電源ON時の突入電流低減のための保護抵抗(150Ω)があります。続くリプル・フィルタは、高耐圧トランジスタ2SC3425を使った簡易型ですが、ここを出たところで残留リプルは0.2mV以下になります。2SC3425は0.5W程度の発熱があるので、小さな放熱フィンを取り付けています。さらに、2.2kΩの抵抗で左右チャネルに振り分けて47μF/250Vのコンデンサで仕上げます。なお、この47μFのコンデンサは、出力信号ループの一部を構成しますので、電源回路側ではなくアンプ部側に配置します。アンプ部で触れましたが、6DJ8は比較的低い電圧での動作に適する球なので、2.2kΩの値を調整してプレート電圧が90V〜110Vくらいの範囲になるようにしたらいいでしょう。

Tr2SC3425
VCBO500V
VCEO400V
IC0.8A
PC1.2W(10W)
hFE20〜100(実測=50)
接続E-C-B(印字面に向かって)

さて、もうひとつ、簡単で優れた特性が得られる回路例を追加します(2008.10)。下の回路はMOS-FETの2SK3067(現行品は2SK3767)を使った電源回路です。MOS-FETは種類も豊富で現行品種がたくさんあり、400V以上の耐圧のものが廉価かつ容易に入手できます。トランジスタのベース電流にあたるものがなく、ゲート回路の立ち上がりの時定数が非常に大きくできるため、高いリプル除去比が得られる上に電源ON時のポップノイズをほとんどなくすることができます。新たに製作される方には本回路を推奨します。2SK3067以外にも2SK3767、2SK1758などが回路定数の変更なしに使えます。

2SK3067を使う場合の注意点は、ゲートの直近に4.7kΩ程度の発振防止抵抗を入れることです。これがないと容易に数十MHz〜数百MHzで発振します。発振周波数が非常に高いので20MHzクラスのオシロでは観測できないことがあります。

MOS-FET2SK3067、2SK37672SK1758
VDSS600V600V
VDGR600V600V
ID2A2A
PD1.2W(25W)2W(30W)
接続G-D-S(印字面に向かって)G-D-S(印字面に向かって)

使用したヒータートランスは、東栄製J-121(100V:12V/1Aタイプ)です。このトランスを使って得た直流でまかなえるヒーター電流容量は0.64Aどまりです。ヒーター回路の全消費電流が0.64Aを超えるような球を使う場合は、電流容量が大きい2Aタイプまたはそれ以上のトランスが必要です。(整流ダイオードと直列に1Ωを入れてあるので0.64Aを少々超えても大丈夫ですが)

12Vタップをブリッジ整流して、整流出力約13.3Vを得ます(ヒーター電流0.365Aを取り出すとこれくらいの電圧に落ち付きます)。整流ダイオード・スタックにはどこでも安価に入手できる新電元製S5VB20(200V/6A)を使いました。入手容易なS4VB20(製造中止)やS4VB60(現行品)でもかまいません。整流ダイオードの直後には、B電源同様に電源ON時の突入電流低減のための保護抵抗(1Ω/1W)があります。4700μF/25V×2と3.9Ω/2Wによる簡易なリプル・フィルタを経て得られた12Vがヒーター電源になります。本来、12.6Vのヒーター回路ですが、この程度(約5%)の電圧ダウンであれば気にすることはありません。6DJ8/6922のヒーター定格は、6.3V/0.365Aなので2管直列にして点火します。

このヒーター電源回路をマイナス電源にも流用します。そのため、ヒーター電源のプラス側がアースに接続されており、反対側の一端はアースに対して-12Vになります。ここから、750Ωの抵抗で左右チャネルに振り分けて100μF/16Vのコンデンサで仕上げ、差動回路の共通カソード側の定電流回路のためのマイナス電源(V-)になります。新たに製作される場合は、100μFではなく470μF以上に増やしてください。定電流回路の方式によっては若干ハムが出ます。マイナス電源は、定電流ダイオードが定電流特性を発揮するのに充分な電圧である必要があります。定電流ダイオードやJFETを使った定電流回路の場合、5V以上の動作電圧が必要ですので、本機では5V以上(-5.7V)を確保しています。


