<簡単なのにハイエンド>

FET式差動ヘッドホン・アンプ Version 1
(DC12V 旧版 → 改訂版Version 2はこちら

Simple FET Differential Headphone Amplifier


最新バージョン(Version3)はこちら。

OPアンプで遊ぶのもいいけど、そろそろディスクリートの音聞いてみない?というわけで、先にご紹介したFETを使ったシンプルかつ音の良い差動ライン・プリアンプをベースに、これをヘッドホン・アンプに発展させてみましょう。差動プリアンプの回路の基本構成は変えることなく、数十Ωの低インピーダンス負荷を無理なく駆動するための出力バッファを追加しただけです。市販のDC12Vのスイッチング電源を使ったタイプと、自前でAC100V電源を持ったタイプの2台を製作しました。なお、このアンプはそのまんまプリアンプとしても使えます。

Let me introduce you simple and high performance headphone amplifier, which is based on former Differential Line Pre Amplifier using FET.


■DC12V版全回路

以下にDC12V版差動ヘッドホン・アンプの全回路をご紹介します。初心者の方の多くは、個別トランジスタによるディスクリートは敷居が高いといってOPアンプにバッファを追加したような作例を真似ることが多いと思います。しかし、本回路を良く見てください。初段2SK170の差動1段の役割は実はOPアンプと同じともいえるのです。この部分をOPアンプに置き換えたらおなじみのヘッドホンアンプになります。つまり、OPアンプにするか、JFET2本にするかの違いでしかありません。差動1段回路というのは実はOPアンプの原点なんです。

ディスクリートはベテラン向けなんてなさけないことを言っていないで、実体配線図もつけましたからここはひとつ頑張ってみてください。OPアンプでは決して出せない音がします。OPアンプのとっかえひっかえをして出口が見えなくなってしまった人は、心の洗濯だと思ってこれを作ってみてはいかが。なお、本機は特殊な部品は一切使っていません。トランジスタは入手可能な一般品(後述)を使ってもほとんど同じ動作、同じ特性、同じ音が得られます。


回路図中のコンデンサ容量は、推奨値が後に変更されていますのでご注意ください。


■初段差動回路

初段はラインプリと同じ2SK170による単段差動回路です。2SK170のgm※は右図のとおりです。gm値はドレイン電流の大きさと正の相関があります。Id=2mAの時におおよそ20mシーメンスですから、2.2kΩの負荷を与えた時の利得は、20×2.2kΩ=44倍で求まります。負荷を3kΩにしてId=1.5mAとすると、その時のgmはおよそ17と読めますから利得は、17×3kΩ=51倍になります。但し、本回路は差動出力の一方だけから出力を取り出すので実際の利得はその半分になります。

※gm=トランジス順方向伝達アドミタンス」と書かれています。

この関係から、同じ負荷だったらドレイン電流が大きい方が利得は大きくなり、同じドレイン電流だったら負荷が大きい方がわずかですが利得は大きくなることがわかります。いいかえると、利得は電源電圧の高さとほぼ比例するわけです。この関係さえつかんでおけば、電源電圧や負荷を自由に選ぶことができるようになります。

本機はDC帰還やサーボのたぐいはないため、回路の安定性はもっぱら2SK170の精度に依存するので2SK170の選別は必須です。回路図中の共通ソース電圧は0.24Vになっていますが、当サイトで頒布している高精度ペアを使った場合、0.15Vから0.30Vの間になります。この範囲になっていれば初段の動作はほぼ正常とみていいでしょう。ちなみに、頒布している2SK170の選別精度はバイアスにして±10mVです。ゲート入力のところに入れてある4.7kΩの抵抗は安定確保のためであり、これがないと容易にンMHzで発振します。この発振止め抵抗はできる限り2SK170のゲートに近い位置に取り付けないと意味がありません。


■定電流回路

共通ソース側の定電流回路はCRD(定電流ダイオード)ではなく、トランジスタ2SC1815を2本使って構成しています。CRDだと定電流特性を得るのに3V以上の動作電圧が必要ですが、トランジスタ2個使った方法だと1V程度もあれば良好な定電流特性が得られます。本機では、DC12Vの電源からプラス電源とマイナス電源の両方をまかなっているので(後述)、電源電圧を1Vも無駄にはできないためこのような方式となりました。

