Mini Watt Tourer with USB-DAC
トランジスタ式ミニワッターPart3
<USB DAC内蔵ミニワットツアラー>

CDジャケットとほぼ同サイズ。

<Part3 Tourer誕生の経緯>

Part3は、当初はあまり真面目に考えて作ったアンプではありませんでした。擬似プラスマイナス電源でもOCLパワーアンプができるのだろうか、面白そうだから冗談半分に作ってみようか・・・それくらいのノリだったのです。実際にに作ってみると、うまくいきそうでなかなかうまくつかない、そのうち問題噴出してしまいほとんど頓挫しかけたのですが、なんとか収束して形になったアンプです。そのあたりの経緯は元記事(http://www.op316.com/tubes/mw/mw-12v-p3.htm)および設計試作苦労話(http://www.op316.com/tubes/mw/mw-12v-p3-story.htm)をごらんください。

 左から、Part1、Part2、Part3(試作機)。

Part3の音はPart1、Part2をしのぐものでした。これを旅先にも持って行かない手はない、と考えて本機が誕生しました。


<ブロック図および回路図>

ブロック図は以下のとおりです。左から右に向かって順に、AKI.DAC-U2704、LPF部、外部入力のステレオミニジャック、音量調整ボリューム、アンプ部、スピーカー端子です。アースの引き回しはこの図のとおりにしてあります。点線部分は基板内でつながっています。

各ブロックをつなぐアースは上図と同じように配線するのが無難です。なお、LPF部とアンプ部のアース(G)は基板内部で接続してある(点線部分)ので、これらをつなぐアースラインを配線する必要はありません。シャーシアースポイントはクリティカルではないので、音量調整ボリューム〜基板の入力付近であれば配線しやすいところからとってください。

切り替えスイッチ付きの3.5mm径のステレオミニジャックを使って2系統の入力切り替えを行っています。ステレオミニプラグを差し込んでいない時は、USB DACの出力につながり、差し込むと外部入力に切り替わります。外部入力は、iPodのDOCKまたはヘッドホン出力が適合します。

音量調整ボリュームは10kΩを使いました。別に50kΩでもいいのですが、なりゆきでこうなりました。そのため、外部入力の入力インピーダンスが10kΩあるいはそれ以下になりますので、接続可能なソース機材を選びます。iPodなどのポータブルオーディオは基本的にOKですが、真空管式のプリアンプなどはダメです。

音量調整に使った2連ボリュームは小型で廉価なものなのでかなりギャングエラー(2個のユニットのばらつき)がありました。そのためボリュームポジションによって左右のバランスがおかしくなります。精度が高いALPS製のRK27を使う限りそのような手当は不要です。そこで、購入してから実際に角度ごとの抵抗値の変化をテスターで測定し、私のアンプ設計マニュアル / 雑学編の中の「2連ボリュームの左右アンバランス補正」を使ってで矯正してやりました。なお、部品頒布では、矯正済みの抵抗器付きの状態のものをお送りします。

<USB DAC部>

USB DAC部についてはこちら(http://www.op316.com/tubes/lpcd/aki-dac.htm)に解説があります。DACキットの基板側のアルミ電解コンデンサは、一部キット付属のものを使わずに以下のように置き換えています。

回路図部品名キット付属変更後
C547μF/25Vキットと同じ
C647μF/25Vキットと同じ
C1147μF/35V220μF/10V-16V
C14470μF/25V1000μF/10V-16V
C16100μF/35V220μF/10V-16V
C17100μF/35V220μF/10V-16V

<LPF部>

本機には、AKI.DAC-U2704に関する記事(http://www.op316.com/tubes/lpcd/aki-dac.htm)と同等のLPFを組み込んでいます。一部の抵抗を追加してあります。

<アンプ部および電源部>

アンプ部および電源の全回路は以下のとおりです。

<利得の設計>

Part2では、AKI.DAC-U2704は出力電圧が低いのでアンプの負帰還定数を変えて利得を高め(約6倍)に設定してましたが、旅先ではあまり音量を上げないことが多いので、利得はやや落として5倍にしてあります。そのため、12時のポジションでの音量は控えめです。12時ポジションでもう少し音量が欲しい場合は、負帰還抵抗の2.4kΩを1.8kΩ〜2kΩに変更してください。