<シャーシとケース>

本機の製作では、全段差動ベーシック・アンプのためにネット上で供給された標準シャーシを流用しました。このシャーシは、メインアンプ用に設計されたものなので、電源トランスや出力トランス用の穴がいくつも開いており、そのままではどうにもプリ・アンプ向きではありません。そこで、トランス類から真空管まで、すべての部品をシャーシ内に収納してしまい、見苦しい穴だらけの上面を化粧板で覆ってしまうことにしました。

最大の難関は、このシャーシが1.6mm厚の鋼板でできているということです。追加工しなければならない穴は、出力ピン・ジャック用に直径10mmのものが最低でも2つあります。ドリルとテーパー・リーマーがあればなんとかなりますが、それでも、相当な重労働であることを覚悟してください。

ホームセンターで、幅200〜210mmの棚板を長さ318mmに切ってもらい、角のRを取ってサンドペーパーできれいにしたものにステンを塗ってからオイル仕上げにします。ステンは、そのままではやや濃すぎてムラになりやすいので、水で2倍くらいに薄めた方が仕上がりがきれいです。濃くしたかったら重ね塗りをすればよろしい。空気抜きのつもりでシャーシと板の間に気持ち隙間(5mmくらい)を設けてから、シャーシ裏面からモクネジで固定します。こうすれば、板の上面にネジが顔を出すことはありません。


<部品一覧>

同様のプリアンプを製作される方の参考になればと思い、部品リストを作りました。
部品頒布ページこちら(http://www2.famille.ne.jp/~teddy/tubes/b-sadopre.htm)です。

種類部品名数量頒布
真空管6DJ8/6922/E88CC、7308/E188CC、6BQ7A2-
パワートランジスタ2SC3425(Vceo>300V、hFE>40)1(いずれか)
MOS-FET2SK3067(Vdss>600V)
定電流ダイオード(CRD)2.7mAタイプ(合計で8mAをセット)ではなく、2SK30A(GR)推奨4〜6
整流用ダイオードブリッジ400V 1A以上×4(KPB04Mなど)
IN4006〜IN4007を4本組み合わせてもよい
ファーストリカバリダイオード1NU41×4を推奨
1
200V 4A×4(S4VB20など)1
保護ダイオード1N4006〜1N4007などのダイオード(MOF-FETの時に必要)1
トランス東栄 ZT01ES 200V:100V 10VA1-
東栄 J-121 12V 1A1-
電解コンデンサ100μF/350V1-
47μF/250V2-
22μF/250V1-
4700μF/25V2-
100μF/16V→470μF/16V2-
フィルム・コンデンサ0.47〜0.68μF/250V2-
0.022μF/50V2-
0.015μF/50V2-
抵抗器150Ω 1/2W1
180〜220Ω 1/4W(定電流安定用)2
750Ω 1/4W2
2kΩ 1/4W(LED点灯用)1
2.2〜5.6kΩ(調整) 1/2W2
3.3kΩ 1/4〜1/2W4
4.7kΩ 1/4〜1/2W(MOF-FETの時に必要)1
30kΩ 1/4W(MOF-FETの時は110kΩ 1/4W)1
56kΩ 1/4〜1/2W 1%2
100kΩ 1/4〜1/2W 1%2
390kΩ 1/2W(MOF-FETの時は1MΩ 1/2W)1
560kΩ 1/2W2
1MΩ 1/2W1
1Ω 1W1-
3.9Ω 2W1-
20kΩ 2W 選別4-
ボリューム50kΩA型2連(ALPS RK27シリーズ)1
ロータリースイッチ4回路3接点、ショーティング・タイプ2-
LED付ロッカースイッチ-1
スパークキラー0.1μF+120Ω1
ツマミ大(L35S)1
小(L18S)2
RCAピンジャック1P2
6P1-
ACインレット-1問い合わせ
30mmヒューズホルダー-1-
30mmヒューズ1A1-
真空管ソケット9-pin MTソケット2-
平ラグ8P2
6P2
Lラグ7P1問い合わせ
アルミアングル20mm×20mm×900mm100mm程度に切断-
スペーサ10m長、3mmビス16-
シャーシ全段差動ベーシックアンプ用標準シャーシ1不定期


