<Part3からPart4へ>
Part3は決して悪い音ではありませんし、きわめて実用的かつ動作も安定しており、旅を楽しくしてくれる重要なアイテムとして大活躍しています。ところが、ツァーでいろんな国を飛び回っているある演奏家から「やっぱり真空管の差動ミニワッターのような定位が気持ち良く決まる感じが欲しいなあ」と言われてしまったので、もうしすこしなんとかならないものかと考えてしまいます。言ってることはわかるんだけどなあ・・・というわけでMini Watter Tourer Part4です。
回路の基本設計はトランジスタ式ミニワッターPart4を踏襲しますが、Tourerはあまりパワーがいらないので電源電圧は15Vではなく12Vとしました。レイアウトの基本はこれまでのTourerと変わりませんが、前面パネルで雰囲気をぶち壊していたBass Boostスイッチが後面パネル側に移動したのと、ステレオミニジャックによるLine入力が省略されています。そのため内部配線がかなりすっきりしました。
このバージョンは9月に4台製作し、来日したアーティストのみなさんへのお土産にしました。手持ちを全部あげてしまい自分のがなくなってしまったので、11月にはいってからPart3の解体部品をかき集めて作ったのが本機です。右の画像で使われている部品のいくつかは再利用なので、頒布部品とは異なるものがついています。
<ブロック図および回路図>
ブロック図は以下のとおりです。左から右に向かって順に、AKI.DAC-U2704、LPF部、音量調整ボリューム、アンプ部、スピーカー端子です。アースの引き回しはこの図のとおりにしてあります。点線部分は基板内でつながっています。
音量調整に使った2連ボリュームは小型で廉価なものなのでかなりギャングエラーがありました。そのためボリュームポジションによって左右の音量バランスがおかしくなります。精度が高いALPS製のRK27を使う限りそのような手当は不要ですが大きすぎてケースに入りません。そこで、購入してから実際に角度ごとの抵抗値の変化をテスターで測定し、私のアンプ設計マニュアル / 雑学編の中の「2連ボリュームの左右アンバランス補正」を使ってで矯正してやりました。なお、部品頒布では、矯正済みの抵抗器付きの状態のものをお送りします。
<USB DAC部・・・コンデンサ容量がLC型対応に変更になります>
USB DAC部についてはこちら(http://www.op316.com/tubes/lpcd/aki-dac.htm)に解説があります。DACキットの基板側のアルミ電解コンデンサは、一部キット付属のものを使わずに以下のように置き換えています。
回路図部品名 | キット付属 | 変更後 |
C5 | 47μF/25V | 470μF/10V-16V(8mm径) |
C6 | 47μF/25V | 470μF/10V-16V(8mm径) |
C11 | 47μF/35V | 220μF/10V-16V |
C14 | 470μF/25V | 1000μF/10V-16V |
C16 | 100μF/35V | 220μF/10V-16V |
C17 | 100μF/35V | 220μF/10V-16V |
<LPF部・・・LC型に変更になります>
本機には、AKI.DAC-U2704に関する記事(http://www.op316.com/tubes/lpcd/aki-dac.htm)と同等のLPFを組み込んでいます。頒布しているインダクタは2.7mHですが、2.2mHでもかまいません。2.2mHの時の回路定数は()内の値になります。
<アンプ部および電源部>
アンプ部および電源の全回路は以下のとおりです。
<利得の設計>
旅先のホテルで鳴らす時はあまり音量を上げないことが多いので、利得はやや落としてあります。AKI.DACの出力信号電圧が0dBFSで0.63Vなので、これを5.8倍すると3.64Vになり、この時の出力は8Ω負荷で1.66Wです。これは本機の最大出力の1.5倍です。デジタルソースからはこれ以上大きな信号は出てきませんから、本機の音量調整ボリュームを最大にすると歪むわけですが、オーディオソースの中にはデジタルフォーマットのフルスケール(0dBFS)に対してレベルが低めのものもあるので、このような利得設定にしてあります。
