Mini Watters
6N6P全段差動プッシュプル・ミニワッター2012
Version1


ご注意
このバージョンは最新ではありません。最新バージョンはこちら

<2014年1月のマイナーチェンジ>

2014年1月に6N6P全段差動プッシュプル・ミニワッター2014(応用バージョン)を発表したのを受けて、本バージョンをマイナーチェンジしました。応用バージョンでの実験結果をベースにして地味ながら特性を改善しパワーアップしました。将来、応用バージョンに変更するのを容易にするために両機の共通部分の回路定数を揃えました。具体的な変更内容は以下のとおりです。

  • 発振止めの出力管グリッド抵抗値を、3.3kΩから1kΩに変更。
  • 電源回路のリプルフィルタの分圧抵抗を、56kΩから47kΩに変更。
全くささやかな変更ですが、表に現れない潜在的な高域特性が改善され、最大出力もほんのすこしアップしています。


<設計コンセプト>

「真空管アンプの素」(技術評論社)はもっぱらシングル回路を材料にした記事になっていますが、当初から小出力の差動PP化したミニワッターを発表することを視野に入れていました。ミニワッターは小出力ながら一人前のスケールの音を出すアンプというコンセプトですので、差動PP化した場合はその性格はさらにはっきりとしてきます。

・コンパクトかつ消費電力が僅少の真空管アンプであること。→アンプの規模は変えないで差動PP化する
・ミニパワーであっても広帯域でスケール感のある鳴りっぷりであること。→さらに広帯域でスケール感もアップさせる
・限りなくシンプルな回路、少ない部品点数であること。→変わらず
・廉価かつ入手容易な部品で製作できること。→これだけの音を出すPPアンプにしては相当に廉価だと思います
・誰が作っても(無調整で)安定動作し、再現性があること。→無調整というわけにはゆきませんが、「誰が作っても安定動作し、再現性があること」ということは変わりません
・真空管やトランスの選択肢が広く、遊びしろがあること。→変わらず

本機の設計では、上記のコンセプトを形にするために細かいところで設計上および実装上の工夫があります。その詳細については以下の記事中に書き込んでいますので是非お読みください。


<全回路図>

特注の電源トランスH24-0101に対応した最新版の全回路図です。設計内容の詳細は以下に説明します。


<初段の設計>

初段は2SK30Aを使った差動回路です。真空管ではなくJFETを使った理由は2つあります。真空管は経年変化や劣化がありますので、直結回路を組む場合は注意が必要です。シングル回路の直結では初段プレート電圧が1Vくらい変化しても大勢に影響ないですが、差動PP回路では初段の差動バランスがわずかでも狂うと出力段のプレート電流バランスがとれなくなってしまいます。これはかなり深刻な弱点です。半導体であれば真空管で生じるような経年変化や劣化はほとんどありません。もうひとつの理由は、ミニワッター汎用シャーシにはmT9ピンのソケット穴が2つしかないことです。出力段で真空管を2本使いますのでスペース的にもう余裕がありません。

初段の動作条件は概ね左下図のとおりで、電源電圧は32V、ドレイン電流は0.9mA×2、ドレイン電圧は16Vくらいに設定しています。出力段の入力信号の最大振幅は±7Vくらい(後述)ですから、左下のロードラインから初段ドレイン電流は0.5〜1.3mAの範囲で変化することがわかります。ちなみにYランクの2SK30AのIDSSは1.2mA〜3mAですから、IDSSが低い個体を使った場合は必要な振幅が得られません。本機で使用する2SK30AのIDSSは1.4mA以上のものを選別しなければなりません。部品頒布しているのは、動作環境のばらつきや設計変更の余裕を考慮して、IDSSが1.7mA以上あるものを精密に選別ペア取り(4本揃ったもの)したものです。

ドレイン負荷抵抗は18kΩです。JFETによる増幅回路の出力インピーダンスはドレイン負荷抵抗の値とほぼ同じになりますので、本機の初段の差動片側部分の出力インピーダンスは約18kΩということになります。ここでは、18kΩ+1kΩ=19kΩと出力段管の入力容量とでつくられる時定数を持ったローパスフィルタが形成され、これが本機の高域側ポールのひとつになります。高域側ポールはできるだけ高い周波数に持っていきたいので、ドレイン負荷抵抗値はあまり大きくすることができません。6N6PのCg-pは3.5pFで、Cg-kは4.4pFです。出力段のグリッド→プレート間の電圧利得は10.3倍(後述)ですので、入力容量は、3.5pF×(10.3+1)+4.4pF=44pFとなります。案外大きな値ですね。μが高い球は油断できません。19kΩと44pFとでつくられるローパスフィルタは190kzで-3dBの減衰となります。

2SK30Aのgm値は右下図のとおりです(レポートはこちら)。ドレイン電流=0.9mAのところを読み取ると1.8mSくらいですが、静特性は若干の左下がり傾向があるので負荷を与えた時の実質的なgm値はやや低めの1.75mSくらいになります。(2SK117や2SK170を使った場合の低下率はもっと顕著です)

従って、初段の利得は、

1.75mS×18kΩ=31.5倍
くらいとみていいでしょう。共通ソース側の差動バランス調整抵抗があるので、実際の利得はもう少し低下します。その計算方法は少々面倒ですが以下のとおりです。まず、差動回路の片側あたりのソース抵抗を求めます。150Ωと半固定抵抗器(50Ω)が並列になっていますから、

