<6DJ8全段差動PPミニワッター>
より小型の6DJ8でも同様のアンプが作れないものか、と思って製作したのが最初のバージョンです。最初のバージョンの6DJ8全段差動PPは最大出力が0.4W程度しかなく、当初は高品位なヘッドホンアンプを狙ったもので「小出力ながらスピーカーも鳴らせる」というくらいの気持ちでいました。ヘッドホンアンプとしてはかなり出来が良いと私は思っています。
そうこうするうちに春日無線変圧器から1次インピーダンスが14kΩの出力トランスが発売されるに至って、パワーアップをはかった14kΩ版(V2)に進化したのでした。この14kΩ版でスピーカーを鳴らしてみると心配されたローエンドの帯域特性もかえって良くなったくらいで思いのほか成績が良く、名だたるプロ音響エンジニア達がこぞって使ってくれています。もっとも、パワーアップしたといっても最大出力は0.5Wをすこし超えた程度でしかありませんが、それでも家庭で日常に聞くには十分な音量が得られますから、アンプの出力というのは全く不思議なものだと思います。そうこうするうちに6N6P全段差動PPがどんどん進化を続けてゆき、6DJ8が取り残されたようになってきました。パワーこそ小さいですが高品質な音が出せる6DJ8差動PPのレベルアップはできないものかと思案していましたが、ようやく重い腰を上げたというところでしょうか。今回の変更のベースになったのは6N6P全段差動PPミニワッター2012バージョンです。
<6DJ8の調達について>
6DJ8(欧州名はECC88)はさまざまな派生があります。ヒーター電圧だけが異なるのが7DJ8/PCC88(7.6V、0.3A)で基本特性は6DJ8/ECC88と全く同じです。6922/E88CCは6DJ8の高信頼バージョンということになっているらしいですが、球に6DJ8/6922と併記して刻印されているものもあるので、多くのメーカーは区別していないようです。7308/E188CCも6DJ8と同じとみて差し支えありません。これらすべて本機で使用できます。6DJ8を数多く製造・販売したメーカー/ブランドには、Sylvania、GE、Philips、Amperex、東芝、松下などがあります。6DJ8はどこで作っても6DJ8ですので、かりに異なるメーカー/ブランドが混ざってもかまいません。それくらいの器でものごとをとらえた方がオーディオは楽しくなります。
6DJ8およびそのファミリー球は、オーディオ用途として人気が衰えないために、市場在庫が減るにつれて価格相場が上がってきました。20年くらい前であれば1000円くらいで買えたのに、今は2000円以上があたりまえになってしまったようです。真空管が活躍した頃は、真空管は産業を支える消耗品であり決して高級品ではありませんでした。従って、当時製造された真空管はどれも一定の水準の品質があり、いいかえると特別に高級であるとか音にこだわったという話はありません。6DJ8についていえば、いまどき1本数千円もするものは単に市場原理で高値がついているだけだと思ってください。私が使っている6DJ8あるいは6922は、10年以上前に1本1000円前後で購入したものばかりです。特別に高い値段がついたものを使っても音が変わるわけではません。ロシア製の類似管6N23Pも6DJ8とほとんど同特性なのでそのまま差し替えができますが、生い立ちが異なるので音の傾向は少々異なるだろうと思います。
真空管は、専門の真空管ショップであろうが、オークションであろうが、どこで手に入れても似たようなものだということです。私は使っているさまざまな真空管の半数は、オークションで素性不明な相手から購入したものです。オーディオファンの中には、どこそこの6DJ8でないとダメだとか、音が全然違うといったことを言う人がいますが、当サイトではそういうことを言う人は一人もいませんので、安心して雑多な6DJ8を集めて使ってください。
真空管はもはや製造されていない過去のものですので、未使用のものはあっても新品ではありません。不良があったとしてもその責任をとって交換に応じるメーカーは存在せず、いわゆる1年保証もないというのが真実です。よく「信頼できる店で買いたいのでそういう店を紹介してくれ」というメールをもらいますが、私の返答は「数本に1本くらいおかしなのがあるという覚悟があればどこで買ってもいいじゃないですか」です。2本必要なら4本くらい買っておけば大丈夫です。
<全回路図>
本機の全回路図です。アンプ部の基本回路は6N6P全段差動プッシュプル・ミニワッター2012と同じで、使用部品の規格と回路定数のみ異なります。初段の電源部はツェナダイオードを使ったシャント型として簡素化しています。
<初段の設計>
初段の動作条件は概ね下図のとおりです。初段電源電圧は約29Vとし(定電圧ダイオード17Vと12Vの直列)、ドレイン負荷抵抗はA:6.2kΩ(B:6.8kΩ)、ドレイン電流はA:2.1mA(B:1.95mA)×2、ドレイン電圧は16Vくらいに設定しています。ドレイン負荷抵抗およびドレイン電流にA:/B:2パターン設定したのは、定電流回路用の2SK30A-GRに希望値が得られにくいためです。