2個のトランジスタを使った定電流回路は、実は局部に強帰還をかけた「エミッタ接地増幅回路(Q4)+エミッタフォロワ回路(Q3)」の2段増幅回路です。10kΩの抵抗はQ3の負荷にあたり、出力はQ3のエミッタ・フォロワを介してQ4のベースにほぼ100%の負帰還がかかっているわけです。

約1mAのコレクタ電流を流した時のQ4のベース〜エミッタ間電圧は0.64Vくらい(2SC1815の場合)ですので、150Ωに流れる電流は、0.64V÷150Ω=4.3mA一定になります。この4.3mAがそのまま定電流特性になりますので、回路の安定性・信頼性を確保するにはQ4のベース電流は4.3mAに対して充分に小さな値である必要があります。Q4のコレクタ電流を仮に1mAだとして、Q4のhFE=150とするとベース電流は、1mA÷160=0.006mAとなります。一方でQ3のコレクタ電流は4.3mAですからベース電流は、4.3mA÷160=0.027mAです。この値も1mAに対してある程度余裕をもって小さい値であることが基本です。本回路では、150Ωを増減することで定電流特性はかなりの範囲で自由に変更できます。

それぞれの2SK170および2.2kΩに流れるドレイン電流は半分の2.15mAです。2.2kΩに生じる電圧は、2.15mA×2.2kΩ=4.73Vということになります。


■ダイヤモンド・バッファ回路

2SK170単段のままでは、プリアンプの出力としては使えますが、数十Ωという低インピーダンスのヘッドホンを駆動することはできません。パワーアンプほどではなくても、0.1Wくらいのパワーが得られる出力段が必要です。ここに2SA1015/2S1815のコンプリペアを使ったSEPP回路※を持ってくればとりあえずヘッドホンくらいは駆動することはできます。しかし、コンプリ1段のバッファ回路は高品質な伝送特性とはいいかねるので、もう1段追加したダイヤモンド・バッファ回路という回路を使うことにします。ダイヤモンド・バッファ回路に関する詳細な説明はこちらにあります。

※SEPP回路=シングル・エンデッド・プッシュプルの略で、真空管アンプのように重くてかさばる出力トランスを使わないでスピーカーなどを駆動することができるありがたい回路です。


■アンプ部・・・出力段

出力段は2SC3421と2SA1358によるごく普通のコンプリメンタリSEPP-OTL回路ですが、その前に2SA733と2SC945によるひっくりかえったエミッタフォロワがあります。頒布では2SA733/2SC945のかわりに2SA1015/2SC1815を入れています。この回路は一般にダイヤモンド・バッファなどと呼ばれているようで、昨今流行のOPアンプを使ったヘッドホン・アンプでも出力段に使われています。この回路は昔からおなじみのダーリントン接続に比べてインピーダンス変換効率は悪いのですが、トランジスタのベース〜エミッタ間電圧の非直線性を打ち消してくれたり、バイアスが与えやすかったりとメリットも多いので採用しました。

2SA733および2SC945のベース〜エミッタ電圧は0.651V〜0.655Vくらいになりました。82Ωのエミッタ側抵抗に生じる電圧を足すと、2SC3421と2SA1358の両ベース間にかかる電圧は1.71Vとなり、その時の2SC3421のベース〜エミッタ間電圧は0.645V、2SA1358は0.634Vになりました。従って、出力段の2個のエミッタ抵抗(10Ω×2=20Ω)の両端電圧は0.42〜0.44Vくらいになるので、出力段のコレクタ電流は21〜22mAとなります。本機の出力段の動作は通常の音量時はA級動作ですが、爆音時にはAB級領域になります。出力段の2SA1358と2SC3421の消費電力は非常に小さいのでともに放熱板は不要です。

