私のアンプ設計&製作マニュアル / オーディオの基礎編
パワーアンプ

パワーアンプとは

パワーアンプは一言でいうと、スピーカーを鳴らすアンプのことです。、メインアンプとも呼ばれますが同じものですので区別する意味はありません。スピーカーを鳴らすことが主目的ですので、入出力端子とがあれば足りますから、それ以外の機能としては入力感度の調整くらいしかないのが普通です。音量に合わせて針が振れるメーターがついているものもありますが、演出のひとつだと思ってください。


出力の概念と考え方

<出力は電力=エネルギー>

白熱電球の100Wやドライヤーの800Wやオイルヒーターの1500WのW(ワット)と、最大出力100WのパワーアンプのW(ワット)とは同じものです。

白熱電球のフィラメントは交流100Vで点灯したときに100Ωの抵抗値になり、消費電流はオームの法則から、100V÷100Ω=1Aになります。その時の消費電力は、100V×1A=100Wになります。パワーアンプが8Ωのスピーカーを100Wで鳴らしている時のスピーカーの端子のところには28.3Vの交流が来ています。スピーカーに流れる電流は、28.3V÷8Ω=3.53Aになり、その時のスピーカーの消費電力は、28.3V×3.53A=100Wになります。(以下、本章では8Ωスピーカーとして説明します)

<出力100Wのアンプから実際に出ている出力はどれくらいか>

居間で読書をしながら静かに音楽を聞いているとします。その時にスピーカーに入力されている電圧は、ほとんどゼロから大きくても1Vとか2Vくらいでしょう。1Vというと出力にして0.125Wにあたり、2Vでは0.5Wにあたります。0.5Wというのはかなり大きな音量でたぶんうるさくて読書どころではないと思います。

では、100Wから0.5Wを引いた残りの99.5W出力はどこに行ってしまったのでしょうか。いえ、100Wなんてどこにもなくて、そのパワーアンプからは0.5Wしか出ていないのです。出力100Wのアンプの意味は、出そうと思えば100Wまでは出せるということです。最高時速230km/hを出せるクルマがいつも230km/hで走っているわけではなくて、停止していることもあれば8km/hでのろのろと走っていることもあるのと全く同じです。

オーディオ質問箱などで「出力100Wのアンプを購入しようと思っているのですが、許容入力20Wのスピーカーをつないだら壊れてしまいませんか?」という問い合わせがありますが、そういう心配は全くないわけです。

<出力は常に変化している>

100Wのパワーアンプが、常に100Wを出しているわけではありません。下の画像は、ブラームスの交響曲第二番の第一楽章のデジタルデータです。横が時間軸で所要時間は15分くらい、縦が振幅(音量)です。ご覧のとおり、音楽の強弱に合わせて振幅は大きく変化しています。振幅の最大はほぼ1.0ですが、0.5以下が大半を占めます。最大振幅になる瞬間に10Wの出力となるくらいの(かなりの)音量で聞いているとします。振幅が半分の0.5の時の出力は2.5Wとなり、振幅が1/10の0.1時の出力は0.1Wとなります。パワーアンプの最大出力は、曲中にある最も大きな振幅を歪むことなく出すためにあります。

大出力のパワーアンプは、それ以外にも、所有していることの満足感に浸るためや、それを所有していることを人に自慢するためや、寒い冬の日に暖をとるためなど、人によってさまざまな存在価値があります。

<0.1Wと1Wと10Wと100Wの違い>

0.1Wと100Wとでは1,000倍ものひらきがあります。1,000倍というとものすごい違いのように思えますが、エネルギーとしてみるとそんなに大きな違いではありません。0.1Wくらいの出力があれば、一人でデスクトップで十分に音楽を楽しめるくらいの音量ですし、1Wもあれば日常生活の居間の音楽鑑賞として十分に足りるくらいの音量が得られます。たまにちょっと大きな音量でオーケストラやバンドを聞こうとすると1Wでは足りませんが、10Wくらい出せるとそこそこの音量が得られます。ところが、音量調整ボリュームをちょっと上げると音が歪んでしまって10Wでは足りないことに気づきます。1Wから10Wにパワーアップしてもその差は大したことではないのです。結局100Wくらいのアンプを用意してなんとか間に合った、ということになります。

しかし、不思議なもので1Wではちょっと足りないな、と感じている時に1.5Wにパワーアップしてみたらそれで十分に足りてしまったということも起こります。人の耳は、1Wと1.5Wの違いを大きく感じることもあれば、1,000倍ものひらきをもちゃんと許容して認識できるという能力を持っているというわけです。