左図はメーカー発表のデータシートに書き込んだものですが、IDSSが低いGRランクのデータであるためバイアスは-0.1V以下になっています。BLランクを使う実機では-0.2V〜-0.5Vくらいの範囲のどこかに落ち着きます。出力段の入力信号の最大振幅は±4Vくらい(出力段の設計より)ですから、最大出力をドライブするためには初段ドレイン電流は1.4〜2.8mAの範囲で変化する必要があります。本機で使用する2SK117のIDSSは3.5mA以上のものが必要です。
共通ソース側の定電流回路には2SK30A-GRまたは2SK246-GRのゲートとソースをショートさせて定電流ダイオード化したものを使います。定電流の指定値はA:4.2±0.1mAまたはB:3.9mA±0,1mAですので、GRランクの中からIDSSが規定値になるものを選別しなければなりません。2SK30AのYランクならば2個合わせて指定値となる組み合わせを作ってもかまいません。注意点としては、温度が上昇するとIDSS値は低下しますので、25℃で選別する場合はちょっと多めのものが適します。
本機は初段と出力段とが直結になっているため、初段差動回路のバランスが出力段のDCバランスを支配します。そこで、当初は初段差動回路のソース側に10Ωの半固定抵抗を入れて微調整できるようにしていましたが、調整範囲が狭く増幅素子のばらつきを吸収しきれないことがあるため、現在は100Ωの半固定抵抗に33Ωを2個抱かせた回路に変更しています。
ドレイン負荷抵抗はA:6.2kΩ(B:6.8kΩ)です。JFETの内部抵抗は非常に高く2SK117では100kΩくらいですから、初段増幅回路の出力インピーダンスは6.2kΩ//100kΩ=約5.8kΩということになります。6DJ8側からみると5.8kΩに発振止めグリッド抵抗1kΩが加わりますので合計して5.8kΩ+1kΩ=6.8kΩとなります。前バージョンではドライブインピーダンスが15〜16kΩ+1kΩ=16〜17kΩと大きかったのが弱点でしたが、本機では6.8kΩまで下げることでグリッド電流が流れても直線性が損なわれにくくなりました。
2SK117を上記の条件で動作させた時のgm(正確には|Yfs|と表記)は11mSくらいですから、初段の利得の基礎数字は、
11mS×6.2kΩ=68.2倍
ですが、ソース側のDCバランス抵抗の19.9Ω(33Ωと50Ωの合成値)があるため、その影響を計算に入れると、
6.2kΩ÷19.9Ω=312倍
(68.2倍×312倍)÷(68.2倍×312倍)=56倍
となります。
<出力段の設計>
本機の出力段の動作条件(ロードライン)は下図のとおりです。6DJ8のプレート電圧は135Vくらいです。差動PP回路の出力管1本あたりの負荷は、出力トランスの1次インピーダンスの1/2として設計しますので、図では7kΩの角度のロードラインを引いています。プレート電流は10mAよりも少しだけ多めなあたりが最適値になります。この時のバイアスは-3Vくらいになりそうです。
この時の6DJ8のプレート損失は、135V×10.5mA=1.42Wになります。6DJ8ファミリーには、ECC88、6922、E88CC、7308、E188CCなどがあり、メーカーによって最大定格はまちまちですが、これくらいならぎりぎり許容範囲内とみていいでしょう。差動PP回路の最大出力は、動作が最適化されているという条件下では以下の式で概算できます。
最大出力=Ip×Ip×RL÷2=10.5mA×10.5mA×14kΩ÷2=772mW
出力トランスのロスなどを考えると、0.6〜0.7Wくらいが得られれば上等ということになります。6DJ8でこれ以上パワーを欲張ると最大定格をオーバーしかねません。
初段のドレイン電圧が16Vでこれが6DJ8のグリッド電圧になりますが、バイアスが-3Vなので6DJ8のカソード電圧は19Vくらいになります。出力段プレート電流を10.5mA×2にするには、出力段の共通カソード抵抗値は910Ωがほぼぴったりになります。
19V÷910Ω=20.9mA
19V×20.9mA=0.4W
動作基点のプレート電流=10.5mAで差動動作をさせると、2管のプレート電流は0mA〜10.5mA〜21mAの範囲でシーソーのように増減します。プレート電流が21mAになったあたりでロードラインの左上の一部が有効動作範囲からはみ出していることに気付かれたと思います。本機は初段と直結になっているため、あまり強力ではありませんが弱いA2級動作が可能で、そのためこのような動作条件にしてあります。
出力段の利得を求めてみましょう。本機の動作条件における6DJ8のμは33くらい、内部抵抗は4kΩくらいです。しかし、カソード側に入れてある電流検出抵抗4.7Ωのμ倍だけ内部抵抗が上昇しますからそのことも計算に入れておきます。差動PP回路における計算上の負荷インピーダンスは14kΩの1/2の7kΩですので、6DJ8のグリッド入力からプレート出力までの利得は以下のとおりです。
