Mini Watt Tourer with USB-DAC
トランジスタ式ミニワッターPart6
<USB DAC+Bluetooth内蔵ミニワットツアラー>


USBとBluetoothのダブルサポート版のミニワットツアラーです。これ1台とスピーカーを用意するだけでPCオーディオとBluetoothの両方が使えてしまうので、お手軽にオーディオシステムが構成できます。コンパクトながら多機能であることと、それなりの高音質を維持するための手当てなどのせいでかなり長い記事になりました。記事は長いですが多くのことを省略しています。本機の製作では、記事に書かれていないちょっとした課題を自力で解決する能力と製作技術を要求しますので初心者にはあまりおすすめしません。

<Part6のハイライト>

USB-DACとBluetoothの共存は「USB DAC+Bluetoothレシーバー Version3.0」で実現しているので、この設計をほぼそのまま踏襲しています。本機ならではの回路設計上のトピックとしては、共用できない2つの異なる電源(±6Vと+12V)をコンパクトにまとめたことでしょうか。

小型化するためにデジタルノイズを除去するフィルタ(LPF)はLC1段に簡素化するという割り切りをしています。そのため雑音歪み率の物理スペックは優秀とは言い難いところがありますが、それでも市販のBluetooth製品よりはかなり良質なものに仕上がったと思います。


<ブロック図と全体構成>

全体の構成(電源部を除く)とアースの関係は下図のとおりです。Selectorスイッチで2つのソースを切り替えた後にフィルタ(LPF)が続き、音量調整ボリュームはその後になります。この順序を守らないとLPFが正常に機能しなくなります。アースの実装は個の図を参考にしてください。


<USB-DAC基板のアレンジ>

重要な変更点は2つです。一つめは低域の左右チャネルクロストークを支配しているC11の増量で、二つめは出力回路の変更です。AKI.DACのオリジナル回路は出力が47μF(C5,C6)の出しっぱなしになっています。この状態でUSB-DACとBluetoothの切り替えを行うと大きなポップノイズが出ます。そこでC5,C6の電荷を逃がす抵抗器(10kΩ)を出口側に追加しました(右の画像の赤で囲んだ部分)。さらにおまけ程度ですが基板上の他のコンデンサについても若干の変更を行っています。

回路図部品名キット付属変更後
C547μF/25V出口側のアースとの間に10kΩを追加
C647μF/25V出口側のアースとの間に10kΩを追加
C1147μF/35V470μF/10V
C14470μF/25V変更なし
C16100μF/35V220μF/10V
C17100μF/35V220μF/10V


<Bluetooth基板側のアレンジ>

この基板は、amazon.co.jpで「Bluetooth レシーバー ボード」で検索して画面をめくってゆくとやがて複数の出品が見つかると思います。中国製のもので、グレーの心許ない緩衝材付きの袋に無造作に入っており、マニュアルや解説書のようなものはなく、基板とケーブルがポロリと出てきただけの実に不親切なシロモノです。CSRA64215を乗せたBluetoothモジュールに電源部やアナログ出力部を追加した構成になっています。

本基板は技術基準適合証明番号(電波を発する通信機器に要求される技術的な確認許可の証明)の表記や技適マークの表示がありません。本基板の販売者に対しては、現在技術基準適合証明番号・技適マークを表記する、あるいは技術基準適合証明番号の取得するように通知を行いました。本基板の使用にあたっては、現在十分に合法的な裏づけが得られていないことを認識してください。関連する解説はこちらにあります。

NE5532アンプの利得を下げつつ低域の減衰を補償する回路定数をカット&トライで求めたところ、1μF+4.7kΩに落ち着きました。0dBFSにおける出力信号レベルは、AKI.DAC側とBluetooth側がほぼ同じになりました。

2.2kΩは33Ωでバイパスさせます。これはDACの基本特性がAKI.DACとBluetoothとで10kHz以上の帯域で微妙に異なるのを微調整するためです。LCフィルタ(2.7mH+0.01μF)からみたソース・インピーダンスが、AKI.DACの時は620Ωであるのに対して、Bluetoothの時は653Ω(=33Ω+620Ω)とわずかに高めになるようにチューニングしています。

470μF/35Vは高さが16mmもあってこのままではケースに収まらないので高さ12mmの470μF/16V〜25Vに交換する必要があります。出力のDCカットのための1μFフィルムコンデンサは10μF/25V〜50Vアルミ電解コンデンサに交換していますが、1μFのままでも15Hz以下のレスポンスが少し変わる程度なのでわざわざ交換するまでもないでしょう。

リレーで切り替わる外部入力は使用しないので、そちらに切り替わった時にオープンにならないようにショートさせておきます。


<LPF部・・・回路変更>

デジタルノイズは20kHz〜1MHzあたりに多く分布するので、20kHz以上を-12dB/octでカットするLCフィルタを使用します。インダクタ(L)はスペースの都合で小型のものを選んでいます。