本機の利得設定では、12時のポジションでの音量はかなり控えめになります。しかし、ホテルの部屋で鳴らすとこれでもかなり大きな音量に聞こえます。12時ポジションでもう少し音量が欲しい場合は、真空管式のミニワッターのように音量調整ボリュームに10kΩ〜12kΩ(50kΩボリューム時は51kΩ〜56kΩ)の抵抗を追加してください。
<パワーアンプ部>
Part3からPart4への変更ポイントは、1段差動から2段差動になったことです。増幅の主役は2段目ですが、Part3の2段目は普通のエミッタ・コモン増幅回路でした。Part4ではこの部分を準差動化してみました。2段差動となると半導体の数が一気に増えるのですが、そこを割り切りで限りなく簡素にまとめるように考えました。
初段は2SK170の差動回路、2段目は2SA1680の準差動回路です。いずれも定電流回路を使わずに抵抗だけで済ませているあたり、一般的な半導体アンプの回路を見慣れた目には奇異に映るかもしれません。特に2段目は共通エミッタ側はたった13Ω(15Ω//100Ω)の抵抗ですから、はたしてこれで差動回路と言えるのかどうか難しいところです。しかし、2段目をトランジスタ1本のエミッタ・コモン増幅回路から本機のような準差動回路に変更しただけで、直線性は著しく改善されています。歪率特性がPart4になって改善されたのはこの準差動回路のおかげです。トーンキャラクタもかなり変化しました。
2段目は両方の2SA1680に180Ωのコレクタ負荷抵抗を入れてあります。一般にこの種の回路ではスピーカーをドライブしない側のコレクタ抵抗は省略するのが常ですが、本機ではあえて入れてあります。何故かというと、2SA1680のコレクタ電流が30mAほどもあるため、コレクタ負荷抵抗を省略した側の2SA1680が過熱してしまうのと、VBEに差が生じて初段の差動バランスが不十分になってしまうからです。
出力段は相変わらず簡素な1段SEPP回路です。アイドリング電流は60mA前後ですので、出力トランジスタ1本あたりの消費電力は300〜400mWになります。バイアスはUF2010×2本で与えていますが、アイドリング電流はUF2010のばらつきや温度の状態によってかなり変動します。このダイオードは10DDA10やIN400X系に置き換えるとアイドリング電流が多くなりすぎて過熱しますので安易に他のダイオードに置き換えることはできません。
<Bass Boost回路>
ツアラーはもっぱら10cm以下の小型スピーカーを鳴らしますのでBass Boostは必須機能です。負帰還回路にCR(13kΩ〜15kΩと0.15μF)を追加することで、100Hz以下で5〜6dB程度の低域のブーストを行っています。この定数はさまざまな小型スピーカーを使って実験を行った結果で決めました。8cm以下のスピーカーは150Hz以下がバッサリと落ちますので、この程度のブーストではとうていフラットには及ばないのですが、聴感上はこれくらいでも十分に効果が認識できます。むしろ、これ以上欲張ると自然さが失われます。
Bass BoostをOFFにしたい時は負帰還抵抗13kΩ(15kΩ)の両端をショートさせてください。基板パターンの●印のところから線を引き出して、適当なスイッチでON/OFFすることで、Bass BoostをOFF/ONできます。かなり小型のスイッチでないとうまく収まらないので奥行が15mm以内のものを頒布リストに加えてあります(通常の頒布のものは18mm)。
<電源部>
電源部はPart3よりも簡素なものになりました。差動2段にしたためにPart3で設計に苦労した電源回路ぐるみの温度補償メカニズムが必要なくなったからです。制御トランジスタは2SC2655を使いましたが、2SC4408や2SC2236も使えます。
本機の動作の安定は使用するACアダプタの定電圧性能に依存します。秋月で扱っている12V/1Aタイプのものはいずれも定電圧性能も雑音性能も優れているので、できるだけ同じものを使用してください。これは中国の"GO FORWARD ENTERPRISE CO."のOEMで、同じものが異なるブランドでも売られています。