内部抵抗上昇分=4.7Ω×μ=4.7Ω×33=0.155kΩ
μ×({負荷インピーダンス÷(内部抵抗+負荷インピーダンス)}=33×({7kΩ÷(4kΩ+0.155kΩ+7kΩ)}=20.7倍
この後に出力トランスがきますが、出力トランスの巻き線比はインピーダンス比の平方根ですから、
インピーダンス比→ 14kΩ:8Ω すなわち 1750:1
巻き線比→ 41.8:1
です。プレートに表れた出力信号は1/41.8となってスピーカー出力になりますが、実際の出力トランスは10%くらいのロスがありますので1/47くらいとみていいでしょう。
<利得の設計>
無帰還時の利得の計算:
これまでの計算で得た各段の利得は以下のとおりです。
- 初段=56倍
- 出力段=20.7倍
- 出力トランス=1/47倍
これらを総合すれば本機の総合利得を求めることができます。
本機の総合利得の実測値は約26倍となりましたので計算結果と実測はよく一致します。この値は無帰還時のものです。負帰還をかけた時の利得は以下の式で求めることができます。
負帰還時の利得の計算:
負帰還をかけた時の利得の一般的な計算法は手順が面倒なので私は以下の方法を使っています。
帰還後の利得=(元の利得×帰還定数´)÷(元の利得+帰還定数´)
です。ところで、上式でいう帰還定数´というのは、帰還素子の減衰率(β)の逆数、要するに
帰還定数´=1/β=(5.1kΩ+820Ω)÷820Ω=7.22倍
のことです。一般に知られる負帰還の計算法では帰還定数βを使いますが、式が複雑になって暗算できないので、私はもっとスピーディーに計算可能なこの方法を使っています※。数学的には同じことなので得られる結果はどちらも同じです。さて、上記の式を使って負帰還時の利得を計算すると以下のようになります。
帰還後の利得=(24.7×7.22)÷(24.7+7.22)=5.6倍
負帰還量=24.7÷5.6=4.41=13dB
※詳しい説明は「真空管アンプの素」の169ページにあり、負帰還に関するさまざまな実験データや関連知識は156ページ〜180ページに書いてあります。
<初段〜出力段直結の設計>
差動バランスの調整:
本機では初段と出力段が直結になっているため、初段のドレイン電圧がそのまま出力段のグリッド電圧となり、そのばらつきが出力段の差動バランスを支配しています。プッシュプル出力回路では、2管のプレート電流値を精密に等しくしておかないと、出力トランスの帯磁のために低域特性がみるみる劣化します。設計上の出力管のバイアスは-3Vくらいなわけですが、この値にはかなりの個体差があります。2管のプレート電流値を精密に同じにするということは、個体差に応じでグリッドに与える電圧をずらしてやらなければなりません。
従って、初段差動回路には、2つのドレインの電圧を一定範囲でずらすための調整回路が必要になります。それを行うのが2SK117の共通ソース側に入れてある100Ωの半固定抵抗器です。これによって2SK117のバイアスのバランスを変化させ、ドレイン電流が変化し、ドレイン電圧すなわち6DJ8のグリッドに与えられる電圧のバランスを変えることができます。
2つの出力管のプレート電流値のバランスは、回路図上のA点〜B点間にデジタルテスターを当てて測定します。2管それぞれに正確に同じ値(たとえば10.5mA)が流れている時は、2つの4.7Ωの両端にそれぞれ10.5mA×4.7Ω=49.35mVの電圧が生じますから、A点〜B点間の電圧の差は0Vです。バランスが崩れて、一方の球のプレート電流が10.0mAでもう一方が11.0mAになると4.7Ωの両端電圧はそれぞれ47.0mVと51.7mVになって4.7mVの差が生じます。プレート電流のアンバランスが生じるとA点〜B点間には1mAあたり4.7mVの電圧が検出されるわけです。
この調整回路でどれくらいの変化が得られるか簡易的に計算してみます。ドレイン電流の設計値は2.1mAですので、半固定抵抗器をどちらか一方に回し切ったポジションでは2.1mA×24.8Ω※=0.052Vのバイアスのアンバランスが生じます。初段の利得は56倍ですから、ドレイン電圧の変化は0.052V×56=2.9Vとなります(実際にはもうすこし低い値になります)。この程度の調整範囲が得られれば出力管のばらつきは十分すぎるくらい吸収できます。但し、差動回路のペアとなった2SK117のバイアス特性が完全に揃っているという前提でのお話です。現実の2SK117は個体差が大きく、無作為に組んだ差動ペアを本機で使うことはできません。
※(100Ω×33Ω)÷(100Ω+33Ω)=24.8Ω
JFETのバイアス特性は温度によって変化します。本機の差動バランスを調整するためにはシャーシをひっくり返して裏蓋を開けなければなりません。アンプをひっくり返した状態で動作させると、6DJ8の熱が上ってくるため、2SK117の温度にむらが生じます。むらが生じた状態で差動バランスを調整しても正しい調整にはなっていませんから、アンプを元の姿勢に戻すと差動バランスが狂ってしまいます。この問題を回避するために、差動ペアを構成する2SK117を1.2mm径の銅線で熱結合させて温度差が生じにくいようにしています。
