Mini Watters
6DJ8全段差動PPミニワッター&ヘッドホンアンプ(V1)

6DJ8いろいろ。どれでもOK。

★この記事は6DJ8全段差動ミニワッターについて最初に書かれたものでVersion1です。
★本機は現在改良を重ねてVersion3になっています。
★製作される場合はこちら(Version3)を推奨します。

<6DJ8全段差動ミニワッター&ヘッドホンアンプ>

6N6P全段差動ミニワッターがうまくいったこと、6DJ8をシングルで使ったミニワッターがイケてること、この2つから6DJ8全段差動PPミニワッターを作りたくなるのは自然のなりゆきです。6DJ8でパワーを稼ごうとするのは全くナンセンスなので、プッシュプル式ミニワッターならではのお遊びなどやってみようと思います。作ってみての感想ですが、6DJ8という球はパワーこそ出ませんが(たったの0.45W)パワー管として立派に役目を果たし、期待を裏切らないことがわかりました。

本機のもう一つの位置づけはヘッドホンアンプです。以前から全段差動方式のヘッドホンアンプを作ってみたいと思ってなかなか実現できずにいましたが、本機がそれにあたります。当初は5687を使うつもりで検討を進めていたのですが、5687では過剰パワーであることからもう少し小電力で使える球を捜していたところです。当初の、回路方式を踏襲しつつ改良を加えてこのような形になりました。

本機の消費電力は、先に製作した6N6P全段差動ミニワッターと比べてさらに少ないわずか20Wの省エネアンプです。プレートユニット当たり1.25Wを食わせていますが、動作中の球の頭を触ることができます。アンプ全体での発熱はほとんどありませんのでこのアンプで寒い冬に暖をとろうなどということは不可能です。これで特性的な見劣りは全くなくデスクトップで鳴らすのに十分すぎるくらいの音量が出ますから、これからの時代にはぴったりな気がします。


<全回路図>

本機の全回路図です。アンプ部の基本回路はさきに製作した6N6P全段差動ミニワッターと同じですが、細かいところで違いがあります。初段の電源電圧を意図的に高めに設定(約30V)してあります。初段差動回路のソース側バイアス調整半固定抵抗器(100Ω)と並列に100Ωの抵抗が入れてあります。(この方式は次に作ったパワーアップ版6N6P全段差動PPでさらに改良変更されています)電源回路では、整流ダイオードの出口のところに電圧ドロップ目的の抵抗が入れてあります。ヒーターをDC点火するための電源回路が追加されています。


<出力段の設計>

とりあえず、検討したロードライン情報など。東栄変成器のOPT-5を10kΩ:8Ωで使ったとして全段差動流に1本あたり5kΩのロードラインを引いてみたのが下図左で、春日無線変圧器のKA-8-54Pを8kΩ:8Ωで使ったとして1本あたり4kΩのロードラインを引いてみたのが下図右です。

負荷インピーダンス=10kΩp-pの場合、プレート電流=約10mAとしましたのでこの条件で得られる理想最大出力は約0.5Wでなかなかいい感じです。ひとつ気になるのは、OPT-5の固有の癖である100Hz以下の帯域の特性の悪さです。実測レポートはこちらにあります。同サイズの出力トランスでより特性が優れたものというと春日無線製のKA-8-54Pがあります。この出力トランスのインピーダンスは8kΩですので、プレート電流=11mAと奮発しましたがこの条件で得られる理想最大出力は約0.48Wとなりました。パワーアップは期待できませんが、そもそも6DJ8を使ってパワーを欲張ること自体ナンセンスですのでこれでいいことにします。

問題は整流出力電圧の対してアンプ部の電源電圧が低いということです。低い電圧に対応した電源トランスというと春日無線製のH17-04211がありますが、これを使うとして、130Vを整流すると170Vくらいになります。出力段のプレート電圧は120V程度ですが、直結による電圧ロスなどを見込んでも出力段の電源電圧は140Vくらいにしかならず、整流出力電圧との間に30Vほどのギャップが生じます。このギャップを埋めると電源回路での発熱が大きくなりあまり感じが良くありません。出力管のプレート電圧だけ高くするという方法もありますが、それをやると出力管のプレート損失が大きくなるのでできるだけそのような方法は避けたいところです。

本機では、2SK3767によるリプルフィルタでの電圧降下を大きめするだけでなく、整流出力電圧を下げる工夫をしたり、初段の電源電圧を高めに設定して出力段のカソード電圧を高くするなどのやりくりをして、全体の電圧バランスをとっています。