本機は、いまどきの回路らしからぬ、出力側に結合コンデンサ(470〜1000μF/16V)があります。すなわち、DCアンプでもなければ、DC帰還もかかっていません。信号経路にアルミ電解コンデンサを入れるなんでけしからん、という方はどうぞこのページを閉じてください・・・信号経路にコンデンサがあるかないかは大きな問題ではない、ということに気づいた時にいいアンプを作るこつが見えてくるでしょう。本機は、比較的高インピーダンスのSONY MDR-CD900ST あるいはSONY MDR-7506あたりのモニターヘッドホンを意図して設計してあります。

なお、新規に製作される方は、本HomePageの設計にかかわらず出力側に結合コンデンサは470μFから1000μFに増量してください。同時に、電源のコンデンサ1000μFも2200μFに増やしてください。過去に本回路で製作された方も、変更が可能ならば両コンデンサ容量を増やしてください。顕著なレベルアップを実感されると思います。但し、コンデンサ容量を増やせば、それに応じてコンデンサが大型化しますのでケースの大きさはコンデンサの実物を確認してから決定されたらいいでしょう。


■電源回路

本機では、きわめて廉価(600円くらい)な秋月電子通商のDC12Vスイッチング電源を使用しています。アンプはプラスマイナス電源を必要としますので、12Vを1.4Vと10.6Vとに分けて擬似的にプラスマイナス電源を作り出しています。マイナス電源側に入れてある2個のダイオード(10E1または10DDA10、100V/1Aタイプ)がミソで、ここで生じている比較的安定した電圧降下を利用して-1.4Vのマイナス電源を得ています。ダイオードを使ったマイナス電源の内部抵抗はDC領域で約0.9Ωです。マイナス電源の2個の10E1(または10DDA10)と並列に入れたコンデンサは、回路図(1000μF)と配線パターン(220μF)とで容量が違っていますが、容量が少ないと電源OFF後のノイズが出やすくなるのでここは1000μFを入れてください。4.7Ωの抵抗は必須で、これがないと電源ON時の突入電流のためにスイッチング電源側で保護回路が作動してしまい、正常な動作をしなくなることがありますし、この抵抗と後続のコンデンサによるノイズ・フィルタ効果も見逃せません。プラス電源側は、左右チャネル・クロストークの影響を回避するために33Ωと1000μFの簡易なデカップリングをつけています。これは必須で、コンデンサの容量は多い方がいいです(後に2200μFに増量)。

電源電圧が12Vではない場合は、初段差動の2つのドレイン電圧が、電源電圧の1/2かそれよりもすこし高めになるように2.2kΩの値を増減させてください。他の回路定数はそのままでかまいません。9Vから15Vくらいの範囲であればそれだけのことで対応可能です。但し、15V以上にすると出力段パワートランジスタのアイドリング電流が増加して温度上昇が生じますので、放熱への配慮が必要になってきます。

秋月電子で扱っているDC12Vスイッチング電源は10種類以上あり、1A以下のタイプでも6種類くらいあります。Ayumiさんの検証(http://ayumi.cava.jp/audio/HPAmp/HPAmp.html)の結果、アダプタごとのノイズの量や質の違いが明らかになりました。私は、はからずも最もノイズが少ないアダプタを使っていたために最初から非常に低い残留雑音性能を得ましたが、アダプタの種類や方式によってはこれら3つよりも悪い結果が出る可能性があります。新規に購入される場合は、確実な「12V/1A 100〜120V 大型」を推奨します。


■部品と製作

全体のレイアウトおよびアースの引き方は以下の画像を参考にしてください。上の20Pの平ラグの右1/4は電源部です。15Pのところで切ると上下同じになります。初段ゲートの発振止め抵抗を後付けしたので、ラグにはいりきれずに突っ立ったままみっともないことになっています(下に載せたた実体配線図では修正されています)。画像では、差動になった2SK170の右側のゲートの発振止め抵抗はまだついていません。出力段の2SA1358と2SC3421の足回りのハンダがきたないのは、トランジスタの向きを間違えて取り付けてしまったのを後から苦労して付け直したからです。こういう凡ミスをすると仕上がりがこんな風にきたなくなりますよ、という悪いお手本です。