Part5まではLCフィルタのC側(0.01μF or 0.012μF)と並列に390Ωを抱かせることでQを制御し、AKI.DAC側から見ると低インピーダンス負荷となる設計でした。しかし、このLCフィルタではBluetooth側の回路がなじまないため、L(2.7mH or 2.2mH)と直列に620Ωのダンプ抵抗を入れることでQを制御する設計に変更しています。


<アンプ部および電源部>

アンプ部および電源の全回路は以下のとおりです。(2019.5.18版)

<利得の設計・・・Part4/Part5と同じ>

旅先のホテルで鳴らす時はあまり音量を上げないことが多いので、利得はやや落としてあります。AKI.DACおよびBluetoothの出力信号電圧が0dBFSで約0.63Vなので、これを5.8倍すると3.64Vになり、この時の出力は8Ω負荷で1.66Wです。これは本機の最大出力の1.5倍です。デジタルソースからはこれ以上大きな信号は出てきませんから、本機の音量調整ボリュームを最大にすると歪むわけですが、オーディオソースの中にはデジタルフォーマットのフルスケール(0dBFS)に対してレベルが低めのものもあるので、このような利得設定にしてあります。録音レベルが低いソースの場合、本機のボリュームをMAXにしても最大出力に至ることはありません。

本機の利得設定では、12時のポジションでの音量はかなり控えめになります。しかし、ホテルの部屋で鳴らすとこれでもかなり大きな音量に聞こえます。

<パワーアンプ部>

初段は2SK170を使った最もオーソドックスな差動回路です。この差動バランスで出力端子側のDCオフセットが制御&決定されます。2SK170のドレイン電流は1.7mA、DCバランスの半固定抵抗器は10Ωですので、このボリュームで調整しきれるDCアンバランスの範囲は約17mVです。差動回路で使用する2SK170のバイアス特性のばらつきは14mVくらいに収めておかないと調整しきれません。頒布の2SK170は十分にこの範囲内です。

2段目は2SA1680による差動回路です。12Vという低い電源電圧のなかでやりくりしますので、定電流回路に充てられる電圧はたった0.74Vしかありません。2SA950には2SA1680の2本分のコレクタ電流が流れますからその値は60mAです。4.7Ωのエミッタ抵抗に生じる電圧は60mA×4.7Ω=0.282Vですから、2SA950の動作に割り当てられるコレクタ〜エミッタ間電圧は、0.74V−0.282V=0.458Vということになります。2SA950を選んだ理由は、コレクタ〜エミッタ間電圧が低くても飽和しないで動作してくれるからです。

ところで、2段目は両方の2SA1680に180Ωのコレクタ負荷抵抗を入れてあります。一般にこの種の回路ではスピーカーをドライブしない側のコレクタ抵抗は省略するのが常ですが、本機ではあえて入れてあります。何故かというと、2SA1680のコレクタ電流が30mAほどもあるため、コレクタ負荷抵抗を省略した側の2SA1680が過熱してしまうのと、温度差が生じるためにVBEの差が大きくなり初段の差動バランスが不十分になってしまうからです。

出力段は簡素な1段SEPP回路です。アイドリング電流は60mA前後ですので、出力トランジスタ1本あたりの消費電力は300〜400mWになります。バイアスはUF2010×2本で与えていますが、アイドリング電流はUF2010のばらつきや温度の状態によってかなり変動します。このダイオードは10DDA10やIN400X系に置き換えるとアイドリング電流が多くなりすぎて過熱しますので安易に他のダイオードに置き換えることはできません。

<Bass Boost回路・・・Part4/Part5と同じ>

ツアラーはもっぱら10cm以下の小型スピーカーを鳴らしますのでBass Boostは必須機能です。負帰還回路にCR(13kΩ〜15kΩと0.15μF)を追加することで、100Hz以下で5〜6dB程度の低域のブーストを行っています。8cm以下のスピーカーは150Hz以下がバッサリと落ちますので、この程度のブーストではとうていフラットには及ばないのですが、聴感上はこれくらいでも十分に効果が認識できます。0.15μFの値を増減するとブーストを開始およびストップする周波数を変化させることができます。

私は小型スピーカー限定で使うのでBass Boostは効きっぱなしにしてありますが、Bass BoostをOFFにしたい時は負帰還抵抗13kΩ(15kΩ)の両端をショートさせてください。基板から線を引き出して適当なスイッチでON/OFFすることでBass BoostをOFF/ONできます。

