試作1号機と2号機の記録
右は2018年3月に試作した1号機の回路です。<アンプ部>
全体としては、12AX7を使った一般的な2段構成の回路をベースとして、2段目をSRPP回路に変更した構成としました。SRPP回路の実力がどの程度なのか実地に検証してみます。(12AX7のSRPP回路が、50kΩ負荷でも特性がほとんど劣化しないことは確認済みです)2段目を負荷に強いSRPP回路としたことで、RIAA負帰還素子の回路インピーダンスを若干下げることができました。初段カソード抵抗値を1.3kΩと一般的な値の半分として、初段の利得も若干高くすることができています。しかし、そのままでは初段管のカソード電圧(=バイアス)が低くなってグリッド電流(初速度電流)が流れ始める領域にひっかかってしまうため、B電源から1.5MΩを介してブリーダー電流を流し、初段のカソード電圧を一定値(約0.9V)に保っています。
<電源部>
電源部は、プリアンプ用として特注したRコア電源トランスです。B電源は、100Vを倍電圧整流してから、CRフィルタとトランジスタ・フィルタによって十分にリプルを除去し、左右に振り分けてからアンプ部に供給しています。回路的には特別なものはありません。ヒーター電源は、12.6Vをブリッジ整流してから、CR1段フィルタを経て得たDC12.6Vを各球に供給しています。SRPP回路の上側の球のカソードには120Vくらいの電圧がかかるため、ヒーター回路には+50V程度のヒーターバイアスを与えてあります。<評価と問題>
試作1号機は無事音は出ましたが、以下の2つの問題が発生しました。現象としては、超低域での歪み率の測定値のふらつきが異常に大きく、出力電圧が3V以下の領域では歪み率計の表示が暴れてしまって測定できないのです。真空管は、フリッカという不規則で非常に低い周波数(0.3Hz〜数Hzくらい)の電流のふらつきがありますが、それが極端に大きく出たような感じです。犯人は、初段カソード電圧を得るための1.5MΩによるブリーダー電流でした。1.5MΩをはずすと超低域のふらつきがピタッと止まったのです。
加えてものの見事に高周波発振も生じました。発振周波数は6MHzです。発振といっても少々わかりにくい微小発振で、振幅は出力側でわずかに100mVというものです。そのためテスターでは検出不可能で、音も普通に出てしまいますからまず気づかないでしょう。
何故わかったかというと、理由は2つあります。ひとつめは、RIAAのイコライジングの周波数特性が異常だったことによります。100kΩ負荷を与えて周波数特性を測定したところ、イコライジング特性はきわめてフラットでした。47kΩの負荷を与えると、超低域で微減が生じるはずなのに何故か全く逆の結果となり、持ち上がってしまったのです。さらに負荷を重くして33kΩとしてみると低域がさらに持ち上がってしまいました。これはあり得ない現象です。このように、計算上あり得ない不可解な現象に出会った場合、疑うべきは高周波帯域での発振です。ふたつめは、歪み率が出力電圧に応じて0.01%〜0.1%の範囲で良好な値を示す時と、出力電圧と関係なく0.5〜1%という大きな値を示したままになる時とがあったからです。このように、歪み率が出力電圧に応じて合理性のある相関を示さない場合も、疑うべきは高周波帯域での発振です。
試作1号機の問題を解消したのが試作2号機です。成功を念じつつ気合を入れて作りましたが、回路はOKでも実装でNGとなりました。<アンプ部>
試作1号機において初段をブリーダー電流方式としたことで何が問題になったのか。それはB電源の電圧のわずかなゆらぎが1.5MΩを通って初段カソードから侵入し、それが3600倍も増幅されて2段目のプレートに現れたことが原因です。初段は、ブリーダー電流方式を改め、カソード抵抗値を大きくして十分なカソード電圧(=バイアス)を確保しつつ、交流的には当初の設計どおり1.3kΩとなるように直列にしたCRを抱かせました。
1.6kΩ//6.8kΩ=1.3kΩ
また、段間の結合コンデンサとして(たまたまそこにあった)0.33μFという大きな容量のものを不用意に使ってしまったのを改めて0.1μFに減らしました。これで初段で発生するフリッカの影響が2段目で増幅されてしまう現象をある程度低減できます。
高周波発振問題は、2段目のプレート〜グリッド間に10pFの位相補正コンデンサを入れることで解決しました。コンデンサ容量は4.7pFあれば一応の安定は確保されることを確認しましたが、安全をみて10pFとしてあります。
なお、このコンデンサにはDC120Vがかかるため200V以上の十分な耐圧が必要ですが、10pFくらいの容量で200V以上の耐圧が得られるコンデンサはそう多くありません。確実なのはディップマイカ・コンデンサですが、いまどきこれを置いている店は多くなくしかも1本250〜400円ほどします。
<電源部>
電源部は、試作1号機とほとんど同じですが、ヒーター電圧を12.6Vに合わせる微調整を行っています。<評価と問題>
まず、周波数特性ですが、これ以上望めないくらい正確ににRIAA基準特性に合致しました。20Hz〜20kHzの全帯域にわたって、47kΩ負荷で+0.4dB/−0.1dBとなり、33kΩ負荷では±0.1dBという好成績となりました。試作1号機で起きた高周波発振の問題も解消されて、負荷インピーダンス値に逆行するような低域端の不可解な持ち上がり現象もなくなりました。
問題は歪み率データから読み取れる残留ノイズです。1kHzで測定していてなんとなく思っていたよりもノイズが多いな、と思って歪み率計の100HzのHPFをONにしたところ表示される歪み率が下がりました。ということはどこかで100Hz以下のノイズ(おそらくハム)を拾っているということです。
右の歪み率データで、注目していただきたいのは100Hz(青)における左上がりの直線の領域です。1Vの時の値が0.05%ですから、1V×0.05%=0.5mVのノイズが出ていることがわかります。同じ条件での1kHzのデータはここに書き入れていませんが、100Hzの時とほぼ重なりました。そして、100HzのHPFをONにした状態の1kHzと10kHzが赤と黒の線です。
試作2号機では、入力RCAジャックとその周辺の信号ケーブルが電源トランスの下を這っています。入力信号ケーブルにはシールド線を使いましたが電磁誘導ノイズに対しては無力ですから、電源トランスからの漏洩磁束を拾ってそれが増幅されたわけです。このPHONOイコライザは、1kHzにおける利得は115倍ですが100Hzでは500倍もあります。入力回路は負帰還ループの外であるため負帰還効果によるノイズ抑圧の恩恵も受けられませんから、入力ケーブルが拾ったハムはそのまま500倍増幅されてしまいます。いくらRコアが優秀であるからといって、このような条件では流石にノイズゼロとはゆきませんでした。
試しに後面パネルの入出力のRCAジャックを取り外して前面パネルに穴を開けて移動させてみました(右の2つの画像)。こうすることで25cmほどもあった入力信号ケーブルは数cmまで短縮でき、電源トランスからも可能な限り離すことができました。入力系のRCAジャックとケーブルの移動は効果てきめんで、今まで拾っていたハムがほとんどなくなりました。
しかし、このままではアンプの後面からはAC100Vケーブルが出て、前面からはオーディオ・ケーブルが出ることになるので、見た目がよくないし使い勝手も悪くなります。本製作ではこの問題も解決しなければなりません。