右図はアース配線の構造です。入力端子のところで1本にまとめてからボリューム端子に行き、そこからアンプ部の片チャネル側につなぎます。ステレオ構成なので両チャネルそれぞれのアースにつなぎたくなるのを我慢します。何故なら、電源側も左右をアースでつながなければならないわけですが、アースループをつくらないためには2箇所で左右をつなぐわけにはゆかないからです。本機のように、入力から出力まで1つのアンプで構成されている場合は、「入力〜アンプ〜出力」×2という流れでとらえないで、「左右ひっくるめて1つの系」としてとらえます。そういう意味では左右両アンプユニットをつなぐアースのポイントはどこでもかまいません。本製作では絶縁タイプでない(Cold側がパネルに接触する)ヘッドホン・ジャックを使用したため、シャーシへのアース・ポイントはヘッドホンジャックのところです。絶縁タイプのヘッドホン・ジャックを使う場合は「ボリューム〜アンプ部」の区間の範囲からラグの取り付け穴とかを使って最寄のシャーシに落としてください。なお、この配線では「ボリューム〜ヘッドホンジャック〜アンプ部」となっていますが、理想的には「ボリューム〜アンプ部」と「ヘッドホンジャック〜アンプ部」は線を分けることを推奨します。


画像をクリックすると大きくなります
この画像は初期製作のバージョンで、ラグ上の配置は後に変更・改良されています。

左下は背面パネルの配線と電源部の様子です。背面パネルのDC12Vジャックのマイナス側・・・茶色の線は、そのまま初段差動のマイナス電源(C-と表記)になります。このジャックには3つ端子がついていますが、そのうち1つは差し込んだ時にON/OFFするスイッチ機能になっています。そこにつないでしまうと導通しませんので注意してください。ボリュームから入力端子へは灰色のシールド線を使っていますが、シールド編組は入力端子側でのみアースに接続してあり、ボリューム側ではアースしません。シールド編組のヒゲが周囲に接触すると良くないので絶縁目的で熱収縮チューブをかぶせています。入力端子のアースからは黒い1本の線でボリュームのアース側につないでいます。


DC12Vジャックの端子の使い方に注意。
シールド線の編組は入力端子のところではアースにつないでいるが、ボリューム側はつないでいない。

1/4インチサイズのヘッドホンジャックは端子が全部で9個ついたスイッチ付を取りつけていますが、本機では差し込んだ時に動作する内臓スイッチは使いませんので端子が遊んでいます。右隣はミニジャックです。ヘッドホンジャックへの配線は、間違えないようにジャック本体に「L/R」を書いたシールを貼ってから配線しています。白がL、紫がRです。どちらがどちらかの確認は、実際にヘッドホンをつけて、Ωレンジにしたテスターを当ててゴソゴソ音で確認しました。私は気にしないでやりますが、ヘッドホンにテスターの電流を流すなんてトンデモナイ!とおっしゃる方は別の方法を工夫してください。

グレーの電源スイッチには端子が4つあって、上の2つがLED点灯用、下の2つがスイッチ用です。LED端子には「+」と「−」の刻印があるので逆に電圧をかけないように。このスイッチはなかなか格好が良いので部品頒布もしていますが、ひとつ重大な欠点があります。それは、穴あけが面倒でしんどいということです。14mm×19mmの四角い穴を正確に開けなければなりません。そんなの慣れているよ、という方は別としてケース加工に慣れていない方は小さな丸穴で済むトグルスイッチをおすすめします。


左が2Pトグルスイッチで右がLED内臓ロッカースイッチ。
パネル加工は小さな丸穴で済むトグルスイッチの方がはるかに楽。どちらも頒布している。

平ラグの青い半固定抵抗より手前はアンプ部になります。アンプ部のアース(Eで表記)は、まず、両チャネルの平ラグのアースをつなぎ、どちらか一方からアースを出してヘッドホンジャックまで持ってきて、そこからボリュームへ、さらに入力端子へ引いています。使ったヘッドホンジャックは根元のスリーブ部分がパネルに接触するので、シャーシへのアース・ポイントはヘッドホンジャック部分で行っています。本機の場合、シャーシへのアース・ポイントはどこでも大勢に影響ありません。入力信号の配線では、入力端子からボリュームまではシールド線を使いましたが、ボリューム以降アンプ入力まではむきだしのまま配線しています。この手のアンプではシールド線はあまり意味がないので、次に作ったAC100V版ではシールド線は全く使っていません。

