利得「2〜5」の増幅回路あれこれ


利得「1」の回路に続いて、利得「2〜5」の回路です。真空管回路において最も苦手なのが、利得が「2〜5倍」程度の低利得回路です。カソード・フォロワ回路では1倍かまたはそれ以下しか得られませんし、通常の単段の増幅回路をそのまま使うと、12AX7では最低でも50倍ほどの利得が得られてしまいますし、低μの12AU7を使っても10倍以上の利得になってしまいます。しかし、ライン・プリアンプを組もうとすると10倍でも利得過剰なことが多く、苦労させられます。

アッテネータ回路

実に古典的な回路では、この方式が非常に良く使われました。入力部に抵抗2本からなる減衰回路を挿入し、減衰された信号を再び真空管で増幅しようというものです(右図)。

お世辞にもスマートとは言えない回路ですが、信号を100kΩと18kΩ(回路図中の3.3kΩは誤りで正しくは18kΩです)との減衰回路で約1/6.6(=0.153倍)に減衰させ、後続する12AU7単段増幅回路で約13.5倍に増幅することで、結果的に、

0.153倍×13.5倍=2.06倍
の利得を得ています。減衰回路の設定ひとつで利得1倍の反転増幅器になるので、古典的なプッシュプル・アンプの位相反転回路して使われました。

この回路は、利得を自由に設計できるという長所がありますが、一旦、信号を減衰させますのでノイズに対して不利であるのと、出力インピーダンスは使用する球の特性に依存します(右図の回路では、出力インピーダンスは約8kΩ)。また、回路利得は球のばらつきの影響を受けるという欠点があります。

減衰回路を出力側に挿入する方法もありますが、同じ1Vの出力電圧を得るのに、13.5Vもの出力電圧から減衰させなければならなくなります。真空管で発生する歪みは出力電圧にほぼ比例しますので、この方法では歪みが10倍以上大きくなってしまいます。12AU7の場合、1V出力時の歪みは0.1〜0.2%くらいですので、この方法で1Vの出力電圧を得た場合の歪みは1.5〜3%くらいのオーダーになることを覚悟しなければなりません。


電流帰還回路

右図の回路は、カソード抵抗に並列に挿入されるバイパス・コンデンサをはずしたいわゆる電流帰還回路ですが、マイナス電源を使うことでカソード抵抗値を大きくできるように工夫しています。

12AU7の交流負荷インピーダンスは、47kΩと470kΩと100kΩの並列合成値となり、約30kΩです。12AU7の内部抵抗はおおよそ10kΩですが、電流帰還がかかることで、7.5kΩ×(μ+1)分だけ上昇しますので、μ=18として計算すると、実際には152.5kΩほどになっています。この場合の利得は、

利得=18×{30kΩ÷(30kΩ+152.5kΩ)}=2.96倍
です。

この回路では、電流帰還がかかるために利得が減った分歪み率は改善されます(1/4〜1/5になる)。利得も球のばらつきの影響を受け難くなり、安定します。しかし、出力インピーダンスは非常に高くなり、約33kΩくらいに達しています。このままでは、ラインアンプとして使うには出力インピーダンスが高すぎますので、カソード・フォロワ回路を追加するなどの工夫がいります。


P-G帰還回路

今度は、P-G帰還をかけることによって2倍の利得が得られるようにした回路です。P-G帰還については、「私のアンプ設計マニュアル」の中の34.負帰還その3(その種類と実装のポイント)で詳しい説明がありますので、そのしくみについての説明は省略します。

右図の回路では、470kΩの抵抗を含まない状態での入力インピーダンスはおおよそ80kΩ(含めたら68kΩ)、出力インピーダンスは1.5kΩくらいで、利得は約2.08倍です。なお、この470kΩがないとグリッド電位が定まりません。入れる場所は、入力側でも出力側でもかまいません。

この回路の良い点は、2つの抵抗(回路図中の68kΩと180kΩ)の比率によって自由に利得がコントロールできること、出力インピーダンスが低いこと、そして負帰還がかけられた分歪み率特性も周波数特性も良好であることです。利得も安定します。欠点としては、入力インピーダンスを100kΩ以上に高くするのが困難であるということがあげられます。

この回路は非常に簡単ですが、動作も安定していて扱いやすく、優れた回路だと思います。私のプリアンプにも採用しています。


単段差動回路

右図の回路は、6DJ8を使った差動ライン・プリアンプを12AU7用にアレンジしたものです。

単段差動回路から構成された非常にシンプルな回路です。入力信号は、左側管のグリッドにのみ入力されるように見えますが、これは差動回路ですから、実際には入力信号は2つのグリッドのまたがって入力され、2管はシーソーのように互いにプレート電流を分け合いながら動作します。

無帰還時の本回路の利得は、12AU7単段あたりの利得(約13.5倍)の半分の6.75倍です。これに対して100kΩと51kΩによる負帰還がかけられています。最終利得は約2.06倍です。出力インピーダンスは、おおよそ8kΩです。

この回路の良い点は、2つの抵抗(回路図中の100kΩと51kΩ)の比率によって自由に利得がコントロールできること、入力インピーダンスを高くできること、差動回路をベースとしているため歪み率特性がきわめて良好であること、周波数特性も良好であることです。利得も安定します。欠点としては、そもそも平衡増幅器から無理やり不平衡出力を取り出しているため、出力インピーダンスが高めになりがちであることです。出力インピーダンスを下げるためには、プレート電流を多めに流してプレート負荷抵抗(47kΩ)の値を小さくすること、μの高い球を使うことです。

この回路は、簡単でありながら非常に高いレベルの音が得られます。


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