<アンプ電源部・・・Part4/Part5とほぼ同じ>

アンプ部の電源はPart5と全く同じです。擬似±電源の制御トランジスタは2SC2655を使いましたが、2SC4408や2SC2236も使えます。本機の動作の安定は使用するACアダプタの定電圧性能に依存します。秋月で扱っている12V/1Aタイプのものはいずれも定電圧性能が優れ、そこそこ雑音性能です。

注意:ACアダプタには電源ON直後にかなりの過渡電流が流れます。電源ONのタイミングによってはACアダプタの保護回路が働くことがあり、その場合は電源電圧が高くなったり低くなったりしてLEDが点滅を繰り返します。その場合は、一旦電源を切ってからすぐに再度電源ONしてみてください。

<Bluetooth電源部>

アンプ部の電源が±6Vの2電源であるのに対し、Bluetooth基板は+12〜15V(正確には+11.5V〜25V)の電源で動作します。同じ12Vなんだから回路を工夫してなんとかアンプ部と共用できないかと思いたくなりますが、アース電位が場所が異なるのでそれはできない相談です。この問題を解決しているのが、12V入力→12V出力のDC-DCコンバータ MCWI-12S12です。

入力側の22μFは高速スイッチングの際のポンプの動力源となり、出力側の22μFは整流後のノイズのリプルフィルタです。スイッチング周波数は300〜350kHzと高いので、300kHz〜1MHzの帯域でより低いインピーダンスが得られるOSコンを採用しています。


<DCオフセットと温度ドリフト・・・Part4/Part5と同じ>

2段直結差動回路というのは、2段目のトランジスタのベース〜エミッタ間電圧(VBE)が同じである限り、一旦初段のDCバランスをとってしまえば、比類なきDC安定が得られます。本機もその効果を狙ったのですが、なかなかどうして思惑通りにはゆかぬことがわかってきました。

2段目のトランジスタのベース〜エミッタ間電圧(VBE)がなかなか同じになってくれないのです。何故かというと、2個の2SA1680の動作条件が同じにならない、具体的にはまずコレクタ電流が同じにはならない、そしてコレクタ損失=温度が同じにはならないという問題です。特に温度の違いがばかになりません。温度が違えばベース〜エミッタ間電圧はどんどん変化する、hFEも変化するためにベース〜エミッタ間電圧の変化がさらに大きくなる。その結果として初段2SK170のドレイン電流のアンバランスを引き起こします。初段2SK170のドレイン電流のアンバランスはすなわち初段差動回路のバイアスの差になって現れ、その差がそのままDCオフセットを変化させてしまうわけです。

もうひとつの問題は、発熱部品と初段2SK170との距離関係です。2個の2SK170の近くに180Ω1/2Wの抵抗器がありますが、これが出す熱がばかにできません。そしてこの抵抗器は一方の2SK170に近いためそちら側の2SK170の温度がわずかに高くなってバイアスの差の原因になります。

上記2つの要素がどれくらいのインパクトがあるかというと、12mV〜15mVくらいのDCオフセットが生じます。これは10Ωの半固定抵抗器で調整できるぎりぎりの値で、場合によっては半固定抵抗器を回し切っても微妙に調整しきれずに数mV程度のオフセットが残ってしまいます。

この問題を解決するために、まず2個の2SA1680の消費電力ができるだけ同じになるように回路定数を選び直し、さらに左側の2SA1680のコレクタにダミーのダイオード(1S2076A)を1本追加して熱を分散させました。それから、2個の2SK170の温度差が少なくなるように1.2mm径の銅単線でブリッジを作り、エポキシ系ボンドで固定しました。この2つの方法の効果は非常に大きく、なんとか許容できる調整範囲に収まってくれました。本機の製作では2SK170にだけブリッジをつけていますが、下の画像のように2SA1680側にもつけてやると差動バランスはさらに良くなります。使用したのはごく一般的な速乾性のエポキシ樹脂系2液混合タイプです。

熱結合ブリッジ→ ←使用したボンド

注意:DCオフセットの調整はケースに入れた状態で行います。基板単体でテストを行う場合は、小さな紙箱などに入れてケースに入れた時に近い状態で行ってください。また、電源ONしてからしばらくの間は電圧が初期流動状態になり、調整に適する安定状態にになるには20分以上を要します。また、DCオフセットは十数mV程度生じていても実害はありませんので、無理して「ゼロ」にしようとしないことです。周囲の温度条件が変われば電圧が動きますし、アンプ本体を立てたり寝かしたりしても筐体内の気流が変わって電圧も変化します。本機の電源回路は、4Ωスピーカーをつないだ状態で最大50mVのDCオフセットを吸収する能力を持っています。


