6B4Gシングル・アンプ
6B4G SE Amplifier


2A3のフィラメント6.3V版6B4Gを使ったステレオ・シングル・アンプです。本アンプは、図々しくも「無線と実験」主催第7回自作アンプコンテスト(1995年春に開催)に参加し、からくも本選に残りましたのでご存知の方もいらっしゃるかと思います。

このアンプは最大出力(5+5W)ですが、それ以上のパワー感があり、中域にキレがあります。同時に、2A3特有の図太さの片鱗も持ち合わせていますが、2A3ほどの重さはありません。これは、6B4G共通の特徴ではないかと思います。音場感があり、どんなソースであっても卒なくこなします。本機の回路をそのまま(あるいは若干工夫されて)製作された方々からの評価は高く、2A3系の出力管を使ったシングルアンプとしての完成度は高いと思います。

本機は、1989年9月に完成し、1998年の今日に至るまでほとんど毎日のように我が家のあらゆる音声(テレビ、CD、LD、Video、Tape)のためのメイン・システムとして稼動しています。稼動をはじめて21000時間を経た今日(1998年2月)でもすべての真空管・すべての部品が製作時のものが健在です・・・が、最近(1999年)では、6AH4GT全段差動ppアンプに、主役の座を奪われてしまっています。そのあたりが、シングル回路の限界ではないかとも思っています。しかし、古典的な回路を踏襲するのではなく、現代の水準をめざした本機の考え方は参考になると思います。

The theme of this project is to get over 5 watts from 6B4G, wide frequency response from 10Hz to 100kHz and contemporary sound character using very low rp dual triode 5687. The reason of success is to use TANGO's OPT XE-20S, well known as good Japanese SE OPT.



■特徴

<初段・ドライバ段>

2A3(6B4G)をフルドライブするには、十分に低い出力インピーダンスと高い出力電圧が得られるドライバ段が必要です。6AU6や6SJ7のような高利得の5極管も、12AX7のような高利得の3極管も、いずれも出力インピーダンスが高いために、最大出力付近ではドライバ段が先にへばってしまいます。また、2A3(6B4G)のような3極出力管はグリッド入力容量が大きい(ミラー効果のせいで50pF以上ある)ために、ドライバ管の出力インピーダンスが高いと、高域特性が目立って劣化します。このような悪条件下では、あとで負帰還をかけてみかけ上の特性を改善しても、アンプの素性の悪さまでは改めることは困難です。

低い出力インピーダンスが得られる回路の代表格は、カソードフォロワです。実は、当初は本機の回路構成は、12AX71段増幅+6FQ7カソードフォロワでした(下図)。

しかし、この構成ではいくつか問題が生じました。まず、12AX7/ECC83単一ユニットでは十分な利得が得られない(せいぜい60〜70倍程度)ために、総合利得とのバランス上負帰還をかける余裕がほとんどありません。我が家のプリアンプは、ライン入力からプリ出力までの利得が「1」なので、メインアンプの利得があまり低いと困るのです。また、12AX7/ECC83に封入されている2つのユニットを左右チャネルに振り分けて使用したことによる、高域における左右クロストークの劣化の問題も出てしまいました。

製作当初の構成↓

リファインされた最終構成↑

この問題を解決すべく、超低内部抵抗管5687の2段増幅としたのが上図の構成です。ある程度のオーバーオールの負帰還(6〜10dB)をかけたかったので、超低域の安定度も考慮すると、低域時定数の数は2つ以内におさえたいところです。となると、3段構成のアンプでは、どこか1個所を直結としなければなりません。本機では、初段とドライバ段との間を直結にしています。

ところで、低内部抵抗管といえば、12AU7や6FQ7(6SN7GT)などが思い浮かびます。電源電圧が十分に高ければ、12AU7や6FQ7でも出力段に余裕を持って信号を送り込むことができます。しかし、初段とドライバ段との間を直結にすると、ドライバ段のカソード電位が高くなった分、ドライバ段が有効に使える電源電圧が目減りしてしまいます。あまり高くない電源電圧でも効率良く高い出力電圧を得るためには、できるだけ内部抵抗の低い球であることが望ましいですから、超低内部抵抗管5687の起用となったわけです。

5687(右写真)は内部抵抗がたいへん低い球で、12AX7と同じサイズのコンパクトなガラス管でありながら大型出力管並みの太くたくましいカソードと、6.3V/0.9Aというヒーター電力(なんと6L6と同じで6V6の2倍!)を食います。本機では、低い内部抵抗の良さを失わないように初段カソード抵抗を低い値(33Ω)に抑えています。この抵抗値が大きいと、初段の内部抵抗が上昇してしまい、ドライバ段の入力容量の影響で高域特性を損ねる原因となります。33Ωでもまだ大きいくらいです。