<パワーアンプ部>

アンプ部の基本回路は元記事(http://www.op316.com/tubes/mw/mw-12v-p3.htm)とほとんど同じですが、出力トランジスタが2SA1931/2SC4881から2SA1359/2SC3422に変更になっています。その理由は3つほどあります。1つめは、高さを下げたかったことです。2つめは、出力段のアイドリング電流を減らしてアイドリング時の消費電力を抑えたかったことです。3つめは、この種のトランジスタが軒並み製造中止になって入手が困難になってきたためです。

トランジスタはコレクタ電流定格が小さいものほどベース〜エミッタ間電圧が高くなる傾向があります。2SA1931/2SC4881のコレクタ電流定格は5Aですが、2SA1359/2SC3422は3Aです。実際に測定してみても同じコレクタ電流を流した時のベース〜エミッタ間電圧は2SA1359/2SC3422の方が若干高く、同じバイアスを与えた時のアイドリング電流は30%減となりました。

負帰還回路定数も若干変更しています。元記事の回路が「1.2kΩ+4.7kΩ」であるのに対して本機では「2.4kΩ+10kΩ」としてあります。これは、DCカット用のコンデンサおよび次に説明するBass Boost用のコンデンサのサイズを少しでも小さくする必要があったためです。じつに細かい話ですが、元記事の220μF/10Vでは基板に載らず、100μF/10Vならば収まることがわかったためです。また、Bass Boost用のコンデンサも0.22μFは無理で0.15μFならばなんとか収まります。なお、Bass Boost用のコンデンサはやや高価ですがWIMAの超小型メタライズドフィルムです。

<Bass Boost回路>

ツアラーはもっぱら10cm以下の小型スピーカーを鳴らしますのでBass Boostは必須機能です。負帰還回路にCR(13kΩと0.15μF)を追加することで、100Hz以下で5〜6dB程度の低域のブーストを行っています。この定数はさまざまな小型スピーカーを使って実験を行った結果で決めました。8cm以下のスピーカーは150Hz以下がバッサリと落ちますので、この程度のブーストではとうていフラットには及ばないのですが、聴感上はこれくらいでも十分に効果が認識できます。むしろ、これ以上欲張ると自然さが失われます。

Bass BoostをOFFにしたい時は負帰還抵抗13kΩの両端をショートさせてください。基板パターンの★印のところから線を引き出して、適当なスイッチでON/OFFすることで、Bass BoostをOFF/ONできます。実装は右画像のようになります(この画像は初作のものなので基板パターンが本機とは異なります)。パネルをちゃんと取り付けるとアルミ電解コンデンサとの距離はすれすれになります。かなり小型のスイッチでないとうまく収まらないので奥行が15mm以内のものを頒布リストに加えてあります(通常の頒布のものは18mm)。

Bass Boost用のスイッチのスペースはほとんどありませんので、スイッチへの配線は横に出さないとアルミ電解コンデンサに当たります。なお、右の画像は初期の基板パターンのものですので、最新のものとは部品配置が微妙に異なります。

<電源部>

電源部をトランジスタ式ミニワッターPart3と比べると大幅に簡素化しています。元記事の回路では、DC入力のところに4700μFを入れ、左右チャネルに振り分けた先にも4700μFを入れましたが、本機の場合は、DC入力は1000μF、左右各チャネルは3000μFと全体的に容量が減らしてあります。理由は単純で、この基板サイズに収めるにはこれくらいまで減らさざるを得なかったからです。そのおかげで、電源ON時の過渡電流が減ったため、リレー回路を省略することができました。

左右チャネルへの振り分けは、元記事の回路では0.47Ωの抵抗でしたが、本機では0.68Ωに増やしてあります。コンデンサ容量減による左右チャネル間クロストークの劣化を少しでも食い止めるためです。