<出力回路の設計>
スピーカーは、「0〜4Ω間」または「0〜8Ω間」につなぎます。本機はパワーアンプともいえるし、スピーカーも鳴らすことができるヘッドホンアンプともいえます。4Ω端子と8Ω端子の両方を生かしつつヘッドホンジャックを取り付ける場合は下図のように配線してください。ヘッドホンジャックにプラグを差し込めば、スピーカーへの信号はカットされてヘッドホンが鳴ります。連動スイッチ付きのフォーンジャックを使った通常の切り替え方式ですと、スピーカーのインピーダンスは1種類に固定しなければなりませんが、この回路ですと2つ以上のインピーダンスに対応可能になります。回路図をよく解析していただきたいのですが、かなりトリッキーな方法でこの問題を解決しています。
ヘッドホン出力には8Ωタップを使い、2個の4.7Ωの抵抗器によるダミーロード兼アッテネータを経由しています。この本機の設定で音が小さい場合は、アッテネータにしないでダミーロードに10Ω(1/2W〜1W)を入れるだけにしてください。
スイッチ付きのヘッドホンジャックのしくみと接続法は下の画像のとおりです。出力トランスの8Ω端子からの線をジャックに背負わせたラグ板の端子についないでから、4.7Ωの抵抗につないでいます。ラグ板の取り付け方は下の方に画像があります。このタイプのヘッドホンジャックに関する詳しい解説はこのページにあります。
<電源の設計>
電源回路は、初段電源を除いて基本的にパワーアップ版の6N6P全段差動ミニワッターと同じで、電源トランスおよび回路定数が異なるだけです。
B+電源は、AC130Vを両波整流して約174Vを得ます。高耐圧MOS-FETを使ったリプルフィルタによって残留リプルはほぼ完璧に除去されます。リプルフィルタの出口での電圧は163Vくらいになりますが、これをプラス側158Vとマイナス側-4.7Vに分けてアンプ部に供給します。このリプルフィルタは20kHz以上の高い周波数で電源インピーダンスが上昇するため、10μF/250Vを入れてあります。このコンデンサの有無で音が変わることはありませんが、気休めとしてつけてあります。
初段電源は、12.1Vと17.3Vのツェナダイオードによるシャント型の簡易定電圧電源です。158Vから10.25kΩ(=22kΩ//22kΩ//150kΩ)のドロップ抵抗によって29.4Vまで落としますので、ドロップ抵抗には12.5mAが流れます。左右の差動回路が4.2mA×2=8.4mAを持っていきますから、残った4.1mAがツェナダイオードに流れてシャント型の簡易定電圧電源として機能します。
マイナス電源は、出力段とシャント型の簡易定電圧電源に流れる電流のリターンを使った擬似マイナス電源方式です。リターン電流は47mAくらいなので、100Ωの両端には4.7Vが生じこれがマイナス電源となります。但し、6DJ8を挿さない状態では十分なリターン電流が得られませんから、マイナス電源の電圧は設計値よりもかなり低くなります。6DJ8が暖まってプレート電流が流れはじめることでようやくマイナス電源としての動作が始まります。
本機は電源トランスの容量の割りに消費電力が少ないので、ヒーター用の6.3V巻き線にはトランス定格よりも高めの6.6V〜6.7Vが出ます。私はそのままの電圧で動作させていますが、ヒーター回路に0.47Ω1Wを割り込ませて0.3Vほどドロップさせればほぼ6.3Vにできます。電源トランスの6.3Vタップの隣にNCと書かれた遊びのタップが出ていますから、それをラグがわりに使えます。
<使用部品>
定電流回路の代替部品による解決策:
初段差動回路の定電流回路の選別&入手が最も困難だと思いますので、その解決法について解説します。ポイントは、初段の定電流回路や各部の電圧が設計値に正確に一致する必要などなく、重要なのは結果として出力段のカソード電圧が19.2Vくらいになれば十分であるということになります。そのためには初段と出力段をつなぐ初段ドレイン電圧は16.2Vであることも必要です。これが守られるならば、初段の電源電圧は29.4Vに対して2Vくらい違ってもかまいませんし、初段ドレイン負荷抵抗は6.2kΩでも6.8kΩでもかまいません。定電流回路の値も3.9mAあるいは4.4mAでなくても、4.6mAであってもかまわないわけです。
秋月で入手できる2SK2881のIdssは4.5mAくらいが多いです。かりに4.7mAだとすると差動回路の片側のドレイン電流は半分の2.35mAになります。ドレイン電圧は16.2Vくらいでなければなりませんから、ドレイン抵抗を5.6kΩだとすると、初段の電源電圧は、16.2V+(2.35mA×5.6kΩ)=29.4Vになります。これでしたら、初段の電源は元のままで使えます。