150Ω//50Ω=37.5Ω
となります。半固定抵抗器のポジションによってこの値は変化しますが気にしないことにします。次に、ドレイン負荷抵抗とソース抵抗の比率を求め、さらにこの値とさきに求めた初段利得との調和平均を1/2にしたものを求めれば、それが初段の利得です。

18kΩ÷37.5Ω=480
(31.5×480)÷(31.5+480)=29.6倍
本機の初段電源電圧は32V(部品の都合で30.0Vまたは31Vになることもある)としました。初段差動回路のドレイン電流は約0.9mA×2として設計しましたので、定電流回路で使う2SK30AのIdssは1.8mAくらいのものが適します。しかし、選別でこの値のものが得られる確率はかなり低いので、部品の頒布ではパターンA、B、Cの3つに分けており、そのときどきであるものをお送りしています。

パターン 初段電源電圧 ZD 初段ドレイン電流 CRD
パターンA約32VHZ16-2(15.7〜16.5V)×20.9mA×2Idss=1.8mA選別
パターンB約31VHZ16-2(15.7〜16.5V)+
HZ15-3(14.9〜15.5V)
0.86mA×2Idss=1.72mA選別
パターンC約30VHZ15-3(14.9〜15.5V)×20.825mA×2Idss=1.65mA選別


<出力段の設計>

出力段にはロシア製の低内部抵抗、高gmの双3極管6N6Pを使います。米国および欧州には6N6Pに該当する球、代替できる球はありません。特性的に最も似ているのは5687ですが、ピン接続とヒーター定格が違いますので差し換えはできません。6N6P-Iというほぼ同じ特性の球がありますが、ヒーター電流が0.9Aと多いので本機指定の電源トランスは使えません。6N6Pの特性データはこちら→6N6P.pdf

出力トランスはKA-8-54P(8kΩ)を使いますので、差動PPにおけるセオリーどおりロードラインは1次インピーダンスの1/2である4kΩで引きます。なお、この出力トランスはKA-8-54P2(8kΩ)という改良版に変わっています。KA-8-54P2の方が1次インダクタンスが高く、ローエンドの表現力が優れています。

ロードラインからバイアスは-5Vくらいと読み取れますが、この特性データはあまりあてになりません。動作の範囲は、バイアスが浅い側は0Vを超えてすこしだけプラスの領域に入ったところとバイアスが深い側は-14Vくらい、すなわちドライン信号の振幅は±7Vくらいになりそうです。プレート電流は18mA、プレート電圧は150V〜160Vくらいですので、プレート損失は、18mA×(150V〜160V)=2.7W〜2.9Wとなります。差動PP出力回路の最大出力は、動作に無駄がない条件下では、

プレート電流×プレート電流×負荷インピーダンス÷2=
18mA×18mA×8kΩ÷2=1296mW
となり、現実的には出力トランスのロスや動作条件の制約などが加わってこれよりもすこし低い値になります。クリップしないで1Wが得られたら上等というところでしょうか。

ミニワッターは、そもそもはデスクトップなどで静かに聴くことを目的としてスタートしたアンプですが、案外これをメインシステムとして使っている方が多いという意外な展開になりつつあります。特別な大音量を求めなければ1Wも出れば十分、ということなのだと思います。6N6Pという球のプレート損失にはまだまだ十分に余裕がありますが、ミニワッター汎用シャーシに載るサイズということも考えながら設計していますのでこんな動作条件になりました。プレート電圧=150V、プレート電流=18mAだとするとユニットあたりのプレート損失は2.7Wで、2ユニット合わせて5.4Wになります。この動作条件なら最大出力でなんとか1Wが出せます。6N6Pの2ユニット合計の最大プレート損失は8Wですからまだまだ余裕があります。

動作基点のプレート電流=18mAで差動動作をさせると、2管のプレート電流は0mA〜18mA〜36mAの範囲でシーソーのように増減します。プレート電流が36mAになったあたりでロードラインの左上の一部が有効動作範囲からはみ出していることに気付かれたと思います。本機は初段と直結になっているため、あまり強力ではありませんが弱いA2級動作が可能で、そのためこのような動作条件にしてあります。

差動PP出力回路におけるロードラインおよび出力段の動作ポイントについて少々補足しておきます。理想的な直線性を持った真空管であれば、設定すべきプレート電流は、ロードライン上のプレート電流の最大値(バイアス=0Vあたり)の1/2でいいことになります。しかし、実際にやってみると確かに最大出力は1/2ポイントで最大になるのですが、プレート電流は1/2よりもすこし多目に流してやった方が歪み率特性が良くなることがわかっています。そのため、本機の動作条件も、1/2ポイントよりもやや左上寄りに設定してあります。

出力段の利得を求めてみましょう。本機の動作条件における6N6Pのμは17くらい、内部抵抗は2.6kΩくらいです。差動PP回路における計算上の負荷インピーダンスは8kΩの1/2の4kΩですので、6N6Pのグリッド入力からプレート出力までの利得は以下のとおりです。

μ×({負荷インピーダンス÷(内部抵抗+負荷インピーダンス)}=
17×({4÷(2.6+4)}=10.3倍
この後に出力トランスがきますが、出力トランスの巻き線比はインピーダンス比の平方根ですから、
インピーダンス比→ 8kΩ:8Ω すなわち 1000:1
巻き線比→ 31.6:1
です。プレートに表れた出力信号は1/31.6となってスピーカー出力になりますが、実際の出力トランスは10%くらいのロスがありますので1/35くらいとみていいでしょう。


<利得の設計>

無帰還時の利得の計算:

これまでの計算で得た各段の利得は以下のとおりです。

  • 初段=29.6倍
  • 出力段=10.3倍
  • 出力トランス=1/35倍
これらを総合すれば本機の総合利得を求めることができます。
  • 29.6倍×10.3倍×1/35倍=8.71倍
本機の総合利得の実測値は8.6〜8.8倍ですので、計算結果と実測はよく一致します。この値は無帰還時のものです。負帰還をかけた時の利得は以下の式で求めることができます。

負帰還時の利得の計算:

負帰還をかけた時の利得の一般的な計算法は手順が面倒なので私は以下の方法を使っています。

帰還後の利得=(元の利得×帰還定数´)÷(元の利得+帰還定数´)
です。ところで、上式でいう帰還定数´というのは、帰還素子の減衰率(β)の逆数、要するに

帰還定数´=1/β=(560Ω+68Ω)÷68Ω=9.235倍
のことです。一般に知られる負帰還の計算法では帰還定数βを使いますが、式が複雑になって暗算できないので、私はもっとスピーディーに計算可能なこの方法を使っています※。数学的には同じことなので得られる結果はどちらも同じです。さて、上記の式を使って負帰還時の利得を計算すると以下のようになります。

帰還後の利得=(8.7×9.235)÷(8.7+9.235)=4.5倍
※詳しい説明は「真空管アンプの素」の169ページにあり、負帰還に関するさまざまな実験データや関連知識は156ページ〜180ページに書いてあります。


<初段〜出力段直結の設計>

差動バランスの調整:

本機では初段と出力段が直結になっているため、初段のドレイン電圧がそのまま出力段のグリッド電圧となり、そのばらつきが出力段の差動バランスを支配しています。プッシュプル出力回路では、2管のプレート電流値を精密に等しくしておかないと、出力トランスの帯磁のために低域特性がみるみる劣化します。設計上の出力管のバイアスは-5Vくらいなわけですが、この値にはかなりの個体差があります。2管のプレート電流値を精密に同じにするということは、個体差に応じでグリッドに与える電圧をずらしてやらなければなりません。

従って、初段差動回路には、2つのドレインの電圧を一定範囲でずらすための調整回路が必要になります。それを行うのが2SK30Aの共通ソース側に入れてある100Ωの半固定抵抗器です。この回路は半固定抵抗器と並列に150Ωを抱いているので、センターポジションでは「37.5Ω+37.5Ω」になっていますが両端のポジションでは「0Ω+60Ω」あるいは「60Ω+0Ω」になります。これによって2SK30Aのバイアスのバランスを変化させ、ドレイン電流が変化し、ドレイン電圧のバランスを変えることができます。

この回路でどれくらいの変化が得られるか簡易的に計算してみます。ドレイン電流の設計値は0.9mAですので、最も偏った両端のポジションでは0.9mA×60Ω=0.054Vのバイアスのアンバランスが生じます。初段の利得は30.6倍ですから、ドレイン電圧の変化は0.054V×30.6=1.65Vとなります(実際にはもうすこし低い値になります)。1V程度の調整範囲が得られれば出力管のばらつきは十分吸収できます。

但し、上記のことがいえるためにはひとつ重要な条件があります。それは、初段差動回路を構成する2個の2SK30Aのバイアス特性が揃っているということです。無作為に選んだ2SK30A-Yランクのバイアス値を測定してみると、0.35V〜0.8Vくらいの幅でばらつきます。これほどのばらつきは本回路ではとても吸収できません。本機で使用するためには、かなり特性は揃った2SK30A-Yのペアが必要です。

電源電圧の配分:

2段直結回路の電源電圧は、各段が動作のために必要とするすべての電圧の足し算になります。

  1. 初段バイアス電圧・・・0.5V〜0.7Vくらい。2SK30Aの個体ごとにばらつく。
  2. 初段ドレイン電圧・・・15〜16V。出力管をフルドライブするには11V以上であることが必要。
  3. 出力段のバイアス・・・-5Vくらい。6N6Pの個体ごとにばらつく。
  4. 出力段プレート電圧・・・ロードラインから150V
  5. 出力トランスの巻き線抵抗による電圧ロス・・・18mA×約100Ω=約2V
これら1.〜5.をすべて足すと、172.5〜173.7Vになります。これがアンプ部への供給電圧になります。

出力段カソード電圧は20〜21Vです。出力段プレート電流を18mA×2にするには、出力段の共通カソード抵抗値は560Ωがぴったりになります。また、560Ωの消費電力は0.7W〜0.8Wですので3W型の採用になります。

(20〜21V)÷560Ω=35.7〜37.5mA
(20〜21V)×(35.7〜37.5mA)=0.714〜0.788W

<電源回路の設計>

AC100V側〜電源トランス〜交流回路:

電源トランスは本機用に春日無線に特注したH24-0101を使います。この電源トランスは春日無線のカタログに載っていますので、いつでも誰でも購入できます。30VAの容量の小型電源トランスで、2次側はAC150V/AC135mAとAC6.3V/AC1.5Aの2つの巻き線があります。ヒーター巻き線は1.5Aまでですので、6N6Pならばぴったりですが、5687や6N6P-Iは電流オーバーになるので駄目です。

整流回路〜リプルフィルタ:

150Vの巻き線をブリッジ整流して負荷ありの状態で190V〜200Vの整流出力電圧を得ています。この巻き線から取り出せる交流電流の上限は135mAですが、ブリッジ整流した場合に取り出せる直流電流は交流電流の62%ですのでDC85mAということになります。整流直後の残留リプルは1.5〜2V※です。MOS-FET(2SK3067、2SK3767など)を使った簡易リプルフィルタを通過すると残留リプルは一気に減って1mV以下になりますので、チョークを使った回路よりもはるかに強力です。