初段はちょっと変則的な固定バイアスとなっています。初段管のバイアスを可変にすることで初段プレート電圧をコントロールし、ドライバ段の動作条件を一定の範囲に収めることを考えています。そのため、カソード抵抗および並列に挿入されるケミコンが必要なくなっています。自己バイアスの場合も固定バイアスの場合もコンデンサの数は同じですが、前者ではNFBループ内にケミコンが1個はいるのに対して、後者ではフィルムコンがNFBループの外に1個だけとなるわけで、この違いのアンプのクォリティに及ぼすメリットはすこしくらいはあるのではないかと思いましたが、後の実験では大した差はないことがわかりました。

初段およびドライバ段のロードラインは左図のとおりです。初段は、「直流負荷抵抗値=交流負荷抵抗値」になりますのでロードラインは1本だけですが、ドライバ段は、交流負荷としては6B4Gのグリッド抵抗も並列に加わりますのでロードラインは直流用の20kΩと、交流用の14.7kΩの2本になり、その交点が動作中心点になります。

ドライバ段は6B4Gグリッドに対して150Vp-pを余裕を持って送り込む能力を持っています。あとになって気づいたことですが、このような回路の場合、初段5687のプレート電圧は55Vくらいでも問題なく、本回路のように70Vくらいあるのはドライバ段5687のカソード電圧が高くなりすぎてよくありません。同じようなアンプを作られる方は、初段5687のプレート電圧が57V前後になるようにバイアスをやや浅くし、ドライバ段5687のカソード抵抗値は10KΩとするのがおすすめです。

このような直結構造とした場合、電源ON直後の十数秒間、初段プレート負荷抵抗を介してドライバ段グリッドにかなりの高圧が印加されます。少々気にはなったのですが、実際に運転してみたところ5687の寿命に影響はないようです。気持ちとして、39kΩと270kΩとの分流回路を挿入して、わずかでも印加される電圧を下げる工夫(とまでいえないか)をしました。

本機では、直熱3極管アンプ特有の現象として、ドライバ段で発生する2次歪みの割合が、出力段で発生する2次歪みの割合よりも高くなっています。いいかえると、ドライバ段による出力段の2次歪みの打ち消しは「過剰」になっており、アンプ全体の2次歪みを低くするにはドライバ段にこれ以上歪んでもらっては困ります。ですから、ドライバ段5687のプレート負荷抵抗(20KΩ)をこれ以下の小さな値でにはできません。前述した初段プレート電圧を57V程度とすることは、わずかでもドライバ段5687の有効電源電圧を高め、Ipを増加できてよりrpの低い領域での動作となり、結果的にドライバ段の2次歪みをわずかですが下げる方向に働きます。

<出力段>

直熱3極管6B4G(右写真)は、ひらたくいえば2A3を特性そのままにフィラメントを6.3V化し、ついでにベースもUSオクタルにつけかえた球です。従って、外見も電極構造も2A3そのものですが、製造時期が比較的新しいために、高い真空度が得られていると伝えられています。2A3の場合は、交流点火しても残留ハムは実用上無視できる程度に低いですが、6B4Gを交流点火すると、いくらハムバランサを調整してもハムを抑えることはできません。製作当初は、「なんとかなるだろう」くらいに気持ちで交流点火してみたのですが、流石にどうにもならなくてすぐに直流点火回路を追加しました。

本機で使用したのはSYLVANIA製の6B4Gで、熱によるフィラメントの膨張・収縮をカバーできるように、細いスプリングで吊られています。球としての出来は、SYLVANIA製がいちばんではないでしょうか。旧ソ連製の6B4Gもかなり出回っており、こちらはフィラメントが吊られていないために、電源OFF後の球の冷却時にフィラメントとマイカがこすれてパリパリピンピンと音がします。英国Zaerixブランドや米国National-Electricブランドで売られています。この6B4Gは、同じプレート電流を流した時のバイアスはやや深めに出ます・・・つまり、ちょっとだけ感度が悪いです。

また、6L6GCのようなズンドウのガラス管に封入された傍熱風の6B4Gも出回っていますが、この中味は実に別の傍熱管の流用です。直線性が著しく劣るだけでなく、特性も相当に異なっているので、再調整なしに差し替えるのはおすすめしませんし、シングルで使用すると歪みは相当に高めにでます。