<部品>

FET、トランジスタ・・・初段の2SK170BLは、できるだけバイアス特性が揃ったペアを使ってください。ソース側のバイアス調整ボリューム(10Ω)による調整範囲はめいっぱい回し切っても15mVくらいしかありませんので無選別の2SK170は全く使えません(※)。頒布しているものは温度管理された条件下で±5mVの精度でペア取りしていますので十分な精度が得られます。BLランクを使用していますが、GRランクも問題なく使えます。
※売られている2SK170からランダムに拾った場合は150mVくらいのばらつきが生じるので選別が必要です。2SK170は製造ロットが同じでも特性のばらつきは小さくなりません。
2SA950-Y(定電流回路)はhFE=300前後からペア取りしたものを推奨します。

2SA1680(2段目段)はhFEが280以上でペア取りしたものを推奨します。2SA1680がどうしても手に入らない場合は、2SA966でなんとか代用できますがhFEは200台にとどまりますので、裸利得が若干低下するのと、DCバランスが設計値から若干はずれます。

2SC2655(電源部)はhFEが100以上あれば十分です。2SC2235、2SC2236、2SC4408も使えます。ここでは何を使っても音に影響はありません。

出力段の2SC3422/2SA1359はhFEが140未満のものは避けて、かつ左右で値が揃ったものを使用してください。なお、hFEは2SC3422よりも2SA1359の方が常に高めになるので、2SAと2SCのhFE値が同じになる必要はありません。

FETおよびトランジスタのリード線の接続は下図のとおりです。いずれも下から見た図(bottom view)です。たとえば、2SK170の場合は、印字面に向かって左からドレイン(D)〜ゲート(G)〜ソース(S)の順になります。2SA1680、2SC3964は、印字面に向かって左からエミッタ(E)〜コレクタ(C)〜ベース(B)の順ですが、2SA1931/2SC4881は左右が逆になります。これを間違えることが非常に多いので注意してください。

2SK170 2SA950(高さが低い)
2SA1680
2SC2655
2SC3422/2SA1359

ダイオード、LED・・・出力段のバイアス用には、定格電流が2Aタイプの整流ダイオードのUF2010が適します。ダイオードの順電圧が出力段のアイドリング電流を支配しますので、頒布では順電圧が近いものを4個選んでいます。1N400Xシリーズや10DDA10などの1Aタイプでは、出力段のアイドリング電流が多くなりすぎるので使えません。PS2010Rも使えません。

UF2010は順電圧にかなりのばらつきがあるので、可能であれば順電圧が近いもので左右ペアを組むことを推奨します。2本直列にして使いますから、2本の合計値が近ければ十分です。順電圧の測定は、ダイオードモードがついているデジタルテスターで測定すれば足ります。温度が1℃変わるだけで0.002Vも変動してしまうので、測定時には指の熱が伝わらないように、エアコンの風が当たらないようにしてください。

定電流回路の1S2076Aは精密な順電圧が求められますので他のダイオードでは代替できません、必ず1S2076Aを使ってください。

220Ωに接する1S2076Aは定格電流が150mA以上あるシリコンダイオードであれば何でもOKで、1N400Xシリーズも使えます。LEDは、一般的な赤・橙・緑あたりを想定して約4mAで点灯するように設計してあります。明るさは2.7kΩの増減で調整できます。

DC-DCコンバータ・・・MCW03-12S12またはMCWI-12S12を使います。いずれも安定化されたDC12Vを出力するDC-DCコンバータですが、MCWIの方が入力電圧の範囲が広い点が異なります。本機ではぴったり12V入力ですのでどちらを使っても差異はありません。

抵抗器、コンデンサ・・・抵抗器は、回路図においてW数の記載のないものは1/4W型、それ以外は指定のW数のものを使ってください。0.68Ωは1Wもの容量は必要ないのですが、より小型のカーボン抵抗や金属皮膜抵抗は1Ω未満がないので1Wを使っています。

入力のコンデンサ(0.47μF)は耐圧50V以上の通常のフィルムコンデンサでOKです。DC-DCコンバータで使用する22μFは耐圧20V以上のOSコンまたは積層セラミックコンデンサです。位相補正コンデンサ(100pFと22pF)は印加する電圧によって容量が変動しないタイプ(ムラタでいうとCHタイプ)を使用します。

アンプ部基板に実装するアルミ電解コンデンサは通常品あるいは容量の割りにサイズが小さいものを推奨します。オーディオ用として売られているものはサイズが大きいので基板スペースに入りきれませんし、ナチュラルな音にならないものが多く通常品がよろしいかと思います。

・22pF・・・幅5mm以下。
・100pF・・・幅5mm以下。
・0.022μF・・幅6mm以下。
・0.15μF・・・幅8mm以下、厚さ2.6mm以下。
・0.47μF・・・幅12mm、厚さ4.5mm以下。
・100μF/10-16V・・・直径5.5mm以下。
・1500μF/10V・・・直径10mm以下。高さ16mm以下。