非常に低ノイズな中型タイプ。左から、100〜240V/1A、100〜240V/1.5A、100〜120V/1A。
超小型タイプ。両方とも100〜240V/1Aだがメーカーが違う。私は両方とも使っています。
<DCオフセットと温度ドリフト>
2段直結差動回路というのは、2段目のトランジスタのベース〜エミッタ間電圧(VBE)が同じである限り、一旦初段のDCバランスをとってしまえば、比類なきDC安定が得られます。本機もその効果を狙ったのですが、なかなかどうして思惑通りにはゆかぬことがわかってきました。
2段目のトランジスタのベース〜エミッタ間電圧(VBE)がなかなか同じになってくれないのです。何故かというと、2個の2SA1680の動作条件が同じにならない、具体的にはまずコレクタ電流が同じにはならない、そしてコレクタ損失=温度が同じにはならないという問題です。特に温度の違いがばかになりません。温度が違えばベース〜エミッタ間電圧はどんどん変化してしまう、そして初段2SK170のドレイン電流のアンバランスを引き起こします。初段2SK170のドレイン電流のアンバランスはすなわちバイアスの差になって現れ、その差がそのままDCオフセットを変化させてしまうわけです。
もうひとつの問題は、発熱部品と初段2SK170との距離関係です。2個の2SK170の近くに180Ω1/2Wの抵抗器がありますが、これが出す熱がばかにできません。そしてこの抵抗器は一方の2SK170に近いためそちら側の2SK170の温度がわずかに高くなってバイアスの差の原因になります。
上記2つの要素がどれくらいのインパクトがあるかというと、12mV〜15mVくらいのDCオフセットが生じます。これは10Ωの半固定抵抗器で調整できるぎりぎりの値で、場合によっては半固定抵抗器を回し切っても微妙に調整しきれずに数mV程度のオフセットが残ってしまいます。
この問題を解決するために、まず2個の2SA1680の消費電力ができるだけ同じになるように回路定数を選び直し、さらに左側の2SA1680のコレクタにダミーのダイオード(1S2076A)を1本追加して熱を分散させました。それから、2個の2SK170の温度差が少なくなるように1.2mm径の銅単線でブリッジを作り、エポキシ系ボンドで固定しました。この2つの方法の効果は非常に大きく、なんとか許容できる調整範囲に収まってくれました。画像では2SK170にだけブリッジをつけていますが、2SA1680側にもつけてやると差動バランスはさらに良くなります。使用したのはコニシのごく一般的な速乾性のエポキシ樹脂系2液混合タイプです。
熱結合ブリッジ→ ←使用したボンド
注意:DCオフセットの調整はケースに入れた状態で行います。基板単体でテストを行う場合は、小さな紙箱などに入れてケースに入れた時に近い状態で行ってください。また、電源ONしてからしばらくの間は電圧が初期流動状態になり、調整に適する安定状態にになるには20分以上を要します。また、DCオフセットは十数mV程度生じていても実害はありませんので、無理して「ゼロ」にしようとしないことです。周囲の温度条件が変われば電圧が動きますし、アンプ本体を立てたり寝かしたりしても筐体内の気流が変わって電圧も変化します。本機の電源回路は、4Ωスピーカーをつないだ状態で最大50mVのDCオフセットを吸収する能力を持っています。
<部品>
FET、トランジスタ・・・初段2SK170BLは、できるだけバイアス特性が揃ったペアを使ってください。ソース側のバイアス調整ボリューム(10Ω)による調整範囲はめいっぱい回し切っても15mVくらいしかありませんので無選別の2SK170は全く使えません(※)。頒布しているものは温度管理された条件下で±5mVの精度でペア取りしていますので十分な精度が得られます。BLランクを使用していますが、GRランクも問題なく使えます。
※売られている2SK170からランダムに拾った場合は150mVくらいのばらつきが生じるので選別が必要です。2SK170が製造ロットが同じでも特性のばらつきは小さくなりません。
2SA1680(2段目段)はhFEが280以上のものを推奨します。2SA1680がどうしても手に入らない場合は、2SA966でなんとか代用できますがhFEは200台にとどまります。