プラスマイナス電圧の配分をコントロールしている2SC1815ですが、原回路ではGRランクを指定していましたが、ツアラーではYランクに変更しています。これはツアラーの方が2SC1815の温度が高くなるので、トランジスタの温度特性を考慮しての変更です。制御トランジスタは当初は2SC4408でしたが、後に廉価で入手容易な2SC2655に変更しました。2SC2236も使えます。


<試作機のレイアウト問題>

下の画像は、最初に製作した試作機の基板です。なんとか詰め込んで実際に安定して動作していますが、このレイアウトには欠点があります。それは、温度によるドリフトの原因となる2SA1680(左手前)と、周囲の温度を検出制御している2SC1815(右奥)がアルミ電解コンデンサの森を隔ててあっち側とこっち側に離れてしまったということです。これでも大きなオフセットは生じませんでしたが反応が遅くなってしまい温度設計としてははなはだよろしくないので、レイアウトを見直すことにしました。

試作→ ←変更後


<製作、外観および内部の様子>

使用した基板は私が良く使うタカスのIC-301-72です。製作にあたって自分用に作ったパターンのメモがありますので、参考のために公開します(クリックで拡大)。

私の配線の流儀では、隣り合うランドとランドをつなぐ場合はホチキス型に加工した0.28mm径の銅線(※)をジャンパーとして使い、上から穴に通してから先を折り曲げています。抵抗器やコンデンサのリード線は一切曲げずにまっすぐのままハンダづけしています。こうすることで部品の交換が容易になります。穴の直径は1mmありますが、ジャンパー用の銅線の直径が0.28mmで、抵抗器などのリード線の直径が0.5〜0.6mmですので、1つの穴に2本の線が共存できます。ここにハンダを流し込むので接触面積が大きくなり、導通抵抗が下がるだけでなくハンダ不良もなくせます。図中の赤い線は裸銅線のジャンパーには適しませんので、ビニル被覆の線材を使ってください。

※表面にポリウレタン等の絶縁処理をしていない裸の銅線を使っています。ホームセンター等で工作用に売られていますが、入手できない方のために頒布もしています。

たぶんこれで誤りはすべて修正されたと思いますが・・・人はミスをする生き物ですので・・・。

使用したケースは、タカチのHIT-13-3-13(http://www.takachi-el.co.jp/data/pdf/08-09.pdf)です。右上はケース内のレイアウトですが、大きい方の基板がアンプ部で右下の小さい方の基板がAKI.DACです。2枚の基板と音量調整ボリュームはぎりぎりで収まりますが、油断するとお互いにぶつかってしまいって入らなくなりますので位置決めには注意してください。ケースの高さもぎりぎりなので、基板を取り付けるスペーサには高さ5mmのものを使っています。詳しい説明は別のページ(http://www.op316.com/tubes/tourer/tourer-case.htm)にあります。

ステレオミニジャックは中の構造が透けて見えるのでちょっと頭を使えばわかるのですが、以下のような構造になっています。ヘッドホンジャックとして普通に使う場合は、GND端子とL端子とR端子を使います。本機のようなスイッチ操作をしたい場合は、L(SW)端子とR(SW)端子を併用します。L端子とL(SW)端子は、プラグを差し込んでいない時は導通がありますが、プラグを差し込むと切れる構造になっています。R端子とR(SW)端子の関係も同様です。

←ステレオミニジャックの結線方法(クリックで拡大)

<アースラインおよび筐体のアース>

アースラインは、回路図上に実装と同じように描いてありますので、配線の参考にしてください。USB DACの左右2つのアース(GND)はキットの基板では中でつながっているので、片チャネル側だけを使って取り出しています。左右から2本分けて出す意味はなく、この部分のアースを分けるとアースループの原因になります。

使用したケースは、ケースを構成するパーツ間の導通がないという重大な欠点があります。アルミボディやアルミパネルの表面がアルマイト処理をしてあるために・・・アルマイト処理は電気を通しません・・・パーツを組み立ててても電気的には導通してくれないために各パーツがアースから浮いてしまうのです。こうなってしまうと、せっかくのアルミケースなのにシールド効果がないばかりかむしろ不安定なノイズを誘発します。