2連ボリューム・・・小型2連ボリュームまたはALPS製RK09系の50kΩ2連ボリュームを使用します。廉価な小型2連ボリュームはギャングエラーが発生しやすいので、その場合はボリュームの癖に応じたギャングエラー補正抵抗が必要です。

半固定抵抗器・・・25回転縦型タイプの10Ωを使用します。

放熱器・・・ちょっと特殊な形状をしており、トランジスタなどに貼り付けて使用するタイプです。1cm×1cmですがこの大きさでないと基板に収まりません。貼り付けには熱伝導が良い放熱器用の両面テープを使用します。

ユニバーサル基板・・・アンプ部の基板は、タカス IC-301-72を使います。Bluetooth用12V電源ユニットの基板は、0.1インチタイプの「縦8〜9穴×横5〜6穴」の超小型のスルーホール基板を使います。

線材・・・本機で使用した線材は0.18sq(AWG24相当)です。0.2sqよりも太い線材を使うと、太すぎてラグ穴に入らない、ハンダ不良が生じやすいなどの問題が生じて仕上がりの品質が落ちます。平ラグの穴と穴とつなぐジャンパー線は、0.28〜0.3mmくらいでポリウレタンなどの表面処理をしていない銅線が適します。銅線はたいていのホームセンターで扱っています。

ケース・・・ケースは、タカチ HIT 13-3-18SS(W128×H30×D180)を使いました。(頒布なし)


<部品の頒布>

自作アンプですので、どんな部品を使い、どのように作るか、追加変更も全く自由です。しかし、地域によっては部品の入手が困難ですし、たとえ秋葉原が近くても同じ部品を買い揃えるのは困難です。本製作で使用した部品のうち、AKI.DACキット、Bluetooth基板、ACアダプタおよびケース以外のすべての部品は頒布がありますので気軽にご利用ください。

部品頒布ページ → http://www.op316.com/tubes/buhin/buhin.htmの中のここです。

<内部の参考画像>


<筐体のアース>

AKI.DACのアナログ出力の左右2つのアース(GND)はキットの基板では中でつながっているので、片チャネル側だけを使って取り出しています。左右から2本分けて出す意味はなく、この部分のアースを分けるとアースループの原因になります。

使用したケースは、ケースを構成するパーツ間の導通がないという重大な欠点があります。アルミボディやアルミパネルの表面がアルマイト処理をしてあるために・・・アルマイト処理は電気を通しません・・・パーツを組み立ててても電気的には導通してくれないために各パーツがアースから浮いてしまうのです。こうなってしまうと、せっかくのアルミケースなのにシールド効果がないばかりかむしろ不安定なノイズを誘発します。

アースラインと後面パネルの導通・・・アンテナを取り付けることでアンテナ線を通じてアースラインと後面パネルは導通がとれます。
アースラインと底板、側板、上板の導通・・・基板を固定したスペーサのうちの1個に立ラグを取り付け、ここを各基板とボリュームからのアースをつないで底板との導通を確保します。上下2枚の板と左右2つの側板の4ピースは、これらをつないでいる8個のビスを強く締め付けることで導通をはかります。
アースラインと前面パネル&ボリューム筐体の導通・・・前面パネルはケース本体と導通がないのでそのままボリュームを取り付けるとボリュームの筐体がアースから浮いてしまい、不快かつ不規則なノイズが出ます。これを回避するために、ボリュームの筐体にアース線を直接ハンダづけしています。ボリュームの取り付け部での接触を介して前面パネルのアースと導通されます。


<製作手順>

  1. ケースの加工・・・以下の参考図面は穴の位置のみ記載してあります。各基板や部品を実際に当てながら位置・大きさを確認しつつ、ケース部材に加工用のマークを入れて作業を進めます。参考図面を信用しすぎないように!

    前面パネル・・・音量調整ボリュームとソース・セレクタ・スイッチとLEDを取り付けますが、穴のサイズは現物合わせをして決めます。ボリュームには回転止めの突起がありますので、このための穴もお忘れなく。
    後面パネル・・・USBminiBタイプとDCジャックとアンテナとスピーカー端子です。スピーカー端子はネジがないバナナプラグ専用の小型のものを使いました。かなり込み入っているので穴の位置関係が難しいです。
    上面・・・穴の位置はパワートランジスタと放熱器の真上です。参考図面はありません。
    底面・・・真っ平らにできる皿ビスの場合は仕上りがカッコいいですが、穴をかなり深く削らなければならないので皿ビスの根元がスペーサを干渉して締め付けできないことがあります。ビスの頭がわずかに盛り上がりますが削る量が浅くて済む丸皿ビスを使いました。

    本機の加工は丸穴しかありませんので、ドリルに加えてテーパーリーマーあるいはステップドリルがあれば作業できます。基板の取り付けに丸皿あるいは皿ビスを使う場合は、すり鉢状の追加工が必要です。すべて実際の部品を当てて実際の大きさを確認しながら作業します。