ボリューム端子の配線は上の画像のとおりです。パネルを裏側から見ていますから、時計回りに回しきると音量は最小になり、時計と反対回りに回しきると音量は最大になります。縦に並んでいる3つの端子のうちいちばん下がアースで、中央をアンプ入力につなぎ、いちばん上を入力端子につなぎます。

初段のFET(2SK170)は精密にペア取りしたものを選別してください。定電流回路で使用するトランジスタは、2SC1815や2ASC945、2SC2002で代表されるごく一般的な小信号NPNトランジスタならたいがいは使えます。2SC1345や2SC2240などの高hFEの低雑音タイプは動作が不安定になることがあります。2SC1775Aのような高耐圧タイプのものは飽和電圧が高いため、本機のような低電圧動作には全く使えませんので注意してください。次段の2SA733/2SC945のコンプリ・ペアは、同等品でポピュラーな2SA1015/2SC1815(GRランク)を推奨します。出力段には、2SC3421/2SA1358のコンプリ・ペアを使用しましたが、これも同等のトランジスタでかまいません。やや小型ですが、2SC4408/2SA1680や2SC2655/2SA1020も使えます。マイナス電源用のダイオードは10E1を使っていますが、10E1は製造中止になり今は10DDA10に置き換わっています。このダイオードは、1Aタイプのシリコンダイオードなら何でもいいので1000V耐圧でおなじみのIN4007でもかまいません。但し、SBD(ショットキ・バリア・ダイオード)は順方向電圧が低いので使えません。

当サイトでは半導体の頒布をしていますので、入手が難しい方や半導体の扱いに慣れていない方、選別の道具がない方はご利用ください。トランジスタで悩ましいのは、ランク分けされたhFEも同一ランク内でも極端なばらつきがあることです。たとえば、2SC1815のGRランクを買ってくると、hFEは210〜380くらいの幅でいろんなのが混ざってきます。定格上は200〜400の間にはいっていればGRと呼んでいいことになってるので文句は言えません。頒布している半導体は私の判断ではありますが、hFEがあまり低いものは排除し、かつ可能な限り一定の範囲で揃ったものを選んでいます。FETに関しては1つのランクをさらに25分割して精密にペア取りしたものを頒布しています。

平ラグの推奨配線パターンは以下のとおりです。上の画像(実機)とは異なりますのでご注意ください。実機では、発振止めゲート抵抗がみっともない格好で取り付けされているので見直しをしたものを掲載しました。アンプ部は片チャネル分を15Pの平ラグに収めています。上側の20Pの平ラグのうち、右側5P分は左右共通電源部です。マイナス電源(C-と表記)は右上の「C-」を起点として、左下方向に見える左右各チャネルの「C-」につなぎます。「E」はアースで、ヘッドホン端子とボリュームと入力端子につなぎます。なお、15〜20Pの長い平ラグを使う際の注意点としては、中央付近の取り付け穴と端子が妙に接近していて接触しやすいことですのでご注意ください。思い切って真ん中の穴のスペーサは省略した方がいいかもしれません。

負帰還抵抗の受け側にある半固定ボリューム(回路図では200Ωになっているが頒布しているのは100Ω)を調整することで利得を変えられます。調整機材がない方は、これを100Ωの固定抵抗に置き換えてください。利得が足りなければ68Ωくらいに減らし、多ければ150Ωくらいにしてやります。お好みでどうぞ。半固定ボリュームは比較的入手しやすいBOURNSの25回転タイプの足を右画像のように加工してから取り付けました。センターの足を一方の足にからませて半田づけしています。利得(=負帰還)調整の時の回転方向が入れ替わるだけのことなので、どっち向きでもかまいません。

下図は、本機で使用したFETおよびトランジスタの接続です。いずれも、印字面を手前にした状態で判断します。2SK170は、回路図でいうと、上からドレイン(D)、ゲート(G)、ソース(S)の順です。2SK170はおなじみ2SK30とは左右が逆ですので注意してください。トランジスタは、回路図で矢印がついているのがエミッタ(E)、横に出ているのがベース(B)、斜めに出ているのがコレクタ(C)です。