信号レベルと利得と出力の関係

パワーアンプの多くは、入力信号レベルが0.5Vから2Vくらいで最大出力を出すように設計されています。最大出力がどれくらいであるかは、アンプごとにばらばらです。以下、本サイトの6N6P全段差動プッシュプル・ミニワッター2012 V2を材料にして説明します。

このアンプの利得は5.9倍で、最大出力は1.4Wです。1.4Wを電圧に換算すると8Ω負荷で3.35Vになります。ということは、最大出力を出すための入力信号レベルは、3.35V÷5.9倍=0.57Vになります。0.57Vよりも大きな信号を入力しても、波形は歪むばかりで出力は大きくなりません。0.57Vの半分の0.285Vを入力した時の出力電圧は1.675Vですから、その時の出力は1.4Wの1/4の0.35Wです。

ここに利得が5.9倍で、最大出力が8Wのアンプがあったとします。8Wを電圧に換算すると8Ω負荷で8Vになります。ということは、最大出力を出すための入力信号レベルは、8V÷5.9倍=1.36Vになります。0.57Vを入力場合の出力は上記と同じで1.4Wです。そして、0.57Vの半分の0.285Vを入力した時の出力電圧は1.675Vですから、その時の出力は1.4Wの1/4の0.35Wでやはり上記と同じです。

<工事中>


機能1・・・入力端子

スピーカーを鳴らすためのオーディオ信号の入り口です。コンシューマ用のパワーアンプではRCAプラグがついたオーディオケーブルを使いますので、パワーアンプの入力端子にはRCAジャックがついています。プロ機では、往々にしてキャノンコネクタによるバランス(平衡)入力になっています。バランス入力については、本サイトの平衡プロジェクトのページを参照してください。


機能2・・・入力感度調整

通常使用する時の音量調整はプリアンプ側の音量調整ボリュームを使います。パワーアンプ側にも音量調整ボリュームのようなものがついていることがあります。これは常時使うのではなく、プリアンプの利得とパワーアンプの利得のバランスを取って使いやすくするためのものです。プリアンプが比較的大きな利得を持っていて、パワーアンプ側も利得が大きい(=感度が高い)場合、プリアンプ側の音量調整ボリュームを相当に絞らないと音が大きすぎることがあります。こんな時、この入力感度調整を使ってパワーアンプの感度を下げてやります。

パワーアンプ側の利得がモノラルのパワーアンプでは、2台それぞれに別個の可変抵抗器をつけることになりますが、ツマミの角度を同じにしても感度が左右チャネルで正確に同じになる保証はありません。ステレオのパワーアンプで2連ボリュームをつけたとしても、左右のギャングエラーの問題が残ります。ですから、私がパワーアンプに入力感度調整をつける場合は、可変抵抗器を使わずに2回路3〜6接点のロータリースイッチを使い、高精度の抵抗器を使ったアッテネータにします。

そうした機能はないけれどもパワーアンプの感度を下げたい場合は、簡単なアッテネータBOX(右の画像)を作ってプリアンプとパワーアンプの間に入れたらいいでしょう。


機能3・・・スピーカー端子

<半導体アンプの場合>

半導体アンプはスピーカーのインピーダンスを選びません。ほとんどのスピーカーは4Ω、6Ω、8Ω、16Ωのいずれかですが、これくらいの範囲であれば何Ωのスピーカーであっても単純にパワーアンプのスピーカー端子につなぐだけで正常に動作します。但し、同じボリュームポジションであればインピーダンスが低いスピーカーほど音は大きくなります。

<真空管アンプの場合>

出力トランスを使った真空管アンプの場合は、出力トランスの2次巻き線のインピーダンスとスピーカーのインピーダンスが合うようにつなぎます。スピーカーが6Ωなのに出力トランスの2次巻き線に4Ωと8Ωしかない場合は、4Ωにつないだ方が良い結果が出やすいです。


機能4・・・パワーインジケータ

メーカー製のハイグレードアンプにはよくパワーインジケータがついていて、音量に合わせて針がパタパタと動く姿をよく目にします。レコーディングコンソールのレベルメータと違って、大して意味がある機能ではないのですが、あるとつい目で追ってしまいます。パワーインジケータにVUメータを使うと針がほとんど動かなかったり、逆に頻繁に振り切れてしまい、適度な範囲で振れてくれません。スピーカーに送られる信号レベルは非常に広いダイナミックレンジを持っているからです。そこでパワーインジケータでは広いダイナミックレンジを圧縮した対数目盛のメーターを使います。

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