さて、RCA発表の2A3/6B4Gの一般的な動作条件は、Ep=250V、Ip=60mA、RL=2.5kΩとして広く知られています。それに反して、本機では負荷抵抗がかなり高め(5kΩ)になるような動作条件(Ep=310V、Ip=48mA、RL=5KΩ)にしています(右下図青線)。使用した電源トランスTANGO LH-150の2次巻線出力電圧がかなり高い(280V、300V)のと、取り出せる直流電流に限度がある(140mA)ため、高圧高負荷インピーダンスとなるような動作条件を選択せざるを得なかったからです。

しかし、5kΩ負荷の動作の方が電源利用効率が高くなるために、2.5k御Ω負荷の動作より大きな出力が得られます。一方で、バイアスが深くなり(約60V)、入力感度が低下して最大出力を得るための入力電圧がより高くなってしまいました。ドライバに起用した5687はこのようなきびしい要求によく応えてくれており、立派に6B4Gをフル・ドライブしています。私見ですが、2A3/6B4Gのシングル動作では、Ep=285V、Ip=52mA、RL=3.5KΩあたりの動作がもっともバランスが良いのではないかと思います。

シリコン整流の電源を持った直熱管アンプの常として、電源ON直後に、6B4Gのプレートには高圧(本機では390V)が印加されます。一方で、固定バイアスのマイナス側の電圧はやや遅れて立ち上がりますから、ほんのわずかの時間ですが、プレートに高圧が印加された状態なのにバイアスはまだ浅いまま、という状態になります。本機の場合、(邪道かもしれませんが)出力管カソード側に100Ωの抵抗を挿入して(コンデンサでバイパスさせている)、こういう状態におけるプレート電流の極端な増加を防いでいます。2A3/6G4G族の許容最大プレート電流は120mAということになっていますが、本機では、電源ON直後の過渡的な最大電流は100mAです。

<電源>

B電源は、シリコン・ダイオードを使用したごく普通の両波整流です。2つのトランジスタが内部的にダーリントン接続された構造を持つ高耐圧トランジスタ2SD799を使用したリプル・フィルタを挿入しています。トランジスタ・リプル・フィルタの効果は絶大で、B電源の残留リプルは1mV以下です。

高圧回路でのトランジスタ・フィルタは、実装時の扱いに注意がいります。400Vもの電圧がかかるコレクタの冷却フィンを、薄い絶縁シートを介してシャーシ等に密着させることになるだけでなく、電源ON直後の過渡電流が異常に大きくならないような設計もしなければなりません。トランジスタの取り付け穴の加工時に残っていたわずかなバリが、絶縁シートを貫通してコレクタとアース間のショートを引き起こしてしまうことがよくあります。そして、2SD799のエミッタ側にいきなりケミコンを挿入してしまうと、電源ON時にケミコンを充電しようとする過渡電流のために、トランジスタは瞬時に破壊してしまいます。

トランジスタの扱いに慣れていない方の場合は、トランジスタ・フィルタの代わりに、150Ω/7〜8Wの抵抗で代用されることをおすすめします。リプル・フィルタ効果は減りますが、実用上差し支えない程度のフィルタ効果は得られます。もちろん、抵抗の代わりに数Hのインダクタンスを持ったチョークを挿入してもかまいませんが、チョークは値段が高いくてかさばる割に数十Hzの超低域では無力なので私は使いません。回路図のページに、トランジスタ・フィルタを使わない参考回路もあわせて載せておきましたので参考にしてください。

6B4Gのフィラメントは、ブリッジ整流と簡単なリプル・フィルタによる直流点火です。6.3Vをブリッジ整流してヒーター電流を取り出すと、6.3Vよりも少しだけ高めの電圧が得られます(電源の設計その4 (リプル・フィルタ回路の基礎/後編)を参照)ので、ブリッジの出力トランス側に0.3Ωを入れることで、最終的に6.2V〜6.3Vに収まように調整しました。

ここで使用したシリコン・ブリッジ・ダイオードは相当に熱を持つため、シャーシ壁に圧着して取り付けています。フィラメント回路の残留リプルは150mV程度ありますが、16Ω出力における残留ハムはAカーブ補正なしでも0.1mVとなっておりこれで十分です。ハム・バランサを慎重にまわしてゆくと、ハム・レベルががくっと下がる一点があります。

各段のB+側には、それぞれデカップリングのためのパスコンを挿入してあり、電源を経由しての段間・チャネル間の信号の洩れを抑えています。10Hzでのクロストークが70dB以上とれているのはそのためです。