2SC2655(電源部)はhFEが100以上あれば十分です。2SC2235、2SC2236、2SC4408も使えます。ここでは何を使っても音に影響はありません。
出力段の2SC3422/2SA1359はhFEが140未満のものは避けて、かつ左右で値が揃ったものを使用してください。なお、hFEは2SC3422よりも2SA1359の方が常に高めになるので、2SAと2SCが同じになる必要はありません。
FETおよびトランジスタのリード線の接続は下図のとおりです。いずれも下から見た図(bottom view)です。たとえば、2SK170の場合は、印字面に向かって左からドレイン(D)〜ゲート(G)〜ソース(S)の順になります。2SA1680、2SC3964は、印字面に向かって左からエミッタ(E)〜コレクタ(C)〜ベース(B)の順ですが、2SA1931/2SC4881は左右が逆になります。これを間違えることが非常に多いので注意してください。
2SK170 |
2SA1680 2SC2655 |
2SC3422/2SA1359 |
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本機で使用する半導体類はすべて選別品の頒布があります。
ダイオード、LED・・・出力段のバイアス用には、定格電流が2Aタイプの整流ダイオードのUF2010が適します。ダイオードの順電圧が出力段のアイドリング電流を支配しますので、頒布では順電圧が近いものを4個選んでいます。1N400Xシリーズや10DDA10などの1Aタイプでは、出力段のアイドリング電流が多くなりすぎるので使えません。PS2010Rも使えません。
UF2010は順電圧にかなりのばらつきがあるので、可能であれば順電圧が近いもので左右ペアを組むことを推奨します。2本直列にして使いますから、2本の合計値が近ければ十分です。順電圧の測定は、ダイオードモードがついているデジタルテスターで測定すれば足ります。温度が1℃変わるだけで0.002Vも変動してしまうので、測定時には指の熱が伝わらないように、エアコンの風が当たらないようにしてください。
1S2076Aのところは定格電流が150mA以上あるシリコンダイオードであれば何でもOKで、1N400Xシリーズも使えます。LEDは、一般的な赤・橙・緑あたりを想定して約4mAで点灯するように設計してあります。明るさは3kΩの増減で調整できます。
(注)本機で使用する半導体類はすべて選別品の頒布があります。
抵抗器、コンデンサ・・・抵抗器は、回路図においてW数の記載のないものは1/4W型、それ以外は指定のW数のものを使ってください。0.68Ωは1Wの容量は必要ないのですが、より小型のカーボン抵抗や金属皮膜抵抗は1Ω未満がないので1Wを使っています。入力のコンデンサ(0.33μF)と位相補正コンデンサ(560pF)は耐圧50V以上の通常のフィルムコンデンサでOKですが、ともにサイズに制約があります。油断すると大きすぎて基板に乗りません。ここでは積層セラミックは音が変わってしまうので推奨しません。アルミ電解コンデンサは通常品を推奨します。オーディオ用として売られているものはサイズが大きいので基板スペースに入りきれませんし、ナチュラルな音にならないものが多く通常品がよろしいかと思います。(頒布あり)
・560pF・・・幅5mm以下。
・0.022μF・・幅6mm以下。
・0.15μF・・・幅8mm以下、厚さ2.6mm以下。
・0.33μF・・・幅12mm、厚さ4.5mm以下。
・100μF/10V・・・直径5.5mm以下。
・1000μF/16V・・・直径10mm以下。
2連ボリューム・・・ALPS製RK097型で、50kΩ2連を使用します。従来頒布していたものよりギャングエラーが少なく抵抗値の変化度合いも自然です。基板取り付け用であるため端子が非常に小さいです。シャフトが半月型に切ってあるため、締め付けビスが1つだけのツマミが必要です。(頒布あり)
放熱器・・・ちょっと特殊な形状をしており、トランジスタなどに貼り付けて使用するタイプです。1cm×1cmですがこの大きさでないと基板に収まりません。(頒布あり)
