■■■レシーバーの試験その2(基板編)■■■
インターネットを検索してBluetoothレシーバーの基板(ボード)を探してみると、そのほとんどがスピーカー駆動のためのパワーアンプ付きのBluetoothレシーバーで、ごく少数ですがライン出力のものがありますので一体どの程度のものなのかamazon.co.jpに出ているもののうち使えそうなものを2つばかり入手してテストしてみました。左から、4.2Board-1、4.2Board-2と呼ぶことにします。
上の2つの基板はいずれも中国製のもので、注文してから12日ほどかけて送られてきましたが、4.2Board-2は今は箱入りで翌日配達になりました。マニュアルや解説書のようなものはなく、基板とケーブルがポロリと出てきただけなのでどう使ったらいいのかわかりません。両者ともにCSRA64215を乗せたBluetoothモジュールは同じ基板を使っていますが、基板上のCR類の様子がわずかに異なります。全体構成や付属ケーブルの末端処理など共通点が多いので同じ工場で作られたと思われます。おそらく基板を単体で売るために作ったわけではなく、何かの製品に組み込むためのOEM基板だけを横流ししているでしょう。どちらも技適マークやそれに類する表記はありません。
--- 4.2Board-1 4.2Board-2 基本機能 レシーバー レシーバー Bluetoothモジュール CSRA64125 CSRA64125 アナログ部モジュール DRV632(昇圧電源内蔵OPアンプ) NE5532(OPアンプ) 出力インピーダンス 記載なし(実測:---) 記載なし(実測:2.2kΩ) 通信方式 Bluetooth標準規格ver4.2 Bluetooth標準規格ver4.2 電源モジュール LM317M(3端子レギュレータ)
AMS117(3端子レギュレータ)78M09(3端子レギュレータ)
AMS117(3端子レギュレータ)電源 DC12V〜(推定) DC12V〜 or AC12V〜20V(推定) 基板サイズ 33mm×63.4mm、H=約10mm 55mm×57.5mm、H=約20mm Notes リレーにてBluetoothと外部入力を切り替え リレーにてBluetoothと外部入力を切り替え 価格 約1,300円@anamzon 約2,600円@amazon 送信側にはiPhone8を使用しましたので、iPhone8側の特性の影響も出ています。音源データはWaveGeneで作成したWAVファイル(無圧縮)です。
4.2Board-1について:
右側に見える3つのコネクタは、上がアナログ出力(L/R)、中がAUX入力(L/R)、下が電源入力です。アナログ出力は、Bluetoothを受信していない時はリレーによってAUX入力に切り替わりる仕様になっています。
電源関係は供給電圧(おそらく12V〜)をLM317Mによって6.4Vまで落とし、リレー回路へはここから供給しています。6.4VをさらにASM1117で3.25Vまで落としてDRV632とCSRA64125に供給しています。
アナログ部のDRV632は、約3Vの低電圧で動作するOpアンプで、内部に3Vから昇圧した±電源を得るチャージ・ポンプを内蔵しています。OPアンプは±電源で動作するため、出力側のDCカットコンデンサが不要になり、基板の超小型化を実現しています。
4.2Board-2について:
基板上にはコネクタがたくさんついていますが、それぞれの役割は裏面を見ると概ね見当がつきます。OUTがアナログ出力(L/R)、INがAUX入力(L/R)です。アナログ出力は、Bluetoothを受信していない時はリレーによってAUX入力に切り替わりる仕様になっています。
電源関係は、DC+/-とAC-INの2系統があります。AC-INの近くにはブリッジ整流ダイオード(ABS10)と470μF/35Vがあるので、AC入力にも対応した基板のようです。供給電圧(おそらく12V〜)を78M09によって9Vまで落とし、これがアナログ部(NE5532)の電源になります。これをさらにASM1117で3.3Vまで落としてCSRA64125に供給しています。アナログ部は電源電圧が9Vしかないため、無歪みで得られる最大出力電圧は2.1Vrmsどまりです。また、プラス電源での動作であるため、出力側のDCカットコンデンサとして0.47μF(赤い四角い部品)が追加されています。
周波数特性:
出力レベル(dB)の表示は以下の理由により表記が変則的な扱いになっています。4.2Board-1および4.2Board-2ともに、デジタルフォーマットの最大振幅(0dBFS)をそのまま送信すると、アナログ回路が飽和して波形はクリップし激しく歪みます。4.1Board-1の場合は、-6dBFSの時で1.58Vrmsを出力しますから、0dBFSでは3.16Vとなるはずのところ2.4Vまでしか出すことができません。同様に4.2Board-2は0dBFSでは5.3Vとなるはずのところ2.1Vまでしか出すことができません。そのため本来0dBになるはずのところが0dBに届いておらず、しかもこの時の波形は潰れています。波形が潰れているために、周波数特性が実際よりも良く見えています。
低域側は、4.2Board-1の-3dBの減衰ポイントは17Hz、4.2Board-2の-3dBの減衰ポイントは22Hzです。落ちはじめの周波数が高めで残念です。高域側は、4.2Board-1は18kHzでスパッと切れていますが、4.2Board-2は21.5kHzまで伸びています。4.2Board-2の方が低域側でより落ちているのは、アナログ出力のところにある0.47μFと62kΩによる5.5HzのHPFが形成されていることによります。
歪み率特性:
歪み率は、素のままの出力と80kHzおよび20kHzのローパス・フィルタを通した3パターンで測定しました。フィルタなしのオリジナルのままの歪み率は黒い線でこれが各機の製品としての実力です。80kHzのローパス・フィルタを通したのが青い線、20kHzのローパス・フィルタを通したのが水色の線で、これと比べることでノイズの分布やアナログ回路の程度がわかるので参考のために書き加えました。
4.2Board-1は、最低歪み率は0.44%でかなり悪い数字です。80kHzのローパス・フィルタを通すと0.16%となり、20kHzのローパス・フィルタを通すと0.13%となります。どこをとってもノイズが非常に多く使う気がしません。
4.2Board-2は、最低歪み率は0.24%で4.2Board-1よりも少しましかなという程度ですが、80kHzのローパス・フィルタを通すと0.1%まで下がり、20kHzのローパス・フィルタを通すと0.035%まで下がります。LPFの併用次第でなんとか実用レベルまでもっていけそうに思います。
両機ともにデジタルフォーマットの最大振幅(0dBFS)をそのまま送信すると、アナログ回路が飽和して波形はクリップし激しく歪むということを周波数特性のところで述べました。そこで、歪みの原因となっている直線性について調べてみた結果が下図です。本来、きれいな直線でなければならないところ、ずいぶん激しく曲がっています。
4.2Board-1を歪ませずに使うには、iPhoneなどの送信側のプレーヤーでボリュームを-3dB絞る(2ポジション下げる)必要があります。4.2Board-2を歪ませずに使うには、iPhoneなどの送信側のプレーヤーでボリュームを-8dB絞る(4〜5ポジション下げる)必要があります。こういうことをしなければならないというのが実用性と言えるか、というとたぶん言えないでしょうね。アナログ部のOPアンプの利得を下げるだけであっさり解決すると思いますが、面実装+小型チップ抵抗の基板をいじるのは気が重いです。
雑音特性:
歪み率特性データから得られる残留雑音の大きさは以下の通りです。とんでもない量のノイズが出ています。
--- 4.2Board-1 4.2Board-2 フィルタなし 9mV 5mV 80kHzのローパスフィルタ 4mV 2mV 20kHzのローパスフィルタ 3mV 300μV なお、iPhone側のプレーヤーを停止状態にした場合はデジタル出力が完全にカットされます。上記のノイズが出るのは演奏中だけです。デジタル機器ならではの興味深い動きです。
4.2Board-2を改造できないか:
4.2Board-2をよく観察すると、使用している部品をケチっているようには思えず、OPアンプにわざわざNE5532を配したりしてむしろ贅沢をして高音質を意識しているようにすら見えます。もし、NE5532のアナログ出力回路の利得を8〜9dB程下げることができたら、残留ノイズは減り、それにともなって歪み率も下がり、音量が大きすぎることも0dBFSの信号レベルで歪むこともなくなります。
残る問題は50Hzあたりからダラ下がりの低域特性をどうするかですが、原因はアナログ回路のどこかにあるはずなので、犯人を見つけることができれば解決策を見つけることができるかもしれません。
というわけで、この話は「ネットで手に入れたレシーバー基板を実用レベルに改造する」の記事につづきます。