4.7mAではなく4.5mAだったらどうすればいいでしょうか。ドレイン抵抗を6.2kΩだとすると、初段の電源電圧は、16.2V+(2.25mA×6.2kΩ)=30.15Vになります。その場合は、電源回路のツェナダイオードの電圧の合計を30Vくらいに上げてやればいいのです。
手順としては、初段の回路定数を確定させないでおいて、まずは定電流回路の電流値を決めて、初段の回路定数をそれに合わせてゆきます。
JFETのIdssの簡易測定法は、部品入手のお助けページに解説があります。
電源トランス・・・春日無線変圧器製のH17-04211を使います。この電源トランスは平成17年にある目的のために特注されたもののようですが、誰でも購入することができます。整流出力特性の実測データはこちらにあります。
出力トランス・・・春日無線変圧器製のKA-14-54Pを推奨します。この出力トランスは新しく設計されたもので超低域のクオリティが非常に高く、しかも14kΩという高インピーダンスであるにもかかわらず高域側の特性も優れています。本機のような高帰還アンプに使用しても位相特性は安定していて、簡単な位相補正をするだけで高い安定度を得ることができます。
シャーシ&ケース・・・ミニワッターのために特注で作ったものがあり当サイトで頒布しています。詳しくはこちら(http://www.op316.com/tubes/mw/mw1-box.htm)をご覧ください。もちろん、ご自身でデザイン&加工してもっと格好いいアンプに仕上げてもかまいません。
6DJ8・・・出力段真空管。真空管ショップまたはオークションで入手できます。詳しい説明が本ページの冒頭にあります。真空管の頒布はありませんので自力調達してください。
2SK117-BL・・・初段差動回路。IDSS値が3.5mA以上あって、2mAのドレイン電流を流した時のバイアス特性が±5mV以内に揃えた精密な選別ペアが必要です。製造中止になったため入手が困難になりつつありますが、ストックがありますので頒布しています。秋月で扱っている2SK2881は2SK117と酷似している上に特性が比較的揃っており使えます。
2SK30A-GRまたは2SK246-GR・・・初段定電流回路。ソースとゲートをつないで定電流ダイオードにしたものを使います。IDSSの値が、気温25〜27℃において正確に4.0mAまたは4.3mAのものを選別してください。製造中止になったため入手が困難になりつつありますが、ストックがありますので頒布しています。
高耐圧MOS-FET・・・電源回路。リプルフィルタのMOS-FETは、耐圧350V以上で電流容量が3A〜8Aものもが使えます。千石であればTK5A50D、TK3A60DAあたりです。
下図はFETの接続です。2SK117と2SK30A/2SK246はピン配列が逆なのでご注意ください。印字面に向かった図と下から見た図です。上から見た図と勘違いされる方が多いのでご注意ください。
1JU41・・・ファーストリカバリダイオード。電源の整流回路。いよいよ入手困難なので、頒布品を使うかUF2010、PS2010、PG2010で代替できます。
1N4007・・・単なる逆電圧防止用なので、1N4006、UF2010、PS2010、1JU41など耐圧が300V以上ある廉価なシリコン・ダイオードで足ります。
1S2076A・・・小信号用シリコンダイオード。LED点灯。1S2075、1S1585〜1588、1SS270A、1N4148、のほか同等のダイオードもOK。
HZ12-C2およびHZ18-1・・・ツェナ(定電圧)ダイオード。12.1V±0.2Vと17.3V±0.4Vのものを2個直列にして約29.4Vを得ます。合計が合えばいいので他の組み合わせでもOK。
各種ダイオードの記号と電流の方向と実物のマーキングです。下図左はダイオード(1NU41、UF2010、1N4007、1S2076A)で、下図右はツェナ(定電圧)ダイオードです。電流の向きが逆ですのでご注意ください。
抵抗器・・・回路図のとおりです。W数記載がないものはすべて1/4W型です。
半固定抵抗器・・・初期の製作では、BOURNSの15回転横型で10Ωのものを取り付けていま下が、操作性の点から25回転縦型に変更しました。
コンデンサ・・・回路図のとおりです。すべて通常品です。
平ラグおよびスペーサ・・・平ラグは20Pと15Pのものを使います。20P側は高さ10mm、12P側は高さ8mmの樹脂スペーサが適します。20P平ラグ中央の穴を固定するナットは誤接触を回避するためにポリ・ナットがよいです。いずれも頒布しています。(注意:製作記事の画像では異なる形状のスペーサを使っているため、平ラグの上にはナットではなビスの頭が見えています。)
1.2mm径銅線、エポキシ系ボンド・・1.2mm径銅線は、アース母線と2SK117の熱結合用に使います。太さのある銅線・すずメッキ銅線が適します。ボンドは「セメダインハイスーパー30分硬化」など一般的なエポキシ系2液混合タイプです。作業がもたもたしなければ5分硬化タイプでもOKです。
部品頒布のご案内はこちらです。→ http://www.op316.com/tubes/buhin/buhin.htm