※整流出力における残留リプルの求め方はここにあります→http://www.op316.com/tubes/tips/b390.htm

整流出力電圧(195Vとしておきます)は47kΩと1.5MΩによって分圧されますので、47kΩの両端は6V、1.5MΩの両端は189Vになります。MOS-FETのゲート〜ソース間電圧は本機の動作では約3Vになりますので、MOS-FETのドレイン〜ソース間電圧は9Vということになります。本機の全消費電流は82〜84mAですので、MOS-FETで消費される電力は、9V×(82〜84mA)=約0.8Wとなります。TO-220サイズの半導体に0.8Wの電力を食わせると表面温度がどうなるかのデータはこちらにあります。放熱板なしで+30℃の上昇、簡易放熱板をつけて+20℃の上昇です。

リプルフィルタ回路の動作の仕組みについては「真空管アンプの素」で詳しく説明していますが、ここにも簡単ながら説明があります。

初段電源:

初段はツェナダイオードを使った簡易なシャント型定電圧回路です。16Vのツェナダイオードを2個直列にしたので、ツェナダイオードに電流を流すと両端電圧は常に32Vになろうとします。高圧電源側と初段電源との間には、33kΩと68kΩを並列にしたもの(=22.2kΩ)がありますので、この抵抗器には6.7mAくらいの電流が流れれ、それが初段電源として供給されます。2SK30Aを使った初段差動回路は両チャネルで3.6mAを消費しますので、6.7mAのうち3.6mAは初段差動回路が持って行きます。そして、残った3.1mAがツェナダイオードの中を流れます。初段にまわす電流が少々変化しても、ツェナダイオードに一定以上の電流がまわっていれば32Vが維持されます。

疑似マイナス電源:

マイナス電源は本機の回路電流のリターンを流用した擬似マイナス電源方式です。リターン電流は75mAくらいなので、56Ω2Wを入れて約4.3Vのマイナス電圧を得ています。リターン電流の大半は出力段のプレート電流ですので、6N6Pを抜いた状態でのテストでは十分なマイナス電圧は得られません。


<特注電源トランスの経緯など>

詳しいいきさつは省略しますが、ひょんなことからミニワッターをウィーンに送ることになりました。ウィーンフィルのチェロ奏者氏が自宅で使うことになったからです。ウィーンの電灯線の電圧は220〜230Vですから、ミニワッターを使うためにはトランスを使って電源電圧を220Vから100Vに落とすか、最初から220V対応のミニワッターに仕立てるかのいずれかにあります。後者の方法がシンプルで美しいですから、早速、春日無線さんにお願いをして220V対応の電源トランスを作ってもらうことになりました(右画像)。

ところで、6N6P全段差動PPアンプの最初の設計はこちらの記事にあるとおりですが、ひとつ懸案事項がありました。それは、使用した電源トランスH17-04211の2次巻き線電圧が130Vしかなく、整流出力電圧が希望値よりも低くなってしまうため回路設計に苦慮していたことです。初段差動回路のドレイン電圧をできるだけ低く設定するなどのやりくりをして、出力段では136Vくらいのプレート電圧を確保するのがやっとでした。本来は150Vくらいは欲しいところです。今回、電源トランスを特注するのであれば、1次側だけでなく2次側の仕様も変えてしまおうと考えて、2次巻き線電圧を高めの145Vに設定してもらいました。このミニワッターは年内に3台が完成し、ウィーンに発送されました。この設計をベースにして、電圧・電流定格を若干見直して100V版を特注することにしたのが本機の電源トランスです。

関連する4つの電源トランスの仕様を以下にまとめました。H17-04211は特注扱いですが春日無線のHomePage上に掲載されており、一定量の在庫があるのでいつでも購入できます。最初に作ったのはH23-10261ですが、電圧を見直して150VとしたH24-0101とH24-0101Eの2種類が正式版です。H24-0101についても春日無線のHomePage上に掲載されており、どなたでも購入することができます→こちら

-H17-04211
(特注扱い)
カタログ品・購入可
H23-10261
(欧州仕様・特注試作)
-
H24-0101
(特注扱い)
カタログ品・購入可
H24-0101E
(欧州仕様・特注)
-
コア規格O-BS70型(30VA)O-BS70型(30VA)O-BS70型(30VA)O-BS70型(30VA)
Primary0-100V0-220V0-100V0-220V-240V
Secondary-1130V-0-130V(両波整流)
AC80mA/DC80mA
0-145V(ブリッジ整流)
AC140mA/DC88mA
0-150V(ブリッジ整流)
AC135mA/DC85mA
0-150V(ブリッジ整流)
AC135mA/DC85mA
Secondary-20-6.3V
AC1.5A
0-6.3V
AC1.5A
0-6.3V
AC1.5A
0-6.3V
AC1.5A


<アンプ部補足解説>

ボリュームの回転角と音量のバランスを調整するために、ボリュームのところに補助抵抗(56kΩ)を入れてあるのは他のミニワッターと同じです。この抵抗はなくてもかまいませんが、入れることで12時ポジションでの音量が通常のボリュームよりもすこし大きくなって使いやすくなります。抵抗値は47kΩ〜100kΩくらいで厳密さは要求されません。この抵抗があってもなくても、ボリュームがMaxのポジションでの利得(音量)は変わりません。なお、この抵抗器がある場合は、ボリュームポジションによって入力インピーダンスは変化します。入力インピーダンスは、Min時で26.4kΩ、12時で約36kΩ、Max時で46kΩです。