<出力回路の設計>

スピーカーは、「0〜4Ω間」または「0〜8Ω間」につなぎます。本機はパワーアンプともいえるし、スピーカーも鳴らすことができるヘッドホンアンプともいえます。そのため、スピーカー端子のほかにヘッドホンジャックを持っています。ヘッドホンジャックにプラグを差し込めば、スピーカーへの信号はカットされてヘッドホンが鳴ります。スピーカー端子は4Ωと8Ωの両方に対応していますが、連動スイッチ付きのフォーンジャックを使った通常の切り替え方式ではうまく機能しません。回路図をよく解析していただきたいのですが、かなりトリッキーな方法でこの問題を解決しています。

ヘッドホン出力には8Ωタップを使い、2個の4.7Ωの抵抗器によるダミーロード兼アッテネータを経由しています。この本機の設定で音が小さい場合は、アッテネータにしないでダミーロードに10Ω(1/2W〜1W)を入れるだけにしてください。

スイッチ付きのヘッドホンジャックのしくみと接続法は下の画像のとおりですが、詳しい解説はこのページにあります。


<初段の設計>

初段のロードラインは下図のとおりとしました。この回路定数に決まるまでにかなり試行錯誤がありました。アンプ部の電源電圧を高めに設定したいという事情があるため、初段ドレイン電圧を意図的に高めに設定しています。初段電源電圧は29.7Vとし(定電圧ダイオード16Vと13.7Vの直列)、初段ドレイン電圧は15.7Vとなり6N6P全段差動ミニワッターよりも若干高くなっています。ただ、JFETはドレイン〜ソース間電圧を欲張ると漏れ電流が増えてくるので極端な設定はおすすめしません。ロードライン上の電圧は初段のバイアス(約−0.5V)の存在を考慮して、29.2Vと15.2Vとしてあります。出力段のバイアスは−2.5Vで、フルスイングしたとして初段から出力段に送り込む信号の振幅は±3V〜±4Vくらいです。15.2Vを基点とした場合、11V〜19Vくらいの範囲が無理なく確保できればいいので、下図の動作は十分すぎるほどに余裕があります。

定電流回路は1.87mAの定電流ダイオード(2SK30A-Yを選別)を使いました。ソース側のバイアス調整半固定抵抗器(100Ω)と並列に100Ωの抵抗が入れたのは、100Ωのままだと調整範囲が広くなりすぎてやや扱いにくい感じがしたため実験的にこのようにしてみました。この抵抗はあった方が調整がスムーズでした。ドレイン電流が0.935mAですから100Ωの時の調整範囲は93mV、100Ωの抵抗を追加した時の調整範囲はその半分になります。初段の利得は約24倍ですのでドレイン側に現れる調整範囲は2.2Vおよび1.1Vになります。6N6P全段差動ではこの100Ωは入れていませんが、6DJ8は感度が2倍高く敏感なので調整のしやすさを考慮して追加しました。


<電源の設計>

電源回路のハイライトは2つ、(1)高めの整流出力電圧と低い電源電圧のつじつま合わせ、(2)ヒーターのDC点火です。

出力段の設計上の電源電圧は140Vくらいで、全消費電流は50mAくらいになります。電源トランスH17-04211から50mAを取り出した時の整流出力電圧は170Vくらいになると思われます(参考データ)。30Vくらいの電圧ギャップを埋めるためには、50mA×30V=1.5Wほどの消費電力が生じます。大した電力ではありませんが、これをMOS-FETの2SK3767でまかなうとするとミニワッターで使っているようなちいさな放熱器では足りません。小型の放熱フィンを取り付けた程度で1.5Wを食わせるとかなりの温度になります。通気のあまりよくないシャーシ内ということもあるので、消費電力は1Wくらいに抑えたいところです。そこで熱を分散させることにします。整流回路の出口のところに抵抗を入れてロスを生じさせ、整流出力電圧を10V程度下げることにします。この抵抗値は100Ω〜220Ωくらいの範囲になるだろうと思いますが、整流ダイオードと平滑コンデンサの間に割り込ませる場合の計算は非常に難しいため、実際の値は回路を組んでみて決めることにします。