<製作>
平ラグパターンについて:
平ラグパターンは以下のとおりです。平ラグユニットと周囲の配線とをつなぐ時にやりやすいように、線をつなぐ端子はできるだけ他の部品の配線とぶつからないように工夫し、シャーシ内の組み込んだ時に2W型および3W型抵抗が出す熱がコンデンサなど他の部品を熱しないように配慮してあります。ヒーターから引いた電源回路のLEDと直列に入れる560Ωは、スイッチの端子にじかづけして熱収縮チューブなどをかぶせてください(下に画像があります)。電源回路ユニットの空き端子(NC:Non Connection)は、ヒーター電圧が高すぎた時のドロップ抵抗にでも使ってください。初段の定電流回路で使う2SK30Aは、右下図のようにSとGをつないだ定電流ダイオード接続にします。
注意:図では10Ωの半固定抵抗器が横型ですが、後に縦型に変更しました。
作業の順序:
私が行った作業手順は以下のとおりです。
- シャーシ追加工の穴あけ・・・頒布しているミニワッター汎用シャーシを使う場合は、最低限必要な追加する穴はシャーシ側面の電源ユニット取り付け穴(3.4mm径×2)です。それ以外に、Bass Boostスイッチやスピーカーのインピーダンス切り替えスイッチ(6mm径)、入力切替ロータリースイッチ(9mm径)などがある場合は、ご自身の設計に合わせて穴あけを済ませておきます。穴あけの位置決めでは、スイッチ本体がケース内の平ラグや他の部品と接触しないこと、トランスカバーなどを固定するビスの邪魔にならないことなど注意してください。シャーシのボリューム用の穴と入力端子(RCAジャック)用の穴の内側はサンドペーパーがけをして塗装をはがしておきます。
- 音量調整ボリュームシャフトの切断・・・金鋸でボリュームシャフトを適当な長さに切断します。ツマミの内側に加工時のバリが出ている場合は、そこにひっかかってボリュームシャフトが入りませんので、細いやすりを入れて削り取ります。
- 平ラグのパターンおよび工程計画を作成する。
- このページ(http://www.op316.com/tubes/tips/k-lug.htm)をしっかり読む。
- 平ラグのパターンシート(http://www.op316.com/tubes/tips/data/20p-large.pdf)をダウンロードする。
- 本サイトの回路図と平ラグパターンを見ながら自分で描いてみて、頭に入れる。
- 平ラグの端子穴ごとに作業手順が違うので、どんな手順でハンダづけしてゆくか考える。
- 平ラグユニット上の部品取り付けとジャンパー線の配線
きれいに仕上げるこつ・・・平ラグに取り付ける部品のリード線は短く切りすぎないで、平ラグから数ミリ程度浮かせるくらいにするときれいに仕上がるだけでなく、間違えてやり直す時に部品を痛めたりきたなくならずに済みます。
電源ユニット・・・整流ダイオードやMOS-FETの取り付け向きに注意してください。電源回路のMOS-FETは、印字面に向かって左から「GDS」です。電源部ユニットは、シャーシに取り付けてから平ラグの端子に線をつなぐことは不可能なので、ユニットを組み上げる時に周囲とをつなぐ線材を長めにしたのをハンダ付けして出しておきます。2本あるいは3本ずつセットになっているのでこれらを捻っておきます。
アンプ部ユニット・・・2SK117-BL、2SK30A-GR、ツェナダイオードの取り付け向きに注意してください。半導体はハンダの熱に弱いのでリード線は長めにしておき、ハンダごても長い時間当てないようにします。20P平ラグのセンター穴周辺では、ここにネジが通ることを想定しこの穴をよけるように工夫してください。アンプ部ユニットはシャーシに取り付けてから余裕で配線できます。
JFETのバイアス特性は温度によって変化します。本機の差動バランスを調整するためにはシャーシをひっくり返して裏蓋を開けなければなりません。アンプをひっくり返した状態で動作させると、6DJ8の熱が上ってくるため、2SK117の温度にむらが生じます。むらが生じた状態で差動バランスを調整しても正しい調整にはなっていませんから、アンプを元の姿勢に戻すと差動バランスが狂ってしまいます。差動ペアとなっている2SK117の温度安定を得るために、1.2mm径くらいの太い銅線などを使って熱結合することをおすすめします。2SK117の上にボンドを少したらし、その上に銅線を乗せ、さらにそこにエポキシ系ボンドを追加します。ボンドは自分の重さとねばりでカマボコ状になってやがて固まります。(下の画像)
- 音量調整ボリュームの線出し・・・音量調整ボリュームからは全部で6本の線が出ますので、これらはあらかじめ線出しをしておきます。3本は入力端子行きで、3本はアンプの入力およびアース母線です。入力端子行きの線は余裕をみて長めにしておきます(捻るとかなり短くなりますので注意)。