アースラインと後面パネルの導通・・・本機は後面パネルに取り付けたステレオミニジャックのところでアースがパネルに接触しますので、ここがシャーシアースポイントになります。

アースラインと底板、側板、上板の導通・・・基板を固定したビスのうち1個にアースラグを取り付け、ここに「アンプ部基板」と「ボリューム」と「ステレオミニジャック」からのアースを集中させ、金属スペーサ経由でアースラインと底板との導通を確保します。2枚の側板を固定している4個のビスをしっかりと締め付けることで、底板と側板との導通をはかります。同様にして上板を固定する4個のビスもしっかりと締め付けて側板との導通を確保します。

アースラインと前面パネル&ボリューム筐体の導通・・・音量調整ボリュームの筐体の爪の部分の表面をやすりで磨いてそこにアースラインをハンダづけしています。ボリュームの筐体と前面パネルとは取り付けた穴のところでなんとか導通してくれるので、こうすることで音量調整ボリュームの筐体も前面パネルもアースとつながるようになりました。


<製作手順>

  1. ケースの加工準備・・・加工図面を作成あるいはコピーし、2枚の基板(AKI.DACキット基板およびユニバーサル基板)を実際に当てながら位置を確認しつつ、ケース部材に加工用のマークを入れます。

  2. ケースの加工・・・本機の加工は丸穴しかありませんので、ドリルに加えてテーパーリーマーあるいはステップドリルがあれば作業できます。基板の取り付けにサラビスを使う場合は、すり鉢状の追加工が必要です。すべて実際の部品を当てて大きさを確認しながら作業します。

  3. ユニバーサル基板・・・パターンのチェック・・・回路図と実際の配線のは見た感じがかなり異なるものです。人が作った基板パターンで製作する場合は、いきなり基板パターンを見て作るのではなく、どんな基板パターンなのなを学習してください。基板パターンを追ってそこから回路図を起こしてみる方法をおすすめします。おそらく、回路図とは似ても似つかない場所に部品が配置されていてびっくりされるでしょう。基板パターンの間違いが発見されることもあります。考えているうちにもっと良い基板パターンが思いつくこともあります。ですから、基板パターンからの回路図の逆作成は必ずやってください。

  4. ユニバーサル基板・・・ジャンパー線の取り付け・・・本機のジャンパー線は作業性と仕上がりを考えてちょっと変わった方式を採用しています。ユニバーサル基板では、パターンをつなぐ線は銅箔がある下側に這わせるのが普通ですが、本機では上側を這わせています。ジャンパー線には細めの0.28mm径の銅線を使います。これを「コの字」型にしたものを基板の上から差し込んでからホチキスの針のように下側で折り曲げて固定してしまいます。この作業をひととおりやっておけば、あとは半導体やCR類は上から差し込んでどんどんハンダづけするだけで完成してしまうからです。半導体やCR類は下側で折り曲げませんので、作業性が良いだけでなく、間違えた時の交換も非常に簡単です。

    下の画像はジャンパー線の下準備をしているところです。どんな感じでやっているのか画像からイメージをつかんでください。まだ取り付けが済んでいない箇所が若干残っていますのでご注意ください。

  5. ユニバーサル基板・・・ジャンパー線のハンダづけ・・・ジャンパー線を通した穴には、ジャンパー線しか通さない穴と、ジャンパー線だけでなく同じ穴に後から半導体やCR類のリード線も同居する穴の2種類があります。ジャンパー線しか通さない穴は今のうちにハンダづけできます。

  6. ユニバーサル基板・・・電源部の半導体やCR類の取り付け・・・次の7.のテストを視野に入れて、電源部の半導体やCR類を基板に取り付けてハンダづけします。本機の製作方法では、リード線は一切折り曲げずにまっすぐのまま穴に通してハンダづけできます。ほとんどの抵抗器は立てて取り付けますが、他の部品と当たらないようにひとつひとつ向きを考えてください。4個のダイオードも同様です。パワートランジスタのコレクタが通る穴だけはジャンパー線と重なるのでちょっときついですので、慎重に作業してください。