本ホームページのあちこちで繰り返し述べていますが、1つの電源を左右両チャネルで共用することによる低域でのクロストークの悪化ろ、それが音に与える影響は想像以上のものがあります。時々、雑誌記事で「クロストーク改善のために左右共通電源に200μF以上のケミコンを挿入した」という表現を見かけますが、その程度の対策では残念ながら不十分だと思っています。10Hzでのクロストークが40dB以下のアンプと60dB以上とれているアンプとでは、これが同じ球、同じ回路かと思うほど、低域の音場感・品位・解像度に違いがあります。これは、誰がやってもすぐにわかるくらいはっきりと認識できます。球やOPTそれに抵抗器やコンデンサにお金をかけるのもいいですが、回路上の基本的な工夫を欠いた投資というのはもったいないように感じます。

<調整>

初段のバイアスは、ドライバ段のカソード電圧を測定しながら、プレート電流が「6.3mA」となるように調整します。本機では(くだらないところで私の不精癖が出てしまい)バイアス調整用ボリュームが1つしかないため、左右CHごとの厳密な調整はできませんが、左右CHともにだいたい揃っていればよしとしました。カソード抵抗を10kΩに変更した場合のプレート電流は「6.5mA」にしてください。こちらの方がわずかですがドライブ力に余裕ができます。ちなみにカソード抵抗12kΩ、プレート電流6.3mAのときのカソード電圧は「75.6V」で、カソード抵抗10kΩ、プレート電流6.5mAのときのカソード電圧は「65V」です(くどくてすいません)。

出力管のプレート電流は、カソード側の100Ωの抵抗の両端電圧を測りながらバイアスを調整して調整したらいいでしょう。本機では、アンプをひっくり返さなくても調整作業ができるように、100Ωの一端をシャーシ上面にちいさな端子で出してあります。カソード電圧は、申し上げるまでもなく「4.8V」です。

さて、位相補正ですが、出力トランスTANGO XE-20Sの超高域特性はすばらしく素直で、負帰還抵抗820Ωに1500pFを抱かせただけで、100kHzまでフラットかつ1MHzまでなだらかな減衰特性とすることができ、「暴れ」はありません。実に良くできた出力トランスだと思います。出力トランスが異なる場合は、1500pFの値を増減して調整します。オシロスコープがなくても、100kHz〜1MHzの周波数特性の乱れ具合をみることで調整は可能です。むしろ、オシロスコープだけで調整しないで、必ず周波数特性でも確認してください。

さらに念のために、(負帰還アンプのエチケットとして)16Ω出力端に15Ω+0.068μFを並列に入れてあります。これがないと、負荷の状況によって超高域で波形が乱れたり動作が不安定になることがあります。


■構成および各段の動作条件

初段ドライバ段出力段
使用真空管(Tubes)5687(1/2) NEC通測用5687(1/2) NEC通測用6B4G Sylvania
バイアス方式(Bias)固定バイアス(Fixed)前段と直結(DirectCoupled)固定バイアス(Fixed)
電源供給電圧(Eb)208V336V320V
プレート電圧(Ep)・・P-K間電圧69V133V310V
プレート電流(Ip)2.8mA6.3mA48mA
バイアス電圧(Eg1)-3.8V-7V-58V
負荷抵抗(RL)51kΩ20kΩ(交流負荷は14.7kΩ)5kΩ
出力トランス(OPT)--TANGO XE-20S

■回路図

<アンプ部>

<電源部>

<電源部(部分)・・トランジスタフィルタを使わない場合>

抵抗の表示--------100Ω、1K、1M
コンデンサの表示---1500pF、0.068、10/25


■特性

<まとめ>

裸利得(RawGain)32.0dB-
最終利得(Gain)23.5dBNFB=8.5dB
周波数特性(FrequencyResponse)10Hz〜110kHz+0dB/-1dB
クロストーク(CrossTalk)64dB10Hz〜20kHz
出力(OutputPower)6W5%歪み at 1kHz
歪み率(Distortion)0.1%0.1W at 1kHz
0.22%1W at 1kHz
1.2%5W at 1kHz
ダンピング・ファクタ(D.F.)9〜11.410Hz〜30kHz
残留雑音(Noise)0.12mVL-ch,R-ch同一値(Aカーブ補正なし)
雑音成分のほとんどは出力管のフィラメントが拾ったハム
消費電力79WAC100V

<周波数特性>

右図の見方ですが、細い線が無帰還、太い線が8.5dBの負帰還をかけた時の特性です。0dB=1V(16Ω)ですから、この時の出力は0.0625W、10dBの時が0.625W、17dBの時が3.13Wにあたります。