- 電源スイッチのLED部分への部品取り付けと線出し・・・LEDまわりは、並列逆向きのダイオードと直列に入れる抵抗器の配線があります。下に参考画像があります。熱収縮チューブは、普通のドライヤーでは無理で専用のヒーターが必要ですが、45W以上のハンダごての腹であぶるとうまく縮んでくれます。
- RCAジャックのアースリングの事前加工・・・RCAジャックのアースリングはナット締めの際にくるくる回ってしまって厄介です。そこで、前加工してL/Rの2個のアース端子をハンダづけでつないでしまいます。上の画像は、パネルを流用してRCAジャックを逆向きに取り付け保持し、アースリングの端子部分を折り曲げてすきまにハンダを流し込んでで接着しているところです。白い紙はハンダの飛沫防止です。このようにつないでしまえば、ナットで締め付ける時に回転したりしません。
- シャーシへの主要部品の取り付け・・・ACインレット、ヒューズホルダー、入出力端子、真空管ソケット、真空管ソケットまわりのラグ板、電源トランス、出力トランスをシャーシに取り付けます。音量調整ボリューム、電源ユニット、アンプ部ユニットはまだ取り付けません。RCAジャックは、8〜9mm径の菊座金をかましておくと接触が確実かつナットの締りがいいです。
- AC100Vまわりの配線、電源トランス単体の通電試験・・・ACインレット、ヒューズホルダー、電源スイッチ、電源トランスの100V側の配線を行い、ヒューズを入れて最初の通電試験を行います。結線は下図を参考にしてください。描画上の都合で線を並行させていますが、ハム対策として実際の配線では往復を捻ることをお忘れなく。電源トランスの各端子に定格よりもやや高めの電圧がきていることを確認します。
- 電源ユニットの取り付け、電源トランスおよび出力トランスまわりの配線・・・2個の出力トランスのセンタータップからの線(黒色)を1つにしてから電源ユニットにつなぎ、電源ユニットをシャーシに取り付けます。電源ユニットと電源トランスの130V巻き線からの往復をつなぎます。出力トランスの1次側から出ている橙色と赤色の線は捻ってから真空管ソケットの1番ピン(橙)と6番ピン(赤)につなぎます。橙と赤のつなぎかたを逆にすると正帰還となって発振しますので間違えないように。
- 真空管ソケットのセンターピンとアース・・・6DJ8/6922は9番ピンは内部シールドなので適当な線材を使ってセンターピン(アース)とつないでおきます。ヒーター回路の一端もアースにつなぐ必要があるので、センターピンとつなぎます。参考画像では9番ピンの配線が漏れていますので注意してください。
- 電源ユニットの通電試験・・・電源ユニットから引き出したまだどこにもつないでいない線が何かに接触しないように先端にテープを巻くなどして通電試験を行います。電源ON時にテスターを当てておく箇所は「V+〜GND間」がいいでしょう。電圧は電源ON後十数秒をかけてゆっくり電圧が上昇することを確認します。アンプ部にまだ電流が流れていないのでプラス電源の電圧は高めに出ますし、マイナス電源はまだ低い電圧しか出ません。この通電試験がOKでない場合は、決して次の作業には進まないでください。違反してトラブルが生じて掲示板でヘルプを請うても助けることができません。
- 2つの真空管ソケットのセンターピンをつなぐアース母線の取り付け・・・本機の場合、アースは母線というほどのものはないのですが、アースを1ヶ所でまとめた方が作りやすいのと、どのみち真空管ソケットのセンターピンはアースしなければならいので、「コ」の字型に曲げた銅線を使ってアース母線としています。ここで、各真空管ソケットの9番ピンとアース母線とをつなぎます。また、ヒーター回路のどこか一点とアースとをつなぎます。どこでもいいのですが、どちらか一方の真空管ソケットの4番ピンまたは5番ピンとセンターピンをつなぐのがいいでしょう。私は0.35mm径の細い銅線を使ってつないでいます。
- 真空管ソケットまわりの部品取り付けと配線・・・まず、グリッドに取り付ける4個の1kΩの配線をします。その際、平ラグとつなぐ線も出しておくと後が楽です。次に、カソードに取り付ける4個の4.7Ωと2個の910Ω2Wを取り付けます。
6DJ8ピン接続図(裏側から見た図)→4-pinと5-pinはヒーター、9-pinはシールド。
- スピーカー関係の配線・・・出力トランスから出ている白(0)と青(8Ω)の線は、アンプ部ユニットの端子を経由してからスピーカー端子につなぎます。黄(4Ω)を生かす場合はアンプ部ユニットを経由せずにスピーカー端子につなぎます。
- 入力端子〜音量調整ボリューム〜アンプ部ユニット間の配線・・・音量調整ボリュームを取り付けます。音量調整ボリュームから引き出してある線を、入力端子(RCAジャック)およびアンプ部ユニットにつなぎます。この時、入力端子(RCAジャック)への線が浮いてしまわないように、ピタックなど配線の固定具を使ってもいいです。私は5P立てラグの空いた穴を使って固定しています。