電源トランスH17-04211のヒーター巻き線は6.3V/1.5Aですので、これを使ってヒーターをDC点火する場合制約が生じます。6.3Vをシリコンダイオードによるブリッジ整流して得られる整流出力電圧は6.4V〜6.8Vくらいの範囲になります。ヒーター電圧6.3Vに対して余裕がほとんどないため、CR式のリプルフィルタを入れるための電圧余裕があまりまりません。ましてやここに3端子レギュレータを入れる余裕は全くありません。少しでも高い整流出力電圧を得るために、順電圧が低いSBD(ショットキ・バリア・ダイオード)を使うことにしました。使用したのは3A/100Vタイプの31DQ10です。40Vタイプの31DQ04、60Vタイプの31DQ06も使えます。頒布しているのは31DQ06です。当初は、ヒーターのDC電源を流用して初段差動回路用のマイナス電源を得ていましたが、電源1ON直後に初段2SK30が飽和して異常電流が流れるという不都合が生じたので、6N6P全段差動PPと同じ擬似マイナス電源に変更しました。

実際に組んでみたところ、整流出力電圧は-7.0Vとなりました。6DJ8あるいは6922のヒーター電流は2本で0.7Aくらいですので1Ω/3Wの抵抗で電圧をドロップさせることにします。また、ヒーターのDC点火はやってもやらなくても認知できるほどの差は生じませんでした。

参考データとして電源回路各部の残留リプル電圧は以下の通りです。

  • 高圧側:100μF/250Vのところ・・・1.04V
  • 高圧側:2SK3067/3767のソース側・・・1mV以下
  • ヒーター電源:整流出力のところ・・・260mV
  • ヒーター電源:-6.3V・・84mV

<製作>

平ラグパターンについて:

平ラグパターンは以下のとおりです。平ラグユニットと周囲の配線とをつなぐ時にやりやすいように、線をつなぐ端子はできるだけ他の部品の配線とぶつからないように工夫し、シャーシ内の組み込んだ時に2W型および3W型抵抗が出す熱がコンデンサなど他の部品を熱しないように配慮してあります。電源回路のLEDと直列に入れる1.1kΩは平ラグ上ではなく、電源スイッチ付近にラグを立てて取り付けるか、スイッチの端子にじかづけしてチューブなどをかぶせてください。


平ラグへの実装時の注意点:

31DQ10(または31DQ06)は太いリードが放熱を兼ねているので短くしすぎないようにします。2SK30の取り付け向きに注意してください。20P平ラグのセンター穴周辺では、ここにネジが通ることを想定して周囲の部品はこの穴をよけるように工夫してください。それを怠ると平ラグを取り付け時になってから慌てます。

電源部ユニットは、シャーシに取り付けてから平ラグに線をつなぐことは不可能なので、ユニットを組み上げる時に周囲とをつなぐ線材を長めにしたのをハンダ付けして出しておきます。そして、2本あるいは3本ずつセットになっているのでこれらを捻っておきます。アンプ部ユニットはシャーシに取り付けてから余裕配線できます。

作業の順序:

私が行った作業手順は以下のとおりです。

  1. 平ラグのパターンおよび工程計画を作成する。
  2. 平ラグユニット上の部品取り付けと予備配線。
  3. 音量調整ボリューム上の抵抗器の取り付けと線出し。
  4. ヘッドホンジャック上の抵抗器の取り付けと線出し。ヘッドホンジャックのどの端子がどこにつながっているか、ヘッドホンプラグを差し込んだらどこが切れてどこがつながるのか、ヘッドホンジャック接続ガイドを参考にして自力でチェックしてください。非常な頭の体操になるでしょう。抵抗器を取り付ける外部端子が2つ必要なのでジャックのアース穴を利用してラグを取り付けています(下画像参照)。
  5. シャーシの内側のサンドペーパーがけ。入力端子穴、ボリューム穴は取り付けた時に部品の金属部分と導通するようにします。これを怠るとハムが出ます。
  6. シャーシへの主要部品の取り付け。
  7. AC100Vまわりの配線と通電試験。
  8. 電源ユニットの取り付け、電源トランスへの5本、LEDへの2本、ヒーターへの2本を配線。
  9. 通電試験。V+電圧は電源ON後数十秒をかけてゆっくり電圧が上昇すること、ヒーター回路に正常な電圧(約6.3V)が出ることを確認。アンプ部にまだ電流が流れていないので電圧は高めに出ます。
  10. 真空管ソケットのセンターピンをつなぐアース母線の取り付け。
  11. アンプ部ユニットの取り付け。
  12. すべてのアース(GND)線のアース母線への接続。電源ユニットから2本、アンプ部ユニットから1本、音量調整ボリュームから1本。
  13. 電源ユニットからのV+、V-をアンプ部ユニットに配線。
  14. 通電試験。真空管にはまだつなげていませんが、アンプ部ユニットは動作できる状態です。出力段の電流が流れていないのでマイナス電源はまだ機能しません、初段2SK30の4箇所のドレイン電圧が16Vくらいであることを確認します。
  15. 真空管ソケットまわりの抵抗器とアンプ部ユニットと真空管とをつなぐ配線。
  16. 通電試験。真空管を含めたアンプ全体の電圧が設計どおりであるか確認。
  17. 入力端子〜音量調整ボリューム〜アンプ部ユニット間の配線。
  18. ヘッドホンジャック、スピーカー端子まわりの配線。ここがいちばん難しいと思うので、いきなり配線しないで必ず紙の上で自力で実体配線図を描いてください。ヘッドホンジャックを取り付けない場合はとても簡単です。
ヘッドホンジャックの穴を使ってラグ板を取り付ける。2.6mm径ネジを使ったが穴は広げる必要あり。