  2. アンプ部基板・・・パターンのチェック・・・回路図と実際の配線は見た感じがかなり異なるものです。自分で描いていない基板パターンで製作する場合は、いきなり基板パターンを見て作るのではなく、どんな基板パターンなのなかを学習してください。基板パターンを追ってそこから回路図を起こしてみる方法をおすすめします。おそらく、回路図とは似ても似つかない場所に部品が配置されていてびっくりされるでしょう。基板パターンの間違いが発見されることもあります。考えているうちにもっと良い基板パターンが思いつくこともあります。ですから、基板パターンと回路図との比較チェック逆は必ずやってください。

  3. タカスのユニバーサル基板の使い方はこちらに重要な解説があります。ユニバーサル基板の一般的な使い方とは考え方が異なりますが、この基板パターンで製作する時に必要な知識であり、さまざまなメリットがあるので必ずお読みください。
  4. アンプ部基板・・・ジャンパー線の取り付け・・・ユニバーサル基板では、パターンをつなぐ線は銅箔がある下側に這わせるのが普通ですが、本機では上側を這わせています。こうすることで、実装密度を高められる、接触導通が良くなる、部品の交換が容易・・・といったメリットが出ます。ジャンパー線には細めの0.28〜0.3mm径の銅線を使います。これを「コの字」型に折り曲げたものを基板の上から差し込んでからホチキスの針のように下側で折り曲げて固定します。最初にこの作業をやっておけば、あとは半導体やCR類は上から差し込んでどんどんハンダづけするだけで完成してしまいます。半導体やCR類のリード線は基板の裏側で折り曲げませんので、作業性が良いだけでなく、間違えた時の交換も非常に簡単です。

    小型のJFETとトランジスタは上からみた形状を書き入れてあります。パワートランジスタは印字面側に「↑」マーク側をつけてあります。ジャンパー線は、実線が0.28mmのむきだしの銅線、破線が0.18sqの絶縁があるビニル線です。Bass Boostスイッチへの接続は●点のポイントです。

    <基板パターン>・・・右側の画像はPart5のものなので、本機とはLPF部分(左上隅)が異なっています。Part5では、アンプ部とLPF部のアースがつながっているのに対して、Part6では切れていて別個にアース線(GND)が出ている点も異なります。

  5. アンプ部基板・・・ジャンパー線のハンダづけ・・・ジャンパー線を通した穴には、ジャンパー線しか通さない穴と、まれにジャンパー線だけでなく同じ穴に後から半導体やCR類のリード線も同居する穴の2種類があります。ジャンパー線しか通さない穴は早い段階でハンダづけできますが、同居するリード線がある場合は、いつハンダ付けをしたらいいかよく考えて作業してください。

  6. アンプ部基板・・・電源部の半導体やCR類の先行取り付け・・・基板全体のジャンパーを取り付けたら、電源部単体テストを視野に入れて、電源部の半導体やCR類を基板に取り付けてハンダづけします(右画像のオレンジで囲んだ範囲)。

  7. アンプ部基板・・・電源部単体テスト(重要)・・・アンプ部基板は一気に全体を仕上げるのではなく、先に電源部分のみ完成させて通電試験することをおすすめします。もし、アンプ部に配線ミスがあっても電源部は正常だとして自信をもってトラブルシューティングができます。ものづくりの基本中の基本です。

    ・通電準備・・・暫定的にACアダプタと接続します。
    ・通電テスト、アース(GND)を基準にして、X点が+6V、Y点が-6Vであることを確認します。ACアダプタの電圧に対してほぼ半分±5%以内になっていればOKです。プラスマイナスの電圧配分は部品のばらつきや気温は時間とともにわずかに変化しますので、プラスとマイナスの電圧が精密に同じになる必要はありません。
    ・通電テスト・・・2SC2655と180Ω1Wがともにわずかに熱を持っていることを確認します。
  8. 出力段トランジスタへの放熱器の貼り付け・・・出力段トランジスタ(2SA1359と2SC3422)には1cm角の小型の放熱器を貼り付けます。この作業は基板に実装する前にやっておいた方がやりやすいです。貼り付けには、頒布した放熱器と同梱の放熱用両面テープを使います。放熱器は10mm×10mmですがトランジスタは10mm×8mmなので、8mm×10mmくらいに切って使います。隣り合った2個のトランジスタは案外接近していますので、放熱器は左右にすこしずらして取り付けないと見た目が悪いので注意してください(しかし、ケースに入れてしまえばどうせ見えませんし、放熱器同士が接触しても電気的にも不都合はありません)。