■特性

負帰還定数(1/β)2.79
(100kΩ・56kΩ)
3.65
(180kΩ・68kΩ)
-
利得/Gain7.0dB(2.26倍)9.0dB(2.8倍)1V出力 at 1kHz
入力インピーダンス/Input Impedance44kΩ44kΩ-
出力インピーダンス/Output Impedance2.05kΩ3.0kΩ1V出力 at 1kHz
周波数特性/Frequency Response10Hz〜150kHz
10Hz〜600kHz
10Hz〜100kHz
10Hz〜450kHz
+0dB/-0.5dB
+0dB/-3.0dB
負荷に1mシールド線
左右チャネル間クロストーク/CrossTalk-90dB-90dB10Hz〜100kHz、3.16V at 1kHz
歪み率/Distortion0.04%以下0.04%以下1V〜8V at 1kHz
残留雑音/Noise50〜100μV50〜100μVL-ch,R-ch同一値(A補正なし)


総合利得は2.26倍です。負帰還定数を調整することで、2倍〜5倍くらいの範囲で任意の値に設定可能なことはすでに述べました。この範囲のいずれの利得でも動作は安定していますが、無帰還にすると不安定になり、条件によっては容易に発振します。また、残留雑音レベルは負帰還量に反比例するので、利得を欲張る(負帰還量を減らす)と残留ノイズが増えます。

入力インピーダンスは、ボリュームの位置に関係なく44kΩで、これは、コスモス製ニュー・デテント・ボリューム(50kΩAタイプ2連)の抵抗値が50kΩではなくて個体差のために実測44kΩであったためです。

出力インピーダンスは、差動回路の片側から出力を取り出した時の宿命として、通常の増幅回路に比べてかなり高めになるものですが、負帰還のおかげもあって約2kΩと期待以上に低くなりました。贅沢言えばきりがないですが、単段差動でこの低さは申し分ない値です。

周波数特性(右上図)は、10Hzから60kHzまでフラット、100kHzでの減衰は-0.2dBで全く文句ありません。-3dBとなるポイントは600kHzで、非常に広帯域なアンプになりました。1MHzまで素直な減衰カーブです。1MHzのところで-5.5dB減衰していますが、このうちの半分くらいは測定系におけるロスだと思います。

左右チャネル間クロストークは、10Hz〜100kHzの範囲で-90dB(すなわちノイズレベルと同じ)を維持しています。-90dBを割るのは300kHzあたりからです。

歪み率は予想したとおり非常に低く、測定限界が0.03%〜0.04%程度である我がオンボロ測定機材では、正確な測定ができませんでした(右図)。すくなくとも、出力電圧が8Vまでは0.04%以下です。差動回路の威力、ただならぬものがあります。手持ちのオーディオ・ジェネレーターから得られる最大電圧が4Vどまりなので、8V以上の出力電圧における測定はできませんでした。

どうも、この測定値は誤りなようです。実際はこちらのレポートのような特性になると思われます。


■コメント

実は、製作途中でひとつ失敗をやりました。

製作は、(私なりの)セオリーどおり、手順を踏んでこまめに通電テストをしながら進めました。電源部が完成し、アンプ部の配線がプレート回路側と定電流側の両方ができたところで、DC動作テストをしようと思って電源をONしました。各部の電圧を測定していてびっくり、共通カソード電位が100Vくらいあります。そう、グリッド側が未配線でアースから浮いていたのです。グリッドオープンになっていたために、直列になった6DJ8と定電流ダイオードとの電圧配分が狂ってしまいました。結局、定電流ダイオードが破壊して駄目になりました。

さて、試聴報告です。私は、HomePage上では滅多に試聴レポートは書かないのですが、今回は特別サービスです。

このライン・プリ・アンプ、実にまっとうな音がします。色づけ感はなく、太い音は太く、芯のある音には芯があります。あたりまえのことなのかもしれませんが、こういう音がなかなか出せなかったりします。個性を主張しないのに、存在感がある音というのが私のいつものテーマです。問題があるとすれば、定電流ダイオードが原因と思われるサーッというノイズのレベルが思ったよりも高いことです。負帰還のおかげで目立たなくなりましたが、無帰還状態ではちょっと気になります。