  7. ユニバーサル基板・・・プラスマイナス電源の単体テスト・・・プラスマイナス電源部分の配線ができたら、電源部だけの単体通電テストをしておくといいでしょう(右画像)。プリント基板では、全ての部品を載せてしまってからミスを探すのがとても困難ですが、この部分だけでも正常であることがわかっていれば、以後の製作とテストが楽になります。(LPF部にもCRが取り付けられていますが、本テストでは関係ありません)

    プラス側が+6.1Vくらい、マイナス側が-5.9Vくらいになりますが、電圧配分は2SC1815の温度によって若干するように設計してあります。2SC1815を暖めるとプラス側の電圧が高くなります。本機はこのしくみを使ってスピーカー出力端子に生じるオフセットを制御しています。各トランジスタが正常に動作しているかどうかを確かめる方法としては、ベース〜エミッタ間電圧の測定が簡単です。2SC4408、2SC1815ともに0.65V前後であれば正常です。0.6V以下あるいは0.7V以上というのは異常ですので、どこかに配線ミスやハンダ不良があります。

  8. 出力段トランジスタへの放熱器の貼り付け・・・出力段トランジスタ(2SA1359と2SC3422)には1cm角の小型の放熱器を貼り付けます。この作業は基板に実装する前にやっておいた方がやりやすいです。貼り付けには、頒布した放熱器と同梱の放熱用両面テープを8mm×10mmくらいに切って使います。隣り合った2個のトランジスタは案外接近してますので、放熱器は左右にすこしずらして取り付けないと当たってしまいますので注意してください。

  9. ユニバーサル基板・・・アンプ部の半導体&CR類の取り付けとテスト・・・電源部のテストがOKになったらアンプ部の部品の取り付けをします。慎重を期する場合は、左右片チャネルごとに動作試験をしながら作業を進めるのがいいでしょう。「アース」と「スピーカー出力」との間にDCVレンジのテスターを当てて電源ONします。10秒以内に±0.01V以内に落ち着けばアンプ部はほぼ正常とみていいでしょう。念のために、プラスマイナス電源の電圧も確認して±6V前後を維持していることも確認します。

  10. AKI.DACキット基板・・・部品の取り付けと線の引き出し・・・AKI.DACキットの基板への部品の取り付けの説明はこちら(http://www.op316.com/tubes/lpcd/aki-dac.htm)にあります。キットの基板のランドは非常に小さいので、ハンダがきちんと浸透させるのが難しいです。細めのハンダとハンダごてをつかって、ルーペなどでよく見ながら部品を取り付けてください。本機の製作では端子台は使いません。

  11. ジャック類や各ユニットからの線出し・・・ケースが小さく配線が込み入っているので、ジャック類や各ユニットをケースに取り付けてから配線するのは困難です。そこで、下処理としてジャック類や各ユニットに線を取り付けてから組み立てた方がいいと思います。

  12. LEDの接着・・・LEDはエポキシ系の2液混合型のボンドでパネルに接着します。ボンドはたっぷりつけてLEDをしっかりと固定します。LEDの足は長さが違っていて長い方が+です。足を同じ長さに切ってしまうとどちらが+かわからなくなりますので、切る時も長さを違えて切るようにします。

  13. パネル、ケース本体、ボリュームのシャフト&筐体のアース・・・タカチのHIT-13-3-13は、パネルと本体の間の導通がないという重大な欠点があります。アルミボディやアルミパネルの表面がアルマイト処理をしてあるために・・・アルマイト処理は電気を通しません・・・パーツを組み立てても電気的には導通してくれないためにアースから浮いてしまうのです。せっかくのアルミケースなのにシールド効果がないばかりか、むしろ不安定なノイズを誘発します。そこで以下の方法ですべての部品のアース導通を確保します。

    ケース本体のアース・・・基板のところにアースラグを取り付け、金属スペーサを通じて底板と導通させます。
    後面パネルのアース・・・ステレオミニジャックのアース側とパネルを導通させます。
    前面パネルのアース・・・アースラインとボリュームの筐体にハンダ付けし、ボリュームシャフトのネジ部とパネルとを導通させます。
    上蓋のアース・・・取付ビスをきつく締めて導通させます。