ボリュームと初段2SK30Aのゲートの間に0.33μFのコンデンサが追加されています。これは、DC漏れのあるソース機材をつないだ際に、出力段プッシュプル回路のDCバランスが狂ってしまうのを回避するためです。たとえば、プリアンプやCDプレーやの出力にDCオフセットが10mV生じているだけで、せっかく調整した出力段のプレート電流バランスが3mAほども狂ってしまいます。シングルアンプや一般的なプッシュプルアンプでは大して問題にはならないのですが、差動直結回路ならではの弱点です。このCRは0.86Hzにおいて-3dBとなる-6dB/octのハイパスフィルタ特性を持ちます。0.5Hz〜1Hzくらいの範囲であればよいので、0.22μFと1MΩあるいは0.47μFと470kΩといった組み合わせでもかまいません。基本特性に影響が出ない抵抗値の許容範囲は220kΩ〜1MΩです。

初段電源の電圧をドロップさせる抵抗は22kΩ/5Wが適しますが、5W型で10kΩ以上の抵抗値のものはなかなか売っていないので、33kΩ/3Wと68k/2Wを並列にして所定の値を得ています。初段の電源は2個のツェナダイオード(16V×2)によって簡易的に定電圧化してあります。直列の合計で所定の電圧が得られればいいので、個々のツェナダイオードの電圧にはこだわりませんし、3〜4個直列にして32Vを得てもかまいません。

出力管(6N6P)のピン番号(1、2、3、6、7、8)と出力トランスのケーブルの色(赤、黒、灰、青、黄、白)の関係は厳密に守ってください。これ間違えると正帰還による発振が生じて、スピーカーから「ギャーッ!」というけたたましい音が出ます。

出力段のグリッドには発振対策として1kΩの抵抗を入れてあります。発振というのは、出力管単体で負帰還とは無関係に起きるコルピッツ発振のことです。周波数は数MHz以上の高周波ですので聞こえませんが、動作時の各部の電圧が異常値を示すことで発見されます。オシロスコープがあれば容易に発見できます。初期設計では3.3kΩとしていましたが他の特性とのバランスを考えて現回路では1kΩに変更しました。この抵抗器は真空管ソケットの端子のできるだけ近くに実装してください。

本機は指定部品、指定出力トランスを使う限り位相補正なしで動作しますが、位相余裕を持たせるために負帰還抵抗(560Ω)と並列に位相補正コンデンサ(1500pF)を入れてあります。

出力トランスの8Ωと4Ωの2本の線を出してスピーカー端子につないでいます。負帰還定数(560Ωと68Ω)は8Ω側からかけたものとして設定してあります。なお、6Ωのスピーカーをお持ちの場合は4Ω端子につないでください。

出力管をパラレル接続にしてパワーを稼ぎたい場合は、発振のリスクが激増すること、高域側の帯域特性が劣化する上に高域側の位相安定度が低下するなど種々の問題が噴出しますので、問題を自己責任で解決できる上級者の領域になります。


<ヘッドホンジャック増設>

本機にヘッドホンジャックを増設したい場合の基本回路は6DJ8全段差動プッシュプル・ミニワッターと全く同じです(下図)。少々複雑な回路になっているのは、スピーカー出力側を4Ωと8Ωの2種類のインピーダンスに対応できるようにしつつ、ヘッドホンジャックの抜き差しでスピーカー側をON/OFFできるようにしたためです。スイッチ付きのヘッドホンジャックのしくみと接続法は右下の画像のとおりですが、詳しい解説はこのページにあります。


<使用部品>

入手しやすく頒布可能な部品だけで構成されており、特殊な部品は使っていません。

電源トランス・・・春日無線変圧器製のH24-0101を使います。この電源トランスは本機の製作用に特注したものですが、誰でも購入することができます。整流出力特性の実測データがこちらにあります。

出力トランス・・・春日無線変圧器製のKA-8-54P2を推奨します。この出力トランスは前身であるKS-8-54Pの改良型で、1次インダクタンスがより高くなって低域のクォリティが高くなりました。タムラなどの値段が高い大型トランスと比べると見栄えこそしませんが、これはきわめて優れたトランスです。

シャーシ&ケース・・・ミニワッターのために特注で作っているものです。当サイトで頒布しています。詳しくはこちら(http://www.op316.com/tubes/mw/mw1-box.htm)をご覧ください。もちろん、ご自分で工夫するのもよいと思います。

6N6P・・・出力段真空管。真空管ショップまたはオークションで入手できます。6N6P-Iはヒーター電流が0.9Aあって電源トランス(H24-0101)の定格をオーバーして使えませんのでご注意ください。真空管の頒布はありませんので自力調達してください。私は真空管販売店とオークションの両方を使っています。高価な球ではないのでどこから買っても購入リスクは非常に低いです。

2SK30A-Y・・・初段差動回路。IDSS値が1.4mA以上あって、良く揃った選別ペアが必要です。2SK246-Yでも同様に使えます。製造中止になったため入手が困難になりつつありますが、ストックがありますので精密に選別したものを頒布しています。

2SK30A-Y・・・初段定電流回路。ソースとゲートをつないで定電流ダイオードとして使います。2SK246-Yでも同様に使えます。IDSSの値が、気温25〜27℃において正確に1.8mA±0.05mAのものを選別してください。製造中止になったため入手が困難になりつつありますが、ストックがありますので精密に選別したものを頒布しています。