線材・・・本機で使用した線材は0.18Ssq(AWG24相当)です。0.2sqよりも太い線材を使うと、太すぎてラグ穴に入らない、ハンダ不良が生じやすいなどの問題が生じて仕上がりの品質が落ちます。平ラグの穴と穴とつなぐジャンパー線は、0.28〜0.35mmくらいでポリウレタンなどの表面処理をしていない銅線が適します。銅線はたいていのホームセンターで扱っています。(頒布あり)
ケース・・・ケースについては、こちら(http://www.op316.com/tubes/tourer-case.htm)に詳しい説明があります。(頒布なし)
<部品の頒布>
自作アンプですので、どんな部品を使い、どのように作るか、追加変更も全く自由です。しかし、地域によっては部品の入手が困難ですし、たとえ秋葉原が近くても同じ部品を買い揃えるのは困難です。本製作で使用した部品のうち、ACアダプタおよびケース以外のすべての部品は頒布がありますので気軽にご利用ください。
部品頒布ページ → http://www2.famille.ne.jp/~teddy/tubes/buhin.htmの中のここです。
<製作、外観および内部の様子>
。
<アースラインおよび筐体のアース・・・Part3と同じ>
アースラインは、回路図上に実装と同じように描いてありますので、配線の参考にしてください。USB DACの左右2つのアース(GND)はキットの基板では中でつながっているので、片チャネル側だけを使って取り出しています。左右から2本分けて出す意味はなく、この部分のアースを分けるとアースループの原因になります。
使用したケースは、ケースを構成するパーツ間の導通がないという重大な欠点があります。アルミボディやアルミパネルの表面がアルマイト処理をしてあるために・・・アルマイト処理は電気を通しません・・・パーツを組み立ててても電気的には導通してくれないために各パーツがアースから浮いてしまうのです。こうなってしまうと、せっかくのアルミケースなのにシールド効果がないばかりかむしろ不安定なノイズを誘発します。
アースラインと後面パネルの導通・・・面倒なんので後面パネルにはアースは取りませんでした。後面パネルはアースから浮いていますが実害はなく、雑音性能の低下もありませんでした。
アースラインと底板、側板、上板の導通・・・基板を固定したスペーサのうちの1個にアースラグを取り付け、ここをアンプ部基板のアースをつないで底板との導通を確保します。2枚の側板を固定している4個のビスをしっかりと締め付けることで、底板と側板との導通をはかります。同様にして上板を固定する4個のビスもしっかりと締め付けて側板との導通を確保します。
アースラインと前面パネル&ボリューム筐体の導通・・・音量調整ボリュームの筐体の爪の部分の表面をやすりで磨いてそこにアースラインをハンダづけしています。ボリュームの筐体と前面パネルとは取り付けた穴のところでなんとか導通してくれるので、こうすることで音量調整ボリュームの筐体も前面パネルもアースとつながるようになりました。
<製作手順>
- ケースの加工準備・・・加工図面を作成あるいはコピーし、2枚の基板(AKI.DACキット基板およびユニバーサル基板)を実際に当てながら位置を確認しつつ、ケース部材に加工用のマークを入れます。
- ケースの加工・・・本機の加工は丸穴しかありませんので、ドリルに加えてテーパーリーマーあるいはステップドリルがあれば作業できます。基板の取り付けにサラビスを使う場合は、すり鉢状の追加工が必要です。すべて実際の部品を当てて大きさを確認しながら作業します。
- ユニバーサル基板・・・パターンのチェック・・・回路図と実際の配線のは見た感じがかなり異なるものです。人が作った基板パターンで製作する場合は、いきなり基板パターンを見て作るのではなく、どんな基板パターンなのなかを学習してください。基板パターンを追ってそこから回路図を起こしてみる方法をおすすめします。おそらく、回路図とは似ても似つかない場所に部品が配置されていてびっくりされるでしょう。基板パターンの間違いが発見されることもあります。考えているうちにもっと良い基板パターンが思いつくこともあります。ですから、基板パターンからの回路図の逆作成は必ずやってください。