→このCRDは後に低雑音性能の優れた2SK30A(GRランク)に置き換えられました。


■改修

<入力セレクタの追加>

本アンプは、当初は、差動ライン・プリアンプの実験機として軽い気持ちで製作したために、入力は1系統しかなく、2つ以上のソースに対応できていませんでした。そもそも、少々厚手のスチール・シャーシを穴あけ加工しようなどという根性の持ち合わせなどありません。使用したシャーシには、あらかじめRCAジャック1個ごとに直径1cmの穴1個を用意していたので、プリアンプに流用する時に2個の穴を追加して開けました。しかし、スチール・シャーシに直径1cmもの大きさの穴を開けるのは大変な重労働で、作業を終えた時にはもう金輪際こんなことするもんか、と思ったくらいです(私は力なしなんです)。

しかし、ライン1系統の入力では流石に実用性がないことがわかり、なんとか改造できないものかと思っていました。6個分のRCAピン・ジャック穴を(新たに工具など購入しないで)どうやって楽して開けるかが最大のテーマでした。どうせ試作アンプだし、少々みっともなくてもいいや、ということで「6個付きRCAジャック板をスペーサで浮かせて取りつけてしまう」といういかにも安直なる方法を思い付きました。これならば、直径3.0〜3.4mmの穴4個だけて済みます。なお、正面パネルが側にもロータリー・スイッチ用の2つ開けました。恥を忍んで、画像を公開いたします。

<バス・ブースト回路の追加>

もうひとつのテーマは、バス・ブースト回路の追加です。なんでこんな回路が必要になったかというと、実家から掘り出して改造を施したFOSTEX FE103S搭載の旧foster製のBF103Sの低域がさっぱりだからです。バスレフに改造して低域が強化されたにもかかわらず、外見がほぼ同じ密閉型のROGERS LS3/5Aとは比較にならないくらい低域がプアであり、このままでは実用になりません。

そこで、100Hz以下の帯域で目立たない程度のバス・ブーストを行うことにしました。なお、他の小型スピーカにも適用できるように2段階切り換えとします。回路はごくシンプルなもので、負帰還抵抗と直列にCRを追加し、これをスイッチでOFFと2段階のブーストに切り換えられるようにしています。

回路は、負帰還部分を右図のとおりに改造しました。100kΩと56kΩで構成6dB)と、そこに「0.022μFと2MΩ」を追加して「0.037μFと438kΩ」にした場合(+3dB)をスイッチで切り換えられるようにしています。

なお、仕上がりの周波数特性は下図のとおりです。+3dBポジションでは100Hzではほとんどフラットのままなので、ちょっと聞きにはわかりません。+6dBポジョンだと小型スピーカーでも心持ち効果を認識することができます。

上の特性グラフには高域特性のデータも追加しています。このデータは、プリ出力側に約2mのシールド線(推定容量200〜300pF)を負荷として与えた時のものです。260kHzあたりで-3dBの減衰がみられます。

線が3本あるのは、音量調整ボリュームの位置による変化がわかるようにしたためです。青い線は、音量調整ボリュームが12時方向の時で、赤い線は、-6dBの減衰が得られた時(3時くらい)のもの、黒い線がmax時です。実用上は何の問題もありませんが、音量調整ボリュームによって生じる回路インピーダンスの上昇と、真空管の入力容量とによってこのような変化が生じます。一般には、max時のデータを載せますが、実際にはこのような変化が生じているのです。

→この定数では我が家の小型スピーカーでは物足りなかったので、0.015μFは0.01μFに、0.022μFは0.015μFに変更されています。お好みで調整してください。


■内部画像

参考にために内部の画像を掲載します。茶色のフィルムコンデンサが4個見えますが、実際に使用しているのは2個だけです。真空管は金属ケース内にあるためシールドケースは使っていませんが、外に出る場合は必ずシールドケースを使ってください。ボリュームまわりにごついシールド線を使っていますが、左右を密着させなければシールド線は不要です。


プリアンプを作ろう! に戻る