iPod/iPhone Booster ・・・iPodやiPhoneの出力を普通のCDプレーヤ並みに

iPodやiPhoneは出力信号レベルが低いのでオーディオソースとして他の機器に接続すると音量が小さすぎてアンバランスになります。BOSEのWave Music Systemもその例に漏れず、AUX端子につないだiPod nanoの音量とBOSE側のラジオやCDの音量との差がありすぎて少々不便をしています。そこで部品庫にあるものでちょいと工夫して信号のブースターなるものを作ってみました。


■信号レベルの検討とトランス式の選択

iPod nanoの出力信号レベルを実測してみると、ヘッドホン端子で1V/0dBFS、Dock端子で0.8V/0dBFSでした(4thGen, 6thGen)。実測レポートはこちらにあります。通常のCDプレーヤや本サイトで製作したUSB DACの出力信号レベルは約2V/0dBFSですので6dBほどレベル不足になります。まあ、なんとか我慢できる差ですがBOSEのWave Music SystemのAUX入力は感度が低めなようで、2.5V/0dBFSくらいにして入れてやらないと他のソースと音量バランスがとれません。そこで+6dB〜+10dB(2倍〜3倍)程度の電圧利得を稼げるしくみをできるだけコンパクトに作れないかと考えました。

電源がいらない方式がベストなのでライントランスを使った昇圧による方法とします。手元で遊んでいるのは、タムラ製の600Ω:600Ωと600Ω:1.2kΩの2種類のライントランスです。どちらも1次側は150ΩSPLITですので、このトランスをうまく使うと以下に説明するように十分な昇圧を得ることができます。


■チューニングと回路定数■

SPLITタイプのトランスは、600Ωを150Ω×2として使うことができます。1次側の150Ωタップを2つ並列にすると、150Ω:600Ωすなわち巻き線比1:2のトランスになり、しかも1次側のDCRは1/2になるので損失が減ります。しかし、2次側を600Ωで受けてしまうと損失が大きくなるために1:2の昇圧は望めなくなり、1:1.4くらいに落ちてしまいます。そこで、2次側の負荷抵抗の値をできるだけ大きくして損失低下を防ぐわけですが、そのような使い方をすると今度は20kHz〜40kHzあたりにピークができてしまいます。このピークをならすためにはC+Rによる調整が必要になります。

iPod nanoの出力インピーダンスは、ヘッドホン端子で5〜6Ω、Dock端子で約100Ωです。トランスはソースインピーダンスが低いほど歪が減り、帯域特性も良好になります。Dock端子は信号レベルがさらに低い上に出力インピーダンスが100Ωもあるので損失が大きくなりすぎてお話になりません。本機ではヘッドホン端子とつなぐことを前提に設計します。なお、私がみた限りヘッドホン端子とDock端子を比べて、出てきた信号の測定値にも音にも差はありません。

私が使っているファンクションジェネレータの出力インピーダンスは50Ωなのでこのままトランスにつないだのでは正確な測定ができません。トランスからみて数Ωのソースインピーダンスを得るために、ファンクションジェネレータの出力と並列に8.2Ωの抵抗を入れて8.2Ω//50Ω=7Ωのソースインピーダンスを作り出してから測定をしています。さまざまな値のCRを組み合わせて測定を繰り返してようやく以下のCR値を得ました。特にCの値はクリティカルで20%少ないと山ができてしまうし、20%多いと20kHzでも結構落ちてしまうという調子なので、計算やシミュレーションで正確な回路定数を得ることはほとんど不可能でしょう。

Cの値がクリティカルなのは、負荷インピーダンスを高くしてしまったことの副作用なので、たとえば巻き線比が1:2.83のトランスの場合、負荷インピーダンスを1.3kΩに設定してやれば、CRが不要になる上に周波数特性はおだやかになってチューニングの手間はなくなります。但し、昇圧比は1:2に低下します。

トランス型番特注品(中古)TpAs-41S(廃番、中古)同左
インピーダンス比600CT 150SPLIT:600CT 150SPLIT600CT 150SPLIT:1.2kΩ同左
1次SPLITの時の巻き線比1:21:2.83同左
1次側直列抵抗
2次側負荷抵抗3.6kΩ5.6kΩ1.3kΩ
2次側CR0.0027μF+750Ω0.0068μF+750Ωなし
仕上がりの昇圧比1:2.11:2.81:2

2次側の負荷インピーダンスを高めにとったため、思っていた以上に高い昇圧比が得られました。どちらのトランスを使った場合も、十分に実用になります。周波数特性は、10Hz〜20kHzはほぼフラットで、-3dBポイントは40〜50kHzあたりでした。


■製作■

製作というほどのものではなく、単にケースにトランスとCRを収めただけという感じです。ジャック側が入力で、線で出したプラグ側が出力です。

ケースにはタカチのHEN-110306Sを使いました。使用したライントランスはいずれもオークションで落札した中古品で、新品での入手はできません。ユニバーサル基板は、遊んでいたものを使いましたので型番は不明です。ステレオミニプラグがついたケーブルは、市販の接続ケーブルを切って流用しました。ケーブルを通す穴のサポートには、ステレオミニジャックをニッパで半分に千切ったものを代用しています。


■特性と使用感■

周波数特性は右図のとおりです。このデータはTpAs-41S(600Ω:1.2kΩ)を使った時のものです。iPodをほぼフルボリュームにした場合がいちばん上の線にあたります。かなり小さなトランスであるため、20Hzよりも低い周波数では飽和してレスポンスがガタッと落ちています。TpAsタイプのトランスの公称最大使用レベルは5〜7dBmすなわち1.5V程度ですからカタログどおりです。高域側は20kHzから上がきれいに落ちていますので、iPodから出るデジタルノイズはいい具合にカットされます。

使用感はなかなかよいですね。ソースごとの音量バランスがとれたので、ソースを切り替えた時にデカい音が出て慌ててボリュームを絞ることがなくなりました。トランスを割り込ませたことによる音質の劣化は感じません。冒頭の画像では本機をBOSEの上に乗せていますが、普段は後ろの見えないところに置いてあります。


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