タカスのユニバーサル基板の使い方はこちらに重要な解説があります。ユニバーサル基板の一般的な使い方とは考え方が異なりますが、この基板パターンで製作する時に必要な知識であり、さまざまなメリットがあるので必ずお読みください。
- ユニバーサル基板・・・ジャンパー線の取り付け・・・ユニバーサル基板では、パターンをつなぐ線は銅箔がある下側に這わせるのが普通ですが、本機では上側を這わせています。こうすることで、実装密度を高められる、接触導通が良くなる、部品の交換が容易・・・といったメリットが出ます。ジャンパー線には細めの0.28mm径の銅線を使います。これを「コの字」型に折り曲げたものを基板の上から差し込んでからホチキスの針のように下側で折り曲げて固定します。最初にこの作業をやっておけば、あとは半導体やCR類は上から差し込んでどんどんハンダづけするだけで完成してしまいます。半導体やCR類は下側で折り曲げませんので、作業性が良いだけでなく、間違えた時の交換も非常に簡単です。
小型のJFETとトランジスタは上からみた形状を書き入れてあります。パワートランジスタは印字面側に「↑」マーク側をつけてあります。ジャンパー線は、実線が0.28mmのむきだしの銅線、破線が0.18sqの絶縁があるビニル線です。Bass Boostスイッチへの接続は「BB-SW」のところの●点のポイントです。
- ユニバーサル基板・・・ジャンパー線のハンダづけ・・・ジャンパー線を通した穴には、ジャンパー線しか通さない穴と、ジャンパー線だけでなく同じ穴に後から半導体やCR類のリード線も同居する穴の2種類があります。ジャンパー線しか通さない穴は今のうちにハンダづけできます。
- ユニバーサル基板・・・電源部の半導体やCR類の取り付け・・・電源部単体テストを視野に入れて、電源部の半導体やCR類を基板に取り付けてハンダづけします。電源部の範囲は以下の図のとおりです。
- ユニバーサル基板・・・電源部単体テスト(重要)・・・暫定的に電源部とACアダプタをつないで単体テストを行っておきましょう。これがOKになっていれば安心してアンプ部のテストができます。もし、アンプ部に配線ミスがあっても電源は正常だとして自信をもってトラブルシューティングができます。もし、このテストをやらずに一気にすべてを組み上げてから動作の異常に出遭っても、一体どこが間違っているのかまず発見できません。このテストを省略した場合は、掲示板でのサポートはありません。
・アースの導通確認・・・すべての★点がY点を基点として相互に導通(ほぼ0Ω)があるかどうかチェックします。
・通電テスト・・・ACアダプタを取り付け、Y点を基準にして、X点が+6V、Z点が-6Vであることを確認します。ACアダプタの電圧に対してほぼ半分±5%以内になっていればOKです。プラスマイナスの電圧配分は部品のばらつきや気温で変化しますので、プラスとマイナスの電圧が正確に同じになる必要はありません。
・通電テスト・・・2SC2655と180Ω1Wがともに熱を持っていることを確認します。
- 出力段トランジスタへの放熱器の貼り付け・・・出力段トランジスタ(2SA1359と2SC3422)には1cm角の小型の放熱器を貼り付けます。この作業は基板に実装する前にやっておいた方がやりやすいです。貼り付けには、頒布した放熱器と同梱の放熱用両面テープを使います。放熱器は10mm×10mmですがトランジスタは10mm×8mmなので、8mm×10mmくらいに切って使います。隣り合った2個のトランジスタは案外接近してますので、放熱器は左右にすこしずらして取り付けないと当たって見た目が悪いので注意してください(しかし、ケースに入れてしまえばどうせ見えませんし、放熱器同士が接触しても電気的にも不都合はありません)。
- ユニバーサル基板・・・アンプ部の半導体&CR類の取り付けとテスト・・・本機は実装密度が高く非常に混みあっています。立てて取り付ける抵抗器は、一方が胴体でもう一方がリード線ですから場所の余裕を考えて向きを決めます。考えないで適当な向きに取りつけてゆくと部品と部品が当たって入らなくなります。部品はすべて表面が絶縁されているので接触しても問題ありませんが、熱くなる部品の実装には若干の注意がいります。発熱部品の扱いは以下の通りです。
