■巻頭言■
〜 アナログLPレコードとデジタルオーディオは同列でいい勝負をする 〜


2018年の初夏、このHomePageでは「アナログLPレコードを楽しむ」というタイトルのメニューを新設しました。その発端はLPレコードの再生について今までにはなかった経験をしたからです。

これまでの私の認識は、LPレコードの音とCDの音はかなり違うというものでした。LPレコードの音はやわらかく温かみがあって心地良いという側面とデジタルに比べてレンジ感が甘くシャープさに欠けるという側面があり、デジタルは概ねその逆であるという違いです。しかし、今になって同じ録音ソースのLPレコードとデジタル音源とは区別が難しいことがある、という新たなる経験をします。

レコードという記録再生の仕組みは、米CBS研究所や英コロムビア、そしてRCAビクターらによって改良と成熟をみてきました。当時はもちろんデジタルの片鱗もなかったアナログ一本の世界だったわけで、その中でワイドレンジでローノイズ、低歪みの正確な記録再生をめざしていました。今日、私たちはアナログの音とデジタルの音を対比的に語る癖がついてしまいましたが、アナログとデジタルそれぞれが異なる音を目指してきたかというとそうではないと思います。アナログの音はやわらかく温かみがある、とい言われますがLPレコードの仕組みを作ってきた人々はそういう音を目指していたのでしょうか。

アナログの音とデジタルの音がそれぞれにグレードアップしつつ互いに近づいてゆくためには、デジタルオーディオ側はCDプレーヤではなくPCオーディオ+良質のD/Aコンバータに変化する必要があるように思いますし、LPレコード側も従来の再生装置からかなりのグレードアップを必要とします。

我が家では2000年を過ぎた頃からすっかりLPレコード離れをして音楽ソースはCDに集中してゆきました。「iTunes+PCオーディオ」の環境が整うと、音楽ソースのデジタル集中はさらに加速しました。2台あったレコードプレーヤのうち1台を手放し、残った1台もホコリをかぶったままになっていました。それが復活したきっかけは12AX7 PHONOイコライザ Version2が完成したことです。さらにレコードプレーヤをDENON DP-55LからYAMAHA GT-750に入れ替えたことでLPレコードの再認識は決定的となりました。

LPレコードは気になるさまざまなノイズ(パチパチ、ザー、ブーン、ワーン、ゴロゴロ)があってとても静粛とは言えないことや、なんとなく感じる歪っぽさを不満に感じていた私です。ところが、環境を良くしてやったらノイズはあまり気にならなくなったばかりか「リアリティ」「明瞭さ」「際立った定位」まで感じられて「LPレコードさん、今までナメてました、すいません」な今日この頃です。

16bit/44.1kHzのデジタルもアナログLPレコードも、まだまだ伸びしろがあるわけです。

このHomePageで、「アナログLPレコードを楽しむ(PHONOイコライザとMCヘッドアンプ)」と「アナログな人のためのデジタルオーディオ(USB-DACとデジタル編集)」が隣り合っているのは、この2つが同列になりうることを暗示しています。

ところで、以前からオーディオ界に蔓延している興味深い通説があります。CDなどサンプリングレートが44.1kHzのデジタルソースは22kHzより上の周波数が存在しないが、LPレコードはそういう制約がないから音が良いのだ、というやつです。では、SACDが登場して22kHzの制約がなくなったらデジタルの音がLPレコードのような心地よさを実現してくれたか、というと全然そういう方向でのレベルアップは得られていない。LPレコードの音の地位は全くゆらいではいません。22kHzの壁というもっともらしい理屈(のようなもの)は説得力を失ってしまったわけです。

16bit/44.1kHzのデジタルソースの音は、工夫次第でまだまだ良くなるという実感があります。LPレコードはどうであるかというと、PHONOイコライザアンプとレコードプレーヤを入れ替えた途端に「今まで聞いていたLPレコードは一体何だったのか」と思うほどの静かで腰が座った音を出してくれて、LPレコードのポテンシャルの高さを今更に思い知りました。

デジタルオーディオが生活の中で中心的な地位を占めるようになってきた今、この文章を読んでいる人はきっと今でもかなりのLPレコードを抱え込んでいて、さあこれから先どうしたものか、自分が死んだら残された者にとっては大迷惑(かさばる、重い、カビくさい)、売るにしても大したお金にはなりそうもないし(オークションでは買い手がつかないLPレコードが溢れています)、と思案中なのではないでしょうか。ずっとしまわれたままになっていLPレコードから、これまで聞いたこともないようなリアルで感動的な音楽が出てくるというかなり高い可能性があるとしたら、かつての愛聴盤をいまいちど取り出してきて再投資&チャレンジしてみる価値は大いにあると思うのです。


アナログLPレコードを楽しむ に戻る