2SK3067 or 2SK3767・・・電源回路。耐圧(VDSS)が400V以上でドレイン電流(ID)が1A以上、形状がTO-220タイプのMOSFETが適します。

下図はFETの接続です。印字面に向かった図と下から見た図です。上から見た図と勘違いされる方が多いのでご注意ください。

1NU41・・・ファーストリカバリダイオード。電源の整流回路。1JU42は枯渇しましたので1NU41を使ってください。いよいよ入手困難なので、頒布品を使うか1N4006または1N4007あるいはUF2010で代用もできます。

1S2076A・・・小信号用シリコンダイオード。LED点灯。1S2075、1S1585〜1588、1SS270A、1N4148などの同等のダイオードもOK。

HZ16-2・・・ツェナ(定電圧)ダイオード。16V±0.4Vのものを2個直列にして約32Vを得ています。合計が合えばいいので他の組み合わせでもOK。<初段の設計>のところに重要な説明がありますので必ずお読みください。

各種ダイオードの記号と電流の方向と実物のマーキングです。下図左はダイオード(1JU42、1NU41、1S2076A)で、下図右はツェナ(定電圧)ダイオードです。電流の向きが逆ですのでご注意ください。


抵抗器・・・回路図のとおりです。W数記載がないものはすべて1/4W型です。

半固定抵抗器・・・BOURNSの15回転横型で100Ωのものを使っています。

コンデンサ・・・回路図のとおりです。すべて通常品です。

平ラグおよびスペーサ・・・平ラグは20Pと12Pのものを使います。20P側は高さ10mm、12P側は高さ8mmの樹脂スペーサが適します。20P平ラグ中央の穴を固定するナットは誤接触を回避するためにポリ・ナットがよいです。いずれも頒布しています。

部品頒布のご案内はこちらです。→ http://www.op316.com/tubes/buhin/buhin.htm


<製作と調整>

作業の順序:

  1. シャーシ追加工の穴あけ・・・ミニワッター汎用シャーシを使った場合に追加で開けなければならないのは、電源ユニット取り付け穴(3.4mm径×2)です。それ以外に、スピーカーのインピーダンス切り替えスイッチ(6mm径)、入力切替ロータリースイッチ(9mm径)などを追加する場合は、ご自身の設計に合わせて穴あけを済ませておきます。穴あけの位置決めでは、他の部品と接触しないこと、トランスカバーなどを固定するビスの邪魔にならないことなど注意してください。シャーシのボリューム用の穴と入力端子(RCAジャック)用の穴の内側はサンドペーパーがけをして塗装をはがしておきます。

  2. 音量調整ボリュームシャフトの切断・・・金鋸でボリュームシャフトを適当な長さに切断します。ツマミの内側に加工時のバリが出ている場合は、そこにひっかかってボリュームシャフトが入りませんので、細いやすりを入れて削り取ります。

  3. 平ラグのパターンおよび工程計画を作成する。
    1. このページ(http://www.op316.com/tubes/tips/k-lug.htm)をしっかり読む。
    2. 平ラグのパターンシート(http://www.op316.com/tubes/tips/data/20p-large.pdf)をダウンロードする。
    3. 本サイトの回路図と平ラグパターンを見ながら自分で描いてみて、頭に入れる。
    4. 平ラグの端子穴ごとに作業手順が違うので、どんな手順でハンダづけしてゆくか考える。

  4. 平ラグユニット上のジャンパー線の取り付け・・・ジャンパー線は0.4〜0.55mm径の銅線が適します。銅線はホームセンターで廉価に入手できますが、切り取った抵抗器のリード線でも十分に代用できます。秋葉原で売られている銅線のほとんどはポリウレタンコーティングで絶縁されているので使えません。ポリウレタンコーティングは高めに設定したハンダの熱で落とないわけではありませんが、作業性は非常に悪いです。ジャンパー線はホチキスの針のように折り曲げて取り付けます。

  5. 平ラグユニット上の部品取り付け・・・ダイオードや2SK30の取り付け向きに注意してください。20P平ラグのセンター穴まわりは、配線を終えてからスペーサを取り付けるのは難しいので、先に取り付けてから配線すると作業がやりやすいです。特に560kΩの抵抗はスペーサをまたぐように取り付けますので手順をよく考えながら作業してください。勢いで作業を進めると後で泣きます。
    電源ユニット側は、配置上後から線をつなぐのは難しいので、周囲とつなぐ線はあらかじめすべて取り付けておきます。アンプ側ユニットの線出しは後からでも可能なのと電源ユニットから来る線を受け入れる側なので、線出しは必要ありません。

  6. 音量調整ボリューム上の抵抗器の取り付けと線出し・・・音量調整ボリュームからは全部で6本の線が出ますので、これらはあらかじめ線出しをしておきます。入力端子行きの線は余裕をみて長めにしておきます(捻るとかなり短くなります)。

  7. 電源スイッチのLED部分への部品取り付けと線出し・・・LEDまわりは、並列逆向きのダイオードと直列に入れる抵抗器の配線があります。下に参考画像があります。熱収縮チューブは、普通のドライヤーでは無理で専用のヒーターが必要ですが、45W以上のハンダごての腹であぶるとうまく縮んでくれます。