・ジャンパー線の忘れ物がないか念入りにチェックする。
・2SC3422と2SA1359周辺のビニル線のジャンパーは先に配線しておく。2SC3422と2SA1359を取り付けてしまってからでは無理。
・2SC3422と2SA1359・・・リード線を短くしすぎないで基板面から5mmくらい浮かせる。
・2SA1680と2SC2655・・・リード線を長めにして基板や周囲の部品から離す。
・180Ω1/2W、180Ω1W・・・かなり熱くなるので周囲のトランジスタやコンデンサには接触させない。リード線も長めにして位置を高くする。
・UF2010・・・2SC3422と2SA1359に接近した方がよい。温度制御のセンサーなので2SC3422と2SA1359との温度的な距離は左右チャネルで揃えた方がよい。
・0.68Ω1W・・・いずれも熱を出さないので周囲の部品と接触してもかまわない。
・コンデンサ・・・アルミ電解コンデンサもフィルムコンデンサも熱に弱いので発熱部品と接触させない。
・抵抗器・・・熱に強いので気にしなくてよい。
4個のダイオードの向きを1つでも間違えた状態で電源ONすると、パワートランジスタに大変な過電流が流れて壊れますのでしっかりチェックしてください。慎重を期する場合は、左右片チャネルごとに動作試験をしながら作業を進めるのがいいでしょう。「アース」と「スピーカー出力」との間にDCVレンジのテスターを当てて電源ONします。10秒以内に±0.01V以内に落ち着けばアンプ部はほぼ正常とみていいでしょう。念のために、プラスマイナス電源の電圧も確認して±6V前後を維持していることも確認します。
本機の出力段のアイドリング電流は、冷却スタート時で70〜100mA、十分に暖まった状態の安定動作時で52〜68mAです。各チャネルの出力段の両エミッタ間電圧を測定して1.36Ωで割ればアイドリング電流を求めることができます。実際に製作した8つのユニットの実測データがありますので参考にしてください。なお、季節による気温の違い、部品のばらつきを考慮すると、このデータ値の範囲から少々はみ出ても問題ではないと思います。
- AKI.DACキット基板・・・部品の取り付けと線の引き出し・・・AKI.DACキットの基板への部品の取り付けの説明はこちら(http://www.op316.com/tubes/lpcd/aki-dac.htm)にあります。キットの基板のランドは非常に小さいので、ハンダがきちんと浸透させるのが難しいです。細めのハンダとハンダごてをつかって、ルーペなどでよく見ながら部品を取り付けてください。本機の製作では端子台は使いません。
- ジャック類や各ユニットからの線出し・・・ケースが小さく配線が込み入っているので、ジャック類や各ユニットをケースに取り付けてから配線するのは困難です。そこで、下処理としてジャック類や各ユニットに線を取り付けてから組み立てた方がいいと思います。(ステレオミニジャックをつける場合はPart3に参考画像があります)
- LEDの接着・・・LEDはエポキシ系の2液混合型のボンドでパネルに接着します。ボンドはたっぷりつけてLEDをしっかりと固定します。LEDの足は長さが違っていて長い方が+です。足を同じ長さに切ってしまうとどちらが+かわからなくなりますので、切る時も長さを違えて切るようにします。
- パネル、ケース本体、ボリュームのシャフト&筐体のアース・・・タカチのHIT-13-3-13は、パネルと本体の間の導通がないという欠点があります。アルミボディやアルミパネルの表面がアルマイト処理をしてあるために・・・アルマイト処理は電気を通しません・・・パーツを組み立てても電気的には導通してくれないためにアースから浮いてしまうのです。せっかくのアルミケースなのにシールド効果がないばかりか、むしろ不安定なノイズを誘発します。そこで以下の方法ですべての部品のアース導通を確保します。
ケース本体のアース・・・基板のところにアースラグを取り付け、金属スペーサを通じて底板と導通させます。