配線の時、裏表(左右)を間違えてしまう人、2SAと2SCを入れ替えてしまう人がたくさんいます。特に、左右チャネルでシンメトリな構成で実装する時に勘違いしやすいです。一旦取り付けてしまった3本足の部品をはずすのは至難ですから、くれぐれもご注意ください。


2SK170 2SA733 / 2SC945
2SA1015 / 2SC1815
2SA1358 / 2SC3421

本バージョンの部品頒布は終了しました。

ヘッドホン・プラグ/ジャックの結線は右図のとおりです。先端をTipと呼んで「左チャネル」、真ん中をRingと呼び「右チャネル」、根元がSleeveで「アース(共通)」です。Top-Ring-Sleeve構造のプラグ/ジャックのことを略して「TRS」とも呼びます(画像出典:Behringer社)。ジャックの端子の配線は部品によってまちまちなので、実物を見て、テスターで導通をみて判断してください。案外面倒な作業ですがジャックの端子の出し方には標準というものがなく簡単に手に入る答えはありません。

ケースは、タカチ製HEN110420(pdfカタログ)を使用しました。DC12Vスイッチング電源は秋月電子のDC12V/1Aタイプ(650円)で、これに適合するDCジャックは内径2.1mmの標準タイプです。DCジャックほかほとんどの部品が千石電商で廉価に手に入ります。

ボリュームは、左右精度が非常に良く、雑音性能・耐久性に優れたアルプス製のデテント・ボリュームRKシリーズを使いました。三栄電波が品揃えが良く、品揃えは限定されますがとにかく廉価なのは門田無線です。

配線は、ユニバーサル基板に組んでも、平ラグで頑張ってもいいでしょう。アースは入出力、左右すべていっしょくたで大丈夫です。発熱部品もないのでケースに放熱孔はいりません。


■基本動作テスト

配線ミスや半田し忘れはわたしもよくやります。よくやることだから「かならずどこかでやってる」くらいに思っていた方がいいです。つまり、どんなに簡単なアンプでも一発で音が出るのはよっぽど運がいいということです。それをみつける最短コースがこれから説明する各部の電圧が正常かどうか、という検査です。

基本は対アース電圧ですが、一部、アース以外の2点間の電圧もあります。差動ヘッドホンでは以下の8箇所を測定すれば正常かどうか、設計どおりかどうかを掴むことができます。

  1. プラス側の電源電圧(対アース)・・・・電源回路にミスがある。異常に低い場合はアンプ部に重大なミスがあってとんでもない電流が流れている。
  2. マイナス側の電源電圧(対アース)・・・・電源回路にミスがある。
  3. 初段2SK170の共通ソース電圧(対アース)・・・・初段周りあるいはダイヤモンド・バッファの配線ミスなどで動作が正常でない。電圧は2SK170の個体によって0.16Vから0.31Vの範囲でばらつく。
  4. 初段2SK170の2つのドレイン電圧(対アース)・・・・初段周りあるいはダイヤモンド・バッファの配線ミスなどで動作が正常でない。
  5. 初段2SK170の2つのドレイン間電圧(ドレイン〜ドレイン)・・・・2SK170のペアが揃っていないか配線ミス。頒布している選別ペアなら±0.5V以内になる。
  6. 出力段センター電圧(対アース〜10Ωと10Ωの間)・・・・ダイヤモンド・バッファが正常に動作していない。
  7. 出力段無信号時電流(10Ω+10Ωの両端電圧を測って20で割る)・・・・出力段のアイドリング電流がわかる。
  8. アンプ部の全消費電流(電源33Ω抵抗の両端電圧を測って33で割る)・・・・アンプ部の全消費電流がわかる。
回路図を見ていただくと、このキモとなる箇所の電圧はすべて記載されています。そして、異常な電圧が現われた場合、そのほとんどは部品の異常ではなく配線の不良(し忘れ、半田がちゃんとのってない)です。そしてもう一つの可能性は購入した(とりつけた)抵抗器の値の間違いです。本機のような低圧回路の場合、耐圧破壊の可能性は非常に低く、また、電源回路に33Ωがあるため少々の回路ショート事故が起きてもトランジスタが破壊することは希です。部品を疑う前に、ご自分の作業を疑いましょう。