画像について・・・照明の条件の悪い環境で撮影したのでピンが甘いし見づらいですが、内部の様子です。20P平ラグの端には本来は15kΩ/3Wがつくはずですが、たまたま手持ちがなかったので18kΩ3Wと100kΩ1/2Wを並列にしてあります。電源回路の画像は初版のもので、後に大幅に見直されています。真空管ソケットも手持ちのジャンクから白いタイトソケットを使いましたので、頒布しているものとは色が違います。


<調整>

調整箇所は、初段差動回路に入れた2個の100Ω半固定抵抗器のみです。

1mVまで測定可能なデジタルテスターを用意し、DCVレンジにセットします。本機を動作させた状態で出力管の2つのカソード(3pinと8pin)にテスターを当てて電圧を測定します。この電圧が0Vとなるのがベストで、1mV以内にはいるように半固定抵抗を調整して完了です。現実的には2mV以内であれば特に問題はありません。真空管は温まると特性が変化し安定するまでに少々の時間を要します。使い始めて1週間後、さらに1ヶ月後くらいに再調整すればいいでしょう。一定の許容範囲がありますのであまり神経質になってゼロを追いかけすぎないことです。


<測定>

オープンループ利得は11.4倍で、負帰還をかけた状態での利得は4.2倍でした。負帰還抵抗は560Ωと100Ωの固定です。負帰還量は8.7dBとなりました。この時の残留ノイズは80μVです。ただ、この残留ノイズの値は測定系が拾ったノイズがかなりあるようで、実際には50μVを下回っているようです。最大出力は0.45W(5%歪み)でほぼ設計どおりです。

帯域特性は4Hz〜170kHzで-3dBとなりました。歪み率特性は6N6P全段差動と同傾向のまま単純にパワーを落としたような特性になりました。小出力時の歪み率特性は出力トランスの性能がそのまま出ており、アンプのポテンシャルはもっと高いとみていいでしょう。100Hzで歪が高めに出ているのも出力トランス由来のものです。いろいろ試しましたが、この出力トランス(KA-8-54P)は特筆して優れていると思います。


<完成後のコメント>

ミニワッターのパワーアンプとしても、ヘッドホンアンプとしても満足できるものに仕上がりました。特に、ヘッドホンアンプとしてはバランス型FET差動ヘッドホンアンプといい勝負をします。使用しているデバイスも回路方式も大きく異なるにもかかわらず、音の傾向は非常に近いものがあります。残留ノイズは皆無といってよく帯域も広さを感じます。音の存在感は本機の方が上かもしれません。これを作ってみて、真空管による全段差動PPという方式はヘッドホンを駆動する回路にとても適している、ということを実感しました。この音にはまる方は多いのではないかと思います。

これを製作された方がコメントがあります。私以外の方の印象ですので参考になるかも。

スピーカーの音は6N6P全段差動もそれだけ聞くとかなりよく聞こえますが6DJ8全段差動と聴き比べると6DJ8の方が 繊細で後ろの雰囲気が出てきます。
ヘッドフォンの音は平ラグ二段のバランス型FET差動ヘッドフォン・アンプと比べると広がりや空気感はバランス型が良く、音は6DJ8全段差動が私の好みの様でいつもどれで聞こうか悩む毎日です。


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