無帰還状態で20Hz〜100kHzまで伸びており、100kHz以上では素直なダラ下がりになっています。400kHzあたりにちいさなコブが見えるので、負帰還をかけた時にこれが暴れなければいいなあ、と思います。

NFBをかけても、10Hzから1MHzまで実にスムースな特性であり、目立ったピークやディップがありません。TANGO XE-20SがいかにすぐれたOPTであるかがうかがい知れます。

10dBではみていにフラットに見える低域特性も、17dB時に30Hz以下で減衰が始まっているのは、出力トランスのコアの飽和によるものなので、より多くの負帰還をかけても改善されません。こればかりはシングル回路の宿命であり、XE-20Sの限界です。

測定条件:16Ω負荷時、0dB=1V、R-ch

<左右チャネル間クロストーク特性>

左右チャネル間での信号の洩れは、思わぬルートから発生します。

本機では、初段と出力段の固定バイアスのためのマイナス電源を伝って、わずかながら超低域でのクロストークが生じました。しっかりとしたデカップリングはB+電源だけでなくマイナス電源にも必要であることを学びました。

出力段のマイナス電源のデカップリング・コンデンサの容量を増やしたところ計算どおりの改善が得られましたが、それでも15Hz以下で若干の低下がみられます。

本機では、1つのシャーシ上で左右チャンネルがまぜこぜに配置されているため、高域でのストレーキャパシティの影響が生じやすくなっています。そのわりには高域でのクロストークの悪化がそれほどひどくないのは、回路インピーダンスが低い(5687の内部抵抗が極端に低い)おかげです。内部抵抗が、5687の10倍以上高いECC83/12AX7や6SL7GTではこうはいきません。

<歪み率特性>

RCA発表の2A3シングル動作の3.5W(歪み5%)がよく知られていますが、本機では3.5W時で0.6%です。負帰還(8.5dB)による歪みの低減効果を差っ引いてもかなりの低歪みであり、5%歪み時では出力が6Wもとれています。A1級動作であっても、設計のしかたひとつで2A3(6B4G)から無理なく質の良い5Wが得られるのです。

100Hzでの悪化もごくわずかで、100Hz、1kHz、10kHzがこれだけきれいに揃ってくれれば文句はありません。

また、ドライバに5極管や12AX7のような高内部抵抗管を使用した場合では、最大出力付近での歪みはもっと悪化し、しかも取り出せる出力はずっと小さな値になります。

測定条件:16Ω負荷時、R-ch

<D.F.特性>

自宅では、Rogers LS3/5Aという小形のスピーカを使用しおり、この気難しい贅沢者のスピーカから質の高い低域を取り出すためには、やや高めのダンピング・ファクタが必要なことがわかりました。本機のダンピング・ファクタが10程度と一般の真空管アンプよりも高めなのはそうした事情によるものです。

左右チャネルでのアンバランスは、出力管6B4Gの内部抵抗と利得のバラツキによる負帰還量の違いが大きな原因です。


■ハラワタ

電源トランス(PT)が左上に見えており、ブロック電解コンデンサは、その手前に4個並んでいます。PTとブロック電解コンデンサの間に、シリコンダイオードが4個見えています。リプルフィルタ用の高耐圧トランジスタを1個使っていますが、これはブロック電解コンデンサの左側のシャーシ側面に固着しています。

問題は出力管のフィラメント直流点火電源で、ダイオードブロックは、PTのとシャーシ側面の隙間のシャーシ側に2個固着して放熱させています。リプルフィルタ用のコンデンサは、左手前のシャーシ側面に固定しています(黒い筒が2つ見える)。これで、電源回路一体は完全にすし詰め状態になりました。

初段/ドライバ段の2本の5687は手前側にあんるため、初段/ドライバ段の回路はすべてシャーシ手前の側面のラグでまかなっています。これもひどいすし詰めです。

中央には、縦に並んで出力管の白いソケットが見えます。その脇の大きく丸いのが、フィラメントのハム・バランサです。出力管周りの回路部品は、出力管の周囲に貼り付いています。OPTは、右側に縦に並んでいます。右上にネジ止めのハモニカ・ターミナルが見えますが、これは出力インピーダンスの切り替え端子です。本機では、スピーカのインピーダンス切り替えは、シャーシ裏蓋をはずして行います。

シャーシ右奥には、負帰還回路がシャーシ側面にあり、その左をたどってゆくとマイナス電源があります。全体としてみると、左右チャネルが入り組んだ構造になっていますが、5687の低rpのおかげなのか、左右チャネル間のクロストークはほとんど劣化していません。ちなみに、アース母線はありません。


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