  9. アンプ部基板・・・アンプ部の半導体&CR類の取り付けとテスト・・・本機は実装密度が高く非常に混みあっています。立てて取り付ける抵抗器は、一方が胴体でもう一方がリード線ですから場所の余裕を考えて向きを決めます。考えないで適当な向きに取りつけてゆくと部品と部品が当たって入らなくなります。部品はすべて表面が絶縁されているので接触しても問題ありませんが、熱くなる部品の実装には若干の注意がいります。実装時の注意と発熱部品の扱いは以下の通りです。

    ・ジャンパー線の忘れ物がないか念入りにチェックする。
    ・2SC3422と2SA1359周辺のビニル線のジャンパーは先に配線しておく。2SC3422と2SA1359を取り付けてしまってからでは無理。
    ・2SC3422と2SA1359・・・リード線を短くしすぎないで基板面から5mmくらい浮かせる。
    ・2SA1680と2SC2655・・・リード線を長めにして基板や周囲の部品から離す。
    ・出力トランジスタのエミッタ側の4個の0.68Ω・・・参考画像と同じようにエミッタにつながる側のリード線が表に出る向きに取り付ける。こうすることでアイドリング電流の測定が容易になる。
    ・180Ω1/2W、180Ω1W・・・かなり熱くなるので周囲のトランジスタやコンデンサには接触させない。リード線も長めにして位置を高くする。
    ・UF2010・・・2SC3422と2SA1359に接近した方がよい。温度制御のセンサーなので2SC3422と2SA1359との温度的な距離は左右チャネルで揃えた方がよい。
    ・0.68Ω1W・・・いずれも熱を出さないので周囲の部品と接触してもかまわない。
    ・コンデンサ・・・アルミ電解コンデンサもフィルムコンデンサも熱に弱いので発熱部品と接触させない。
    ・抵抗器・・・熱に強いので気にしなくてよい。
    ダイオードの向きを1つでも間違えた状態で電源ONすると、パワートランジスタに大変な過電流が流れて壊れるなど困ったことになりますのでしっかりチェックしてください。慎重を期する場合は、左右片チャネルごとに動作試験をしながら作業を進めるのがいいでしょう。「アース」と「スピーカー出力」との間にDCVレンジのテスターを当てて電源ONします。10秒以内に±0.01V以内に落ち着けばアンプ部はほぼ正常とみていいでしょう。念のために、プラスマイナス電源の電圧も確認して±6V前後を維持していることも確認します。

    本機の出力段のアイドリング電流は、冷却スタート時で70〜100mA、十分に暖まった状態の安定動作時で50〜70mAです。各チャネルの出力段の両エミッタ間電圧を測定して1.36Ωで割ればアイドリング電流を求めることができます。実際に製作した8つのユニットの実測データがありますので参考にしてください。なお、季節による気温の違い、部品のばらつきを考慮すると、このデータ値の範囲から少々はみ出ても問題ではないと思います。

  10. AKI.DAC基板の製作・改造・・・部品の取り付けと線の引き出し・・・キット付属のCR類と新たに用意したCR類と線材を基板に取り付けます。

    <手順1>C3,4,5,6,11,14,16,17,R6,7,8,9を取り付けます。C11(470μF/10V)は穴の間隔が合わないのでうまく収まるようにリード線を斜めに曲げてやります。
    <手順2>RCAジャックを取り付ける穴を流用して10kΩを取り付けます。ここからL/Rのアナログ出力とアースの線の引き出しも同時に行います。アース線はL/Rいずれか一方だけから引き出します。

  11. Bluetooth基板の改造・・・部品の交換・取り付けと線の引き出し・・・Bluetooth基板の改造も細かい作業と空中配線になります。基板上のハンダは少し吸い取ってから作業しないときたなくなったり、山が大きくなりすぎて隣との誤接触になります。OPアンプのピンの位置は間違えやすいので注意してください。

    <手順1>出力抵抗2.2kΩを33Ωでバイパスさせます。
    <手順2>470μF/35V(高さ16mm)を470μF/16V〜25V(高さ12mm以下)に交換します。注:画像では元の16mm高のものがついたままになっています。
    <手順3>1μFフィルムコンデンサを10μF/25V〜50Vアルミ電解コンデンサに交換します。注:画像では元のフィルムコンデンサがついたままになっています。
    <手順4(省略可)>NE5532のそばにある220μF/16Vを470μF/16Vに交換するか、基板裏面のNE5532のピンに追加します※。
    <手順5>負帰還抵抗47kΩと並列になる「1μF+4.7kΩ」を取り付けます。
    <手順6>ライン入力RIN〜GND〜LIN間をショートさせます。
    <手順7>外部アンテナのためのバイパスを配線します(詳しい解説はこちら)。
    <補足>本機では外部LEDへの線を引き出しはしていませんがお好みでどうぞ。

