差動ライン・プリアンプ(トーンコントロール付き)
Simple Tube Differential Line Pre Amplifier with Tone Control
差動ラインプリ用のトーンコントロールの設計がようやくできましたので、早速、組み込んでみました。やや間抜けな顔立ちですが、ご愛嬌ということで。加えてアンプ部の回路定数を若干見直しています。初期バージョンと比べるとアンプ部の電源電圧を下げ、プレート電流を若干増やしめにしてあります。この程度の変更では、おそらく音は変わらないと思います。また、カプラを使った過渡電圧防止回路も組み込んであります。
おなじみの6DJ8/6922差動ラインプリの回路の負帰還回路にトーンコントロールを追加した格好になっています。入力周りは特に説明を要しないと思います。6DJ8/6922の動作条件を若干変更しており、初作ではプレート電流が4.2mAくらいであったのを5.5mAまで増やしています。定電流特性には11mAが必要ですので、選別した2SK30GRを3本ずつ動員しています(選別&リード線加工した2SK30GRは頒布しています)。それにともなってプレート負荷抵抗を20kΩから15kΩに変更しています。トーンコントロールを追加したことで、従来よりも負荷が重くなるので気持ちだけ配慮したと思ってください。
トーンコントロール部の回路に関してはこちら「tc2.htm」を参照してください。詳しい解説があります。各管のグリッドのところに2.2MΩの抵抗器が入れてあるのは、ロータリースイッチの接触の具合でグリッドがアースから浮いてしまう瞬間ができかねないのでアース電位確保に確実を期するためと、音量調整ボリュームの劣化による接触不良への手当てです。こうした配慮を重ねてゆくことで回路全体の信頼性が向上します。
プリ出力に負荷と並列に入っているCdsは、電源スイッチON/OFF時の過渡電圧を防止するミュート回路のカプラ内臓のCdsです。電源スイッチをONおよびOFFにした直後だけ1.3kΩくらいの抵抗値まで下がり、数十秒かけてゆっくりと∞まで戻る動きをさせることで、プリ出力側に現れる有害な過渡電圧を抑止しています。従って、通常動作時には100MΩ以上の抵抗値になっているので負荷にはなりません。
電源は、V+側は電源回路ループに信号が流入するため左右独立して振り分けていますが、V-側は定電流回路が有効に信号を遮断してくれるので左右共通です。
電源トランスには、頒布中の1Uサイズの特注電源トランスを使いました。これ以外にも若干回路定数を変更することで春日無線変圧器製のKmB90Fが使えます。電源回路そのものはミニワッターで採用した回路をそのまま使っていますので、詳しい説明は「真空管アンプの素」(技術評論社)にあり、こちらにも簡単ながら説明があります。
1U電源トランスの3つの巻き線(120V、24V、24V)をすべて直列にしてブリッジ整流すると244Vが得られました。これを2SK3767による簡易リプルフィルタでほとんどノイズのない208Vの電源をつくり、アンプ部の左右チャネルに供給しています。回路図で、電源トランスのコアの点線部分から線が出てシャーシアースされていますが、これは1U電源トランスが静電シールドを持っているためで、静電シールドはアースにつなぐか最寄の適なところでシャーシアースしてください。KmB90Fは静電シールドがないのでこのような端子はありません。
ヒーター回路は、14Vをブリッジ整流してから簡易なCR2段のリプルフィルタでそれなりに残留リプルを除去した12.6V(回路図上は-12.7V)をつくり、直列に接続した2個の6DJ8/6922のヒーターを点火しています。このヒーター電源はマイナス仕様になっており、もう1段のリプルフィルタを経て差動回路のマイナス電源としています。このマイナス電源の電圧変化を使って、電源スイッチON/OFF時の過渡電圧を防止するミュート回路も動作させています。過渡電圧防止回路のしくみについてはこちらを参照してください。回路図にはありませんが、12.6Vを使って電源スイッチ組み込みのLEDを点灯しています。LED点灯のためのドロップ抵抗は2.7kΩで、LEDに流している電流は約4mAです。
1Uサイズプリ用電源トランスの製造&頒布は終了しました。より残留磁束が少ないRコアの電源トランスを作って頒布します。新たに作るRコアの電源トランスは定格が異なるので、それにともない電源回路および記事を変更します。
電源トランスにKmB90Fを使う場合は、185V巻き線をブリッジ整流します。整流出力電圧は本機の244Vよりも10Vほど高くなると思いますので、2SK3767のところの220kΩを330kΩに変更してください。また、ヒーター巻き線は14.5Vタップを使えば、本回路とほぼ同じ回路定数でいけると思います。もしヒーターへの供給電圧が13V以上になるようでしたら、3.3Ω/2Wを3.9Ω/2Wあるいは4.7Ω/3Wに変更するなどして電圧を調整してください。
アンプ部の平ラグパターンは以下のとおりです。
電源部の平ラグパターンは2通りあります。上が推奨パターンで頒布部品に対応しており、下は実際に製作したパターンです。実際の製作では手持ちのコンデンサや抵抗器を流用したためこのようなことになっていますのでこれを真似する意味はありません。なお、いずれのパターンにおいても、ジャンパー線はリプル電流の経路を考慮して引いています。何故このようなパターンになったのかを考えると結構面白いものが見えてくるかもです。