- アンプ部ユニットの取り付けと真空管ソケット側および電源ユニットとの接続・・・アンプ部ユニットを取り付けます。電源ユニットから出ているV+とV-をつなぎます。アースは、「電源ユニット→アンプ部ユニット経由→アース母線」とすると配線がやりやすいです。あらかじめ真空管ソケット側から出しておいた4本の線をアンプ部ユニットにつなぎます。
- 最終チェック・・・「アース母線」と「アース」とつながっていなければならないすべてのポイント間の導通をチェックします。シャーシ、RCAジャックの外側、スピーカー端子の黒い側、ボリュームシャフト、ヒーター回路など。
- 最終通電試験・・・ここまでの配線がすべて完了していれば、音は出ませんが真空管を挿した状態ですべての回路に電流が流れる通電試験ができます。但し、電源部単体の通電試験がOKであることが条件です。DCVレンジにセットしたテスターで、出力段カソード抵抗(910Ω)の両端電圧が測定できる状態にして電源をONします。電圧が徐々に上昇して19Vあたりで落ち着けばひとまずOKです。もし16V以下あるいは22V以上だったら必ずどこかに配線の漏れやミス、ハンダの不良があります。
- 出力段のDCバランスの暫定調整・・・この状態でしばらく通電して動作が安定しているかどうかチェックしておくといいです。DCVレンジにしたテスターで回路図でいうところの「A点〜B点」間の電圧を測定します。ほとんど0Vの場合もあれば0.02Vくらいが生じていることもあります。10Ωの半固定抵抗器を調整して0.004V以下すなわち4mV以下となるようにしておきます。
- 音出しと最終のプッシュプルDCバランス調整・・・これで完成です。音楽など聞きながら、時々シャーシを横に倒して出力段のDCバランスの状態を監視しつつ、時間をかけて最終調整をします。シャーシを完全にひっくり返してしまうと、真空管の熱があがってきて2SK117-BLの温度が不安定になるので、横倒しでの調整をおすすめします。
ヘッドホンジャックの穴を使ってラグ板を取り付けたところ(左下)。2.6mm径ネジを使いましたがジャック側の穴が小さいのですこしだけ広げる必要あり。右下は上面パネルの様子。スピーカー・インピーダンスの切り替えと入力セレクタがある。その間の黒いのは以前に開けた穴をふさいだ跡。
本機の内部の画像です。旧バージョンのケースと手持ちの部品をやりくり再利用したため、回路図とは異なる部品があったり、配線のやり直しの都合で途中で継ぎ足してあったりします。画像では10Ωの半固定抵抗器が横型ですが、後に縦型に変更しました。
入力は2系統にして6回路2接点のロータリースイッチでの切り替えになっています。青色の6Pトグルスイッチの一方はBass Boostスイッチで、もう一方はスピーカーインピーダンスの4Ωと8Ωの切り替えです。
<調整>
調整箇所は、初段差動回路に入れた2個の10Ω半固定抵抗器のみです。
1mVまで測定可能なデジタルテスターを用意し、DCVレンジにセットします。本機を動作させた状態で出力管の2つのカソード(3pinと8pin)にテスターを当てて電圧を測定します。この電圧が0Vとなるのがベストで、3mV以内にはいるように半固定抵抗を調整して完了です。真空管およびJ-FETは温まると特性が変化し安定するまでに少々の時間を要します。使い始めて1週間後、さらに1ヶ月後くらいに再調整すればいいでしょう。一定の許容範囲がありますのであまり神経質になってゼロを追いかけすぎないことです。
<測定>
特性の測定結果は以下のとおりです。
- 無帰還利得: 28〜30倍(8Ω負荷、1kHz)
- 仕上り利得: 5.8倍(8Ω負荷、1kHz)
- 最大出力: 0.7W(THD=3%、8Ω)。
- 残留雑音: 30μV(帯域80kHz)
特筆すべきは残留雑音の低さでしょうか。過去に製作した6DJ8差動PPミニワッターと比べると100kHz以上の帯域での減衰特性に目立ったピークが認められます。これは負帰還量を大幅に増やしたことの影響です。0.5Wの特性で15Hzから減衰が始まっていますが、この左下がりの直線が使用した出力トランスの飽和による限界線です。
完成当初に公開した歪率データは測定環境に誤りがあったため取り直しました(2017.5.16)。
L-ch R-ch
<コメントとレビュー>
完成直後の状態で聞いてみて最初に感じたのは、ワイドレンジでローエンドが良く延びておりプレゼンスがリアルに感じられることでした。差動ppミニワッターの中では負帰還量が最も多いアンプですが、音が引っ込んだり大人しくなるようなことはなく、むしろその逆です。音に力があるのでもっぱらスピーカーを鳴らすパワーアンプとしてもかなりの実力があり、特に低域にパワーがあります。構想を練り始めてから3年目にしてようやく形になったわけですが、良い意味で予想を超えたアンプになりました。0.7Wという小パワーに躊躇がない方は是非作ってこの音を聞いてみてください。
ヘッドホンアンプとして鳴らしてみると、このアンプのもうひとつの魅力を味わうことができます。FET差動ヘッドホンアンプV3とは異なるちょっと熱い真空管らしい音になりました。これまで作ってきた真空管式のヘッドホンアンプの中ではベストかもしれません。