後面パネルのアース・・・Part3ではステレオミニジャックのアース側とパネルを導通させましたが、Part4では導通させていません。
前面パネルのアース・・・アースラインとボリュームの筐体にハンダ付けし、ボリュームシャフトのネジ部とパネルとを導通させます。
上蓋のアース・・・取付ビスをきつく締めて導通させます。
- 部品および基板の取り付けとケースの組み立て・・・ケースへの部品の取り付けですが、(1)LEDの(1)AKI.DACキット基板の取り付け、(2)前後パネルの部品の取り付け、(3)ケースの組み立て、(4)アンプ本体の基板の取り付け、の順序がいいでしょう。こうでなければならないという決まりはありませんので、各自で工夫してください。
- 動作確認と調整・・・すべての配線が完了したら、動作確認試験を行います。アンプ部の単体試験はすでに済んでいますから、組み上げた状態でも同じ結果が出るかどうか確認します。DCVレンジにセットしたテスターでスピーカー端子間の電圧を監視しながら、数分間かけて基板の温度が上昇して安定するのを待ちます。次に、半固定抵抗器をまわして、スピーカー端子間の電圧がゼロ近くになるように調整します。3mV以内であればOKです。
USBケーブルで本機とパソコンをつなぎ、AKI.DAC基板上の青色LEDが点灯することを確認します。本機のスピーカーをつないで音出しテストを行います。配線ミスがなければ、ノイズは全くきこえずクリアーな音で音楽が鳴り出します。上蓋を載せて外気を遮断した状態でさらに1時間程度動作させてから、スピーカー端子間の電圧がゼロ近くになるように再調整します。調整はこれで完了です。
<本機の特性>
アンプ部:
仕様および測定結果は以下のとおりです。
- USB DAC: 16bit、44.1kHz/48kHz
- 外部入力: 感度=0.55Vで最大出力、入力インピーダンス=約10kΩまたは約50kΩ
- 消費電流: 無信号時=約310〜380mA at DC12V
- 出力トランジスタ: アイドリング電流=70〜100mA(冷却スタート時)、50〜75mA(安定動作時)、消費電力=300〜450mW/個、表面温度=外気温+38℃(Max)
- 利得: 5.8倍(8Ω負荷、1kHz)
- 残留雑音: 24μV(帯域80kHz、ACアダプタに依存する)
- 電源: DAC部=USBバスパワー、アンプ部=DC12V、1A〜
周波数特性は以下のとおりです。全帯域にわたってPart3とPart4とでほとんど重なりましたが、位相補正コンデンサの容量を390pFから470pFに変更したので高域側が落ちるポイントがほんの少し下がりました。Bass Boost側は使用したコンデンサ容量の誤差レベルの違いしかありません。DAC部はLC型に変えたことでワンランクアップしました。
アンプ部:
DAC+アンプ部:
アンプ部の歪み率特性は以下のとおりで、赤がPart3で青がPart4です。Part4では大幅に改善されていますが、2段目を準差動回路としたために生じた電圧ロスのせいで最大出力がほんの少し低下しています。黒い線はPart4の初期の設計で初段共通ソース抵抗値を2kΩにした時のもの、青い線は1.8kΩに変更した時のものです。それに伴い次段の共通エミッタ抵抗が10.7Ωから13Ωに変更になっています。アンプ部の残留ノイズは変わらず帯域80kHzにおいて16μVと超低雑音です。
<使用感と音の感想など>
Part3で感じた不満・物足りなさがかなり改善されましたので、Part4は成功と言っていいと思います。半導体アンプにありがちなきれいだけれども平板な感じ、広帯域だけれども中域が引っ込んだ感じがあまりありません。これで、出張や旅行がより楽しいものになりそうです。
このアンプを使っている海外アーティストはかなり増えました。自宅で使っている人、リハーサルルームに持ち込む人、別荘に持ち込んでいる人、演奏旅行で愛用して来日の際にも持って来る人とさまざまな使い方があるようです。アーティストだけでなくライブの音響エンジニア達も、ハードな業務が終わってからホテルに戻って一杯やりながら好きな音楽を聞いて和んでいるそうです。もちろん、これを自作して海外出張などで使っている自作オーディオファンの方もだいぶ増えました。