シャーシサイズ:250mm×150mm×40mm
「EL343結シングル・アンプその2」の問題点のひとつは、ドライバ段が低歪みになった分、出力段の2次歪みの打ち消し効果が減退して、かえってトータルの歪みが増えてしまったということでした。どういうことかというと、ドライバ段プレートから初段カソードに約6dBの負帰還をかけてるため、ドライバ段のが結構低歪みになっています。このことは、良さそうにみえて実は良くなかったのです。EL34(3結)は、傍熱管にしてはなかなか優れた直線性を持っていますが、それでもかなりの2次歪みを発生するため、ドライバ段である程度の2次歪みが発生してくれた方が都合が良かったのです。今回の改造は、この2次歪みの打ち消しがテーマです。本機での経験が「6G-A4シングルアンプその2」で生かされており、そちらのページで「ドライバ段と出力段との間での2次歪みの打ち消し」について詳細に述べたつもりです。
EL343結シングル・アンプその1からその3までの回路構成の変遷を以下にまとめてみました。「その1」は、ごくシンプルな2段構成。続く「その2・・当初」では、6FQ7の2段構成に変更したものの、低域で発振したりピークを生じたりの苦難の末、「その2・・修正」で一旦は安定したアンプに落ちつきます。
これは、よくあるいちばんシンプルなパターン。
これも、よく見かけるパターン。
ちょっと凝ったことをしたくなる歳って、あるもんです。
しかし、もう少し欲を出してさらなる改造を施したのが、本章でご紹介する「その3」です。
ドライバ段で発生する2次歪によって、出力段で発生する2次歪みがきれいに打ち消されたならば、3極管シングルアンプのトータルの歪みは相当に低減できます。傍熱3極管や傍熱多極管の3結では、45や300Bのような直熱3極管と比較すると、実に多量の2次歪みが発生します。どうあがいても直線性が悪いのです。従って、本機のような構成では、出力段で相当多量の2次歪みが発生しますから、ドライバ段ではそれを打ち消すことができるだけの充分多量の2次歪みが発生してくれなければなりません。6FQ7という球は、それなりに直線性の良い球なので、EL34の3結で発生する2次歪みを充分打ち消すことができるだけの2次歪みを得るのは少々困難です。
無理してドライバ段6FQ7を歪ませるのではなくて、出力段EL34で発生する2次歪みを少しでも減らしてやれば、打ち消し効果が高くなるのではないだろうか、というのが今回の改造のポイントです。出力段で発生する2次歪みを下げるもっとも簡単な方法は、局部帰還のなかでも特にカソード帰還です。
カソード帰還がかかると、出力段の2次歪みは帰還量に応じて低下します。そして、カソード帰還の副作用として出力段の入力感度が帰還量に比例して低下します。この副作用は、2次歪みの打ち消しに関してはとても都合の良い効果を生んでくれます。なぜかというと、出力段の感度が低下するということは、ドライバ段での出力電圧が高くないと困るということを意味しますが、6FQ7にとってより高い出力電圧を供給するということは、そこで発生する2次歪みが若干増加するということになるからです。3極管電圧増幅管における2次歪みは出力電圧に比例する、という特徴があるからです。
このことは、アンプの各段が無理をすることなく、アンプ全体での2次歪みの打ち消しバランスが良くなることにほかなりません。(うまくゆけば、の話ですが。)
まず、6FQ7の2段増幅にかかっている負帰還をはずします。これで、ドライバ段で発生する2次歪みは多くなりますが、これでいいのです。回路上の変更はこれだけですが、例の、高域で悪化したクロストークを少しでも改善するために、2本の6FQ7にはシールドをかぶせました。これで、5kHz以上の帯域でチャネル間クロストークは4〜13dBの改善ができました。
出力段にかかっているカソード帰還はそのままにします。これによって、ドライバ段で生じた2次歪みと出力段で生じた2次歪みとが「EL343結シングル・アンプその2」の時よりも、より効率的に歪みの打ち消しができるようになりました。さらに、ここで少し欲を出して、アンプの安定度を損なわない程度のごくわずかのオーバーオール負帰還をかけてみました。幸い、超高域でのアバレもなく、より良好な周波数特性となっています。
ただ、TANGO U-608という出力トランスは重量たったの700gのコアボリュームのない廉価版なので、0dB(=1V/16Ωすなわち0.0625W)の小出力領域であっても超低域ではレスポンスが低下しています。こればかりはいたしかたないでしょう。(特性データ参照)
電源回路も「EL343結シングル・アンプその2」と比較してさしたる変更はありません。
初段 ドライバ段 出力段 使用真空管(Tubes) 6FQ7
HITACHI or Toshiba6FQ7
HITACHI or ToshibaEL34 Telefunken
3極管接続バイアス方式(Bias) 自己バイアス 固定バイアス 自己バイアス+固定バイアス 電源供給電圧(Eb) 320V 320V 364V プレート電圧(Ep) 115V 180V 354V プレート電流(Ip) 3.66mA 4.24mA 48〜50mA バイアス電圧(Eg1) -3.0V -6.06V -37V 負荷抵抗(RL) 56kΩ 33kΩ 5kΩ 出力トランス(OPT) - - TANGO U-608(5KΩ)
裸利得(RawGain) 33.8dB - 最終利得(Gain) 27.8dB NFB=3dB(KNF)+3dB(Overall) 周波数特性(FrequencyResponse) 10Hz-130kHz -3dB クロストーク(CrossTalk) 50dB 12Hz-24kHz 出力(OutputPower) 5.3W 5%歪み at 1kHz 歪み率(Distortion) 0.23% at 0.1W/1kHz 0.7% at 1W/1kHz 3.2% at 5W/1kHz ダンピング・ファクタ(D.F.) --- ---kHz --- ---kHz 残留雑音(Noise) ---mV at R-ch(A補正なし)
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