内部の全景。
電源回路ユニットから出ている線はそれぞれ、V+電源(赤・黒)、ヒーター電源(青・白)、マイナス電源(黒・白)です。前後パネル裏の様子。
入力セレクタスイッチの配線が入り組んでいるのは、接点の信頼性を高めるために余った2回路を並列につないでいるからです。なお、この位置に入力セレクタスイッチを取り付けると、トランスカバーを止めるビスがはいらなくなります。どうやってそのビスを締めるか作戦がいります。上面の様子。
トランスから出ている緑色の線は静電シールドなのでトランス固定ネジのところでシャーシアースしてあります(わざわざ後ろまで延ばさないですぐそばのビスに止めればいいのに、と後になって気づきました)。この電源トランスは端子板タイプではないので、スパークキラーはラグを立てて取り付けるようにしないと行き場がありません。真空管にはシールドケースを使っていますが、はずしても実用上の不都合はありませんでした。ボリュームやロータリースイッチには回転止めの突起がついています。これを生かすにはパネル側に穴を開けるわけですが、ツマミのサイズが小さいと開けた穴が丸見えになってみっともないので、こんなものを作りました。ホームセンターで売っている2mm厚で幅20mmくらいのアルミ材を切って加工しています。冒頭の画像のようにトランスカバーに組み込む場合は、ロータリースイッチがトランスカバーの内側の折り曲げ部に当たらないようにしないと収まりが悪いので、アルミ材の長さや配置決めは慎重に行う必要があります。適当なところに穴を開けると失敗します。ロータリースイッチの回転止めの突起が互いに内側を向いているのもそれが理由です。ALPSのM型ロータリースイッチの取り付け穴は9mm径、ストッパー用の穴は2.8mm径、穴と穴の間隔は13mmです。RK27型ボリュームはそれぞれ8mm径、3mm径、10mmです。
トーンコントロールを構成するCR類はすべてロータリースイッチ上に空中配線風に盛り付けてしまいました。一応説明しておきますと、アースにつなぐべきものはすべてH字型になった銅線につないでありますので、ここから線を1本出してアンプ部のアース(GND)につなぎます。中央の紫と茶の線は6DJ8/6922のグリッドにつなぎます。H字でない銅線が2つ見えますが、これをプレート(プリ出力)につなげば本ユニットの配線は完了です。これを1回できれいに仕上げるのはまず無理で、私の場合も1回やってみて様子がわかったら、取り付けた部品をすべて取り外して廃棄し、ハンダをすべて除去して一からやり直しました。
これは何をやっているかというと、RCAジャックのアース側のリングの向きが揃うように前加工をしているところです。シャーシの穴を利用して位置決めし、銅単線でつないでハンダづけしてすべてがつながったワンセットを作るわけです。こうしておくと、RCAジャックを取り付けた時にアース側のリングが勝手にあさっての方向を向くことがなくなります。
測定条件は以下の通りです。
・プリ出力に47kΩの抵抗負荷。歪み率特性はご覧のとおりです。典型的な差動回路の特性傾向が現れています。残留ノイズは歪み率測定時には約100μVありましたが、使っているうちに50μV以下になりました。新品の真空管はおしなべてノイズレベルが高めでノイズの性質も耳につきますが、数百時間以上経つとノイズレベルは徐々に下がり、ノイズの性質も耳障りのよいものに変化します。よくエージングで音が変わるという人がいますが、私は音そのものが変わるのではなくノイズの性質の変化がそのように感じさせる理由だと思っています。本機の残留ノイズにハム成分はほとんどありません。
・周波数特性の測定は0dB=1V。
・歪み率特性の測定では80kHzの帯域フィルタ。
フラット時の周波数特性は、10Hz〜100kHzで見事に平坦になりました。帯域特性は2.5Hz〜550kHz(-3dB)です。本機のトーンコントロールはディフィート(無効化)されないで常にCR素子が効いた状態ですから、ここまでフラットにできるとは思っていませんでした。なお、100kHz以上の帯域の特性は、実装における浮遊容量の影響を受けますので、無駄に線を這わせると高域側にピークが生じたり、あるいはもっと低い周波数から減衰がはじまります。
トーンコントロールの特性は以下のとおりです。ほぼ設計どおり、予測どおりの結果が得られています。一般的なトーンコントロールの増減範囲よりも控えめですが、効き具合は十分です。
作って聞いてみるのが一番ですが、これを作ってみようと思案されている方のために私なりの感想を書いておきます。音そのものはトーンコントロールを追加しても変わることはありませんでした。いつもの差動ラインプリの音です。厳密に言えば、特性はフラットであっても周波数帯域によってコンデンサが関わっていますから、音は変わる可能性があります。
トーンコントロールの効きかたですが、今までメーカー製のアンプについているトーンコントロールで聞き慣れたものとはかなり印象が違います。低音や高音をブーストあるいはカットするというよりも、帯域は確保されつつ音のバランスが変化するように聞こえます。Quad 44プリに「TILT」という機能がついていますが(右画像)、これに似た変化が得られます。
たかだか2ステップで±6dB程度の変化ですがこれで不足は感じませんでした。というより、±10dB以上の変化が得られるトーンコントロールで、めいっぱいまわして使うことなどないわけですから実質的には±6dBもあれば十分、もっとあるいは少なくてもいいのではないかと思います。