■測定など

2SK170の両ゲートには4.7kΩが入れてありますが、これがないと一発で発振します。ボリュームの位置、負荷の状態で発振の様子はかなり変化しますが、両抵抗全くなし、無負荷、ボリューム9時くらい、という状態だと12.16MHzで発振していました(下の画像・・・左)。入力側にだけ4.7kΩを取り付けて、約1kHzの正弦波の大振幅を入れると下の画像右のようなことになります。ぼうっと太くなったところの周波数は約2MHzです。こういった発振は、両ゲートに4.7kΩをつけることで容易にコントロール可能で、安定なアンプにすることができます。

SONY MDR-7506で試聴しました。透明感、安定感があって、帯域が広く、パワフルな音がします。ビッグバンドで、耳が壊れそうなくらいの爆音まで音量を上げましたが崩れません。つい、音量を上げたくなります。参考のために周波数特性の実測データを載せておきます。10Hzから100kHzまで減衰なしのフラットな特性で1MHzまで素直に伸びています。残留雑音は、1MHz帯域で30μV以下であることは確認しました。スイッチング電源を使っているからといって、妙な波形は全く出ていません。

方形波応答では、100kHzでもきれいな波形が得られ、方形波、正弦波ともにリンギング、オーバーシュート、ヒゲ、ビロビロなどは全く出ません。容量負荷を与えても安定しています。位相余裕は計算で確認した限りで100MHzまで十分に余裕があります。トランジスタを変更しても条件はほとんど変わりません。下の画像は左から1kHz、10kHz、100kHzで上が入力波形、下が出力波形です。


なお、本機の精密な歪み率特性データは手元にありませんが同等の回路を使用したAC100V版のデータならあります(下図)。アンプ部の電源電圧が異なるため本機の方が最大出力が若干低くなるはずですが、特性の傾向は同じですので参考にしてください。これは80kHzのLPFをかけた状態のデータです。特徴的なのは異なる周波数においても特性が揃っている点で、ここがディスクリートの強みでありOPアンプにはできない芸です。


■音&嫁入り

音の前に「ノイズ」ですが、たぶん誰が作っても「何も聞こえない」と思います。「サー」とか「シー」とかいう音はほとんどしません。つまり「無音」。じつはわずかですがノイズ出ています。しかし、OPアンプで作ったものではこれくらいの静かさはなかなか難しいでしょう。

遊びで製作した充電式かんたんヘッドホン・アンプと比べると定位、音場の広がり、帯域感、迫力などあらゆる点で本機の方が優れており、期待以上の結果が得られました。ただ、非常にリアルな表現をしますので、好みによってはきついと感じる方もいらっしゃるかもしれません。完成から1〜2日通電してみるとかなり変わりますのでやってみてください。出力コンデンサにニチコンのMUSE(緑色や金色)を使うと華やいだ傾向になり、同じMUSEでも黒色にすると静粛感のあるシックな傾向が出ます。秋葉原、千石のB1で売っている廉価な通常タイプ(茶色の低ESRタイプ)が最も癖がないように思います。

ヘッドホン・アンプの自作回路としては、OPアンプ+ダイヤモンド・バッファのものが良く知られていますが、チャンスがあったら出てくる音を本機と比べてみたらいいでしょう。どちらがいいかは好みにもよると思いますが、私は迷うことなく本機の音を選びます。

本機は縁あってジャズ・ギタリストのY氏のところに嫁入りし、氏より以下のコメントをいただきました。「早速MANLEYにつないでAKGのヘッドホンで音を聞いてみましたが、良いです!一言でいうと気持ちいい音!踊りたくなる音です!」「これを頼りにモニターしながらこれから沢山ミックスして行きたいと思います」。また、本機をベースにしたモニター・バージョンは目黒の某スタジオに嫁入りしました。


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