  14. 部品および基板の取り付けとケースの組み立て・・・ケースへの部品の取り付けですが、(1)LEDの(1)AKI.DACキット基板の取り付け、(2)前後パネルの部品の取り付け、(3)ケースの組み立て、(4)アンプ本体の基板の取り付け、の順序がいいでしょう。

  15. 動作確認と調整・・・すべての配線が完了したら、動作確認試験を行います。アンプ部の単体試験はすでに11.で済んでいますから、組み上げた状態でも同じ結果が出るかどうか確認します。DCVレンジにセットしたテスターでスピーカー端子間の電圧を監視しながら、数分間かけて基板の温度が上昇して安定するのを待ちます。次に、半固定抵抗器をまわして、スピーカー端子間の電圧がゼロ近くになるように調整します。2mV以内であればOKです。

    USBケーブルで本機とパソコンをつなぎ、AKI.DAC基板上の青色LEDが点灯することを確認します。本機のスピーカーをつないで音出しテストを行います。配線ミスがなければ、ノイズは全くきこえずクリアーな音で音楽が鳴り出します。上蓋を載せて外気を遮断した状態でさらに1時間程度動作させてから、スピーカー端子間の電圧がゼロ近くになるように再調整します。調整はこれで完了です。


<本機の特性>

アンプ部:

仕様および測定結果は以下のとおりです。

  • USB DAC: 16bit、44.1kHz/48kHz
  • 外部入力: 感度=0.63Vで最大出力、入力インピーダンス=約10kΩ
  • 消費電流: 無信号時=約200〜230mA at DC12V
    秋月のACアダプタを使った場合のAC100V側の消費電力=4W
  • 出力トランジスタ: 消費電力=350〜420mW/個、表面温度=外気温+36℃(Max)
  • 利得: 5.0倍(8Ω負荷、1kHz)
  • 残留雑音: 16μV(帯域80kHz)
  • 電源: DAC部=USBバスパワー、アンプ部=DC12V、1A〜
周波数特性は以下のとおりです。Bass Boostは最大で+6dB、100Hzで+3.2dBとやや控えめですがローエンドを出しゃばらずに程よくサポートしてくれます。高域側の3dB落ちの周波数は450kHzとなりました。

アンプ部の歪み率特性はご覧のとおりです。8Ω負荷における最大出力は1.25Wです。2SA1931/2SC4881を使ったトランジスタ式ミニワッターPart3と比べると歪みは若干増えており、最大出力は10%ほどダウンしています。


<使用感と音の感想など>

Part3になってかなり練れた音になってきたと思います。真空管式の全段差動PPと比較してしまうとミッド&ローの存在感や定位感などに差が出てしまうのですが、実用レベルは十分にクリアできたと思っています。特に、超低域の再生能力は全段差動PPをしのぐものがあります。DACは簡単なLPFしか組み込んでいないわけですが、iPod nanoのいずれの世代よりもしっかりとした音が出ます。

本機は仕事や休暇の旅で大活躍しています。仕事で泊まるホテルで過ごす夜の時間くらい味気ないものはありませんが、少々の荷物になっても本機とスピーカーがあればなんともリラックスした時間になります。ステレオミニジャックの入力端子をつけたのは正解でした。PCを出さなくても、iPodなどのプレーヤーをつなげばすぐに音楽が聞けるのと、USBケーブルの不調などのトラブル時のバックアップになってくれて助かりました。

右の画像は出張先のホテルでの様子です。スピーカー台のようなものは、木切れで作ったT字型の簡易スピーカースタンドです。これがあるのとないのとではプレゼンスが全く違いますので欠かせません。

2013年秋に来日したウィーンフィルのメンバーも、日本までこのMiniWatter Part3 Tourerを持ってきてホテルの自室で鳴らしていました。スピーカーはMONITOR AUDIOのRadius9でしたので持って歩くにはちょっと大きいですが、流石にバランスの良いスケールの大きい音でした。2014年3月には一カ月に及ぶ米国ツァーがあるので滞在が楽しくなると言っていました。


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