  12. Bluetooth用12V電源ユニットの製作・・・DC-DCコンバータ MCWI03-12S12を使った、12V入力→12V出力の絶縁型・超小型電源ユニットを製作します。

    <手順1>超小型のスルーホール・ユニバーサル基板にジャンパー線を這わせます。
    <手順2>逆さにしたMCWI03-12S12のピンにスルーホール・ユニバーサル基板を差込み、上から22μFのOSコンデンサを取り付けてハンダづけします。
    <手順3>入力側は線出しをしておきますが、出力側にはBluetooth基板から出ている赤・黒の電源ラインをつなぎます。

  13. LEDの接着・・・LEDはエポキシ系の2液混合型のボンドでパネルに接着します。ボンドはたっぷりつけてLEDをしっかりと固定します。LEDの足は長さが違っていて長い方が+です。足を同じ長さに切ってしまうとどちらが+かわからなくなりますので、切る時も長さを違えて切るようにします。

  14. パネル実装部品や各ユニットからの線出し・・・ケースが小さく配線が込み入っているので、ジャック類や各ユニットをケースに取り付けてから配線するのは困難です。そこで、下処理としてジャック類や各ユニットに線を取り付けてから組み立てた方がいいと思います。Bluetooth用12V電源ユニットは、DC-DCコンバータ本体を両面テープまたはボンドを使ってケースのコーナーに貼り付けて固定します。

    アースライン・・・5つのユニットから出ているアース線をアンプ部基板を固定している2P立ラグのところで集結させます。この2P立ラグは金属スペーサを介して底板と導通させて、ここがシャーシ・アース・ポイントになります。

    ・AKI.DAC基板から出ているアース
    ・Bluetooth基板から出ているL/Rシールド線のアース
    ・音量調整ボリュームから出ているアース(L/Rのアース端子と筐体をつないだもの)
    ・アンプ部基板のLPF部から出ているアース
    ・アンプ部基板の入力付近から出ているアース

  15. ←試行錯誤の末の初作なので記事とは少し異なる。

  16. 動作確認と調整・・・すべての配線が完了したら、動作確認試験を行います。アンプ部の単体試験はすでに済んでいますから、組み上げた状態でも同じ結果が出るかどうか確認します。DCVレンジにセットしたテスターでスピーカー端子間のDCオフセット電圧を監視しながら、数分間かけて基板の温度が上昇して安定するのを待ちます。次に、半固定抵抗器をまわして、スピーカー端子間のDCオフセット電圧がゼロ近くになるように調整します。3mV以内であればOKです。

    なお、頒布の2SK170ペアを使い、回路が正常に動作している場合は、DCオフセットは±10mV以内の調整可能範囲内に収まります。±10mVを大きく超えた場合は別のどこかに異常がありますから、10ΩVRで調整しようとしても無駄ですしやってはいけません。

    電源を入れるとBluetooth基板がリンク待ち状態となって基板上の青色LEDが点滅します。リンクする際に送信側に表示されるデバイス名は"BT-AUDIO"です。USBケーブルで本機とパソコンをつなぎ、AKI.DAC基板上の青色LEDが点灯することを確認します。

    本機のスピーカーをつないで音出しテストを行います。配線ミスがなければ、ノイズは全く聞こえずクリアーな音で音楽が鳴り出します。上蓋を載せて外気を遮断した状態でさらに1時間程度動作させてから、スピーカー端子間の電圧がゼロ近くになるように再調整します。調整はこれで完了です。


<本機の特性>

仕様および測定結果は以下のとおりです。

  • USB DAC: 16bit、44.1kHz/48kHz
  • 消費電流: 無信号時=約360〜420mA at DC12V
  • 出力トランジスタ: アイドリング電流=70〜100mA(冷却スタート時)、50〜70mA(安定動作時)、消費電力=300〜450mW/個、表面温度=外気温+38℃(Max)
  • アンプ部利得: 5.8倍(8Ω負荷、1kHz)
  • 残留雑音(アンプ部単体): 24μV(帯域80kHz、ACアダプタに依存する)
  • 残留雑音(USB-DAC): 140μV(帯域80kHz、ボリュームMAX)
  • 残留雑音(Bluetooth): 460μV(帯域80kHz、ボリュームMAX)
  • 電源: DAC部=USBバスパワー、アンプ&Bluetooth部=DC12V/1A〜のACアダプタ
周波数特性:


左:アンプ部単体、右:総合特性。

雑音歪み率特性:


左:アンプ部単体、右:総合特性(1kHz)。


<使用感と音の感想など>

完成して数日後には私の手を離れて某音楽家にプレゼントして彼の国に行ってしまったので、私の評価はあまりあてになりません。しかし、完成直後でもよい音で快適に動作していたので、成功作と言っていいように思います。あちらでもリビングルームで日常の音楽の道具として活躍しているようです。ということは彼の耳にも合格だったということになります。


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