  8. RCAジャックのアースリングの事前加工・・・RCAジャックのアースリングはナット締めの際にくるくる回ってしまって厄介です。そこで、前加工してL/Rの2個をつないでしまいます。右画像は、パネルを流用してRCAジャックを逆向きに取り付け保持し、アースリングの端子部分を折り曲げてすきまにハンダを流し込んでで接着しているところです。このようにつないでしまえば、ナットで締め付ける時に回転したりしません。

  9. シャーシへの主要部品の取り付け・・・ACインレット、ヒューズホルダー、入出力端子、真空管ソケット、真空管ソケットまわりのラグ板、電源トランス、出力トランスをシャーシに取り付けます。音量調整ボリューム、電源ユニット、アンプ部ユニットはまだ取り付けません。RCAジャックは、8〜9mm径の菊座金をかましておくと接触が確実かつナットの締りがいいです。

  10. AC100Vまわりおよびヒーター回路への配線と通電試験・・・ACインレット、ヒューズホルダー、電源スイッチ、電源トランスの100V側の配線を行い、ヒューズを入れて最初の通電試験を行います。結線は下図を参考にしてください。描画上の都合で線を並行させていますが、ハム対策として実際の配線では往復を捻ることをお忘れなく。電源トランスの各端子に定格よりもやや高めの電圧がきていることを確認します。それがOKになったら、6.3Vのヒーター回路を配線します。電源トランス(6.3V)→真空管ソケットの4,5ピン→真空管ソケットの4,5ピン→LED回路、の順に配線してゆきます。真空管を挿して通電試験を行います。LEDおよびヒーターがほどよく光ることを確認します。

  11. 電源ユニットの取り付け、電源トランスへの配線・・・2個の出力トランスから出ている黒色の線を1つにしてから電源ユニットにつなぎ、電源ユニットをシャーシに取り付けます。電源ユニットと電源トランスの150V巻き線をつなぎます。出力トランスの1次側から出ている灰色と赤色の線は捻ってから真空管ソケットの1番ピン(灰)と6番ピン(赤)につなぎます。

  12. 電源ユニットの通電試験・・・電源ユニットから引き出したまだどこにもつないでいない線が何かに接触しないように先端にテープを巻くなどして通電試験を行います。電源ON時にテスターを当てておく箇所は「V+〜GND間」がいいでしょう。電圧は電源ON後数十秒をかけてゆっくり電圧が上昇すること、ヒーター回路にはやや高めの電圧(約6.5〜6.7V)が出ることを確認します。アンプ部にまだ電流が流れていないので、マイナス電源には−0.03Vくらいしか出ません。

    この通電試験がOKでない場合は、決して次の作業には進まないでください。違反してトラブルが生じて掲示板でヘルプを請うても助けることができません。なお、平衡型6N6P全段差動PPミニワッターも本機と同じ電源回路を採用していますが、初段電源回路(ツェナダイオードを含む)をアンプ側に置くか、電源側に置くかで電流配分が変わり、試験時のマイナス電源電圧も違ってきます。これは平衡型にチャレンジする方への演習問題です。しっかりと頭を使って何Vになるか考えてください。

  13. 真空管ソケットのセンターピンをつなぐアース母線の取り付け・・・本機の場合、アースは母線というほどのものはないのですが、アースを1ヶ所でまとめた方が作りやすいのと、どのみち真空管ソケットのセンターピンはアースしなければならいので、「コ」の字型に曲げた銅線を使ってアース母線としています。ここで、各真空管ソケットの9番ピンとアース母線とをつなぎます。また、ヒーター回路のどこか一点とアースとをつなぎます。どこでもいいので配線しやすい一か所を選んでください。私は、前寄りのソケットの4-pinとセンターピンを細い銅線でつないでいます。

    6N6Pピン接続図→

  14. 真空管ソケットまわりの部品取り付けと配線・・・まず、グリッドに取り付ける4個の1kΩの配線をします。この1kΩは発振防止のためですのでできるだけ真空管ソケットのピンの近くに取付ないと意味がありません。その際、平ラグとつなぐ線も出しておくと後が楽です。下に画像がありますから参考にしてください(緑色の線)。ちなみに頒布している線材には緑色はありません(適当ですなー)。次に、カソードに取り付ける4個の3.3Ωと560Ω3Wを取り付けます。

  15. アンプ部ユニットの取り付けと真空管ソケット側および電源ユニットとの接続・・・アンプ部ユニットを取り付けます。電源ユニットから出ているV+とV-をつなぎます。アースは、「電源ユニット→アンプ部ユニット経由→アース母線」とすると配線がやりやすいです。あらかじめ真空管ソケット側から出しておいた4本の線をアンプ部ユニットにつなぎます。

  16. 最終通電試験・・・ここまでの配線がすべて完了していれば、音は出ませんが真空管を挿した状態ですべての回路に電流が流れる通電試験ができます。但し、上記8.および10.の通電試験がOKであることが条件です。DCVレンジにセットしたテスターで、出力段カソード抵抗(560Ω)の両端電圧が測定できる状態にして電源をONします。電圧が徐々に上昇して21V前後で落ち着けばひとまずOKです。もし19V以下あるいは23V以上だったら必ずどこかに配線の漏れやミス、ハンダの不良があります。

  17. 出力段のDCバランスの暫定調整・・・この状態でしばらく通電して動作が安定しているかどうかチェックしておくといいです。DCVレンジにしたテスターで回路図でいうところの「A点〜B点」間の電圧を測定します。ほとんど0Vの場合もあれば0.02Vくらいが生じていることもあります。100Ωの半固定抵抗器を調整して0.003V以下すなわち3mV以下となるようにします。時間が経つと変化しますし、風が当たっても変化しますので無理して1mV以下に押さえ込もうとしても無駄です。

  18. 入力端子〜音量調整ボリューム〜アンプ部ユニット間の配線・・・音量調整ボリュームを取り付けます。パネルとの間に8〜9mm径の菊座金をかますことでボリュームのシャフト部分とシャーシとの接触が確保されます。音量調整ボリュームから引き出してある線を、入力端子(RCAジャック)およびアンプ部ユニットにつなぎます。この時、入力端子(RCAジャック)への線が浮いてしまわないように、ピタックなど配線の固定具を使ってもいいです。私は5P立てラグの空いた穴を使って固定しています。

  19. スピーカー関係の配線・・・出力トランスから出ている白(0)と青(8Ω)の線は、アンプ部ユニットの端子を経由してからスピーカー端子につなぎます。黄(4Ω)を生かす場合はアンプ部ユニットを経由せずにスピーカー端子につなぎます。

  20. 最終チェック・・・「アース母線」と「アース」とつながっていなければならないすべてのポイント間の導通をチェックします。シャーシ、RCAジャックの外側、スピーカー端子の黒い側、ボリュームシャフト、ヒーター回路など。

  21. 音出しと最終のプッシュプルDCバランス調整・・・これで完成です。音楽など聞きながら、時々シャーシを横に倒して出力段のDCバランスの状態を監視しつつ、最終調整をします。シャーシを完全にひっくり返してしまうと、真空管の熱があがってきて2SK30Aの温度が不安定になるので、横倒しでの調整をおすすめします。

初段の定電流回路で使う2SK30Aは、右上図のようにSとGをつないだ定電流ダイオード接続にします。


<参考画像>

この画像は、欧州(ウィーン)版のものです。上記の回路図とは細かいところで違いますのでご了解ください。左から・・・

・全体の様子です。本ページの回路図にないもの・・・入力切替のロータリースイッチやスピーカーのインピーダンス切り替えスイッチ・・・が写っています。

・電源スイッチ内臓LEDまわりの配線です。LEDと並列&逆向きにダイオードを取り付け、回路と直列に入れる560Ωの抵抗器はスイッチの端子にじかづけした上で熱収縮チューブをかぶせてあります。

・入力のRCAジャックおよびスピーカー端子付近の様子です。入力切替用のロータリースイッチでは、2回路ずつ並列接続して接点の信頼性を高めてあります。余った回路はアースにつないであります。スピーカー端子につながる線は3本あり、白がアース、黄色が4Ω、青が8Ωです。

・真空管ソケットまわりの様子です。プレート配線(1-pinと6-pin)は端子を倒して隣のピンから離してあります。高電圧がきており、測定時にテスター棒がすべるなどしてショート事故が起きないための配慮です。ヒーター配線(4-pinと5-pin)は線が太いので接触しやすいので注意がいります。0.3sq(AWG22)のケーブルがぎりぎりで、これ以上太いと穴にはいらないはみ出て隣と接触するなど実装で苦労します。

・後面パネルの配置です。文字は根性の手書きです。スイッチの位置を間違えると、トランスカバーを固定するビスが回せなくなります。


<測定>

無帰還時の利得は8.7倍になりました。これに5.8dBの負帰還をかけて、最終利得は4.5倍です。6N6Pという球はばらつきが大きいようですので、正確に同じ数値になるとは限りません。この値からかけはなれていなければ(±15%以内)であればOKです。歪率特性および周波数特性は下図のとおりです。

下のグラフは左右チャネル間クロストーク特性です。オーディオ帯域で-80dBを得ていますから、全く申し分のない性能です。


<参考・・・欧州版全回路図>

220Vの電源電圧に対応した欧州版の全回路図です。

電源トランスは、1次側が220V対応で2次側は145VとなっているH23-10261です。春日にこの型番を言えば特注で作ってくれます。パワーアップ版の電源トランスH24-0101は、本機での実績をベースに仕様を再検討して製作しました。

各部の電圧や、入力切替スイッチやスピーカーのインピーダンス切り替えスイッチがあるなど、こまかいところで外部仕様が異なっていますが基本的にはパワーアップ版と同じです。

本機は、音楽の都ウィーンでウィーンフィルハーモニー管弦楽団の団員達が愛用してくれています。あるチェリスト氏は、これを鳴らした日は朝までずうっと聞き続けてしまって寝不足になってしまったとか。気に入った心地よい音が出た時のこういう感じは、国や文化を超えて同じなのだなあと思います。

私はこれで定期的にウィーンに足を運ぶ口実ができたわけで、年に一度くらいのペースで「使ってくれている人と親交を深め、かつメンテナンスをするためにウィーンに行かなきゃいけない」とか嘯きつつ、いそいそとウィーンまで出かけてゆくのでした。

* * *

このアンプを送って1年半が経った頃(2013年4月)に、様子をみにウィーンに行ってきました。幸いにも動作に異常はなく、出力管のわずかなバランス調整をしただけで済みました。

音はとても気に入ってもらえたようで、小出力のこのアンプがメインシステムとして使われていました。他の団員達に聞かせても非常に評価が高いのだそうです。話す言葉は違っていても聞く音楽は同じですからね。それに、当サイトのアンプはいずれもウィーンフィルの人達が演奏する室内楽も必ずレファレンスに加えてチューニングしていますから、彼らの耳に合って当然かもしれません。

今年(2014年)は、バランス型の全段差動PPアンプを使いたいという話があるので、それを持ってウィーンに遊びに行きます。


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